March 20, 2015
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カテゴリ: クラシック音楽
クラシック・コンサートの雰囲気は嫌いだが、音楽が始まると自分の音楽的故郷がそこにあると感じて気にならなくなる。というようなことを故・林光が書いていたことがあった。

日本のクラシック・コンサートに集まる人たちが醸し出す独特の雰囲気がぼくは嫌いだ。どれくらい嫌いかというと、鳥肌が立つほどだ。それでも、バブル以前はほんとうに音楽が好きで来ている人が一定の割合でいるのが感じられた。が、バブル以降は、スノッブでなければミーハーがほとんどを占めるようになった。耳だけの人間ばかりになった。

ヨーロッパの音楽公衆にももちろんスノッブやミーハーは多い。だが、音楽を生活の一部にしているような人たちもまだたくさんいる。だから、コンサートの雰囲気自体は日本のそれのように決して悪くない。音楽を愛する人たちと音楽をきくのは、幸福な時間だ。

そんなわけでコンサートからは足が遠のく。それでも出かけるのは特別な(と思われる)機会に限られる。

1948年生まれのハンガリーのチェリスト、ミクローシュ・ペレーニはそんな特別な存在である。

ペレーニをきくのは三回目。最初はショスタコーヴィチの協奏曲(たしか第2番)、次はコダーイやバッハによる無伴奏リサイタル、そして今回はハンガリーの名ピアニスト、ラントシュ・イストバーンとの共演。会場はキタラホールが休館中のため大谷大学ホール。リスト音楽院セミナーの一環としての催し(3月19日)。

札幌はいくつかの点で幸運に恵まれている。地元の財界人に好事家がいて1961年というはやい時期にプロ・オーケストラが設立され、天安門事件のせいで1990年からパシフィック・ミュージック・フェスティバルの開催地になったというのがその代表的な例だ。

それにまさるとも劣らない幸運が、ハンガリーのリスト音楽院との交流だろう。それには、バルトークやコダーイの著書の翻訳者であり民族音楽学者だった故・谷本一之の功績が大きい。彼の娘でピアニストの谷本聡子がその功績を引き継いでいることが、ラントシュ・イストバーンやミクローシュ・ペレーニといった現代の「至宝」とでもいうべき音楽家たちと北海道との特別な「縁」になっている。

バッハの無伴奏チェロ組曲第1番とデュティユーの「ザッハーの名による3つのストロフ」という無伴奏曲をそれぞれ前半と後半の最初におき、シューベルトのアルペジョーネ・ソナタとベートーヴェンのチェロ・ソナタ第3番を配した重厚なプログラム。アンコールにバッハのトリオ・ソナタからの1楽章とドヴォルザーク「森の静けさ」。



表面的な美しさとか虚飾といったものと100%無縁なのがペレーニの音楽であり、センセーショナリズムと商業主義が支配する音楽界でこうした音楽が存在していること自体が奇跡に近い。それはペレーニの人間性によるのだろうが、ハンガリーという旧社会主義国出身であること、民族音楽的な要素と芸術的な純度を両立させたバルトークやコダーイといった音楽家たちの影響を見のがすわけにはいかないと思う。

やはり最も印象深かったのは冒頭のバッハ。何の気負いもてらいもなく、暖炉の前で孫に昔話を語りきかせるようにさりげなく弾き出され、まるで草原の小道の散策のようにバッハの音楽の起伏を「自然そのままに」見せてくれる。まるで遠い昔にきいた母の子守歌のように優しく、親しく語りかけてくるバッハは唯一無二ではないだろうか。

シューベルトとベートーヴェン、特に後者は激しい演奏も時として耳にするが、メロディラインの強調といった罠に落ちない室内楽的な演奏。分析や思索のあとを感じさせないのに歌謡性に耽溺することもない。こうした演奏がどんなに困難かは少しでも楽器をやったことのある人なら痛切にわかるにちがいない。

現代音楽の守護者として知られたザッハーにちなんだデュティユーの作品はかなり高度な技巧が要求されると思われるが、さまざまな特殊奏法が決して音楽から遊離することなく自然に響く。これもまたペレーニにのみゆるされる「奇跡」のひとつ。

ペレーニを見るのは2年ぶり。少し歳をとったのを感じるが、演奏に衰えはまったく見られない。

音楽が最も人間的な所業であることを思い出させてくれるペレーニは「最後の音楽家」であり、彼のあと、きくべき演奏家はいないにちがいない。





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最終更新日  March 20, 2015 02:05:00 PM
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