February 12, 2010
XML
カテゴリ: 裏札幌案内
tatikyu1.jpg


実際、わたしも約20年ぶりに訪れたが、入るのを10秒ほど躊躇したほどだ(笑)

ここから10歩ほどのところに観光客が行列を作るさっぽろラーメンの店があるが、その観光客の誰もこの店に入ろうとは思わないだろうし、入った者もいないだろう。

ガイドブックや食べログを鵜呑みにして寒空の下で行列を作るこれら観光客を尻目にこの店に向かうのは、いささか特権的な、ちょっとした優越感に浸る瞬間である。

たとえばライターならこの店のことをどう書くかと考える。

新宿ゴールデン街にありそうな、というような言葉を使うにちがいない。思わず使ってしまいそうになる。しかし、こんな店はゴールデン街にはない。

ゴールデン街にもないような、という言葉もつい使いたくなる。狭くて雑然としているのに文化人や知識人が集う、韜晦(とうかい)な空間を「ゴールデン街的」という言葉で表すのは簡単でいい。しかし、それでは何となくわかったような気がしてしまう。

ゴールデン街という言葉をどうしても使うなら、ゴールデン街にありそうで、しかもゴールデン街にはないような店、というのがいちばん事実と真実に近いと思われる。
tachikyu2.jpgtachikyu3.jpg

店内は三つの部分に分かれている。



入り口のすぐ左はわたしが「特等席」と呼ぶ、早い者勝ち、そして常連客がほぼ占有するスペース。ここもマックス8人は座れるので、空席があれば相席で仲間に入れてもらえる。

さらに左奥には、長いテーブルがあって10人以上が入れるスペースがある。実はここには足を踏み入れたことがないのでレポートできない。

20数年ぶりに訪れて驚いたのは、店内の昭和30年代的ともいえるデコレーションが強烈にパワーアップしていたことではなく、客層のよさである。昔は、といってもこの店の歴史では初期ではなく中期にあたるが、マスコミ関係者がけっこう多かった。オープンして40年という長い年月のうちに(その中には店主の病気による休業期間も含まれる)、常連客の年齢層が上がっただけでなく、こういう店のよさと希少性を理解できる人たちだけが残ったという気がする。初対面の相手とも胸襟(きょうきん)を開いて語り合うことのできる人、店のドアを開けた瞬間に俗世でまとっている鎧兜(よろいかぶと)をあっさり脱ぎ捨てることのできる人だけが残ったのではないだろうか。

店はAさんと奥さんの二人で切り盛りしている。Aさんは今年70歳だという。このAさんが作る昔から有名だった少し辛めのモツ煮とカレーは健在で、初めての客はこの二つの「洗礼」を受けるのがお約束になっている。そして、特にこのカレー、何の変哲もない、ちょっと辛いだけのカレーが、この店そのもののようにクセになる味なのだ。何度かマネして作ってみたが、やはり遠く及ばない。たぶん、辛さを出すのにレッドペッパーではなく一味を使っているのだと思う。

営業は火曜から金曜までの週4日。そのせいか、火曜と金曜に常連が集中する傾向があるようだが、長い歴史を持つ店らしく札幌を訪れたときに来る遠方からの客など、常連と言っても幅が広く多彩で、今度はどんな人に遭遇するかと思うと興味が尽きない。

値段は書いてないのでよくわからない。ホワイトボードに書いてあるだけでメニュー表もない。しかし、安くて驚いたことはあっても高いと思ったことはないのでかの「金富士酒場」や「第三モッキリセンター」で飲むより気楽だ。酒や焼酎にこだわりがあって銘酒に出会えるわけではないが、キリン一番搾りはいつも新鮮だ。

この店のような店を知ると知らないでは人生の豊かさに大きな差が出る。というのは、20代までならともかく、就職して結婚でもしてしまうと狭い世界の人間としか出会わなくなるからだ。たとえば、ある程度の年齢の女性がひとりで飲みにいって不自然ではないというか、偏見を持たずあたたかく受け入れてくれる常連客が圧倒的多数という店は世界遺産よりも少ないだろう。

立ち飲みではないがスペインの「バル」のような役割を、それも大歓楽街ススキノのど真ん中で果たしているという点においてのみ、新宿ゴールデン街のような、という形容があてはまるかもしれない。

運よく客が少ないと、Aさんが「特等席」に来てさむいギャグを披露してくれることもある。昭和の時代によく聞いたギャグに古きよき時代を思い出すが、平成しか知らない世代が逆に新鮮さを見出すかどうかは知ったことではない。

場所は東宝公楽の南側、チャーシューの入らないラーメンで知られる「欅(けやき)」の路地にある。夕方6時に黄色い大きな看板が点灯するのですぐわかる。
tachikyu4.jpgtachikyu5.jpg





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  February 14, 2010 10:22:24 PM
コメント(0) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

プロフィール

ペスカトーレ7

ペスカトーレ7

バックナンバー

December , 2025
November , 2025
October , 2025

© Rakuten Group, Inc.
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: