July 14, 2014
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カテゴリ: クラシック音楽
前日の「第九」できいたミュンヘン・フィル木管セクション首席奏者たちの演奏があまりにすばらしかったので、自宅から75キロの距離にある奈井江文化ホールの公演にわざわざ行ってきた。

会場の規模を調べてみると246席とある。これは室内楽をきくには理想的な大きさだ。しかも自由席。日本人はシャイな人間が多く、後ろの方から席が埋まる。室内楽をきくベストの席である前の方は空いていることが多い。千載一遇のチャンスと感じた。

先日、「MORGEN」というタイトルのCDを手に入れた。N響のフルート奏者だった細川順三の2006年のアルバムである。

それをきいて、細川順三こそ世界最高のフルーティストだという1973年以来の認識を再確認した。

しかし、彼も定年退団し、最盛期は過ぎつつある。ほかに優れたフルーティストを探しても見当たらない。音は豊かで、指もよくまわるが音楽は不在。そんなエマニュエル・パユのようなフルート奏者ばかりになってしまったと、なかば絶望していた。

そんなところで出会ったのが、ヘルマン・ヴァン・コゲレンベルグというオランダ生まれのフルート奏者。リエージュ・フィル、ロイヤル・コンセルトヘボウ、ロッテルダム・フィル(首席)を経て2013年からミュンヘン・フィルの首席をつとめている、という以上の情報はないのだが、1999年にリエージュ・フィルの首席になったときまだ学生だったというから、まだ30代か。

どんな速いフレーズもていねいで、みずみずしい音楽性にあふれた音楽作りをする音楽家を見つけるのはフルートに限らなくても難しい。音色は美しいだけでなく細いのに輝きがあり、適度なビブラートもすばらしい。歌謡性と気品の両立をきくのは、ほとんど細川順三以来のことだ。

なかばこのフルート奏者めあてで行ったが、すべての演奏者の技量と音楽性に圧倒された催し。

しかも、会場に着いてみると後半のプログラムはピアソラの「ブエノスアイレスの四季」とある。木管とピアノの編成によるこの曲の演奏とは珍しい、と思って調べてみるとクラリネットのクティがサクソフォン四重奏版に注目し、その編曲を行った日本人があらたに編曲し直したもので世界初演という。



前半はサン=サーンスのフルートとオーボエとクラリネットとピアノのための「デンマークとロシアの民謡によるカプリース」、グリンカのクラリネットとファゴットとピアノのための悲愴三重奏曲、ヴィラ=ロボスの四重奏曲。

この中ではやはりヴィラ=ロボスの才気煥発たる四重奏曲がおもしろい。特に民族性の強調はなく、軽妙ながら陰影もある洒脱な音楽が続いていく。ピアノなしで木管の響きを楽しむという点では、数少ない貴重なレパートリーといえるかもしれない。

丁々発止のやりとりに一瞬も飽きることがなかった。

ファゴットのベンツェ・ボガーニはなんと99年のアカデミー生だというが、彼のソロをたっぷりきけたのもありがたい。

啼鵬編曲の「ブエノスアイレスの四季」は、まるでオリジナルのような自然さ。そこはかとない哀愁と感傷に満ちた音楽が、よく知られたバージョンとは異なる表情を見せる。ピアノの使用も控えめかつ適切で、コンサートホールだけでなく酒場のようなところできいても雰囲気がたっぷりだと思う。

実はピアソラの音楽はそれほど趣味ではないが、これほど美しい音楽だったのかと目がひらかれる想いだった。

この編曲と演奏をCD化したら大ヒットするにちがいない。

30代後半から40歳前後、と思われる彼らの世代が繰り広げる音楽にも感銘を受けた。若いが、若さの勢いをのこしつつも円熟の味わいが加わっている。音楽に対するみずみずしい新鮮な感性を持ち、音楽をめぐる状況全体や聴衆に対しても倦んでいない。

恵まれた環境で育ったという育ちのよさを感じる一方で、幼稚さがない。

これはもうそれだけで勝負があった。

クラシック音楽の中心地は、これまでも、いまも、これからもヨーロッパであり続ける、そう確信した。







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最終更新日  July 18, 2014 11:37:21 AM
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