May 26, 2013
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カテゴリ: 読書日記
戸井十月という人を知ったのは1970年代後半、「旗とポスター」の著者として。粘らない、爽やかな文体が印象的だった。

それからはバイクで外国を旅するドキュメンタリーを何度か見た。「いかしたオヤジ」といった風貌や服装センス、万年青年ぽい好奇心と社会派的視点のバランスに感心することが多かったが、いかんせんテレビ番組では限界があった。

しかしこの本はすばらしい。着眼点や観察力、批判精神などに元武蔵美全共闘の面目躍如たるものがある。「紀行作家」戸井十月は沢木耕太郎を超えている。

過去の旅(中には日本の話もある)の折々に遭遇した、文明や文化といったものを考えさせるエピソードをランダムに集めたもの。「深夜特急」のように時系列で旅を記述したものではない。ヒマな旅人のエッセイや自分探しの文章とは一線を画している。さりとて職業的ジャーナリストの外形的なルポともちがう。非常に優れたジャーナリストの資質を持った人がバイクや車で地を這うような旅をするとこういう世界が見える、という印象。文章力もさすがで、キャッチの文章からしてうならされるものがある。

戸井十月は、ずばりと本質を見抜く力を持っている。

第6章「夜の女たち」には、「日本人はおとなしくて優しいし、金払いがいいから」と日本人をほめ中国人や韓国人の悪口を言う売春婦のエピソードがある。売春婦は世界中、おしなべてそうなのだという。戸井自身、中国人や韓国人が夜の町でトラブルを起こす例をたくさん見てきたという。

しかし彼らが騒ぎを起こしてしまう原因は、男尊女卑の儒教や血の気の多い民族性の問題ではなく、彼らがおかれた劣悪な労働環境と安い賃金にあると喝破する。日本人の「優しさ、気前のよさ」は、要するに経済的な余裕から生まれていることを見抜く。普通の日本人なら、レイシストのように「やはり中国人韓国人はダメで日本人はいい」としか思わないような場面である。

第11章「青年の意志」での、ロサンジェルスの「ガーディアン・エンジェルス」に関する記述もおもしろい。犯罪抑止のために非暴力で行動しているボランティア自警団だが、活動の簡潔な紹介のあとで「正義」と「民主主義」を世界中に輸出しようとするお節介の芽が、すでにここにある、という。慧眼というべき指摘には圧倒される思いがした。

1995年に晶文社から出版された本だが、内容はいささかも古くなっていないし、古くなることはないだろう。人間の愚かさもすばらしさも、変わりようがないからだ。その人間の愚かしさとすばらしさの過半がこの本には記述されている。






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最終更新日  May 26, 2013 11:38:58 AM
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