December 19, 2009
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ニューヨークのダコタ・アパートでジョン・レノンの隣人だったジョン・ケージ。その音楽を一言で要約すれば、25世紀の音楽ということができる。24世紀以前の人間に受け入れられにくいのは当然かもしれない。

代表作の一つ「プリペアド・ピアノのためのソナタとインターリュード」は、インドの哲学者ラマクリシュナの思想と美学に基づく。ヒロイズム、エロティシズム、驚き、喜び、悲しみといった人間の9つの感情を表したものだという。

プリペアド・ピアノ(準備されたピアノ)とは、ピアノの弦の間にボルトやゴム、紙などをはさんで音色や音程を変えたものだが、その響きはバリ島のガムラン、インド、中近東、アフリカの民族楽器を思わせるところがある。いわゆるグランド・ピアノの響きとはちがって、自然界の音との親和性の高い音である。

自然界のさまざまな音と溶け合うような神秘的な優しさに満ちた音楽が、植物のように生成していくようなこの曲は、しかし非西洋音楽の単なる模写ではなく、最小限の音で豊かな世界を表現しようとした結果生まれたものと言える。ちょうど武者小路実篤の絵のように、タブローの背景を塗りつぶさない、余白の多い、そして余白の生きた音楽である。

短いモチーフを無作為にちりばめたような音楽、同じパターンを繰り返しつつ微妙な変化を織り込んだ繊細な音の絨毯が、果てしない空間に静かに広がっていく。

中でも魅力的なのは「ソナタ第12番」で、同時に鳴る音は最大でも5つという音の使われ方ながら、何かに専心するような瞑想の音楽にひきこまれる。

通俗的な東洋趣味に陥ることなく東洋の美意識をくみつくすことのできた最初の西洋音楽家がジョン・ケージだったことを物語る作品。

※高橋悠治のデノン盤が現役でしかも廉価。演奏も柔軟でシャープ。スウェーデンで録音された1960年代のモノラル盤は最近復刻されているようだが、これは伝説的な名盤として知られたものだった。





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最終更新日  December 26, 2009 09:06:14 AM
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