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田口訳
では サービスエレベーターと洗濯籠の位置関係の疑問
が新しく発生した。
トニー
は、 ジョニー
と 最上階
の 14階
で会って、 彼に
サービスエレベーターで逃げるように助言
してから、 部屋を出てエレベーターで下に降りる。
だが、 何故、途中のリネン室のある階で一旦降りたのか?
それが トニーの行動の重要なポイントとなるところの訳
だ。
チャンドラーはそれを下記の英文で簡潔に描いている。
「 He rode it down to the linen-room floor and got out to remove the basket that held the service elevator open at that floor. The door slid quietly shut. He held it so that it made no noise. 」
洗濯籠
について、 田口訳
はここを「 『床に置かれていた洗濯籠
』
」と訳しているが、 井上訳
は、『 ドアにはさまった洗濯籠
』だ。
まったく違う。
田口訳は、 at that floor
を the basket on that floor
と勘違いしているようだ。
これは held ~ at that floor
だと思う。
この訳の違いが、 トニーがわざわざ、リネン室に降りた理由
と関係している。
深夜のリネン室の作業者
は、作業の便利さからか、「 洗濯籠をドアにはさんで
」、 サービスエレベーター
を リネン室の階
で止めて動かないようにしている。
それを トニー
は知っている。
これでは、 14階
にいるジョニーと約束した彼の サービスエレベーターでの脱出は不可能だ。
それで、 トニー
はわざわざ、 14階
から リネン室のある階
に降り、「 はさまっている洗濯籠
」を、リネン室にいる作業者に気付かれないように、そっとどかして サービスエレベーター
が動くようにした。
これで、 ジョニーが逃げられる準備は、 リネン室作業者に気付かれないで
、無事完了
したことになる。
田口訳
の 「 『 床に置かれていた洗濯籠
』
」では、 エレベーターが動かない理由と洗濯籠とは 無関係
なので、 トニーがリネン室で降りた理由
も分からない。
ジョニーを逃がす意図を持った重要な作業
であることも分からなくなる。
ここは、英語で分かりやすく表現すると、
remove
the basket got caught in the door to hold the service elevator open at that floor
とでもなるかも。
洗
濯籠の位置の訳一つが重要な意味
を持ってくることになろうとは。
それにしても、 深夜のリネン室で働く作業者 が、 洗濯籠をサービスエレベーターにはさんで、自分の階で止めている習性 を、 ジョニーの逃亡を助けるトニーの行動に結びつける とは、 チャンドラーのストーリー には 巧妙な 庶民的な味 がある。