July 26, 2014
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カテゴリ: クラシック音楽
前日と同内容のコンサート。ただし収録のためか、前日の反省によるのか、後半のシベリウスでは木管セクションの首席がPMFアメリカ教授陣に変わっていた。

男子3日見ずば刮目して見よという。平均年齢25歳前後と思われる若者オーケストラは、26時間見ないうちにものすごい成長を遂げていた。これが若さということなのだ。あらゆるものを吸収し、どんどん成長する。可能性の沃土。音楽的な内容それ自体はともかく、前日とは打って変わった密度の濃い演奏に腰がぬけるほど驚いた。

前日の演奏があまりにひどかったので、この演奏会はキャンセルしようかと思っていた。しかし、このコンサートの前にはPMFアメリカの室内楽フリーコンサートがあり、せっかく会場まで来ているのだから、あまりネガティブにならずきいてみよう、そんな気になった。

前日のコンサートが終わったのは17時。そのあとどういうリハーサルがどれだけ行われたかはわからない。しかし、ジョン・ネルソンも前日のような大振りは少なくなり、オーケストラは指揮者の意図を的確にくみ取り、十全な音にしている。オーケストラと指揮者の一体感が感じられたのは、今年のPMFオーケストラ演奏会でははじめてかもしれない。

ただしネルソンの印象は変わらない。現場力の高い職人的指揮者。ティーレマンやエッシェンバッハのような異様な音楽を作る指揮者に比べればずっとマシだが、ぜひこの人の指揮でこれをききたい、というものが見当たらない。ベルリオーズを得意としているという世評だが、ベートーヴェンもシベリウスも、この人が他の曲をやればどうなるか、想像がついてしまう。

最大公約数的な指揮者といえばいいかもしれない。オーケストラと聴衆のほとんどを納得させ、どんな曲でもその美点を損なわずに平均的以上の音楽を作る。だから喝采されるし歓迎される。

ベートーヴェンの交響曲第7番でよかったのは両端楽章。特に内声部を重視しているのがわかる。終結部近くの低弦のユニゾン、サロネンがコントラバスに向かって大仰な指示を出していた部分だが、ネルソンはチェロに向かって指示を出していた。そのことで、非常に厚みのある響きが生まれていたのには刮目させられた。前日はおとなしかったティンパニもこの日は決まりまくっていて爽快そのもの。

一方、第2楽章は流れはよいものの音量の増加が音楽的な迫力に結びついていかない。このあたりがネルソンがビッグ・ネームにならなかった理由にちがいない。力強い音楽の中にある無限の哀愁とか、音楽的な高揚が絶望を表すといった二律背反とこの指揮者は無縁なのだ。

シベリウスではさらにそうしたマイナスがあらわになる。冒頭楽章で、弦楽のピチカートだけの経過句がある。はじめてきいたときはその異様さというか独創性に寒気を感じたが、こういう部分があっさりとイージーに流れてしまう。



しかしこの部分のテンポが均等でしかも速すぎるというか、ピチカートのひとつひとつの音に「意味」が感じられない。このピチカートは作曲家が何を言いたいかわからない、謎のような音楽なのだが、ネルソンの手にかかるとただの音階になってしまう。この部分の静謐さと謎があるからこそ、交響曲史上でも例を見ないほどの「高揚する緩徐楽章」に神秘な光を感じ、感動的な音楽になっていくのだが、ネルソンは音楽の前で立ち止まることをしない。楽譜を音にするのが指揮者の(最終的な)仕事だとかんちがいしている。

フレーズの終わりがあっさりと切り上げられてしまうのは若者オーケストラのせいか指揮者のせいかはわからなかった。

それでも音楽の見てくれのよさは前日とは比較にならないし、ホスクルドソンのフルートをマーク・J・イノウエのトランペットが受けつぎ、イゾトフのオーボエが応答していく「オールスター・オーケストラ」をきく醍醐味はPMFならではであり、これほどのゴージャスな体験をさせてくれる機会は人生にそう何度も訪れない。

解釈不在の演奏にはネガティブな評価を下さざるを得ないが、それでもあらためて思うのは、「名曲」の力の偉大さである。純粋器楽交響曲としてはもしかしたらトップ10に入るかもしれない2曲を、実演でも録音でもこれまでに何度きいたかわからない。しかしそのたびに発見があり、はじめてこれらの音楽を知ったときの興奮や感動をも同時に思い出させてくれる。

この2曲がなかったら人生がどれほど単調で平凡なものに感じられたかを想像すると、イスラエルのガザ侵攻を連想するほどおそろしい。





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最終更新日  July 28, 2014 11:33:38 AM
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