November 10, 2010
XML
カテゴリ: 自叙伝
LCC(格安航空会社)が当たり前になったヨーロッパで、鉄道を使ってパリからミュンヘンへ行こうという人などもうほとんどいないにちがいない。パリからミュンヘンまでは直線でも800キロほどはある。実乗車距離は1000キロを越えるのは間違いない。本州の端から端まで列車移動するのに近い。ユーレイルパスの当時の値段は一日あたり5000円くらいだったから、5000円で1000キロの移動であり、一キロあたりの移動コストはわずか5円。これは安いと思って買ったが、安いだけあって時間もかかるし不便なことも多かった。

列車がパリを出てすぐ、車掌が来て大声でわめいた。何かと思ったら、パスポートを出せという。なぜ渡さなければいけないのかわからなかったが、大声で催促するので渡した。向かいのチェコ人らしき二人も渡しているからまあ大丈夫だろう。

結果から言うと、翌朝、返してくれた。国境を超えるとき、係官みたいなやつが回ってきて、寝ている客を大声で起こす。寝ぼけまなこで何だろうと起きると、パスポートと照合していった。パスポートを集めていったのは、言ってみれば入国審査のためだったわけだ。

この審査はほとんど形式的だった気がする。日本のパスポートと見ると中を開くことさえしなかったからだ。しかしそれでも複数の係官と車掌が深夜、どやどやどやってきて大声を出すのには閉口したし、何事か理解するまでは恐怖でもあった。

フランクフルトに着いたのは朝。ここでシャイだけど気のいいチェコ人らしき二人とは別れ、ミュンヘン行きに乗り換えることになる。一言も話さなかったが、どこかのんきで微笑の絶えない、印象に残る男たちだった。

このときだけでなく、この後、ヨーロッパを歩いていつも感じたのが、ヨーロッパの男に感じる人間味である。特に年配の男性に感じることが多いのが、誠実さと人情味であり、裏表のない正直さだ。立ち振る舞いや仕草にも品がある。特に感心したのは食事のマナーで、チャップリン扮する乞食の食事時のシーンを思い出したりした。

フランクフルトの駅には防毒マスクが売られていた。何でも、南へ向かう列車で、個室に催眠ガスを噴霧し、眠ったあと金品を奪う強盗が多発しているのだそうだ。だからと言って、防毒マスクをして寝るのには抵抗があった。それなら眠らずにいて強盗を撃退したほうがマシと考え、買わなかった。

ミュンヘン行きの列車に乗ろうと長いホームを歩いていると、ドイツ人の母子とすれちがった。息子は20歳前後だろうか、背が低いので高校生くらいにも見え、リュックを背負っている。母親はと見ると、ニコニコして歩いている息子の横で涙ぐんでいる。少し太った、いかにもドイツの肝っ玉母さんという感じの女性がなぜか顔をくしゃくしゃにして歩いてくる。

息子が長い旅から帰ったのが嬉しいのか、それとも兵役でも終えて無事に帰ってきたのか。想像するしかないが、ニコニコ顔の少年と泣き顔の母親が一緒に歩いてくる姿に、ほとんど一瞬のことだがドイツの女性というよりもひとりの母親の真情を感じた。愛想がなくとっつきにくい感じのすることの多いドイツの女性だが、この母親を見たことで印象ががらりと変わった。



スケールが少し違うが、牧草地と防風林が交互に現れる北海道の農村地帯とさほど変わらない風景を眺めているうち、先ほどの母親のこともあって、自分の体が外国というものになじんできた気がした。初めての外国の初めての夜が夜行列車というのもハードだったが、そうしたハードさをくぐっていま明るい朝の光で眺める外国は、それほど外国という感じがしない。

ユーレイルパスだと一等に乗ることができるのもよかった。疲れているときは他人とあまり関わりたくないものだが、一等に乗っているドイツ人はビジネス客がほとんどで、こちらに全く関心を示さないのもありがたかった。座席もゆったりとしていて快適さが違い、二等のドイツ人に対して何となく優越感を感じる。ミュンヘンはもうすぐだ。ミュンヘン駅前のバーガーキングに巨乳の彼女が僕を待っているはずだ。さすがドイツ国鉄、時間通りに運行している。

札幌を出てもうすぐ60時間がたとうとしていた。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  November 11, 2010 11:51:57 AM
コメント(0) | コメントを書く
[自叙伝] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

プロフィール

ペスカトーレ7

ペスカトーレ7

バックナンバー

December , 2025
November , 2025
October , 2025

© Rakuten Group, Inc.
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: