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どこの家にも怖いものはいるのご紹介です。幽霊屋敷シリーズの1作目です。※本記事はネタバレを含みます。どこの家にも怖いものはいる/三津田信三【3000円以上送料無料】【あらすじ】僕(たぶん三津田さん)は懇意にしている編集者の三間坂秋藏(みまさか しゅうぞう)から5つの怪談を提供されました。それぞれ人物、時代、内容がバラバラなのに、なぜか別の怪異とは言い切れない共通点がありました。僕と三間坂は怪異について考察を続けるのですが……【5つの怪異】向こうから来る 母親の日記平成の半ばくらいと思われるお話です。新築の一軒家に引っ越してきた一家の母親の日記という形式をとっています。引っ越してきた当初は良い家だと思ったのですが、家のあちこちで妙な音がしたり視線を感じるようになりました。やがて子どもがおかしなことを言いだしたり、近所の子どもが遊びに来たがらなくなったりして……終盤に日記の文章がどんどんおかしくなっていくのが不気味ですね。異次元屋敷 少年の語り昭和初期ごろのお話です。森で遊んでいると「割れ女」と呼ばれる者に遭遇してしまいます。必死になって逃げているうちに晨鶏屋敷と呼ばれる屋敷に逃げ込みました。そこは気味が悪いほど静まり返っていて……よく分からない終わり方だったので首をひねっていたのですが、考察を読んで「あっそういうことか」と思わされたお話でした。幽霊物件 学生の体験昭和後半のお話です。体験者は大学に進学し、アパートで一人暮らしをすることになりました。他の入居者はやや暗い雰囲気の人が多いものの、特に問題なく一人暮らしが始まりました。ですが屋根の上や隣室から物音がするようになりました。大家さんに話を聴いてみると「大人には害が無いから大丈夫」と意味深なことを言われます。ある日隣部屋の物音がうるさく、腹を立てた体験者は隣室に文句を言いに行って怪異体験をします。ふと部屋の表札を見ると204号室でした。自分の部屋は203。4は縁起が悪いのか、隣は205のはず。では目の前にある204号室には何者がいるのか……光子の家を訪れて 三女の原稿平成初期のお話です。体験者の半生を綴った小説の一部です。体験者の母親は霊能力に目覚め、ローカル宗教団体の教祖のようなことをしていました。家族は彼女を連れ戻そうとするも、帰って来ませんでした。体験者は仲の良かった弟だけでも連れ戻そうと、母親の住む家を訪れました。ですが家には誰もおらず、疲れてしまった体験者は眠ってしまったのですが……ホラーゲームのような不気味なお話でした。本書の帯にもある「寝ていると彼女がまぶたをこじ開ける」ってパワーワードですね。或る狂女(くるいめ)のこと 老人の記録明治末期から昭和初期にかけての、とある老人の手記です。手記を書いている老人が、幼い頃に祖母から聴いた話です。地元の有力者の娘は奇矯な振る舞いが多く、時折ポツリと漏らす予言が必ず当たるため村人から気味悪がられていました。不吉な出来事を孕んだ一族の顛末とは……【驚異の考察】本作はエピソードの合間に「幕間」と、最後に「終章」があり、僕と三間坂が怪異について考察しています。この考察がとても鋭くて味わいが深いです。ちょっとした言葉や記述の端々から手がかりを探り当てる嗅覚はすさまじいと思いました。「ここも近畿と言えば、まぁ近畿ですわ」というセリフについて、言葉本来の意味にこだわる人のコメントなので、一般的な近畿ではないのではないかという考察がすごいなと思いました。また各怪異の舞台がバラバラなのですが、記述した人が場所を明示することに抵抗があるので、わざと違う場所を書いたりぼかしたりしているのではないかという考察もありそうだと思いました。こうして導き出された衝撃の結末は! とまではっきりした結末にはなりませんでした。ほぼほぼこれだよねという結論で終わりになっています。煮え切らない感が無いわけではないのですが、とことんまで追求するとこの本が出版できないような事態になりかねないので、ここで引いておいたのは正解なのだろうなあと思いました。怪を語れば怪至る。本書でも警告されていますが、みなさんもくれぐれもこの怪異の場所を突き止めようとしないようにお願いします。吾輩は本書を読んでいる時、屋根の上からパラパラと音がしたような気がしたのですが、気のせいだよね、うん。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2024.06.09
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まいまいつぶろのご紹介です。過酷な運命を背負った次期将軍と、彼に仕える青年の物語です。まいまいつぶろ [ 村木 嵐 ]※本記事はネタバレを含みます。【あらすじ】第九代将軍徳川家重(幼名・長福丸)。彼は生まれながらに口がまわらず、右半身が不自由でした。さらに尿漏れのため歩いた後には尿を引きずった跡が残るため、まいまいつぶろ(かたつむり)と陰口を言われていました。ある日、下級旗本の子息である大岡忠光(幼名・兵庫)は家重の言葉が理解できることが判明しました。そこで忠光は家重に仕え、彼の口の代わりになりました。ですが誰が将軍になるかで幕府内の力関係も変わってきます。家重は将軍になれないだろうと思っていた者たちからすれば、忠光は目障りな存在です。様々な思惑と陰謀が渦巻く中、主従の運命やいかに?【歴史の人物も登場】本作は史実をもとにした作品だけに、教科書に載っている人物も登場します。そうした人物が動いてしゃべっているのを見るのも面白いですね。徳川吉宗家重の父にして第八代将軍。いわゆる暴れん坊将軍ですね。将軍としての立場と息子への情の間で揺れる姿が描かれています。引退する際、家重の障害になりそうな人物を軒並み始末する辣腕ぶりはさすが将軍ですね。大岡忠相名奉行大岡越前ですね。忠光の遠縁にあたります。吉宗とともに改革の真っ最中であったため、最初は忠光が不手際を起こさないかとヒヤヒヤしていました。それが二人の絆を見るにつれて、次第に応援するようになります。こうした人間臭い面が描かれているのが面白いですね。比宮家重の妻です。結婚当初は家重の障がいにとまどい、結婚を後悔しました。やがて家重の思いやりや知性の高さに気づき、愛情を深めていきます。家重の子を死産してしまったうえに産後の肥立ちが悪く、世を去ってしまうのが寂しいですね。彼女の死後家重の落胆ぶりがその愛の深さを感じさせました。幸比宮の従者であり、友人のような関係でもあります。自らの死を悟った比宮より、自分に代わって家重の子を産んで欲しいと頼まれます。それは次々期将軍候補を産むことで、家重の次期将軍の立場を確固としたものにしたいという想いでした。最初は比宮に対する友情の念から家重の子を産みましたが、やがて我が子を将軍にしたいと思うようになっていきます。こうした心の動きがやや寂しいようであり、人間らしいとも言えるのでしょうね。田沼意次歴史の教科書でも有名ですね。吉宗の頃に取り立てられ、家重に仕えます。若き切れ者として描かれていて、実在した人間としての息遣いを感じますね。【壮大な溜め】本作は跡継ぎ問題や政策など日々の様々な事柄に取り組む家重と、それを支える忠光の姿が描かれています。やがて忠光も歳をとり、病に倒れたのをきっかけにお役目を退くことになりました。家重の忠光の別れのシーンは特に印象に残りました。それまでは家重の言葉を忠光が伝えていましたが、二人きりのこのシーンでは、普通に会話するのと同じ書き方で表現していました。そこまで読み進めていると、二人が積もる思い出を話しているだけなのに感慨深いものがありました。個人的には、本作はこのシーンに至るまでの壮大な振りなのではないかと思っています。【大きな殻を背負い、まいまいのごとく】本作のような物語は「運命に立ち向かった」とか「苦難を乗り越えて」などと言われることが多いかと思います。ですが家重と忠光は特に立ち向かってもいないし乗り越えてもいません。ひたすら日々を生き、職務を全うしていました。思うにならない体で生きて行くその姿は、大きな殻を背負いゆっくり進むまいまいのようでありました。障がいを治そうとするでもなく、克服しようとするでもなく、背負ったまま進む。だからこそ家重は「もう一度生まれても、私はこの身体でよい。そなたに会えるのならば」とまで言えたのではないでしょうか。過酷な運命に踏みつぶされることもなく、まいまいのごとく人生を生き抜いた主従と、その二人を取り巻く人間模様が味わい深い小説でした。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2024.05.05
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殺人鬼(サイコパス)狩りのご紹介です。※本記事はネタバレを含みます。【中古】 殺人鬼狩り/二宮敦人(著者)【あらすじ】東京から1000キロ離れた羊頭島(ようとうじま)にある刑務所から、5人の囚人が脱獄しました。彼らは多くの殺人を犯したサイコパスです。周囲への被害拡大が懸念され、一刻も早い対応が求められました。事態解決のため、警視庁は警官隊に一人の女性を同行させます。彼女の名は園田(そのだ)ユカ。かつて13人を殺したサイコパスでした。こうして孤島を舞台にサイコパス対サイコパスの殺し合いが始まるのでした。【殺人鬼紳士録】本作は殺人鬼ごとに章分けされていて、各殺人鬼にスポットを当てています。これが思いの他読みやすく、物語の構成にも技量を感じました。「血のナイチンゲール」伊藤裕子怪我人を看護することに執着していて、しまいには自分で「看護する対象」を作り出すようになりました。幼い頃虐待を受けていた彼女は、他人を救うことに自分の存在意義を感じていました。彼女が罪悪感を感じているのは怪我人を救えなかったことで、他人を傷つけていることには何も感じていない所がヤバいですね。「ごはん男」高橋光太郎自分より弱い高齢者や子どもを標的にし、さらに殺した相手の穴という穴にごはんを詰めます。ですがこの異常性は計算されたもので、被害者の遺族をより苦しめるために行っています。日本に住んでいればごはんを目にしない日は無いでしょう。遺族がごはんを目にするたびに苦しむようにしているのです。この話は構成が上手でした。警官隊と読者は事前の資料で高橋のことを知っていました。ですが実際に会った高橋はおびえ切った卑屈な男で、とてもそんな犯行をするようには見えませんでした。それがひとたび標的と認識すると……高橋の卑屈さと残虐性のコントラストが印象深いです。彼の過去も社会の縮図を表しているようで、全体に胸くその悪い展開に仕上がっています。「膣幼女」川口美晴男性を誘惑し、寝た相手を殺す殺人鬼です。彼女は幼い時から魅力があり、あらゆる男たちが彼女を求めました。どんな言葉を持ち出したところで、人の考えることもやることも変わらない。そのうち「ルールなんてものは最初から存在しない」「ルールとは都合よく使われるもの」と考えるようになります。まあそうなるよねと思いながら読み進めると「本当に強いものはルールなど必要としない」「だって無駄じゃん。弱い者も生かしておくなんて」。……あれ? 雲行きが怪しくなって来ます。やがて彼女は別れ話がこじれて危害を加えられそうになった時「そうか。男は捨てる前に殺しとくのが楽ってもんだわ」という結論に達します。そうかじゃない(笑)。体験に因らない、ナチュラルにヤバい思考回路はさすがサイコパスですね。「真面目ハンド」山本克己傭兵をしていたこともある、筋骨隆々な中年男性です。素手による絞殺にこだわっており、恐怖のあまり自殺を図った被害者をわざわざ救命処置をしてから絞殺したこともありました。そんな彼についた二つ名は真面目ハンド。彼にとってはルールを守ることが何よりも優先することになっており、その徹底ぶりから不気味さが漂っています。美晴がルールなんて初めから存在しないと言っていたこととの対比が面白いですね。「人形解体屋」霧島朔也今回の脱獄事件の首謀者であり「人類の天敵」「人類滅亡の一つのサンプルケース」と言われています。彼いわく「自分ほど人間を愛していた者はいない」とのこと。愛していて興味があるからこそ、彼は多くの人を解体し、人間を理解しようとしました。そして彼は「飽きて」しまいました。子どもがおもちゃに飽きて急に興味が無くなってしまったように、霧島は人間に対する興味を失ってしまいました。以降彼は何にも興味を持てなくなってしまいました。脱獄はしてみたものの、それも彼の心を震わせることはできませんでした。全体を包む物憂げな虚無感がラスボスにふさわしいですね。「真紅の妖精」園田ユカ本作のヒロインです。自分を暴行しようとした変質者13人を皆殺しにした過去を持ちます。虫は殺してもいいけど人間はダメ。こうした「普通の」人間が持っている感覚を、彼女は持ち合わせてはいません。それでもユカは人間と生きて行きたいと願いました。常習的に動物を殺していたのも、普通の感覚を理解しようとしていたが故というのが切ないですね。高宮との交流を通して新しい感情に目覚めた彼女はどのような未来を歩むのでしょうか?「殺さない才能」高宮晴樹新米警察官であり、普通の人間代表です。命に頓着しないユカの言動を不気味に思いながらも、普通に生きられない彼女の苦しみに同情しました。ユカも高宮に対して、自分を気味悪く感じる理由をちゃんと話してくれた人は初めてだと驚いていました。言下にサイコパスを拒絶するのではなく、ユカを1人の人間として理解しようとする姿勢が印象的でした。また異常犯罪者だから殺してしまえという結論は出さず、あくまで殺さずに逮捕しようとするところが、サイコパスたちとの対比で面白かったです。本作はただのグロ小説ではなく、サイコパスたちの過去や思考についても細かく描写されていたのが良かったです。恵まれない環境やきっかけとなる体験についても描かれていますが、何よりもサイコパスたちの独特な思考回路まで描いているのがすばらしいです。「あれ? これって、こうした環境に生まれなくてもいずれ人を殺してたんじゃ……」みたいなヤバさが味わい深いです。とはいえ基本的に臓物がまろび出る小説なので、苦手な方は注意して読んでください。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2024.03.24
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今までご紹介していた大江戸妖怪かわら版全体の感想です。第1巻の記事はこちら。【書籍全巻セット】【中古】大江戸妖怪かわら版[文庫版] <1~7巻完結> 香月日輪【美しい風景描写】本作の魅力はまず、その美しい風景描写だと思います。「どこもかしこも見事な紅葉で、上を見上げれば、さまざまに色づいた葉が青空に映え、足元は、その散った葉で見渡す限り埋め尽くされている。子どもたちはその上を転げ回り、腕いっぱいに落ち葉を拾っては放り投げ、撒き散らす。大人たちはその様子に、深まりゆく秋を感じるのだった」―6巻より情景がすんなり浮かんでくるうえに文章がくどくなく、繊細で美しいと思います。【大江戸うまいもの探訪】香月先生はおいしそうな料理の描写にも定評があるそうで、妖怪アパートの幽雅な日常でもおいしそうな料理がたくさん出てくるそうです。「今日の昼定食は、鰻(うなぎ)と浅蜊(あさり)と葱(ねぎ)の旨煮。まだ暑さの残るこの時期の、夏バテ予防にピッタリの一品だった。小鉢には、練り天と菜っ葉の和え物。薩摩芋の味噌汁。茄子の漬け物」―5巻より読んでいるだけでもおいしそうです。昔ながらの日本の食材や旬のものを使った、素朴でありながら手の込んだ料理が良いですね。【きちんとした大人のいる世界】このシリーズの素敵な所は、きちんとした大人たちがいることだと思います。雀に対してあれこれと口出しはしないが、決して見放すことはありません。雀が自分で考え、決断するのを待ってくれているのです。大人代表は鬼火の旦那ですが、大首の親方やポーなど、見守ってくれる大人がたくさんいるのがほほえましいですね。印象深かったのは雀の長屋に住んでいるお内儀たちです。何かと世話を焼いてくれるのですが、それは雀が自分自身できちんと生きているからであって、ただ甘えてくるだけの者は一顧だにしないという描写があります。無条件で人の面倒を見るほど余裕があるわけでも懐が深いわけでもない。でも懸命に生きている者には惜しまず手を貸してくれる。そんな江戸っ子気質が温かいですね。吾輩が好きなのは、雀が行きつけのめし処「うさ屋」のおやじが氷箱(冷蔵庫)を仕入れたシーンです。氷箱は箱に氷の精を入れるのですが定期的に交換せねばならず、その手間賃が結構かかるとのこと。強い力を持つ鬼火の旦那ならば交換しないで済むようにすることもできます。ですが旦那は「やってやろうか」とも言わないし、うさ屋のおやじも「やってくれ」とは言いません。個人個人がこうした分別のある行動をしているからこそ、世間の秩序が保たれているように思います。ともすれば自分さえ良ければいいとなりがちな我々は大いに見習うべきなのではないかと思いました。【子どもにも大人にも読んでほしい物語】本シリーズは児童書の対象年齢の中でも最後のカテゴリーに入るそうです。子どもを卒業して大人になっていくにあたって、学んでおいて欲しいことが詰まった作品であると思います。また大人になってから読み返すと、日々の慌ただしさの中で忘れてしまったことを思い出させてくれる作品でもあると思います。個人的には2巻の「遠きにありて思う」が好きです。辛いことや悲しいことが自分の糧になるとよく言われます。ですがその最中にそう思うことは中々ないと思います。すでに取返しのつかない、終わってしまったことだからこそ冷静に振り返ることができるものなのかなと感じました。また3巻の「なんの憂いもない世界など、どこにもありはしないのだヨ」が名言だと思います。一見理想郷のように見える大江戸であっても犯罪はある。格差もある。理不尽もある。全くの別世界ではなく我々の世界とリンクしている部分があるからこそ、物語が読み手の中に入ってくるのかなと思いました。そして憂いのある世界だからこそ、人は自分や大切な人のために努力できるのではないかと感じました。本作は日常シーンが多い小説ですが、こうした平凡な日常こそが愛おしいと思います。作中の言葉を借りれば、泣き、笑い、酒を呑んで美味いものを喰って、恋をして子どもをつくって……そして死んでゆく。どこにでもある当たり前な生き方や人情あふれる心意気。我々人間が便利さと忙しさで忘れてしまったものを思い出させてくれる妖怪たちと、そんな優しい世界で「生き直す」少年の物語。良い作品を読むことができました。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2024.02.11
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大江戸妖怪かわら版7のご紹介です。本シリーズもいよいよ最終巻です。今回は大江戸の面々の日常を描いた短編集です。前巻の記事はこちら。【3980円以上送料無料】【OPEN記念全品ポイント5倍】大江戸妖怪かわら版 7/香月日輪/〔著〕【大江戸散歩】八丁堀同心百雷、定町廻りす狼面の同心百雷の日常を描いたお話です。下級役人であるがゆえにままならないことも多いですが、それゆえ町民に寄り添った彼の生き方は温かみを感じました。散れば咲き、散れば咲きして桜丸とある少女が、時折通りかかる桜丸に恋をしました。声をかける勇気もなく、せめてもと桜丸の姿を絵師に描いてもらい、それを眺める日々を送っていました。ある日、ふと気づくと彼女はとある公園に立っていました。そして向こうから歩いてくるのは、桜丸?不思議でロマンチックで、そして切ないお話でした。風流大江戸雀かわら版屋の記者雀の日常を描いた話です。この話は杉浦日向子氏の江戸川柳漫画「風流江戸雀」からヒントを得て書いたそうです。風流江戸雀は古川柳「誹風柳多留」から選んだ佳句をもとに、江戸っ子の日常を描いた作品だそうです。この話も古川柳から大江戸っ子の生活を描きました。細々としたエピソードに川柳を織り交ぜた手法が面白いお話でした。渡来人は自転車を駆る大欧州からやって来て大江戸に居ついた猫の妖怪ポー。雀の同僚であり何かと手助けしてくれる彼の日常を描いた話です。最後は泣ける展開でした。大人なポーの振る舞いも良いですね。虹の水面に映る夢にて候釣りに出かけた鬼火の旦那は、一人の少年と出会います。少年は高名な武家の子息で、勉学と武芸に励むだけの日々に嫌気がさして屋敷を抜け出して来たのでした。そこで旦那は雀を呼び、若様を連れて江戸の町を案内させることにしました。雀は若様に色々な話をします。自由と自分勝手は全然違うんだということ、自分はもっとああしろこうしろと言われたかった、悪いことをしても叱られないのがどんなに悲しいことか……雀の言葉は、自分の生活を窮屈に感じていた若様の心に新しい風を吹かせました。この話は、雀の成長物語の集大成のように思います。すさんだ生活をしていた雀が大江戸で生き直すことができたことを改めて感じさせるお話でした。終章(えぴろおぐ)雀が鬼火の旦那の庵を訪ねてくつろいでいる日常を描いた話です。ごくごく普通の、小説の書き出しのような何ということのないシーン。でもそれがこのシリーズを体現していて、とても感慨深く感じました。この物語は世界がひっくり返るような大事件が起こるわけではありません。事件が起こるにしても、穏やかな日常のシーンが大半です。ですがこうした日常の連続が、ひいては人生を作っていくのではないでしょうか。穏やかで人情深い妖怪たちの姿は、忙しい生活の中で私たちが忘れてしまいがちなことを思い出させてくれるように思いました。ページ数もテンポも手ごろで読みやすい作品ですので、気軽に楽しんでみてはいかがでしょうか。作品全体の感想はこちら。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2024.01.28
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大江戸妖怪かわら版6のご紹介です。前巻の記事はこちら。【中古】【全品3倍!1/1限定】大江戸妖怪かわら版 6/ 香月日輪【あらすじ】大欧州から渡来船が来ることになり、大江戸は大賑わい。大江戸に遊びに来た修繕屋を案内がてら、雀は渡来船の見物に出かけました。そこで出会った少女初花(はつはな)も加わり見物を楽しむ雀たち。そんな中初花が強面同心百雷の妹だと知りびっくり。そのうえ鬼火の旦那と何やら縁のありそうな少女(少年?)佐保風(さほかぜ)も加わり、一層にぎやかになる雀一行。一方その頃、犬族がかかる奇病「魔狼(フェンリル)の災厄」が広がっていました。災厄収束の手がかりはいかに?【彼は誰そ、誰そ彼そ】今回は物語の展開が面白かったです。性別不詳や性別逆転、ライトな下ネタが多かったのです。香月先生お戯れと思っていたのですが、最後の展開にそう繋がっていくのかと思いました。【月に叢雲、花に風】※ネタバレありです。魔狼の災厄は犬族の妖怪がかかる奇病です。狂暴化して相手かまわず襲い掛かってしまうのですが、それは本人の意思ではありません。そのことを雀が書いたかわら版の効果もあり、人々から犬族が責められることはありませんでした。コロナ禍における風評被害を見るにつけ、こうした江戸っ子たちの心意気がとても温かく感じました。最後にこうした人情に触れて、気分良く本を閉じることができた一作でした。次巻の記事はこちら。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2024.01.14
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大江戸妖怪かわら版5のご紹介です。前巻の記事はこちら。【中古】大江戸妖怪かわら版 5/ 香月日輪【あらすじ】大江戸を飛び出し大浪花へ取材旅行に行くことになった雀。そこには雀のいた世界からやって来た「修繕屋」という人間がいると聞かされました。しかも修繕屋は元の世界と妖怪の世界を自由に行き来できるとのこと。思いがけず元の世界に帰ることもできるようになった雀の選択はいかに?【乾風けちらす春疾風】大江戸で人気の芝居小屋日吉座の人気役者蘭秋と藤十郎。本作では二人が故郷である大浪花を後にして大江戸へやって来きた時のエピソードが語られています。藤十郎は舞い手にあこがれ、訓練をして腕を上げていきました。ですが西方では舞いは神にささげるものであり、藤十郎の俗世的な色気はむしろ邪魔になってしまいました。西方での大成をあきらめ、藤十郎は東方に向かいます。一方東方では舞いは大衆の娯楽であり、藤十郎の持ち味は歓迎されました。環境によってハンデがアドバンテージになることもあるというこのエピソードは、特に印象に残りました。吾輩は香月先生の作品を読むのは初めてなのですが、修繕屋は「妖怪アパートの幽雅な日常」の登場人物なのだそうですね。他の作品のキャラクターを登場させつつ、上手にストーリーに絡めているのが面白いと思いました。次巻の記事はこちら。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2023.12.31
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大江戸妖怪かわら版4のご紹介です。前回の記事はこちら。【中古】大江戸妖怪かわら版 4/ 香月日輪【あらすじ】桜の花見に興じる雀一行は、酔っ払いに絡まれた女の子を助けました。後日少女と同郷だと名乗る男が現れ、礼をしたいと言います。男に連れられて雀が訪れたのは、なんと天空に浮かぶ竜宮城でした。【雀、神と会う】※ネタバレを含みます。今回はシンプルなお話でした。天空竜宮城の風景描写が美しいです。竜宮城で雀は神に出会います。雀はふと、自分が大江戸に来た意味を問いました。それに対し神は「意味は自ずから見出すものである」と答えます。さらに「意味があったと……それは、お前しか知らない……」と加えます。自分のしてきたことや行動に意味があったのか? ふと考えてしまうことはあると思います。ですが、結局意味があったかどうかを決めるのは自分自身ということなのでしょうね。シンプルな展開ながら、美しい風景描写と禅問答のようなやりとりが味わえるお話でした。次巻の記事はこちら。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2023.12.17
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大江戸妖怪かわら版3のご紹介です。前巻の記事はこちら。【中古】大江戸妖怪かわら版 3/ 香月日輪【あらすじ】雀たちは前回の事件で縁ができた日吉座に招待されました。演技だけでなく脚本にも魅了された雀は、脚本を書いたのは座長の娘である雪消(ゆきげ)であると知り、彼女と会うことになりました。しかし雪消は座敷牢の中で暮らしていました。その理由とは?【雀、封印の娘に会う】※ネタバレを含みます。雪消は白鬼の気質が強く出てしまい、人食いの衝動を抱えています。それを抑えるため、封印を施した部屋から一歩も出ることができません。ですがそこに悲壮感はありませんでした。雪消は自分の運命を受け入れて生きていく覚悟を決めていました。悲劇のヒロインぶらないその生き方は、粋でいなせな江戸っ子の美しさを感じました。【白鬼春雷を纏い花を舞い散らす】後半に雪消は封印が解け、力が解放されます。本作は風景描写の美しさが特徴だと思うのですが、この雪消のシーンも描写が美しかったです。白鬼の本能が解放され居合わせた者を殺戮する雪消ですが、その姿は春の嵐に例えられていました。感情を持たず春の花を散らす力そのものであるという表現は、恐ろしさと美しさが同居して妖しい魅力を感じさせました。【まだ浅き春かな】本作は全体を通して雀の成長が描かれています。今回も座敷牢で暮らす雪消に衝撃を受ける雀でしたが、そんな雀に雪消は「なんの憂いもない世界など、どこにもありはしないのだヨ」と言います。また、なんの憂いもない世界に居て楽しいのだろうかと思う、とも言いました。愛も憎しみも、喜びも悲しみも背中合わせであり、片方だけというのはダメなのだ、とも。大江戸は自由な世界ですが、やはり他人に迷惑をかけるのはご法度であり、もちろん殺しは大罪です。雪消は罪を犯さずに生きていくには、封印を施した座敷牢で暮らすしかありません。雪消は座敷牢を「自分に生きることを許してくれている世界」と言い、雀は雪消を閉じ込めておくことが親の愛でもあるということを学びました。本作は児童文学のカテゴリーに入るのだそうです。雀の経験を通して、様々な生き方や価値観を学ぶことができるのも本作の魅力であると思います。次巻の記事はこちら。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2023.11.12
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大江戸妖怪かわら版2のご紹介です。前巻の記事はこちら。【中古】 大江戸妖怪かわら版 2 / 香月 日輪 / 講談社 [文庫]【宅配便出荷】【あらすじ】妖怪たちが暮らす「魔都」大江戸。今回は雀が大江戸に落ちてきてかわら版屋として働くようになったいきさつが描かれています。家族や環境に恵まれず、日の当たらない世界で生きてきた雀。そんな雀が「生き直す」選択をした物語です。【遠きにありて思う】※ネタバレありです。本作で最も印象に残った章が「遠きにありて思う」でした。雀は大江戸で生きることを選びました。「ガキは親が恋しいもんだ」という言葉に反発を覚えつつも、思い出すのは嫌な思い出ばかり。嫌な気分になるとともに、自分はこんなに親のことを見ていたのかと驚きもしました。ですがそれは帰りたくても帰れない所にいるからそう感じるのだと思います。辛いことも振り返ってみれば思い出になるでしょうし、辛い経験が今の糧になっていると受け取ることができるでしょう。しかし辛い思いをしている最中にそうした境地に至ることは難しいと思います。遠きにありて思う。どうあがいても戻ることのできない場所や状況にいるからこそ、心静かに振り返ることができる。そんなこともあるなあと思いました。【雀、芝居を見物す】後半雀は大江戸三大座と呼ばれる芝居一座の一つ、日吉座を見物に行くことになりました。芝居を十分に楽しんだ雀は後日日吉座へインタビューに行くことにしたのですが、そこで事件が起こってしまい……日吉座の看板役者蘭秋をはじめ一座の面々は今後も登場するので、今後の弾みにもなるお話でした。次巻の記事はこちら。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2023.10.08
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大江戸妖怪かわら版1のご紹介です。【中古】 大江戸妖怪かわら版 1 / 香月 日輪 / 講談社 [文庫]【宅配便出荷】【あらすじ】舞台は大江戸。といっても我々人間の大江戸ではなく、妖怪たちが平和に暮らしているもう一つの大江戸です。そんな魔都大江戸でただ一人の人間である雀は、かわら版屋で働く少年です。江戸で起こる面白話を探して走り回る雀の元に「人間を拾った」という報せが入ります。元の世界が嫌で他の世界へ行きたいと願っていた少女小枝は、願いが通じてしまったのかこの世界に「落ちて」来てしまったようです。とりあえず小枝の面倒をみることになった雀。窮屈な生活で疲れ切っていた小枝の心はほぐれていくのですが、二つの江戸では時間の流れが違うため、あまり長く魔都にいると元の世界に帰れなくなってしまいます。この世界に留まるのか、それとも元の世界に帰るのか、小枝の選択は?妖怪たちの人情あふれる魔界見聞録のはじまりです。【美しい描写も見どころの作品】物語自体は世界がひっくり返るような大事件が起こるわけでもなく、異世界に迷い込んできた女の子が新たな一歩を踏み出すためにそっと背中を押してあげるお話です。それだけといえばそれだけなのですが、最後まで読ませる魅力のある物語でした。様々な妖怪たちが普通に登場しますが、そのしぐさや動きがイメージできるほど文章が読みやすいです。特に風景の描写がきれいで、光の濃淡や色の具合が繊細に描かれていてこうした表現も見どころです。日々あくせくしている我々がうらやむようなのんびりした生活を送る妖怪たちの人情噺です。次巻の記事はこちら。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2023.09.17
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だから殺せなかったのご紹介です。本作は映画化やコミカライズされた話題作「屍人荘の殺人」と鮎川哲也賞を争った作品です。吾輩も元々屍人荘の殺人を読んだ時に紹介されていて、ずっと気になっていました。だから殺せなかった/一本木透【1000円以上送料無料】【あらすじ】主人公はベテラン新聞記者の一本木透。彼は若い頃地方議員の汚職事件を突き止めスクープをものにしたのですが、その議員は恋人の父親でした。事件が明るみに出た結果、恋人とその父親である議員は自殺していまいました。スクープの代償に未来の家族を失った一本木。あの時の選択は正しかったのか? 彼はその十字架を背負いながら生きていました。そんなある日、犯罪事件の被害者家族、加害者家族、そして事件を追う記者の苦悩を描くという企画が持ち上がり、一本木が記事を担当しました。一本木は自分の過去を記事にし、好評を得ました。それからしばらくして、一本木宛てにワクチンと名乗る人物から手紙が届きました。ワクチンは自分が最近起きている連続殺人事件の犯人だと名乗り、一本木と新聞紙面上での対話を要求して来ました。そして言葉の力で自分を改心させ、犯罪を止めてみろと挑発してきました。こうして新聞紙面で繰り広げられる、連続殺人犯との紙上戦が始まるのでした。【重厚な社会派ミステリー】序盤はかなりゆっくりした進行でした。新聞業界に関する話とか登場人物のモノローグとかが続き、これミステリーじゃないんだっけと不安になるほどでした。ですが物語が進むにつれてちりばめられた情報や各モノローグが繋がっていき、見事に着地させています。本作は社会派ミステリーという言葉がよく似合うように思います。殺人に関するトリックは特に複雑なものはなく、人気が無くて監視カメラに映っていない所で殺した、くらいです。ですのでいわゆる本格派ミステリーとして読むと物足りなく感じるかもしれません。作者の一本木透さん(主人公と同じ名前です)は新聞社に勤務していたことがあるそうで、新聞記者の目線からみた描写がとても細かく書き込まれていました。新聞業界の仕事の進め方や専門用語も分かりやすく書かれていて興味深かったです。年々冷え込んでいく新聞業界の苦境や、それゆえに下世話なゴシップまがいの記事も書かざるをえない状況、報道が本義でありながら殺人犯とのやりとりを商業主義的に扱ってしまう側面などが生々しく描かれていました。また、事件を報道するという社会的正義のために個人の幸せや人生を踏みにじる葛藤もリアルさを感じました。殺人の手法に重きを置くミステリーとは異なり、実際に社会のどこかで起こっていそうなリアリティが読ませる作品でした。一方、先ほどミステリーとしては物足りないかもと書きましたが、結末は捻りが効いていて予想外でした。最後まで読むと皆さんもきっとこう思うことでしょう。「ああ、だから殺せなかったのか」と。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2021.11.21
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兇人邸の殺人の感想を書くと抽選でおまけがもらえるキャンペーンが先日行われていました。せっかく読むんだからと感想を書いたら、見事もらえました。各キャラクターのしおりと、ミステリ愛好会の会員証比留子バージョンです。もったいなくて使えないので、当面は保存しておこうかなと思います。この前兇人邸の殺人が出たばかりですが、早くも続きが気になります。これからもエンタメと本格ミステリが融合した良い作品を生み出してもらいたいなと思います。兇人邸の殺人 [ 今村 昌弘 ]兇人邸の殺人です。紹介記事はこちら。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2021.10.03
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兇人邸の殺人のご紹介です。屍人荘の殺人シリーズの第3段です。兇人邸の殺人 [ 今村 昌弘 ]※ネタバレありです。【あらすじ】葉村と比留子はとある製薬会社の社長から協力を提案されました。彼らの会社は以前班目機関に出資していて、その研究資料を手に入れようともくろんでいました。場所はとある廃墟テーマパーク。パーク内にそびえる屋敷に住んでいるオーナーが、班目機関の元研究員なのだそうです。そこに侵入して資料を手に入れる計画なのですが、メンバーは屈強な傭兵たち。どうにもきな臭い気配です。首尾よく侵入してオーナーも拘束し順調かと思われたその時、葉村たちの前に異形が姿を現します。2メートルを超える体躯、巨大な鉈を持ち頭陀袋(ずだぶくろ)を被った隻腕の巨人でした。巨人によって瞬く間に首を刎ねられるメンバーたち。必死に逃げるなか、比留子は巨人が徘徊する別館に取り残されてしまいました。向かい合った本館の窓ごしに話はできるものの、危険な状況に変わりありません。脱出しようと思えばできるのですが、メンバーは皆訳ありで脱出には消極的です。さらにメンバーの中に別の殺人者がいる可能性が浮上してきます。はたして葉村は比留子を救出し、生き延びることができるのでしょうか?【安楽椅子探偵(強制)、剣崎比留子】今回比留子さんは開始早々身動きがとれなくなってしまいます。ですが葉山たちがもたらす情報を分析し、その推理力を遺憾なく発揮しています。巨人以外の殺人者については随所にヒントがあり、ミステリ好きなら案外あっさり分かると思います。作中のメンバーが知るのは結構後になるのですが、比留子は早い段階で犯行を見抜き、犯人に取り引きを持ちかけます。それは身動きができない自分に代わって葉山を守ること。失敗した場合は犯行を暴いたメモを窓からばらまくと脅します。自身が動けなくても犯人を支配する比留子の知略恐るべしです。【ミステリと物語の好バランス】今までのシリーズと同様に奇想天外な理由でクローズドサークルになるものの、中身はバリバリのミステリです。各メンバーの思惑や巨人、そして偶然が重なり合い、いったい誰に犯行が可能だったのかは分かりませんでした。そしてストーリー部分も深く描かれていました。ワトソン役をこなそうと必死になるも、己の無力さに打ちひしがれる葉山。一方比留子も葉山を気づかうあまり、犯人を脅して葉山を守らせるなど非常手段ともいえる手を使います。そんな二人の背中を押すように、同じような心情を抱えたキャラクターが登場します。相手を気づかい、遠慮して相手を頼らない姿勢が相手を傷つけることがあります。自分は頼りにならないほど弱いのか、そんな思いが残された者を苦しめることになります。そうした後悔や苦しみを知っているからこそ、彼らは二人にメッセージを伝えます。彼らのお陰で二人の心が少し近づいたように感じました。また、巨人に関する顛末が切なかったです。それまではただ恐ろしいだけの存在でしたが、背景が分かってしまうと何だかかわいそうでした。【ミステリの定石外し!】状況により多少熱量が違うものの、比留子さんは犯人捜しにそれほど積極的ではありませんでした。葉山が探偵さながらに辺りを嗅ぎまわれば、犯人に危険視され狙われる可能性があることを危惧していました。犯人としても巨人を何とかしないと自分も殺されるリスクがある訳で「探偵と犯人の利害はもはや対立していない」可能性があるのです。ですが巨人という脅威に対し協力して立ち向かわなければならない状況で「他に殺人者がいる」などと言えば疑心暗鬼になってしまいます。この状況で犯人を突き止めようとすることは、いたずらに危険を増やすだけだと判断したのです。ミステリでは犯人を捜すことが探偵の至上命題ですが、何が何でも犯人を暴く必要があるのかと、はたと考え直させる展開でした。大半の場合、探偵は事件に巻き込まれたり居合わせたり捜査を依頼された立場であり、犯人からすれば部外者です。刺激さえしなければ共存できてしまうこともあるかもしれません。「犯人は探偵の敵なのか」。印象深い言葉でした。【読ませ方も面白い一作】本作はこれまでのシリーズに比べて、表現の仕方も進化していました。こまめに視点が入れ替わり、さらには物語の核心に迫る「追憶」も盛り込まれています。普通こうした書き方をすると視点がぶれて読みづらくなるのですが、本作ではそんなことはなく、読者に情報を伝えながら物語を盛り上げていました。こうした表現技法も使いこなし、作家としてレベルアップしていく様子を見るのもまた良いものですね。【早くも続きが……】辛くも生き延びることができた葉村と比留子。安堵するのもつかの間、意外な人物が姿を現しました。読んだばかりなのですが、さっそく続きが読みたくなりました。ラスト1行を読むとシリーズファンはそう思うはず、です。【関連作品】【中古】 屍人荘の殺人 /今村昌弘(著者) 【中古】afb1作目屍人荘の殺人です。紹介記事はこちら。【中古】単行本(小説・エッセイ) ≪国内ミステリー≫ 魔眼の匣の殺人 / 今村昌弘 【中古】afb2作目魔眼の匣の殺人です。紹介記事はこちら。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2021.08.15
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死印(しいん)のご紹介です。本作はホラーアドベンチャーゲームを小説化した作品です。死印/エクスペリエンス/雨宮ひとみ【1000円以上送料無料】【あらすじ】主人公の男は、気がつくと見知らぬ洋館の前に立っていました。彼は人の言葉を話す人形メリイに出迎えられます。男の腕には獣に噛まれたような痣「シルシ」が刻まれていました。怪異に遭遇した者はシルシを刻まれ、印人(しるしびと)と呼ばれます。そして印人は少しずつ記憶を壊され、やがて死に至るとのこと。シルシを消すには、それを刻んだ怪異に立ち向かうしかないとメリイは語ります。男は座して死を待つよりはわずかな可能性に賭け、同じく洋館を訪ねて来た印人とともに怪異の調査を始めるのでした。【強制心霊スポット巡り6番勝負!】自分の名前も思い出せない程重症であった男はとりあえず八敷一男(やしき かずお)と名乗ることにしました。「大きな屋敷に心細く立ち竦んでいる一人の男」が由来です。そんな心細い中、他の印人と一緒に怪異に立ち向かいます。花彦くん八敷はオカルト好きな女子高生、渡辺萌(わたなべ もえ)と共に廃校へと赴きます。廃校には花彦くんという幽霊が出るらしく、萌は花彦くんを見ようとしてシルシを刻まれたようです。校内を探索して遭遇した花彦くんとは……決まり手に捻りがあって面白いお話でした。メンバーに萌がいて良かった。森のシミ男八敷は前回の事件で知り合った元刑事、真下と行動することになりました。真下は因縁のある事件を追っていてシルシを刻まれてしまいました。その事件とは、昼なお暗い森の中で宗教団体の人たちが集団自殺したというものでした。以来その森には体にシミのある大男がうろついているというのですが……ホラー映画の殺人鬼さながらに迫るシミ男が怖いお話でしたが、シミ男の最期は少し切ない感じでした。くちゃら花嫁怪異の調査を続ける八敷は、夜中に電話ボックスで話をしているオタク青年と女子小学生に会いました。彼らによるとくちゃら花嫁に訊くとどんな探し物も見つかるとのこと。そう言う二人にもシルシが……心霊系の怪談と都市伝説が合わさったようなテイストのお話でした。ちなみに本作や元になったゲームのパッケージがこのくちゃら花嫁なのですが、これがまた怖い。怖くて本作を手に取るのが遅れたくらいです(笑)。本編を読んで分かったのですが、なるほどだからそんなに背が高いんですね(怖)。電話ボックスの灯りに寄って来た虫まで描かれているのが細かいですね。ずう先生八敷は「マンホール通り」と呼ばれる場所の調査を始めました。そこはずさんな都市計画のせいで一面マンホールだらけになっているのですが、最近そこに気味の悪い女が出るとのこと。そこで出会った人物とは……この話は次につながるステップのようなポジションで、割とあっさりしていました。まさかの不戦勝だし。観音兵新たな情報を掴んだ八敷は再びマンホール通りを訪れ、地下へと赴きました。そこに潜む因縁と怪異、そして繋がっていく点と線……物語も終盤へと向かって行くのでした。終章全てを悟った八敷は洋館に戻って来ました。そしてついに怪異の黒幕と対峙します。はたして八敷は死のシルシから逃れることができるのか。個人的にはこの終わり方好きです。憎い敵をやっつけて終わりではなく、どこか気持ちを残している所がいいですね。【奥の深い恐怖の裾野】※若干ネタバレあり。本作の時代設定は、5年前の事件が「199×年」となっていることから、おおむね2000年前後ということになります。平成10年前後ということになりますが、全編に漂う昭和臭が凄い。学校にそんな秘密の部屋が作れるのだろうかとか、地方議員ってそんなに無敵なのかとか、あのミュージシャンは自分で埋まったのかしらとか、色々気になる部分がありました。ですが細かい所を突っつくのは野暮というもの。細かい設定の整合性を問うよりも、むしろそうしたうさん臭さもスパイスになってしまうのもホラーの魅力なのかなあと思いました。【おまけ】実は吾輩、元になったゲームは知りませんでした。著者の雨宮ひとみさんが自身のTwitterで紹介していたのがきっかけでした。ずっと気になっていたのですが、表紙むっちゃ怖いと思って手が出ず今日に至りました。雨宮さんの作品を読むのは二冊目です。文章が非常にあっさりしていて読みやすく、内容がスルスルと頭に入ってくるのが良いですね。割とグロいシーンも淡々と描いてあって、かえって不気味さが増しているように感じました。以前読んだ「ハッピーシンセサイザ」は夢を追う女子高生の奮闘記でしたが、本作「死印」はまた違った味わいがありました。幅広い作風を持っている所がさすがプロの脚本家ですね。【中古】ハッピーシンセサイザ / EasyPopハッピーシンセサイザです。紹介記事はこちら。死印/エクスペリエンス/雨宮ひとみ【1000円以上送料無料】新品はこちら。【中古】ライトノベル(その他) 死印 【中古】afb中古はこちら。【中古】死印ソフト:ニンテンドーSwitchソフト/アドベンチャー・ゲームゲーム版が気になった方はこちらもどうぞ。ニンテンドースイッチ版です。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2021.08.01
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アリバイ崩し承りますを読みました。浜辺美波さん主演でドラマにもなりましたね。【中古】アリバイ崩し承ります (実業之日本社文庫)【あらすじ】新米刑事の「僕」は人事異動で引っ越して来ました。休日に近所の商店街をぶらついていると、美谷時計店という店を見つけます。ごく普通の個人の時計屋なのですが、店内に「アリバイ崩し承ります」との張り紙がしてあります。店主の時乃はまだ20代半ばですが、祖父から時計修理とアリバイ崩しの技術を学んだのだそうです。アリバイがあると主張する人は、何時何分、自分はどこそこにいたと主張します。つまり時計が根拠になっているため、時計屋こそアリバイの問題を最もよく扱える、というのが時乃の弁です。その理屈に首を傾げながらも、つい「僕」は難航している捜査のアリバイ崩しを依頼してしまうのでした。【収録作品】時計屋探偵とストーカーのアリバイ被害者は研究室の教授をしている女性です。マンションの自室で背後から刺されて亡くなっていました。容疑者は元夫。ギャンブル癖が原因で離婚したのですが、その後も金の無心に来たりとストーカー行為をしていました。ですが胃の内容物などから割り出された死亡推定時刻、夫は居酒屋で友人と飲んでいることが証明されています。夫のアリバイを崩すことはできるのでしょうか。このトリックは度胸が据わってないとできなそうだけど、なるほどなあと思いました。時計屋探偵と凶器のアリバイ郵便ポストの中から拳銃が発見されました。折しも暴力団どうしの抗争が激化していて、県警は色めき立ちました。ですがそれらしい騒ぎは報告されていませんでした。翌日一般人の射殺体が発見され、ポストから押収された拳銃が凶器であると断定されました。死亡推定時刻が午後2~4時で拳銃発見が3時なので、死亡したのは2~3時の間となります。容疑者は3時以降のアリバイは無いものの、2~3時はアリバイがありました。すでに凶器が発見されている状態での犯行は不可能ですが、そのアリバイをどう崩すのでしょうか。このトリックはかなり几帳面にやらないとキツイですね。吾輩はできなそう(笑)。時計屋探偵と死者のアリバイ「僕」は夕食後に散歩していた所、交通事故の現場に遭遇します。はねられた男を助け起こすと「さっき、人を殺した」と告白し、息絶えます。その言葉どおり、マンションで死体が発見されました。容疑者が罪を告白しており、死体もある。捜査は裏付け作業で終わると思われました。死亡推定時刻は午後7時30分~8時。容疑者は7時20分に宅配便を受け取っていました。そこから殺害現場まで車で20分。被害者を殺害してから戻るとギリギリ時間が足りない。容疑者が罪を白状しているにもかかわらず、アリバイが成立してしまっています。アリバイは故意なのか偶然なのか?時計屋探偵と失われたアリバイ今回はアリバイ探しのお話です。ピアノ講師の女性がレッスン室にしているマンションの自室で殺害されました。妹が容疑者として疑われたのですが「僕」はどうしても彼女が犯人だとは思えませんでした。こうして「僕」は捜査方針に反して美谷時計店のドアをくぐるのでした。時計屋探偵とお祖父さんのアリバイ時乃が小学生の時のお話。祖父の誕生日にプレゼントをしたところ、お礼にアリバイ崩しの問題を出すとのことでした。時乃はお祖父さんのアリバイを崩すことはできるのでしょうか?この話は誰も死なないし、ミステリーとしてはとても優しいお話ですね。ですがトリックもきちんとしている所が良いです。時計屋探偵と山荘のアリバイ「僕」は休暇で山荘を訪れました。そこで警察官志望の少年と出会い、親近感を覚えます。ですが山荘で殺人事件が発生し、アリバイが無いのは少年だけでした。少年の無実を証明するべく「僕」は美谷時計店へと駆け付けるのでした。直球ミステリーといった風情で読み応えがありました。それにしても全速力で美谷時計店へと現れた「僕」の真剣さが伝わってくる出だしでしたが、電話すればいいんじゃないかなあ。時乃は話を聴いて推理するタイプだから現場に行かなくても大丈夫だし……時計屋探偵とダウンロードのアリバイ警察に死体を発見したと電話が入りました。そこは会社を経営している男性の自宅で、100坪にもわたる敷地は手入れが行き届いておらず「お化け屋敷」とあだ名がついていました。男性の死後、財産を相続した姉が業者を入れて家の整備をしました。すると庭の一角から白骨死体が発見されました。持ち物などから死体は死亡した男性の会社の社員で、13年前会社の金を使い込んで失踪していたと思われていました。容疑者は白骨死体の男性の息子で、真実を知ってしまい復讐したのではないかと考えられました。死亡した日時、容疑者は友人といっしょにゲームをしていたとのことです。男性が死亡してから姉が遺産を相続し、業者が入って白骨が見つかるまで数カ月経っています。誰も事件当日のことをはっきり覚えているはずはありません。アリバイがあるような無いような状況で、容疑者はちょうどその日限定で配信された楽曲をダウンロードして友人に聴かせたことが日記に書いてありました。思いがけずアリバイが成立しているのか、それとも何かのトリックなのでしょうか?本作はトリックのアイデア集のような趣があります。登場人物の人となりやドラマは極力そぎ落とし、アリバイ崩しに注力しています。「僕」の名前すら出ていないし。物語性を求める方には物足りないと思いますが、ミステリーとしては十分に楽しめる作りになっています。アリバイ崩し承ります/大山誠一郎【合計3000円以上で送料無料】新品はこちら。【中古】アリバイ崩し承ります (実業之日本社文庫)中古はこちら。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2020.12.06
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首挽村の殺人を読みました。【中古】首挽村の殺人 / 大村友貴美【あらすじ】岩手県の雪深い村、鷲尻村(わしじりむら)。医師不在のこの村に、東京から滝本志門(たきもと しもん)という医師がやって来ました。村人が喜んだのもつかの間、村で立て続けに変死事件が起こります。しかも村に伝わる伝承にそって遺体を人目に触れさせるという異様さに、村人たちは恐れおののきました。さらに赤熊と呼ばれる巨大な人食い熊まで現れます。はたして一連の事件は何者の仕業なのか?【現代に甦った横溝正史の世界】不気味な連続殺人に人食い熊。そしてたどり着いた真相は…… え? こ、これだけ?これが正直な感想でした。なんか、こんな理由で殺されては浮かばれないなという感じでした。また、それだけのためにあれほどリスクのある死体の晒し方をするものかなと思いました。そしてキャラクターの印象がとても薄くて感情移入できないどころか、今しゃべってるの誰なんだろうという感じでした。さらには時系列が若干前後したりするので、ちょっと状況がつかみづらい印象を受けました。申し訳ないけど、赤熊のエピソード必要なのかなと思ってしまいました。それよりも人物描写とかに紙面を割いた方がいいような気もしました。ちなみに一番印象深かった人物は鶴雄というマタギのシカリ(頭目)でした。とはいえ、21世紀の横溝正史という謳い文句は的を得ていると思います。吾輩金田一耕助シリーズはけっこう読んだことがありますが、その時に感じた空気感とよく似ていました。思えば金田一シリーズもそれほど人物描写に力を入れていなかったように感じます。八つ墓村を読んだ時も金田一以外はほとんど人物像が浮かんできませんでしたし。そういった意味では十分に横溝正史的な作品であると言えるでしょう。また、状況描写が重厚でした。雪深い寒村の重苦しい感じなどは、頭の中で映像が思い浮かぶほどでした。山奥の村というと喧騒とは無縁でのどかな印象を抱くと思います。ですが本作ではこれといった産業もなく、存続自体が危うくなっている村の現実を生々しく描いています。さらには閉鎖された「ムラ社会」独特のいやらしさなどもよくえぐり取っていると思います。本作はミステリー作品として読むと物足りなく感じるかもしれません。濃密な状況描写や村が抱える問題なども併せて読んでみると味わいのある作品だと思います。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2020.07.12
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怪物の木こりを読みました。【中古】 怪物の木こり /倉井眉介(著者) 【中古】afb【あらすじ】弁護士の二宮彰は、邪魔な人間を何人も殺してきたサイコパスです。ある日二宮は、怪物のマスクをかぶり斧を持った怪人に襲われました。間一髪命拾いした二宮は、自分の手で怪物マスクを殺すべく調査を開始するのでした。傷が治るにつれて、二宮は「人間らしい」感情に目覚めていきます。そして検査の際、脳にチップが埋め込まれていることが分かります。二宮自身も知らなかった脳チップ。彼がサイコパスであることに関係があるのでしょうか。その頃、被害者の頭を斧でたたき割り脳を持ち去るという猟奇殺人が連続して起こっていました。「脳泥棒」と呼ばれ世間を震え上がらせた殺人鬼。そして全ては26年前の「静岡児童連続誘拐殺人事件」へとつながっていたのです。【個性が魅力の一作!】本作はサイコパスvs殺人鬼というぶっとんだ設定が目を引きます。ですが本作の魅力はそれだけではなく、読者への情報提供が上手だったと思います。作中では二宮と警察の視点が交互に描かれています。双方とも着眼点や持っている情報が違うのですが、それぞれの目線を描くことで読者にうまく情報が伝わっていると思います。視点が頻繁に入れ替わると読みづらくなるものですが、きちんと見出しを付けて登場する人物もすっぱり変えることで分かりやすくなっていました。本作が作者さんのデビュー作だそうです。それゆえに文章などは荒削りな印象を受けます。ですがそうした技術うんぬんに囚われない「読ませる」勢いのある作品でした。続きもできそうな終わり方だったので、続編があったら面白いだろうなと思いました。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2020.06.14
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しねるくすりのご紹介です。しねるくすり/平沼正樹【1000円以上送料無料】【あらすじ】10年の浪人を経て薬科大に入学した数納薫(すのう かおる)。周囲と年代も離れていて親しい人もいない彼ですが、ただ一人芹澤ノエルという友人がいました。芹澤は12年浪人して入学したのですが、それを気にした様子もなく学生生活を謳歌しています。性格の違う二人はなぜか気が合い信頼関係を築いていました。ですが芹澤が自殺したことにより、突然の別れが訪れました。後に薫は、芹澤が遺した薬の存在を知ります。それは痛みも苦しみもなく、確実に死ねる薬でした。ちょうどその頃SNS上では、楽に死ぬことができる薬があるという噂が広がっていました。続く死と芹澤の薬は関係があるのでしょうか?【あたりまえの価値観に投じる一石】個人的には感情移入できるキャラクターが見事にいなかったので、物語的には好みではありませんでした。ですが生と死について、一般に流布している価値観とは少し違った切り口を描いていると思いました。多くの人にとって死は恐ろしいもので、少しでも長く生きていたいと考えていると思います。しかし、作中には生きることに疲れ果ててしまった人たちが登場します。幼い時に両親を失い、その後も苦労しながら生きて来て、やっと幸せをつかんだと思ったらまた大切な人を失った女性。高い地位に就いたりお金持ちになれば劣等感を克服できると信じて努力したけれど、それらを手に入れても結局大して状況が変わらないと気づいてしまった人。彼らの絶望たるやいかばかりでしょうか。そうした人たちにとっては、周囲の優しさや温かい言葉すら苦痛なのです。薬であっても傷口に塗れば痛いように。もはや生きることに疲れ、死という休息を欲する彼らに対して「死ぬなんてよくない」「生きていればきっといいことがある」といった言葉は何の説得力も持たないように思います。彼らにとって死ねる薬こそ救いをもたらしたのです。一方で死ねる薬は「副作用」がありました。薬を手にすることで「いつでも死ねると思ったら、生きるのが楽になった」という人も出て来ました。人はいつでもできると思ったものは案外後回しにしてしまうことがあると思います。本来コントロールが困難な死期を自分で決めることができたのなら、そこには「いつでもできる」というある種の余裕を生まれるように感じました。皮肉なことに、死ねる薬によって生きる希望を見つけることもあるのです。通常死は忌むべきもの、遠ざけるべきものという認識が一般的であると思います。我々があたりまえと思って特に考えることもしないテーマを考え直すきっかけになる作品でした。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2020.05.17
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流人道中記 下 のご紹介です。流人道中記 下 / 浅田次郎 アサダジロウ 【本】【あらすじ】罪人・青山玄蕃とその押送人・石川乙次郎。二人の旅も終わりに近づいて来ました。その道中ではやはり事情を抱えた人たちと出会います。そんな人たちを救おうとする玄蕃の姿を見て、乙次郎の疑問は膨らんでいきます。この男は本当に罪人なのか?やがて明らかになる玄蕃の罪の真実。乙次郎はそれまで信じて来た武士としての価値観を大きく揺さぶられることになります。【賢者とは疑う者】旅が終わりに近づくにつれて、一層深い事情のある人々が出て来ます。親の仇討ちを探す男、無実の罪を着せられた少年、病を抱え故郷に帰ろうとする女……個人的には仇討ちを探す男が印象深かったです。武士は当時、刃傷沙汰で親を殺された場合仇討ちをする習わしになっていたそうです。とは言っても電気も車も無い時代です。一生かかっても仇が見つからないことが普通だったようです。なので仇討ちは跡取りでない次男や三男が請け負っていました。この辺りに武士という存在の暗部を感じました。作中でも述べられていましたが、戦いの時代が終わった時点で武士の役割は終わっていたのだと思います。その後約300年に渡って続いた武士は、体裁と建前に凝り固まった無様な残骸となっていたように感じます。そうした中で負わされた罪に抗わずに道を行く玄蕃には、どこかキリストのような雰囲気を感じると言ったら言い過ぎでしょうか。連載終了後、作者の浅田次郎さんのコメントが新聞に載っていました。賢者というのは、あまりにも当たり前になっているものに対しても疑問を投げかける者だと述べていました。この物語自体は人々に営みの中で起こった一つのできごとに過ぎず、歴史にも残らないものです。しかし玄蕃という存在が何人かの人を救い、武士というものに疑問すら抱かなかった乙次郎の心に疑問を投げかけました。皮肉なことにこの物語から7年後、黒船が来航し日本の価値観そのものを大きく揺さぶることになります。その時玄蕃は、乙次郎は何を思うのか?それはまた別の物語であるとして、浅田さんは今のところ描く予定はないそうです。ですが、そうした物語の先に思いをはせてみるのもまたおもしろいのではないでしょうか。◆◆流人道中記 上 / 浅田次郎/著 / 中央公論新社上巻の紹介記事はこちら。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2020.03.22
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流人道中記 上 のご紹介です。本作は新聞の連載小説で、吾輩も読んでいました。流人道中記 上/浅田次郎【合計3000円以上で送料無料】【あらすじ】見習い与力の石川乙次郎は融通が利かない所があるものの、真面目な青年です。乙次郎は蝦夷へ流罪となった男の押送人に選ばれました。男の名は青山玄蕃。大きな旗本でしたが、姦通の罪を犯しました。切腹を申し付けられましたが、一言「痛てえからいやだ」と突っぱね、流罪となりました。乙次郎は口が悪く飄々とした玄蕃に反発を覚えます。ですが道中で出会う様々な事情を抱えた人たちは、玄蕃の世慣れた優しさに救われていきます。その様子を目の当たりにした乙次郎は、玄蕃の罪に疑問を抱きます。果たして玄蕃は本当に罪人なのでしょうか。【当時の生活が感じられる作品】本作はいわゆる股旅ものという作品でしょうか。蝦夷への道すがら、二人は色々な事情を抱えた人たちと出会います。彼らの様子から、当時の情勢を感じることができました。江戸時代は戦乱のない太平の時代でしたが、平民たちの生活は楽なものではありませんでした。生活には余裕はなく、疫病や飢饉も頻繁にありました。作中で描かれているような困難に追い込まれた人がたくさんいたのだろうと思います。そうした救いようのない状態の人たちをリアリティを持って描きつつも、どこか救いのある展開が印象深い作品です。◆◆流人道中記 下 / 浅田次郎/著 / 中央公論新社下巻の記事はこちら。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2020.03.15
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小説のぞきめを読みました。のぞきめ (角川ホラー文庫) [ 三津田信三 ]【あらすじ】元編集者で現在は作家をしている「僕(三津田さん?)」。怪談好きであった彼の所へ二つの話が集まって来ました。時代こそ違うものの、その二つは同じ怪異を示しているように思えてなりませんでした。そこから浮かび上がる仮説とは……【覗き屋敷の怪】戸倉成留(とくら しげる)は大学の夏休みに、とある地方のリゾート地でアルバイトをしました。仕事にも慣れて余裕が出て来た頃、他のアルバイトたちと一緒に近くの山道を散策することにしました。すると、散策コースに載っていない山道を発見します。管理人からはコース以外の道には行かないようにと言われていたものの、好奇心から山道を進んで行きました。やがて薄気味の悪い廃村にたどり着いた一行は不気味な視線を感じ、逃げ帰ります。戻ってからも、常に何かから見られているような感覚がつきまとうようになってしまいました。その上山道に入ったと知れた途端、追い出されるようにバイトをクビにされる始末。家に帰ってからもなお視線は覗いて来ます。いったいあれは何だったのか……【終い屋敷の凶】在野の民俗学者四十澤想一(あいざわ そういち)が昭和初期に体験した話。当時学生だった彼は内向的で友人がほとんどいませんでしたが、たった一人鞘落惣一(さやおとし そういち)とは親友でした。お互い内向的な性格な上に難しい苗字、名前の発音が同じことに親近感を感じていました。ある日鞘落は自分の生家にまつわる忌まわしい因縁について語ります。それから程なくして、彼は転落死してしまいます。四十澤は深く悲しむとともに、鞘落家の因縁について深い興味を感じます。彼は弔いのため鞘落家を訪れます。村全体を覆う不気味な雰囲気と疎外感の中、四十澤は物陰から覗く女の子を発見します。鞘落家の怪異は四十澤の前にも姿を現したのか……【戦慄のTKG(たぶんこうだったんじゃないか劇場)】本作は「僕」が二つの怪異譚を手に入れる序章、二つの話、そして終章という構成になっています。終章は二つの怪異譚から導き出される真相を「僕」が推理するという内容になっています。この終章がまたおもしろかったです。怪談好きは理由を「霊のしわざだよね~」と言ってそれ以上深く考えないことが多いように思います。「僕」はミステリー作家だけに、怪異は怪異として認めつつも合理的な結論について考えます。そして導き出された「真相のようなもの」。今となっては確かめる術はありませんが、各パーツがぴたりとあてはまってしまうのが不気味です。もしこの仮定が本当だとしたら、これは相当忌まわしい話だということになります。なぜ四十澤は「僕」に怪異譚を託したのでしょうか。世に出さず、自分の人生と共にひっそりと眠らせることもできたはずです。そうしなかった理由も憶測の域を出ませんが、これもまた禍々しい話だと思います。個人的には共感できてしまうのですが、ね。三津田さんはホラーとミステリーの融合をテーマとした作品を多く執筆しているそうです。心霊現象がおきつつも論理的な結論を導き出そうとするスタンスが面白いですね。一方で霊的なものには霊的なものなりの理屈があると、割り切れない部分については「それはそれ」とする柔軟さがまた味わい深いです。ホラーとミステリー両方を楽しめ、どちらかに偏りすぎない良作であると思います。皆さんも読む時はどこからか視線がしないか注意してください。子どもでも入れない程狭い所から視線を感じる時は特に……よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2020.02.02
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わが殿 下のご紹介です。見事に藩の財政を建て直した七郎右衛門。ですが借金よりもさらに手ごわい敵と運命が待ち構えていたのでした。◆◆わが殿 下 / 畠中恵/著 / 文藝春秋【あらすじ】大野藩の財政再建に挑む七郎右衛門。一か八かの銅山発掘に成功し、藩の特産品を売り込む商いも軌道に乗り、財政は息を吹き返しました。藩主である利忠は先を見据え、藩校開設や大型船の造船などに乗り出します。その都度金策に奔走しつつも、七郎右衛門は利忠の期待に応え続けました。しかし身分の低い七郎右衛門が利忠の信頼を集めることを快く思わない者たちが出始めました。さらに利忠は旧態依然とした慣例や利権をバッサリと切り捨て、大幅なコストカットにも着手しました。これによって利益を失った者たちの恨みは、改革を推し進める七郎右衛門たちに向けられることになってしまいます。不穏な空気が流れる中、黒船来航により日本は大きな選択を迫られることとなりました。時代の転換点を七郎右衛門は、利忠はどう生きるのでしょうか。【改革を進める知恵と勇気】政治については、中々進まない改革に現代もやきもきすることが多いと思います。本作を読んで、改革を進めることの大変さを感じました。どんな制度でも、それによって得をしている人がいます。制度を変えようとすれば、そうした人たちの反発が必ず起こります。今にしがみつき、変わるべき時になっても変わることを拒む者たち。ガンダムで言うところの重力に魂を引かれた人たちです。残念なことにこうした人たちは現制度に巧みに適応し、力なり発言権を持っています。時には力ずくでも改革をやめさせようとする人たちと渡り合うのは、それこそ命がけだと思います。実際七郎右衛門も危ない目に遭いながらも改革をしていきました。利忠公も黙って見ていたわけではなく「お前はわしが守る」と宣言します。その言葉どおり七郎右衛門を守ってみせるのですが、これがまた粋な感じでした。このシーンは水戸黄門の印籠シーンのような爽快感がありました。本作は実在した人物をモデルにした小説なのだそうです。困難に立ち向かい、改革を成し遂げた人が実際にいたということにロマンを感じますね。紹介文にある「昨日までの当たり前は、いつの間にか去っていたのだ」という言葉とともに、変化の多いこの世界を生きるヒントになる作品だと思います。わが殿 上/畠中恵【合計3000円以上で送料無料】上巻です。紹介記事はこちら。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2019.12.08
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小説わが殿のご紹介です。本作は新聞小説で、吾輩も毎朝読んでおりました。わが殿 上/畠中恵【合計3000円以上で送料無料】【あらすじ】内山七郎右衛門良休は大野藩に仕える武士です。武芸は人並みですが、利発で頭の回転の速い人物です。他の武士がバカにする帳簿つけ・財務を担当し、今日も今日とてそろばんを弾いていました。ある日七郎右衛門は藩主である土井利忠に呼び出されます。利忠は七郎右衛門が「織田信長のようだ」と評するような、行動力と決断力に優れた藩主でした。利忠は藩の財政再建を七郎右衛門に命じました。幕末期、ほとんどの大名は財政難に喘いでいました。大野藩も例外ではなく、足りない資金を借金で補い、利息を返すためにまた借金をするという始末。財政が行き詰まるのは目に見えています。わずか80石の下級武士である七郎右衛門に藩の財政再建を任せる。そんなムチャぶりに応えるべく、七郎右衛門の奔走が始まるのでした。【もう一つの合戦】舞台は幕末であるため、刀や弓矢を使った合戦は無い時代です。ですが命がけで事に当たるという点では、七郎右衛門の財政再建もまた合戦だと言えるでしょう。一か八かの銅山発掘や百戦錬磨の商人たちとの駆け引きなど、まさに命を賭けた戦いが繰り広げられます。直接戦う武将が注目されがちですが、文官の戦いと矜持を感じさせる作品でした。わが殿 下[本/雑誌] / 畠中恵/著下巻です。紹介記事はこちら。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2019.12.01
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怪談のテープ起こしを読みました。怪談のテープ起こし / 三津田信三 ミツダシンゾウ 【本】【あらすじ】作家である三津田信三は、編集者の時任美南海と新しい小説の打ち合わせをしていました。三津田は作家になる前に編集者をしており、実話系の怪談を取材していました。その時に体験者の話をカセットやMDに録音して保管していました。時任は自分がそのカセットやMDを聞いて、ネタになりそうな話を探してみると提案してきます。こうして本書に収録されている作品のいくつかは完成するのですが、やがて時任は妙な体験をするようになります。【収録作品紹介】死人のテープ起こし三津田の編集者時代の話です。彼は国内の自殺の名所を取材していた時、フリーライターの吉柳を紹介されました。吉柳は自殺者が死ぬ前に肉声吹き込んだテープを持っているとのことでした。しばらくしてから、三津田の所へテープを起こした原稿が3つ送られてきます。サンプルを読んでから吉柳に連絡をするものの、音信不通になってしまいます。そんな中、三津田の元へ吉柳から1本のテープが届くのですが……留守番の夜大学生の霜月麻衣子は、大学の文芸部のOGから割のいいバイトを紹介されます。それはある家で一晩留守番をすればいいというものでした。留守番をする豪邸は夫婦と伯母の三人で暮らしで、夫婦は出かけるけど伯母には関わらなくていいとのことでした。しかし妻から、実は伯母はすでに亡くなっていると伝えられます。気持ち悪さを感じながらも留守番を始めた麻衣子。すると、妙な物音がしてきました。3階にいるという伯母が物音を立てているのか、でももし伯母が亡くなっているとしたらあの物音は……集まった四人奥山という青年は、先輩の企画したハイキングに参加しました。参加者は先輩の知り合いではあるものの、お互いには面識がないという関係でした。いざ当日になって先輩が参加できなくなり、知らない者同士四人でハイキングをすることになりました。面識のない者同士が集まって何かをする。ミステリー風味な怪談でした。屍と寝るな三津田は同窓会でKというクラスメートと再会しました。Kは、彼女の母親の入院中に同室となった奇妙な老人の話をし始めました。言葉遊びのような要素もある、奇妙な話でした。黄雨女とある占い師の女性が大学生の時に付き合っていた彼氏の体験談です。ある日彼氏が変な女に会ったと言います。その女は雨も降っていないのにレインコートを着て長靴を履いて傘をさしています。そして身に着けている物が全て黄色なのだそうです。二人は、黄色ずくめのその女を黄雨女(きうめ)と呼ぶことにしました。その後川沿いでしか見かけなかった黄雨女をあちこちで見かけるようになってしまいます。都市伝説のような気味悪さのあるお話でした。すれちがうもの藤崎夕菜という女性の話です。夕菜はマンションの部屋から出ようとした時、一輪の花がさしてあるガラス瓶を見つけました。死亡事故の現場に手向けられた花を連想してしまいましたが、特に気にすることなく会社へ向かいました。それからというもの、夕菜は通勤途中に黒い人影を見るようになってしまいます。みなだいたい同じ時間に毎日出勤していると思います。するとすれちがう人たちも結構同じ顔触れになることが多いでしょう。そうしたいつもの光景に滑り込んでくる怪異がまた不気味ですね。自殺者の声をテープを起こすという設定が興味深くて読んでみました。短編集だったので、それ以外の話もたくさん入っていてちょっと予想外でした。結末がはっきりしない考え落ちみたいな話が多かったので、少しすっきりしない感じもしました。まあ怪談ってそういうものだよねと思えば気にならないかもしれません。また、各話の間に「幕間」という話が入っています。作者と編集者の時任に起こったできごとの顛末が語られています。果たしてこれは実話なのかフィクションなのか。そうした境界線の曖昧な感じが、読み終わった後もなお作品の世界を引きずっているような気味の悪さを感じさせました。話は霊的なものやサスペンス的なもの、都市伝説風なものまでバラエティ豊かでした。色々なタイプの怪談を楽しめる一冊でした。怪談のテープ起こし / 三津田信三 ミツダシンゾウ 【本】新品はこちら。USED【送料無料】怪談のテープ起こし [Tankobon Hardcover] 三津田 信三中古はこちら。怪談のテープ起こし/三津田信三文庫版はこちら。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2019.08.11
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などらきの首を読みました。比嘉姉妹シリーズ初の短編集です。などらきの首/澤村伊智【全話紹介】ゴカイノカイ「私」はいくつかのビルのオーナーをしています。その中の1つに問題がありました。悪くない物件なのですが、5階だけは入居者が長持ちしません。そして皆「痛い、痛い」という子どもの声が聞こえ、やがて自分まで痛みを感じるというのです。困った「私」は部下から紹介された「鎮め屋」に事態収拾を頼むことにしたのでした。このお話は怪奇譚でもあるのですが、今の自分を変えたいとあがいている人たちの話でもあります。少し爽やかな後味でほっとしています。ぼぎわんやずうのめ人形といった強豪には歯が立たなかった真琴ですが、今回はビシっと事件を解決しています。彼女がいいマンションに住んでるのはこういういきさつなんだなーと思いました。学校は死の匂い市立三ツ角小学校には、雨の日だけ体育館に幽霊が出るという話があります。霊感のある少女美晴は偽物の霊現象にうんざりしている所だったのですが、今回は本物だと確信し調査を始めます。琴子の妹であり真琴の姉、美晴の物語です。彼女は随分と早熟であったように思います。読んだ時は中学生かと思ったほどでした。そんな彼女だからクラスメートはみんなガキに見えるし、先生の言うきれいごとにヘドが出るのでしょう。そうした常にフラストレーションが溜まる状況なので、あれほど攻撃的なのかなと思いました。本人も辛いだろうけど周りも迷惑だろうなあ。吾輩は学校で謳っているいるような団結だとか、みんなで仲良くみたいなのは嫌いです。生きて行くには他人と協力していく必要はあると思いますが、それをするにはマナーを身に着ければいいのであって、群れる必要はないと思うのです。そればかりか少人数や独りでいることを好む人を弾劾し始める始末。多様な価値観を受け入れるんだろ、団体行動したくないヤツのことも尊重しなよォ~と思います。不謹慎かもしれませんが、この話の結末は少し溜飲が下がる思いでした。居酒屋脳髄談義居酒屋で飲んでいるサラリーマンの3人組。今日も後輩の女子社員を無理やり誘ってパワハラ・セクハラでうっぷんを晴らしています。しかし、今回は女子社員の様子が違いました。落ち着きを払っていて堂々としているし、巧みに彼らを論破していきます。ひねりの利いた小気味よい話でした。悲鳴大学のサークルでホラー映画を撮ることになったメンバー。以前在学していた生徒が殺されたという場所で撮影をすることになったのですが……やっぱりアイツはどす黒い精神の持ち主でしたね。ファインダーの向こうにずうのめ人形電子書籍版の特典だったそうです。ずうのめ人形で登場した編集者周防と、オカルトライター野崎が主人公です。傲岸不遜な態度が災いして現在落ち目の元巨匠カメラマンと共に、心霊スポットの写真撮影に訪れた一行。撮影中、急に驚いた声を上げたカメラマン。彼は一体何を見たのでしょうか。他の作品がウソのように爽やかな後味の話です。個人的には戸波編集長のノリが好きなのですが。などらきの首表題作ですね。高校生時代の野崎と、その友人寺西の話です。寺西は子どものころ、長期休みの時は祖父母の家で過ごしていました。その近くには洞窟があり、大人たちからは行ってはいけないと言われていました。意地の悪いいとこに付き合わされてその洞窟に行った時、奇妙な物を発見しました。長く伸びた石筍(せきじゅん)に突き刺さったミイラのような生首と、石筍に張ったしめ縄でした。その昔この地域で退治された鬼の首と言われていて、しかも鬼はいまだに首を探してさまよっているらしいのです。ある年いとこと再び洞窟を訪れた時、その首が跡形もなく無くなっていました。恐怖のあまり逃げ帰った所までは覚えているのですが、以降その記憶に怯える日々。高校で知り合った野崎がその謎を解いてやると言い出し、寺西は久しぶりに祖父母の家に帰って来たのでした。今より少し若い野崎が主人公です。ホラーでもありミステリー要素もあり、作者さんの持ち味をよく出している話だと思いました。本作は全話に今までの作品に関係する人物が登場します。初の短編集というだけではなく、今までのファンサービスにあふれた一冊だと思います。本作から読んでも楽しめますが、ぜひ今までのシリーズを読んでから手に取ることをお勧めします。【関連作品】ぼぎわんが、来る / 澤村伊智 【本】シリーズ1作目「ぼぎわんが、来る」です。紹介記事はこちら。◆◆ずうのめ人形 / 澤村伊智/著 / KADOKAWA2作目「ずうのめ人形」です。紹介記事はこちら。ししりばの家[本/雑誌] / 澤村伊智/著3作目「ししりばの家」です。紹介記事はこちら。などらきの首/澤村伊智よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2019.06.09
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ししりばの家を読みました。ししりばの家 / 澤村伊智 【本】【あらすじ】笠倉果歩(かさくら かほ)は夫勇大(ゆうだい)の転勤に伴って東京にやって来ました。決して体が丈夫ではない果歩を気づかった勇大は、自分が稼ぐと意気込んでいます。一方の果歩は慣れない東京で主婦生活。知り合いもおらず、勇大は仕事でほとんど家にはいない。果歩は満たされない日々に悶々としていました。そんなある日、果歩は幼馴染の平岩敏明(ひらいわ としあき)と偶然再会します。彼の家で平岩の妻や祖母と交流し、果歩は心が癒されていきました。ですが平岩家はどこか異様でした。家のそこかしこに砂が積もっているのです。外から吹き込んだというレベルではなく、小山のように積もっている所すらあります。そして平岩家の人々はそんな状況を少しもおかしいと思っていないのです。おかしいのはこの家か? それとも果歩なのか……【交錯する物語】何かがおかしい平岩家をじっと観察している青年がいました。彼の名は五十嵐。彼が小学生だった20年ほど前、現在の平岩家には橋口というクラスメートの一家が住んでいました。橋口の家に遊びに行った時に変な音を聞き、この家は「出る」と思っていました。その後都合で橋口家が引っ越し、その家は長らく空き家になっていました。五十嵐は友達と4人でその家に肝試しに行き、怪異に遭遇します。何とか逃げ帰ることができたものの、それ以来彼の頭の中ではざりざりと砂がすれるような音が続いていました。おかげで仕事も長続きせず、目下ひきこもり生活。そんな彼の元に、一人の女性が訪問して来ます。彼女は比嘉琴子(ひが ことこ)。一緒に肝試しへ行った元クラスメートでした。当時はおとなしくてオドオドした少女でしたが、あの一件を境にどこか達観したような、冷静というよりも無機質な印象を与えるようになりました。突然訪れた彼女は「五十嵐君の頭の音を止めたい」と言い出します。彼女は何を知っているのか、あの家の怪異と関係があるのでしょうか。【ホラーのお約束と死亡フラグ】※ネタバレあり平岩家の怪異について、果歩は勇大に相談します。そして、やはりあの家には近づかない方がいいという結論になりました。しかし平岩家で結婚指輪を落としたことに気づいた果歩は、再び平岩家を訪れます。待て、はやまるな! ホラーだとそれはロクなことにならないぞ! 勇大だって行かない方がいいって言ってるじゃないか!読後吾輩の口から出た言葉は「それみたことか……」。軽率な行動は本人だけでなく、各方面に迷惑がかかるんだなあ。ホラーでは特に。そして勇大にも大きなミスが。指輪捜索中の果歩に、平岩家のさらにやばい情報を電話してきます。某即席めんのCMなら「それ今じゃなきゃダメ?」という感じです。この状況でその追加情報まずいでしょ。さらに妻が心配なのはわかるけど、ヤバみ満載の家に一人で助けに行っちゃだめだよ。それみたことか……そこはまず警察に一報してからの方が良いと思います。一つ分からなかったのが、おばあちゃんのことを知ってしまった果歩が気を失ってしまうシーンです。あの時なぜ果歩は殺されなかったのでしょうか。家人が招いたとはいえもう侵入者であったわけだから、気を失ってる間に殺されてもおかしくなかったように思います。その後しっかり殺されそうになってるしなあ……【他人の家という異界】※ネタバレあり各家庭には、その家ならではの習慣があると思います。よその家に遊びに行くとそのギャップにしばしばとまどい、ひょっとしておかしいのは自分なのかなと錯覚してしまうこともあるでしょう。本作ではそんな身近で起こりうる違和感をクローズアップしたホラーであると思います。またししりばという存在について、作中の霊的なホームセキュリティーという例えがとても分かりやすかったです。家と家族を守ることだけが目的で、その内訳や外部との軋轢はお構いなし。家族に欠員が出ると他所から連れてくるように仕向けます。人の心を操ることができるので、家族愛や夫婦愛をいくらでも作り、赤の他人でも家族にしてしまいます。そして侵入者は生きている者だろうと霊的なものだろうと容赦なく排除する。守り神というとポジティブなイメージがありますが、ししりばの場合は目的を遂行することが目的となっていて、機械的で禍々しい印象を受けました。本作はししりばの家について、果歩と五十嵐の物語が交錯していきます。複数の視点から描きつつも、中々真相にたどり着かない見せ方は秀逸だと思います。また「ぼぎわんが、来る」ではぼぎわんと激闘を演じた比嘉琴子。彼女の霊能者としてのルーツが描かれているは面白いです。一見無表情で感情の動きも感じない彼女ですが、旧友を心配したり、強大な怪異に恐怖を感じたり、人並みの感情も持ち合わせているんだなと思うと感慨深いですね。【関連作品】ぼぎわんが、来る[本/雑誌] / 澤村伊智/著シリーズ1作目の「ぼぎわんが、来る」です。ホラーだけでなくミステリー要素もある傑作です。紹介記事はこちら。ずうのめ人形/澤村伊智2作目の「ずうのめ人形」です。物事は他方から見るとまるで違う姿を見せてしまうという不気味さを感じさせます。紹介記事はこちら。などらきの首/澤村伊智本作の次で4作目、などらきの首です。シリーズ初の短編集で、今までの作品を読んでいるとなお楽しめます。紹介記事はこちら。◆◆ひとんち 澤村伊智短編集 / 澤村伊智/著 / 光文社短編集「ひとんち」です。本作でも描かれている他の人の家で感じる違和感をテーマにした怪異を描いているそうです。【中古】ししりばの家 / 沢村伊智中古はこちら。【おまけ】帯の煽り文句です。ぼぎわんの帯がこれ。角川さん好きですね、ノンストップ。ししりばの家 / 澤村伊智 【本】よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2019.05.12
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ただいま巷では、ジョジョの奇妙な冒険第5部のアニメ版が話題ですね。キングクリムゾンvsメタリカがすごいとか、ドッピオの再現度が高すぎてキモいとか。本作恥知らずのパープルヘイズは、そんな第5部完結の半年後を描いた作品です。その知性と判断力ゆえにブチャラティたちと袂を分かった少年フーゴ。そんな彼の葛藤と、新たな一歩を踏み出していく物語です。【小説】恥知らずのパープルヘイズ -ジョジョの奇妙な冒険より-(全1巻)/上遠野 浩平/荒木 飛呂彦/集英社【あらすじ】イタリアのギャング「パッショーネ」。激しい戦いと多くの犠牲の末、ボスであったディアボロは死に、ジョルノ・ジョバーナが新しいボスとなりました。本作の主人公パンナコッタ・フーゴはジョルノたちと同じチームでしたが、ディアボロを裏切った時に袂を分かちました。たかが1チームがボスに、組織にかなうはずはない。知的で判断力に優れた彼にとって、その選択は当然のことでした。ですが現実は予想と違う結果になりました。フーゴは組織内でも裏切り者、恥知らずと罵られ、隠れるように暮らしていました。半年後、フーゴは今やジョルノの片腕になったかつての仲間、ミスタに呼び出されます。粛清も覚悟していたフーゴでしたが、彼に一つの指令が下されました。それは旧パッショーネの負の遺産、麻薬チームを壊滅させることでした。この任務を成功させれば組織に改めて忠誠を誓うことができる。チャンスのはずなのに、フーゴの表情は優れないのでした。【これは、同じタイプのスタンドッ?】本編では登場機会の少なかったフーゴが主人公です。彼が一番早くブチャラティの部下になっていたようで、他のメンバーとの回想やフーゴの心情について細かく描かれています。原作だけだと掴みにくかった彼の人となりをよく知ることができるように思います。ですが驚いたのは全編に漂う「ジョジョ感」です。セリフ回しといい出てくる人物といい、完全にジョジョです。まるで荒木先生が直接書いたのではないかと思うほどのジョジョっぷりです。ミスタがしゃべっているシーンなんか、普通に脳内で映像が浮かびました。そしてスタンド戦も裏のかき合い・頭脳戦で、これぞジョジョと言った感じでした。本作の作者は荒木先生ではありませんが、作品の雰囲気をここまでそっくりにできるものなのかと思いました。これがプロの腕前なのか、あるいは同じタイプのスタンドなのか……本作は原作を読んでいることが前提で書かれていますが、それゆえにファンは大いに楽しめる内容だと思います。フーゴの気持ちを丹念に描いていますが、それと並行して息詰まるスタンド戦も展開されていき、読んでいて飽きません。また、各章の扉ページに登場人物とそのスタンドが描かれています。しかも荒木先生直筆。こうしたサイドストーリーものは違和感のある作品もありますが、本作はそういったことは無く、むしろ作品のイメージをいっそう膨らませているように思います。ちょうど第5部が再び熱くなっている今、手に取ってみてはいかがでしょうか。【関連作品】OVER HEAVEN JOJO’S BIZARRE ADVENTURE/西尾維新/荒木飛呂彦物語シリーズで有名な西尾維新の作品です。承太郎が焼き捨てたとされるDIOのノート。そこに記されていたのは、DIOという一人の男のに記憶でした。紹介記事はこちら。【在庫あり/即出荷可】【新品】恥知らずのパープルヘイズ -ジョジョの奇妙な冒険より- [新装版] (1巻 全巻)本作の親書版はこちら。書き下ろし短編「トリッシュ、花を手向ける」が収録されているそうです。【中古】ライトノベル(その他) 恥知らずのパープルヘイズ -ジョジョの奇妙な冒険より- / 上遠野浩平/原作:荒木飛呂彦【中古】afb中古はこちら。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2019.04.28
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魔眼の匣の殺人を読みました。魔眼の匣の殺人 [ 今村 昌弘 ]【あらすじ】前回の娑可安(さべあ)湖集団感染テロ事件。葉村譲(はむら ゆずる)と剣崎比留子(けんざき ひるこ)は辛くも生き延びることができました。比留子もミステリ愛好会に加わり、ごく普通の日常が帰って来ました。一方で二人は、娑可安湖での事件の背後に潜む組織「班目機関(まだらめきかん)」を追っていました。一向に手がかりがつかめない中、オカルト雑誌に「娑可安湖での事件はすでに予言されていた」という記事を見つけました。胡散臭いと思いながらも、記事に「M機関」という言葉が出て来たことが気になります。班目機関のことは一般に公開されておらず、ごく一部の者しか知りません。人里離れた村のさらに奥、真雁地区へと足を運ぶ二人。ここは「魔眼の匣」と呼ばれ畏れられている施設でした。時を同じくしてガス欠になってしまったバイカーや訳のありそうな高校生など、複数の男女が来訪して来ました。魔眼の匣の主である老女サキミは「あと二日のうちに、この地で男が二人、女が二人、四人が死ぬ」と告げます。外界との接点だったつり橋が焼け落ち、来訪者たちは閉じ込められてしまいます。そして予言をなぞるように一人が土砂崩れに巻き込まれて死亡します。予言は本当なのか? 残された者たちに恐怖と混乱が巻き起こります。そんな中、十色という女子高生が自分も予知能力があることを告白し、さらに混乱が深まります。残り48時間。これは予言なのか、それとも予言を利用した計画的な殺人なのか?葉村と比留子は生き残るために推理を開始するのでした。【再来のクローズドサークル】前作に引き続きクローズドサークルの中で起こる殺人事件です。作中で述べられていますが、クローズドサークルは犯人にとっては良い状況ではありません。閉鎖空間と言ってもいずれは誰かが救助に来ます。そこで殺人事件が起こっていれば、当然そこにいた人の中に犯人がいます。警察に徹底的に調べられ、逃げおおせることは不可能に近いでしょう。今回閉鎖空間になってしまったのは予想外の事態です。計画を中止すればいいのに、そこまでして殺人を犯すのはなぜか?よほど強い恨みと計画性があるとも言えます。その一方で、恐ろしい仮説も成り立ちます。それは、予言が本当だとしたら「同性が二人死ねば、自分は助かる」という動機による無差別殺人です。これにより一同の緊張感と疑心暗鬼は一気に高まります。トリックや推理といったクールな面と、予言や占いを信じるという人間臭い面が絶妙なさじ加減だったと思います。トリックは予想できても動機が分からない。つまり誰もが犯人である可能性があるという状況は緊張感がありました。【息の詰まる頭脳戦!】※ネタバレあり。十色は制御のできない予知能力に振り回され、人目を避けるようにして生きて来ました。魔眼の匣を訪れたのも、同じ能力を持つサキミに会えば道が開けるかもしれないと考えたからでした。彼女は初対面ながら比留子に憧れのような感情を抱き、親しくなります。身の回りに事件を引き寄せてしまう体質を持つ比留子もまた、能力に翻弄されながらも明るく生きようとする十色に自分を重ね、気を許しているようでした。ささやかな希望もむなしく、十色は何者かによって殺されてしまいます。大きな衝撃を受けながらも比留子が取った手段は「偽装自殺」です。十色を失ったショックから滝に身を投げたように装い、葉村の部屋に隠れて推理を続けます。この「自殺」により、女性の死者は二人になりました。これ以上女性が死ねば予言が外れたことになります。もし犯人が予言になぞらえて殺人を犯しているなら、あるいは予言を信じ切っているならば「予言が外れる」というのはあってはならないことです。こうして犯人の動きを牽制しつつ、比留子は推理を続けます。これまでの彼女は事件を引き寄せてしまう体質ゆえに、何度も殺人事件に巻き込まれています。比留子が推理をするのは犯人を早く捕まえて自分の身を守るため、つまり守りの推理でした。しかし今回は犯人の動きを阻害しながら、積極的な推理を展開します。いわば攻めの推理です。結局のところ男女二人ずつが死に、予言は成就します。つまり残ったメンバーは安全であり、あとは救助を待つばかりでよいという状況で比留子は犯人を暴くために推理を披露します。そこには一時とはいえ心を通わせた十色が無残にも殺され、未来を絶たれたことに対する憤り。犯人に対する怒りがはっきりと表れています。前作は状況に翻弄され、生き残るために知恵を絞ったような感じでした。一方で今回の攻めの推理は、比留子の強い意志を感じ、前回とは違った味わいでした。【傷心の名探偵に休息はない】終章、探偵の予言は衝撃でした。犯人が見つかってやれやれだぜと思っていたところへ突き刺さる内容でした。前作屍人荘の殺人が実写化されることですし、本作実写化の折りは、このシーンはスタッフロールの後にやっていただきたい。ある意味謎解き以上に背筋の寒いお話でした。葉村と比留子はワトソンとホームズの関係を意識していて、折に触れて言葉に上ります。ですが実際はそううまくは行っていないようです。葉村が偽装自殺をし、比留子が堂々と推理したほうが効率が良かったはずです。でもそれができなかったのは、相手を危険に晒すなら自分が引き受けた方がましだという気遣いであり遠慮です。まだ相棒とは言えないようなぎくしゃくした空気の中、魔眼の匣の殺人は幕を閉じます。しかし、最後の葉村のモノローグが衝撃でした。数か月後、二人は新たな事件に巻き込まれます。それはサキミが予言し機関内で大きな問題になった、班目機関でも特に極秘の施設で起こった大量殺人事件。その後の事件に二人は関わることになるのだというのです。ファンには心憎い「予言」を胸に、次回作の発表を待ちましょう。【関連作品】屍人荘の殺人 / 今村昌弘 【本】前作屍人荘の殺人です。クローズドサークルのやりにくくなったご時世ですが、驚きの理由で閉じ込められます。肝心のミステリー部分もしっかりした傑作です。紹介記事はこちら。兇人邸の殺人 [ 今村 昌弘 ]3作目、兇人邸の殺人です。紹介記事はこちら。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2019.03.17
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魔眼の匣の殺人を予約しました。魔眼の匣の殺人 [ 今村 昌弘 ]【あらすじ】人里離れた施設「魔眼の匣」。予言者と呼ばれる老女が主人をしています。前回の事件を生き延びた葉村譲と剣崎比留子を含む9人は魔眼の匣を訪れます。老女は「あと二日のうちに、この地で四人死ぬ」と告げます。外界との接点だった橋が焼け落ち、直後に一人が死にました。果たして予言は成就してしまうのでしょうか。【今回も期待です】前作屍人荘の殺人はオーソドックスなクローズドサークルでありながら、奇抜な展開も取り入れた作品でした。みんながケータイを持っている時代に閉鎖空間を作り出すのも一苦労だと思いますが、同時に作者の腕の見せ所だと思います。今回はどんな仕掛けがあるのか楽しみです。【前作もチェック!】屍人荘の殺人/今村昌弘/著/東京創元社前作屍人荘の殺人です。映画化もされますので、今後もチェックしていきましょう。紹介記事はこちら。魔眼の匣の殺人 [ 今村 昌弘 ]読み終わりました。紹介記事はこちら。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2019.01.09
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ずうのめ人形を読みました。◆◆ずうのめ人形 / 澤村伊智/著 / KADOKAWA【あらすじ】オカルト雑誌の編集社で働く青年藤間。彼は在籍しているライターの変死体を発見します。ライターの部屋には奇妙な小説の原稿が遺されていました。藤間は興味本位で原稿を読み始めます。内容は女子中学生里穂の自伝的な怪奇小説です。自分が正しいと信じて疑わない父親、その場しのぎだけの母親、あてにならない教師、いじめてくるクラスメート。そんな人々に囲まれうんざりしている里穂。彼女はホラーものが好きで、図書館で借りた本を読んでは気持ちを紛らわせる日々。ある日里穂は図書館でゆかりちゃんという女の子と友達になります。ゆかりちゃんもホラーが好きで、二人で話に花を咲かせていました。ある時ゆかりちゃんから「ずうのめ人形」という都市伝説を聞きます。話自体はよくある都市伝説なのですが、里穂はその話が頭から離れないのでした。周囲とうまくいかない孤独。ホラーやオカルトが好きというだけで変な目で見られる疎外感。原稿を読み進めるうち、藤間は里穂に共感と同情を覚えるようになります。しかし藤間に原稿を勧めたアルバイトの青年が、ライター同様変死してしまいます。さらに藤間にも喪服を着た人形が見えるようになりました。日を追うごとに近づいてくる人形。藤間は先輩であるオカルトライター野崎に助けを求めます。果たして藤間は呪いから逃れることができるのでしょうか。【おかえり野崎、さらば岩田君】※ネタバレあり。前作「ぼぎわんが、来る」からオカルトライター野崎と、その恋人で霊媒師の比嘉真琴(ひが まこと)が続投です。皮肉屋ぶってるけど何だかんだで優しい野崎が好きですね。また深くものを考えたりしないけど、人情家の真琴と良いコンビだと思います。各々が苦しみを背負い、肩を寄せ合っている姿はつい応援したくなります。詳しくは前作を読んでみてください。この二人好きなので再登場は嬉しいのですが、こういうホラーものはあまり何回も出るとそのうち死ぬので、ほどほどにね(笑)。そして前回から続投の希少本マニア岩田君。前作では出番こそ少ないものの、割と重要な役割を担っていました。憎めないキャラだったのですが、残念ながら今回で降板です。出てこなければ死なずに済んだのに。哀悼。ひょとしたら幽霊になって続投するかも。【ホラーとミステリーの挟撃再び】今作もミステリー要素を含んだ展開が魅せました。呪いの手がかりを得るために藤間は原稿を読み進めます。藤間たちの行動と原稿の物語が交互に語られ、真相へと向かって行きます。特に終盤は藤間、原稿、そして呪いの元凶の三者が細かく入れ替わりながら描かれています。これだけシーンを短く切っても読みにくくならず、むしろ「こっちも気になるがあっちも気になる」状態で、この見せ方はすごいなあと思いました。【感想あれこれ】今回もしてやられました。原稿を読む限りでは、かわいそうな少女が理不尽に耐えているように見えます。ですが決して「そうではない」と分かった時のあの戦慄。前作と同じような感覚を覚えました。「アンタは自分をカワイソウな被害者だと思ってるだろうが、ちがうねッ! こいつはくせえッー! ゲロ以下のにおいがプンプンするぜッーっ!」という感じでした。※相変わらずテンションがおかしいことになっています。第1部のシーンに照らし合わせてお楽しみください。とはいってみたものの、こうした状況にいたら自分も「こうなってしまうだろうな」と思ってしまうと、一抹のやりきれなさも感じました。ストレスは成長に必要なもの、といった内容の話をしばしば聞きます。吾輩も賛成です。ですがそれは「健全な」ストレスに限ると思っています。成熟した社会や会社においては、ストレスは困難にもめげない心身を育む効果があると思います。ですが世の中は害にしかならないストレスに溢れています。木は台風や他の倒木に当たったりしてねじ曲がっても生きています。しかし曲がってしまった木は曲がったまま伸びていきます。虐待されて育った子どもは、自分が親になってから虐待をしてしまうことが多いと聞きます。不健全なストレスからはぜひとも逃げた方がいいなと思いました。特に子どもは逃げ場が少ないですから、その辺にうまい方法はないものかと思います。学校に行けなくなってしまった子は、もうスカイプ通学でもいいじゃないか。世の中にはコミュ力を必要としない仕事だってあるし。……本題とそれてしまいましたが、そんなことを考えてしまった作品でした。本作を読む時は、気を逸らさずに読んでください。最後まで読むと、序章の意味が、第1章の最後に書かれていたメールの意味が分かりますから。そして「おかげで心おきなく呪いを解ける」この言葉に戦慄してみてください。【おまけ】作中では「リング」など、他のホラー作品も取り上げられています。作者さんと同時期に賞を取った作品「記憶屋」も話題に出ています。こちらも気になりますね。また「緑色の目の白いネコ」は、吾輩も小学生の時図書館で読んだことがあります。直球ではなく、まとわりつくような怖さを感じさせる作品だったのを覚えています。【関連作品】【店内全品5倍】ぼぎわんが、来る/澤村伊智【3000円以上送料無料】前作ぼぎわんが、来るです。ミステリー要素も感じさせる、ホラーエンターテイメントです。紹介記事はこちら。ししりばの家/澤村伊智次の作品、ししりばの家です。紹介記事はこちら。などらきの首/澤村伊智そのまた次の作品、などらきの首です。シリーズ初の短編集で、今までの作品を読んでいるとなお楽しめます。紹介記事はこちら。◆◆ずうのめ人形 / 澤村伊智/〔著〕 / KADOKAWA文庫版です。【中古】 ずうのめ人形 /澤村伊智(著者) 【中古】afb中古はこちら。◆◆ずうのめ人形 / 澤村伊智/著 / KADOKAWA新品はこちら。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2019.01.06
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映画「来る」が始まりましたね。その原作「ぼぎわんが、来る」を読みました。【店内全品5倍】ぼぎわんが、来る/澤村伊智【3000円以上送料無料】【あらすじ】田原秀樹(たはら ひでき)は妻が出産を控え、幸せな生活を送る営業マンです。ある日会社に娘の智紗を訪ねて来た者がいました。しかしまだ娘は産まれておらず、それどころか職場の人には名前すら伝えていなかったのに。伝言を取り次いだ後輩は謎の噛み傷を負い、みるみる体調を崩していきます。そんな異変も仕事と育児に追われるうちに忘れ去って行きました。ですが、田原の元に不審な電話やメールが届くようになります。田原は幼い時、祖父が恐れていた「もの」を思い出します。「それが来たら、絶対に答えたり、入れたらあかんて」。そう言っていた祖父が恐れる「あれ」が怪異の元凶なのでしょうか。田原は家族を守るため伝手を頼り、オカルトライターの野崎、女性霊媒師比嘉真琴(ひが まこと)に出会います。2人は田原家に通い情報を集めます。やがて忍び寄るものが極めて強力で、極めて凶暴な存在だと知ります。最悪の怪物「ぼぎわん」から逃れる手立てはあるのでしょうか?【オアシスとグリーン・デイ】※若干ネタバレあり。本書を知ったのは映画でした。インパクトのある題名だなーと思い、原作が気になって手に取ってみました。そして、予想よりもずっと面白い作品でした。本作は3章に分かれています。1章は田原の、2章は田原の妻香奈の、3章はオカルトライター野崎の視点で物語が描かれています。1、2章は一人称で、3章は三人称で書かれています。普通これほど視点や人称が変わると読みにくくなるのですが、章を分けているとはいえ非常に読みやすかったです。こうした少し珍しい技法はただ奇抜なだけではなく、物語に奥行きを与えていました。1章を読むと、家族を愛し懸命に守ろうとする田原の姿が描かれています。ある意味一般的なホラー作品の展開と言えるでしょう。ですが2章を読むと、決して「そうではない」ということに気づかされます。気づいてしまった時の戦慄は、並みの怪異よりもよっぽど恐ろしく、おぞましいものでした。本作はホラー小説なのですが、同時にミステリーの要素も色濃く含んでいるように思います。田原家の家族関係だとか、真琴や野崎がどうしてそうした行動をとるのか、そして「ぼぎわん」とは何者なのか。妖怪こそ出てきますが、こうした謎が明らかになっていく過程はまさにミステリー小説だとも言えるでしょう。本作は綾辻行人氏が「ホラーエンターテイメントである」と絶賛していましたが、まさにそのとおり。ホラー好きもミステリー好きも楽しめる、良質のエンターテイメントであると思います。ぼぎわんはあまりにも強力すぎて、助けを求めても何人もの霊能者に断られてしまいます。その中の一人、とある和尚の言葉の意味が分かった時、思わず「おぞぞぞぞぞ」とつぶやいていました。「何を今更言うてんねんな。あんなえらいもん、呼ばな来ぉへんやろ」。みなさんもこの言葉の意味を知って「おぞぞぞぞぞ」と戦慄してみてください。吾輩の感想は「今になってやっと気づいたぜ! この話の恐ろしさはバケモノなんかじゃねえ! 人間の、それも家族のッ! 悪意のないすれ違いが呼び寄せた恐怖! いうなればホラーとミステリーの挟撃ッ!」という感じでした。※テンションがおかしなことになっています。「ドドドドドド」という効果音でお楽しみください。ぼぎわんが、来る (角川ホラー文庫)[本/雑誌] / 澤村伊智/〔著〕文庫版はこちら。【店内全品5倍】ぼぎわんが、来る/澤村伊智【3000円以上送料無料】【関連情報】本作の映画版「来る」が上映中です。怖すぎて実写で観る勇気がありません。公式サイトはこちら。ずうのめ人形/澤村伊智シリーズ2作目、ずうのめ人形です。紹介記事はこちら。ししりばの家[本/雑誌] / 澤村伊智/著3作目、ししりばの家です。紹介記事はこちら。などらきの首/澤村伊智4作目、などらきの首です。シリーズ初の短編集で、今までの作品を読んでいるとなお楽しめます。紹介記事はこちら。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2018.12.19
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小説、死後日記を読みました。【中古】 死後日記 / Saori / KADOKAWA/アスキー・メディアワークス [単行本]【メール便送料無料】【あす楽対応】【あらすじ】女子高生の朱里(あかり)は幼馴染の優汰(ゆうた)と付き合っていました。優しいけども鈍感な優汰にはいつもやきもきさせられます。さらに同じく幼馴染の芽衣(めい)は元気いっぱいで空気を読まないので、いつも優汰にべたべたしてくる始末。それに受験の重圧も加わって、最近少し疲れぎみでした。そんな時、ネットで「死後日記」と題されたブログを見つけます。冴香という女性が夫と親友に裏切られ殺されてしまいます。しかし幽霊となった冴香が二人に復讐するという内容で、すでに死んだはずの冴香が更新しているというのです。どうせやらせだろうと思いながらも、朱里は続きが気になってしまいます。冴香と裏切った二人は幼馴染で親友でした。境遇がなんとなく似ていた朱里は、冴香の気持ちがわかるような気がしたのです。自分でもおかしいと思いながらも死後日記に執着していく朱里。そして冴香のブログは朱里の精神の日常を蝕みながら、現在へ追いついてしまうのでした。【屋代君はどこへいった?】死んだはずの人間がブログを更新していく。このアイディアが面白いなと思って手に取ったのですが、予想と結構違っていました。死後日記の話が本格的になる前に、朱里のやきもきした恋愛やら、受験の殺伐とした感じやら、前振りが結構長かったです。あとがきによりますと、朱里の物語と死後日記は元々別の短編だったそうです。それを書籍化するにあたって二つを合併、加筆修正したのだそうです。そういわれれば、随所に作者さんが苦労しているような様子が見てとれました。文筆業って大変だなあと思いました。受験に憑りつかれてしまった怨霊、屋代はどうなったんだろうなあ。【これが、若さか】すんません、メインキャラクターに感情移入できませんでした。引っ込み思案で自分の気持ちをきちんと伝えられない朱里。ウジウジしてるんじゃない。ちゃんと言わないとわかんないだろ!鈍感で不器用な優汰。曖昧な態度は女性を不安にさせるぞ。態度や言葉にちゃんと表すように。元気なのは良いが、空気読まなすぎな芽衣。もう少し相手の気持ちを考えてあげましょう。10代ならこうした悩みやすれ違いは共感できると思います。ですが吾輩のように40歳にもさしかかると、なんだかしゃらくさいように感じてしまいます。これが、若さか(笑)。幽霊がブログを更新していくというのは面白いアイディアだと思います。伝統的なジャパンホラーに近代的な要素を取り入れている発想が良いですね。我々は誰でもブログを閲覧できますが、それを書いている人については個人的な知り合いでもなければ知ることができません。そうしたネットの匿名性も、本作の不気味さを引き立てているのかなと思いました。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2018.12.05
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今回は小説、誓いのご紹介です。軽い気持ちで始めたおまじない。それが恐ろしい結果を招いてしまうのでした。【中古】 誓い / Saori / 双葉社 [単行本]【メール便送料無料】【あす楽対応】【あらすじ】大学生の牧野灯(まきの あかし)はミステリー研究サークルの部長。特に目立つわけでもなく、物事を適当に流してしまいがちです。そんな彼らの部室に、差出人不明の小堤が届きます。小さな箱にはとあるまじないの仕方と、以前それを行ったと思われる人の手記が入っていました。灯は特に深い考えもなく、サークルのメンバーと一緒にそのまじないを試すことにしました。まじないはとても簡単なもので、10人がそれぞれの誓いを持ち寄り、一つの誓約書にするというものです。そして誓いを破った者には制裁を下すというルールを、その時は深刻に考えていませんでした。ある日、サークルの集会に現れなかったメンバーがいました。遅刻常習者の彼のことを特に気にせず、集会は終了となりました。その夜、灯は不気味な夢を見ます。自分を含めたサークルのメンバーで、集会に来なかった彼を殺している夢です。目を覚まし嫌な夢を見たなと思っていると、自分の手足が泥と血で汚れていることに気がつきます。まさかと思い確認に行くと、そこには夢の中と同様に死んでいるメンバーの姿がありました。「我々は決められた日に集会を行う」。この誓いを破った者に制裁が下されたのでした。それからというもの、残ったメンバーは気が気ではありません。いつ自分が誓いを破ったとみなされるか分からないからです。はたして灯たちはまじないを解くことができるのでしょうか?【誓いがあぶり出す人間関係】本作では、誓いによって灯たちの関係が鮮明に描かれているように思います。同じサークルの仲間ではあるけれど内心快く思っていなかったり、真意を測りかねて疑惑を持っていたり。表面を取り繕って蓋をしていた不和や探り合いを、誓いが暴き出しているように感じました。こうした人間関係はどこにでもあると思います。友だち、同じサークル、同じ職場。一緒に過ごしているし言葉も交わしているけれど、心の底からつながり合っているかと言われれば必ずしもそうではないのではないでしょうか。むしろ心底分かり合っている関係の方が希少と言えるでしょう。本作に登場する人たちの人間関係もありふれたものです。それだけに、関係のほころびや破綻がいつ自分たちにも訪れるのかという「身近にある恐怖」を感じさせるのではないでしょうか。誓いに関わる人物が10人も出てくるので、名前と性格をつかむ間もなく、わりとサクサク死んでいきます。そのためいまひとつ感情移入ができない部分もありました。人数を減らして、各員の人柄とかをもう少し描いたら感情移入しやすかったかなと思いました。ごく普通の関係がちょっとしたきっかけで崩壊する恐怖。露骨に幽霊や殺人鬼は出て来ませんが、体にまとわりつくような恐ろしさを堪能できる作品です。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2018.11.28
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屍人荘の殺人を読みました。この作家さんのデビュー作であり、色々と賞を取っているそうです。吾輩賞の類にはあまり興味がないので「ふ~ん」くらいにしか思っていなかったのですが、これが予想以上に面白い作品でした。受賞もうなずけます。屍人荘の殺人/今村昌弘/著/東京創元社【あらすじ】葉村譲(はむら ゆずる)は神紅(しんこう)大学の一回生で、ミステリ愛好会の会員。ミステリ研究会ではなく愛好会。最初は研究会に入部したものの、本格ミステリについて語るわけでもなくダラダラしている活動に嫌気がさして退部。そんな彼に声をかけたのがミステリ愛好会部長、明智恭介(あけち きょうすけ)。明智は葉村と同じ理由で研究会を退部し、本格ミステリを追求すべく愛好会を立ち上げたのでした。同好の士を見つけたとばかりに葉村をスカウトし、以降ともに活動しています。明智は謎の臭いがすると所構わず首を突っ込む変人ですが、学校内のちょっとした事件を解決したこともあり「神紅のホームズ」と呼ばれる有名人です。その明智が目下熱を上げているのが映画研究部の合宿。ペンションを借りて心霊ものの映像を撮るという企画ですが、ペンションに若者が集うというシチュエーションに「何か事件が起こりそうじゃないか」と参加を希望したのです。当然部外者は参加不可。落胆する明智に助け舟を出したのが剣崎比留子(けんざき ひるこ)。彼女は名家の令嬢であり、同じ大学の学生ながら警察にも何度か協力したことがある探偵でした。比留子は自分と一緒に合宿へ参加しないかと持ち掛けてきます。ライバルとも言える比留子の提案に飛び乗る明智。実はこの合宿には曰くがありました。合コン合宿の色合いも強く、去年男女のトラブルがあったため部員の評判はよくありませんでした。最近部室に「今年の生贄は誰だ」というメモが置いてあったこともあり辞退者が続出。人数が集まらず困っている映画研究部部長に比留子が掛け合ったのでした。意気揚々と合宿に参加する明智たち。ですが、それは恐ろしい事件の始まりなのでした。【トンデモ設定ながら本格的なミステリー!】※ネタバレありです。合宿に訪れた葉村たちですが、肝試しの最中にゾンビに襲われます。ええ、ゾンビです。山を挟んで反対側で行われていたライブイベントでバイオテロが発生、ゾンビと化した観客の一部がペンションを嗅ぎつけたのでした。本格ミステリファンの皆さん、ここで本を閉じないでください。損はさせません。このゾンビたちはバイオハザードに出てくるようなハイパーな連中ではありません。死んでいる(血流が止まっている)ので脳と筋の伝達がうまくいかず、バリケードに阻まれては階段から転落を繰り返すような知性と運動神経です。そのため葉村たちは各階段にバリケードを築き、籠城する作戦を取りました。いつ突破されるかわからない不安もあるものの、とりあえず安全なはずでした。しかし、事件は起こります。メンバーの一人が部屋で顔じゅうを噛みちぎられた死体で発見されます。部屋には鍵がかかっていて密室。ドアの下には「ごちそうさま」、部屋の中には「いただきます」と書かれたメモ。死体は服の上からも噛まれ、骨まで見えていました。ゾンビの仕業としか思えません。ですが密室を作り上げ、メモまで残す芸当はゾンビにはできません。一体だれが殺人をしたのか謎が深まって行きます。みんなが携帯を持っているご時世、閉鎖空間で殺人が起こるクローズド・サークルはやりにくくなったように思います。登場人物を閉じ込める要素がゾンビだとは思いませんでした。携帯やネットは事態収拾にあたった政府により遮断されて使えないという設定でした。ゾンビこそ出てきますが、ミステリー要素は本格的です。吾輩トリックは分かりませんでした。【感想あれこれ】まず登場人物の名前が大変わかりやすいです。外見やイメージそのまんまで、中にはダジャレめいた名前もあります。作中でも比留子さんが触れていましたが、作者さんもそうした分かりやすさで命名したのかなと思いました。ミステリーは登場人物が多いので、吾輩も巻頭の人物一覧を何度も見返したものです。本作はそうした心配がなく、自然に人物がイメージできました。また、文章が軽妙でした。序盤のやりとりはコメディタッチで、これから殺人が起こるとは思えないようなノリです。ゾンビ映画に詳しい人物に対して「これからはゾンビマニアではなくゾンビマスターと呼ぼう」といった、ちょっと笑える文章がこまめに出て来ます。そのおかげでゾンビに包囲されているという圧迫感が時々緩み、最後まですんなり読めました。読みづらい文章もなく、読みやすかったです。ミステリ部分も手を抜いていません。ホワイダニット(なぜ)、フーダニット(誰が)、ハウダニット(どうやって)の要素が比留子たちを悩ませます。ゾンビに殺されたとしか思えない死体が密室に。しかしゾンビに密室を作るほどの知性はない。他にも簡単に殺せる方法があるのに、なぜか回りくどい方法で殺された死体。こうした謎解きも読みごたえがありました。長く閉じ込められた状態になる分、登場人物の色々な面が描かれていました。謎解きにも関わってきますが、怨恨が動機の場合は犯罪も効率優先とはいかないこともあります。殺された人たちは殺されてもしかたないかなという感じでしたが、作中の描写をみると少しかわいそうかなとも思いました。特に印象に残ったシーンですが、恨みをかった人物は、その人の一番醜い部分を曝け出しただけなのかもしれません。恨みを持った側は、その人の一番醜い部分を指差して「人でなしだ、許せない」と叫んでいるだけなのかもしれません。葉村が殺された人物に対して「これ以上知りたくない、あいつらのことを救いようのない人間のクズだって思っていたい」と感じるシーンが特にやりきれないものを感じました。【おまけ】個人的には比留子さんみたいなキャラはどストライクです。知的で冷静、それでいて無防備だったり女性らしい奥ゆかしさがあったりして、たいへん良いですね。また「んああ、いけない。気を緩めたところに死体を見たものだから、少しクラっときたよ」といった時代がかったというか、明治の文士さんみたいなしゃべり方もポイント高しです(笑)。続きもできそうな感じだったので、もし機会があるのならまた比留子さんの物語を読んでみたいなと思いました。最序盤から前振りがあったのでそうかなと思っていましたが、読みながら思わず「ゾンビかよ」とつぶやいてしまいました。ミステリファンが眉をひそめそうですが、読んでみると紛れもなく本格派ミステリでした。ペンションに集まる若者、閉鎖空間で起こる殺人。こうした伝統的な要素をしっかりと押さえつつ、個性的な展開を盛り込んでいると思います。ミステリ部分がしっかりしている上に登場人物の掛け合いや読みやすい文章のおかげで、総合的にかなりおもしろい作品に仕上がっています。このブログを読んだ方はもうゾンビが出てくることは知ってしまったハズ。こだわりを捨てて最後まで読んでみてください。きっと楽しめる一冊であると思います。屍人荘の殺人/今村昌弘/著/東京創元社新品はこちら。【中古】単行本(小説・エッセイ) ≪国内ミステリー≫ 屍人荘の殺人 / 今村昌弘【中古】afb中古はこちら。魔眼の匣の殺人 [ 今村 昌弘 ]続編である魔眼の匣の殺人はこちら。紹介記事はこちら。兇人邸の殺人 [ 今村 昌弘 ]3作目、兇人邸の殺人です。紹介記事はこちら。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2018.09.27
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古くからある家や物。長い年月を重ねてきたそれらには怪異がつきものです。本作はそうした怪異をしっとりと描いた作品です。過激な描写もなければ露骨に妖怪が出てくるわけでもありません。読んでいて想像力をかき立てられる、日本的な怪異譚です。◆◆営繕かるかや怪異譚 / 小野不由美/著 / KADOKAWA【全話紹介】奥庭より祥子は死んだ叔母から大きな屋敷を継ぎました。中庭を隔てて自室と反対側に、あかずの間がありました。そこは襖(ふすま)の前に箪笥(たんす)が置いてあり、入り口を塞いでありました。叔母は大事なものがしまってあると言い、昔から祥子を近づけさせませんでした。その襖が、気が付くと少し開いています。この屋敷には自分しかいないはずだし、小動物でも入り込んでいるのでしょうか。何度閉めても開いてしまう襖に不信を感じ、祥子はあかずの間を開けることにしたのですが……屋根裏に晃司(こうじ)の母親が「屋根裏に誰かいる」と訴えるようになりました。とうとう認知症が始まったかと心配になりましたが、家が古いので家鳴りが気になるのかもしれないと考えました。そこで妻の提案受け、家をリフォームしました。家も新しくなりこれで安心と思っていましたが、今度は梁の上を誰かが歩き回っていると訴えるようになりました。さらに晃司の子どもたちも「何か」を見るようになってしまい……雨の鈴有扶子(ゆうこ)は祖母から譲られて、城下町の古い屋敷で暮らしていました。七宝教室の講師料とちょっとしたアクセサリーを売ることで何とか生活している彼女にとって、家賃のかからない生活はありがたいものでした。ある雨の日、喪服のような黒い着物を着た女性を見かけます。歩いているのに少しも進まず、雨の中濡れもしない女性は「見てはいけないもの」だと気づきました。その後有扶子は、着物姿の見知らぬ女性が弔問に訪れると、翌日その家の誰かが死ぬという話を聞きました。そして着物姿の女性は雨の日に現れ、角に当たると向きを変えるということに気がつきました。さらにこのまま行くと有扶子家に来てしまうことに気づき、友人と対策を練ることに。昔は家相といったものに気を配っていたようですね。そうした話も面白かったです。異形のひと父親の都合で田舎に引っ越した真菜香(まなか)は、退屈で不便な生活に不満いっぱいでした。ある日仏間に老人が入り込んでいました。近所の人かと思ったが、わずかに目を離すといなくなってしまう。そのうち押し入れの人が入れないような隙間や風呂の中にいたこともあり、次第に自分は病気になってしまったのかと心配になる真菜香。彼女を気遣い、両親は家をリフォームすることにしました。現れた工務店の職員は「そういうこと」に詳しい助っ人を連れてきたのでした。潮満ちの井戸麻理子(まりこ)の家は築50年以上の古屋です。離れはずっとほったらかしてあったのですが、夫の和志(かずし)が庭いじりにはまり、素人ながらに整備していました。ある日使っていなかった井戸にポンプをつけ、修理しました。その時に古い祠を壊してしまったとのことです。井戸ができたおかげで水撒きも楽になりました。しかしそれからというもの庭木に元気が無く、中には枯れてしまったものもありました。一度プロに見てもらおうという話になり、業者を呼びました。ですが業者は庭に入ってしばらくするとそそくさと帰ってしまいました。それと前後して、時折濡れた魚が地面で跳ねているような妙な音とすえた水の臭いがするようになりました。気味が悪くなってきた麻理子に一人の青年が訪ねて来ます。先日の業者からの紹介でフォローにきたそうですが……檻の外シングルマザーの麻美(まみ)は娘を育てながら仕事をしていました。少しグレていた上に親の反対を押し切って結婚した麻美。ダメ夫の暴力から娘を守るためやっとのことで離婚した彼女に対して、家族は冷淡でした。親戚が管理しているという古い家に引っ越したものの、途端に車のエンジントラブルが頻発します。さらにガレージの中で小さな男の子を見るようになります。以前このガレージで男の子が死んだことを知った麻美はお寺に相談しに行きました。私に祓うことはできないという住職が紹介してくれたのは……【ほのかに薫る、上品な怪異譚】全話に登場するのが「営繕 かるかや」を営む青年尾端(おばな)です。各話の登場人物が怪異に困り相談したところ、彼がやってきて話を収めるというスタイルが基本です。そういった意味では主人公なのかもしれませんが、最後の方にちょっとしか出てこないこともしばしばで、題名のとおり怪異譚を楽しむ趣向ととらえる方がいいのかもしれません。尾端は霊能者ではないので、原因を特定しスパッと解決するわけでも、幽霊との激しいバトルもありません。それでも怪異が収まるのは、彼の共感する能力が高いからだと思います。霊といっても、我々と同じように喜んだり悲しんだり怒ったりします。人間は相手が霊というだけでむやみに怖がってしまい、その気持ちに気づかないように思います。尾端は相手の欲するものを察し、気持ちを満たしてあげることで怪異を収めているように感じました。また、先人が施したもの(封印)は何か意味があるのだろうからと、下手に動かしたり変えたりしないこともありました。このように、他人の行為に対してその理由を考えたり敬意を払う姿勢は、我々が忘れがちだけれども大事なことを思い出させてくれるように思いました。【日本語の美しさを再確認する】小野不由美さんは「残穢」で知りました。その後書評サイト「本が好き!」で本作を知り、手に取ってみました。小野さんは大学の時に小説の作法を学んだそうです。型をしっかりと学んでいるだけに、読んでいるだけで情景が浮かんでくるような美しい文章でした。作中に古い屋敷が頻繁に出てきますが、光の行き届かない薄暗い感じや、長い廊下の向こうに部屋がある様子など、頭の中に映像が浮かんでくるようでした。また袖廊下とか三和土(たたき)といった日本家屋の名称が出てきますが、改めて日本の言葉は繊細でバリエーション豊かだなと思いました。箪笥って棹(さお)って数えるんですね。知らなった。このようなしっとりした美しい言葉を使いこなす小野さんの文章も、本作の見どころであると思います。ちなみに壊れた所を直すのが修繕。維持管理のことまで考えて修理するのが営繕というそうです。持ち主だけでなくそれにまつわる怪異に対して配慮していて、まさに営繕といえるでしょう。また、表紙を見てみると作中に登場する怪異があちらこちらに描かれています。こうしたデザインも凝っていてきれいですね。日本的な静かで美しい文章に彩られた怪異譚です。みなさんも手に取ってはいかがでしょうか。◆◆営繕かるかや怪異譚 / 小野不由美/著 / KADOKAWA◆◆営繕かるかや怪異譚 / 小野不由美/〔著〕 / KADOKAWA文庫版もあります。【関連作品】残穢 (新潮文庫) [ 小野不由美 ]残穢です。アパートで妙な音がする。怪談の定番ですが、その部屋では事件や事故が起こっていなかったとしたら……ドキュメンタリーのような怪談です。紹介記事はこちら。鬼談百景 (角川文庫) [ 小野不由美 ]鬼談百景です。残穢のスピンオフ作品です。1話数ページの怪談が99話収録されています。紹介記事はこちら。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2018.08.29
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復讐をテーマにした作品は、作者のカラーが出やすいような気がします。果たして復讐は人に救いをもたらすのでしょうか。【中古】 腐指 /Saori【著】 【中古】afb【あらすじ】桐生愁真(きりゅう しゅうま)は父親と二人、支えあって暮らしていました。尊敬する父は会社から横領の濡れ衣を着せられ、自ら命を絶ってしまいます。悲しみに暮れる愁真に「褐色の本」が語りかけてきます。本が伝えたのは、呪い。自らの指を生贄にして、憎い相手を生きたまま腐らせる呪い。愁真は呪いに手を染め、父を陥れた者たちを次々に腐らせて行きます。そんなある日、愁真の前に柚姫(ゆずき)という女性が現れます。彼女は愁真が腐らせた社長の娘。つまり憎き復讐相手の娘だったのです。世間知らずで危なっかしい柚姫に惹かれていく愁真。心を呪いに蝕まれていく愁真は、せめて柚姫には幸せになって欲しいと願うのですが……【復讐の先に何を見る】※ネタバレあり。呪いの力によって憎い相手を腐らせ、愁真は割と早く復讐を達成します。柚姫の登場により、自分が被害者から加害者になってしまったことに気づかされます。家族を失う辛さを知っているはずなのに、柚姫にも同じ思いをさせてしまい罪悪感にさいなまれます。いっそ柚姫が悪人ならば気も楽なのでしょうが、親に似ず素直で無邪気なその姿はいっそう哀れを感じさせます。そして、呪いを使うたびに心を浸食されていく愁真の描写が生々しかったです。中盤に、物心つく前に家を出ていった母親が登場します。金目当てで近づいてきたのかと激昂した愁真は、母親を呪います。また柚姫が幼い時から仕え、柚姫も祖父のように慕っていた山下という男も呪います。山下は柚姫が社長になった途端、彼女を会社から追い出すよう画策したからです。ですがその2人については、愁真の誤解でした。事情があって家を出たものの、母親はずっと愁真のことを気にかけていた様子でした。山下も会社のしがらみに囚われずに愁真と結ばれるように、あえて会社から追い出すようなことをしたのでした。動き始めた呪いは止められず、2人は腐り落ちてしまいます。通常ならばここで後悔するところですが、この時すでに愁真は何も感じなくなっていました。そのうえ足の指を使えばまだたくさん呪えるではないかと考えてしまいます。この辺のだんだん感覚が正常でなくなっていく感じが、激しい描写こそないものの薄気味悪さを感じさせました。本作では一人腐らせるごとに、インターミッションのように小さな章が入ります。それは夢のようなシーンで、愁真が幼い自分と対峙し、やがて彼を殺してしまうというものです。幼い愁真は彼の人間らしい心で、一人腐らせるごとにそれが失われていく様子を表しているのかと思います。この演出は丹念にされていて技巧を感じました。呪いに浸食されていく愁真。そんな中でも柚姫といる間だけは、人間らしい感覚を思い出すことができました。まるでリミッターのように、柚姫という存在が愁真の心をつなぎとめていたのです。ですが柚姫は今や社長。その地位や財産を狙う輩はいくらでもいました。愁真は残った指を使って柚姫を苦しめる者たちを腐らせていきます。そして彼女を婚約者に託すと姿を消し、自ら命を絶ちます。闇に飲まれた自分はいずれ柚姫を苦しめるだろうから。そして柚姫を苦しめる者はすべて殺すと誓ったから……【復讐ものについて考える】復讐譚は報われない話が多いように思います。理由はあれど行っていることはネガティブな行為ですし、すでに復讐の動機となるような喪失を体験しているので、復讐を果たしたところで何も残らないからだと思います。復讐が終わった後に新しい生き方を見つけられればいいのかもしれませんが、すでに咎人となった復讐者に平穏はないのかもしれません。愁真は救われたのか? 吾輩は「まだ、ましな方」だったと思います。彼は父親への愛が深いゆえに呪いに手を染め、後戻りできない道を選んでしまいました。ですが呪われた力であっても、最後は自分のためではなく他人の幸せのために力を使いました。闇に心を蝕まれても、最期に他人の幸せを願うことができました。それがせめてもの救いだったのではと思います。復讐ものはいろいろな作品がありますが、本作は仇の側の人間も登場し、そちらの事情も描きつつ絆を結んでいくという展開が一風変わっていて面白かったです。人を愛しているがゆえに人を恨む。恨みから生まれた関係が愛を育てる。そんな揺れ動く人間の様子をよく描いた作品であると思います。【中古】 腐指 /Saori【著】 【中古】afb【関連作品】作者Saoriさんの代表作、呪い遊びシリーズ三部作です。本作でも登場した褐色の本についてはこちらで語られています。【中古】単行本(小説・エッセイ) 呪い遊び / Saori【中古】afb1作め呪い遊びです。紹介記事はこちら。【中古】 死の薬 /Saori【著】 【中古】afb2作目死の薬です。紹介記事はこちら。【中古】 まじない /Saori【著】 【中古】afb3作目まじないです。紹介記事はこちら。よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2018.08.16
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学校と言えば怖い噂がつきものですね。本作はケータイ小説で活躍しているSaoriさんとkagenさんが、交互にオムニバス形式で書いた怪談です。【中古】単行本(小説・エッセイ) 呪われた学校 / Saori【中古】afb【全話紹介】教室 ~ヒトガタノシミ~空き教室の黒板を剥がしてある壁に、人の形をした染みがあるという噂がありました。何度壁を塗り替えても浮き出てしまう上に、誰もいないはずの教室からカンカンと音が聞こえてくることがありました。最近やってきた渡辺先生はこの学校の卒業生で、何か知っている様子ですが……学校という閉塞空間では、いつでも起こりうる話かなと思います。理科室 ~ウラガエル~周りの空気を読んで合わせることに嫌気のさしていた「俺」。ある日人体模型に挟まっていたメモに「うらがえる様」というまじないを発見します。こっくりさんと同じような感覚で疑い半分ながら、これで人の心が分かれば人生楽になるかもと考えたのですが……旧校舎 ~アケテハイケナイ~ふとしたことから旧校舎に飛び込んでしまった携帯をさがすため、「私」と彼氏は立ち入り禁止の旧校舎に足を踏み入れます。孤独と不満を抱え、誰にも心を開けなかった「私」にとって、怪異に出会ったことはある種の救いだったのかもしれませんね。体育館 ~タリナイモノ~体育館の掃除をしている2人の女子高生。サボりも兼ねてケータイ小説のアイディアを出し合うことになりました。夏といえば怪談。ホラー系の話を作ることになったのですが、友人が「リアリティが足りない」と頭を捻り始めます。ホラーというよりもサイコな味わいのお話でした。階段 ~ジゴクノオニワタシ~鬼渡しというのは鬼ごっこのことなのだそうです。「俺」は友人から、階段を使った降霊術の話を聞きました。成功すると鬼が現れ、捕まらずに学校を出ることができたら勝ちとのこと。2人は地獄の鬼渡しを試してみるのですが……結末は捻りがきいていたかなと思います。中庭 ~コイニオボレル~「中庭の池の前で告白すると、必ず失敗する」そんなジンクスを気にせず、「俺」は池の鯉に餌をあげるのが日課でした。そのジンクスは、失恋を苦に飛び降り自殺をした女生徒が落ちたのが中庭の池だったからだとのこと。「俺」は気になって調べることにしてみたのですが……魅入られてしまった人のお話ですね。女子トイレ ~モウヒトリノワタシ~10年ぶりに同窓会の知らせが届きました。理想の生活とは言えない日々を送っていた「私」は気が進まなかったのですが、参加してみることにしました。服を新調してダイエットをし、仕事すら偽って「もう一人のワタシ」になって同窓会へ行きました。どんでん返しの結末は面白かったです。2人の作家による作品群は少しずつ作風が違ったりして楽しめました。よくよく考えるとこの学校、コンスタントに人が死んだり行方不明になってるけど大丈夫なのかなと心配になってしまいました(笑)。それはさておき怪談として楽しめる作品ですので、手にとってみてはいかがでしょうか。【関連作品】Saoriさんの代表作「呪い遊び」3部作です。欲望や憎しみにたやすく支配されてしまう人間の弱さと、他人を想うことのできる希望を描いた作品です。1作目呪い遊びです。紹介記事はこちら。【中古】 呪い遊び /Saori【著】 【中古】afb2作目死の薬です。紹介記事はこちら。【中古】 死の薬 /Saori【著】 【中古】afb3作目まじないです。紹介記事はこちら。【中古】 まじない /Saori【著】 【中古】afbよかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2018.07.31
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「呪い遊び」から5年。全ての元凶である褐色の本を追って、歴代の登場人物たちが走る!呪い遊び三部作の最終章、まじないのご紹介です。【中古】 まじない /Saori【著】 【中古】afb【あらすじ】前回の主人公だった山崎凛(やまざき りん)の弟雷(らい)が本作の主役です。海老原咲夜(えびはら さくや)は「呪い遊び」を生き延びたものの、心に大きな傷を負っていました。そんな咲夜の苦しみや辛さの全てを受け入れ、凛は咲夜と結婚します。慕っている姉を取られたようで雷は心中複雑でしたが、凛の幸せを願いつつもしょっちゅう新婚生活に割り込む日々。夏休みも終わろうとするある日、雷は見ず知らずの少年に出会います。宿題が終わらないから夏休みを巻戻したいという少年の手には褐色の本がありました。雷が目を覚ますと日付は7月23日。夏休みの初日であり、咲夜と凛の結婚式の日です。2度目の結婚式に困惑する雷の前に、1人の女性が現れます。絹(きぬ)と名乗った女性は、褐色の本「まじない」を探していると伝えます。同じように本を探している少年祈一(きいち)を加え、雷はまじないを探しに行きます。大切な人を守るため、譲れない未来を守るために。【きれいな物語のたたみ方でした】※ネタバレあり。中盤あたりまで割とじっくり物語が進んで行ったので、最後はどうなるんだろうと正直心配でした。ところが後半咲夜と凛が出てきた頃から一気に物語が盛り上がり、きれいに着地したという印象です。各要素の解決の仕方が上手だったと思います。雷は最愛の姉を取られたという思いが確かにありました。ですがそれを上回る「幸せになって欲しい」という気持ち。憎しみに心を絡め取られることなく、大切な人の幸せを願う気持ちは呪いを凌駕しました。我が身を犠牲にして呪いを封じ込めた棗と聖。そのことがずっと咲夜の負い目になっていました。そんな咲夜の心を温め、自分が咲夜の1番でないと知っていてもなお包こむように彼を愛した凛。重く、同時に希望に満ちた「代償」によって、2人は棗と聖を呪いの連鎖から救い出します。そして雷と絹の恋と別れが切なかったですね。役割を終え老いて、朽ちて、灰になっていく絹に、正面から想いを伝えている雷の姿はとても美しいと思います。いつかまた会える。そんな希望を残して、絹はこの世を去りました。祈一もまた味わい深かったです。ほとんど出番がなくて大丈夫かなと思っていたのですが、なるほどそういう訳だったのかと思いました。エピローグ的に語られている祈一の話がまた良かったです。正直蛇足になるのではと思いましたが、それどころか物語に素敵な余韻を残してくれました。【力の使い方は人間次第】作中でもありますが、妬みや憎しみといった感情は遺伝子レベルで人間に刻まれているものだと思います。ですがそれを越えるのは「大切な人に幸せになって欲しい」という気持ちであり、その気持ちをきちんと伝えることが大事なのだと思います。まじないも本来はそうした使い方をするために生まれたものでした。ダイナマイトだって元々は危険な鉱山に人が入らなくても掘削できるようにと発明されたものでした。いつしかそれが人傷つける道具へと変わってしまいました。悲しいかな自分の欲望のためには他者を傷つけてしまうのが人間というものです。ですが自分以外の人を愛し、幸せを願うことができるのもまた人間なのだと思います。人間の業の深さと尊さを描いた呪い遊びシリーズの最終章です。皆様も手にとってはいかがでしょうか。【関連作品】1作目呪い遊びです。紹介記事はこちら。【中古】 呪い遊び /Saori【著】 【中古】afb2作目死の薬です。紹介記事はこちら。【中古】 死の薬 /Saori【著】 【中古】afbよかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2018.06.19
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どんなコンプレックスも治る薬。あなたらな飲みますか?本作は「呪い遊び」の続編です。【中古】単行本(小説・エッセイ) 死の薬 / Saori【中古】afb【あらすじ】主人公の山崎凛(やまざき りん)は、霊が見えることとシスコンな弟雷(らい)に手を焼く以外はごく普通の女子高生。物騒な事件が世間を騒がせることがあるけれど、彼女の周りはいたって平凡でした。そんな平和は凛のすぐ後ろから崩れ去ることになります。後ろの席に座っていた2人の会話が聞こえてきます。つまんないこととか忘れられる薬があると。嫌なものを感じて止めさせようとする凛ですが間に合わず、薬を飲んだクラスメイトは大量の血と、臓器を吐き出して息絶えます。警察から聞いた、最近起こっている事件の共通点は女、大量の吐血、臓器が一つ無くなっている、そして薬。忌まわしき「呪い遊び」から3年。新しい呪いが目を覚ますのでした。【読みやすいです】前作呪い遊びに対しては少々読みづらいという印象を感じましたが、今回は大変読みやすく分かりやすかったです。主人公の凛と雷は実に分かりやすい性格なので、読んでいて感情移入しやすかったです。しょっちゅう無茶をやらかすお陰で話も進むし、物語的においしいキャラクターですね。また、前作のメンバーも活躍しています。3年前の事件により呪いの恐ろしさや大切な人を失う辛さを知っているので、呪いを止めたいという強い想いが物語に深みを添えています。【怨みも希望も、生むのは人の心】※ネタバレあり今回の呪いは萌(もえ)という少女が生んだものでした。クラスで孤立しいじめを受けていましたが、大好きな両親を心配させまいと何もない風を装っていました。こうしたどこでも誰にでも起こりそうな題材は読者にも共感しやすいのではないでしょうか。信じた人に裏切られ、ついには殺害されてしまった萌。彼女は「まじない」を発動させます。怨みを晴らすため、両親に想いを伝えるために。生死の境をさまよった凛は、一時的に萌と記憶や感覚を共有します。それによって今回の真相が明らかになるわけですが、この演出が最後に活きていると思いました。萌を説得するにあたって、他人が何を言っても心を動かされることはないと思います。首だけになっても両親を想い、ベッドの下で声を殺して泣いていた萌の苦しみや無念さを共有したからこそ、体当たりの説得が伝わったように感じました。個人的には、食わせ者の政宗(まさむね)に対して最後凛がかけた「私はあなたのこと、理解できない」「でも…助けてあげられなくて、ごめん」という言葉が好きです。人の心は簡単に揺れてしまいます。優しい気持ちで満ちていた心も、たやすく憎しみに塗り替えられてしまいます。ですが他人を想い、救われて欲しいと願うのもまた人間の心であると思います。人の弱さと温かさをよく描いた作品だと思います。【余談】※少しネタバレあり全くの余談です。落ち込まないで双葉さん! 膝が残ってれば義足で結構いけます。車椅子はまだ早いです!……仕事柄つい。【関連作品】前作呪い遊びです。紹介記事はこちら。【中古】 呪い遊び /Saori【著】 【中古】afb次作「まじない」です。紹介記事はこちら。【中古】 まじない /Saori【著】 【中古】afbよかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2018.06.17
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本作の前情報は全く無かったのですが、本屋さんでたまたま見つけました。その時はそのまま帰ったのですが、後日気になって再び訪れ(その本屋さん地味に遠い)買いました。思えばホラー系の作品との出会いはこうしたパターンが多いように思います。【中古】 呪い遊び /Saori【著】 【中古】afb【あらすじ】海老原 咲夜(えびはら さくや)はごく普通の大学生。親友の棗(なつめ)とその妹聖(ひじり)との他愛ない学生生活を送っていました。そんな中、学校界隈で不審な殺人事件が連続して起きます。それはどれも「加害者はすでに死んでいる」のです。死人が殺しにくる殺人事件。それは怨みの連鎖、呪い遊びの始まりだったのです。【サカナ男爵、ケータイ小説に戸惑う】本作はケータイ小説で有名な作品なのだそうですね。吾輩ケータイ小説は初めて読むので、色々と戸惑いました。まず文章が横書きでびっくりしました。まあなろうやpixivも普通に横書きなので驚くことはないのですが、紙媒体で横書きというのは驚きました。そして状況や人物の描写がかなり少ないですね。なので「今、どこ?」「このセリフ言ってるの誰?」「この人こんなキャラだっけ?」など、中々状況がつかめませんでした。内容は好みが分かれるところかなと思います。主人公たちへの感情移入が進まないまま物語が温まって行くので、取り残され感がありました。呪いの連鎖を止めるためとはいえ、主人公たちがそこまでしなくちゃいけないのかなと思いました。主人公たちが呪いに対してもっと直接的に関係があると分かりやすいのかなと感じました。【ケータイ小説は新しいジャンルとなるか】気になってネットで調べてみたところ、ケータイ小説については色々議論がなされていたようですね。各人が好き勝手なこと言っていましたが、面白い話も書いてありました。細かい描写を抑え、セリフが多めなのがケータイ小説の特徴なのだそうです。文学と漫画の中間といった感じなのでしょうか。またキャラクターを中心にしたものがライトノベルで、プロットを中心にしたものがケータイ小説だという話もありました。読んでいて「まだまだキャラとか設定とか掘り下げられるんじゃないかな~」と感じていましたが、なるほどプロットとは。まだ研磨や整形をしていない、宝石の原石を見ているといえばしっくり行くかもしれません。とはいえさらっと読めるのは魅力だと思います。やれキャラが立ってるとか、やれ重厚なストーリーだとか細かいことは気にせず、のどごしを楽しむと良いのかもしれません。【関連作品】次回作「死の薬」です。紹介記事はこちら。【中古】 死の薬 /Saori【著】 【中古】afb3作目「まじない」です。紹介記事はこちら。【中古】 まじない /Saori【著】 【中古】afbよかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2018.06.14
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本書は新聞連載されていた作品で、吾輩も新聞で読んでおりました。現在話題になっている問題を取り上げた作品です。◆◆護られなかった者たちへ / 中山七里/著 / NHK出版【あらすじ】東日本大震災の傷痕が残る仙台市。保健福祉事務所課長・三雲が、体の自由を奪われた状態の餓死死体で発見されました。彼は人格者として知られていて、怨恨が理由とは思われませんでした。一方で物盗りとも考えにくく、捜査は行き詰まってしまいました。調べを進めて行くと、三雲の死体発見より数日前、一人の模範囚が出所していることが判明します。彼が事件に関係しているのか? たどり着いた真実とは?【社会派ミステリーと言える一作】本作は貧困や生活保護に関する問題をテーマにしています。生活保護費をギャンブルにあててしまうケースや、反社会勢力の資金源になってしまうケース、必要な人に生活保護が行き渡らない問題などが描かれています。作中では犯人の過去も描かれていて、なぜこのような残酷な方法で三雲を殺したのかも明らかになって行きます。明確な悪も、明確な正義も存在せず、一体誰を裁いたらいいのかというやりきれなさを感じます。最後に犯人がツイートする「護られなかった者たちへ」というメッセージは、我々も身につまされる思いでした。本作はバリバリの謎解きミステリーを期待して読むと、少し物足りないかもしれません。貧困や生活保護に対して、改めて考えさせられる作品であると思います。◆◆護られなかった者たちへ / 中山七里/著 / NHK出版よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2018.02.27
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作者の住野よる氏の作品は「君の膵臓をたべたい」を読んだことがありました。本作は見つけてこれは買いだなと思って即買いでした。前情報等は一切入れなかったのですが、ご縁というやつでしょうか。送料無料/よるのばけもの/住野よる【あらすじ】ある日突然、夜になると化け物に変わってしまうようになった「僕」。忘れた宿題を取りに教室へ忍び込んだ時、クラスメイトの矢野さんに会いました。彼女は少し変わった子で、それゆえにいじめを受けていました。化け物になった「僕」を怖がることもなく、一目で誰だか言い当てた矢野さん。彼女はここで「夜休み」を過ごしているのだと言う。それから僕と彼女の夜休みが始まるのでした。【表現の上手さが光る】本作は小説という媒体であることを活かした表現がおもしろい作品でした。昼の間主人公は自分のことを「俺」、矢野さんを「矢野」と呼び、夜は「僕」、「矢野さん」と呼んでいます。これにより、日中はクラスから浮き上がらないように気を使い、積極的でないにしろ矢野さんをいじめることに加担していることに対する罪悪感や窮屈さを表現しているように感じます。一方で夜のほうがしがらみにとらわれることなく、一対一の人としての関係が築けているように思いました。こうした表現方法は文字で表現する小説ならではの魅せ方かなと思います。【いい子が傷つ、くのはやだ、ね】※若干ネタバレあり。吾輩は学校という施設において楽しい思い出がほとんどないので、こうしたテーマの作品を読むといたたまれない気持ちになります。異質なものを目ざとく探し出してわざわざ攻撃を始めるという、人間の醜さや罪深さを見せつけられる感じがします。仕事であればお互い生活を支えるためという目的があるので「それなり」の関係に落ち着く部分があると思います。一方で学校は訳の分からないまま行くことを強要される施設であり、集団や全体の流れに合わせることを求められます。未発達な個体がそうしたストレスに晒されることでいじめなどの問題が発生し、システムがそれをフォローしきれていないというのが現状のように思います。吾輩の大切な友人の子どもさんが学校に行くような年頃になりました。吾輩も子どもを授かることがあれば、そうした場所に我が子を放り込まなければならないのかと思うと気が滅入ります。作中で保健の先生が矢野さんに伝えた「難しいことはいい。生き延びなさい。大人になったらちょっとは自由になれる」という言葉に胸をえぐられる思いでした。残念ながら、これが現状で最も有効な手段なのでしょう。いじめのことを騒いだところで解決できないばかりか、より悪化するなんて話はいくらでもあります。結局学校というシステムは、今後も対した改善が見られないまま軋みながらも続いていくのでしょうから「何とか生き延びる」しかないのでしょうね。確かに吾輩も、大人になってからの方が生きやすくなったように思います。本作から何を感じ取るか? 受け手それぞれで分かれる作品であると思います。特に終盤は「僕」の主観的な想いが多く描かれていて、解釈は読者の数だけあるように感じました。それゆえ好みの分かれる作品かもしれませんが、繊細でつぶさに心の流れを描いた良作であると思います。送料無料/よるのばけもの/住野よるよかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2016.12.31
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2年前に起こった未解決の殺人事件。それは大きな社会の歪みを映していたのでした。【送料無料】 震える牛 / 相場英雄 【本】【あらすじ】田川信一(たがわ しんいち)は警視庁捜査一課に勤務していた叩き上げの刑事でした。体を壊してからは捜査一課継続捜査班への配属になりました。ここは迷宮入り濃厚の未解決事件を追う日の当たらない部署。配属されて1年9ヶ月。部署にも馴染んだ頃、一つの事件が舞い込んできます。「中野駅前 居酒屋強盗殺人事件」。全国チェーンの居酒屋で凶行が起きました。全身黒ずくめで目出し帽を被った中肉中背の男が店員を切りつけレジの金を強奪。続いて居合わせた客二人を殺害し逃走。外国人による強盗と思われた本事件は解決されないまま2年が過ぎました。地取りと鑑取りの猛者と呼ばれ、地道な情報収集に定評のある田川は丹念に事件をたどって行きます。ただの強盗事件と思われていたこの事件は、やがて消費者を欺く企業や、安全より経済を優先する社会の闇を炙りだすのでした。【社会の課題を生々しく描く】本作は、現在日本が抱えている様々な問題について取り上げています。巨大ショッピングセンター進出により姿を消す地方の商店。景気の悪化によりショッピングセンターが撤退すると、後に残るのは廃墟とシャッター街のみ。地方には買い物難民が溢れかえっています。こうした地域都市の崩壊は、今日本の各地で起こっています。他にも、利益を最優先する企業による産地偽装や食品添加物。BSEや東日本大震災復興の裏で見られる現実等、今我々が直面している事柄がじっくりと描かれています。【自戒のきっかけとして】本作は利益を貪る大企業の様子が描かれています。確かに資本主義経済においては、資金力が物を言います。巨大ショッピングモールに敗れた商店街や個人店舗は企業努力が足らなかったと言えばそれまでです。ですがあらゆるものを併呑して巨大化した企業は、やがて自重を支えられず歪みや腐敗をしていきます。これを企業の傲慢と切り捨てるのは誤りであると思います。「もっと安いものを。とにかく安いものを」と叫ぶ消費者も反省すべき点があると思います。安いものを提供しようとすれば、そのしわ寄せが人件費や品質に及び、やがては消費者の経済や健康を蝕んでいくことになるのです。こうした作品を通して、我々消費者も意識を変えていくことが重要なのかなと感じました。作品の言葉を借りれば「極限まで推し進められた自由市場主義は、おそろしく偏狭で、近視眼的で、破壊的だ。より人間的な思想に、取って代わられる必要がある」と思います。田川刑事の「身の丈で暮らせるのが一番だと思わんか?」という言葉が身に染みます。そろそろ我々は「自分さえ良ければいい」という考えから脱却しなければならないのでしょうね。新品はこちら。【送料無料】 震える牛 / 相場英雄 【本】中古はこちら。【古本】震える牛/相場英雄【中古】 afbよかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2016.12.22
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大切な人が殺された時、あなたは「復讐法」を選びますか?今まで各話を紹介してきた「ジャッジメント」。今回は全体のまとめをご紹介です。ジャッジメント [ 小林由香 ]【あらすじ】舞台は20××年。凶悪な犯罪が増える日本において「復讐法」が成立しました。復讐法は犯罪者から受けた被害内容と同じことを合法的に刑罰として執行できるというものです。裁判によってこの法が適用となった場合、被害者かそれに準じる者は、旧来の法か復讐法のどちらで判決を下すか決定することができます。ただし復讐法を選択した場合は、選択した者自らの手で刑を執行しなければなりません。施行から一年が経過し、申請率とは増加。同時に本法を悪法と呼び廃止運動を行う人も増えてきました。果たして復讐法がもたらすものは何なのでしょうか?【丹念な心情描写】本書の見所は、登場人物の心理描写にあると思います。復讐法によって公然と仕返しができる、実際はそれほど単純なものではないようです。復讐によって「自分も相手と同じ『人殺し』になってしまった」と感じる者。大切な人を失ってから初めて、生前相手のことをいかに見ていなかったのかと気づかされる者。復讐法反対していたのだが、いざ自分が権利者になった時、大事な人を失った復讐をすべきか思い悩む者。様々な苦しみ、葛藤が生まれています。その一方で復讐することによって「救われた」と感じる遺族もいました。登場人物の気持ちがとても丁寧に描かれており、違和感なく読むことができました。【登場人物にも注目】この物語は応報監察官、鳥谷文乃(とりたに あやの)の目線を通して描写されています。彼女に職務は復讐法の執行が滞りなく進むように見届けること。そして執行者の安全を守ることです。多くの感情が渦巻く刑務執行現場を、彼女は見届けていきます。私情を殺して職務に務めるにしては人間的過ぎる彼女は、いつもいたたまれない気持ちやこれでいいのかという疑問を感じています。個人的には鳥谷の上司である五十嵐英太(いがらし えいた)が味わい深かったです。人嫌いと噂のある彼は、同じ部屋にいるのにメールでやりとりをします。付き合いにくい人物かと思えば規則違反の責任を問われそうになった鳥谷を庇ってくれたりと、つかみどころのない所がおもしろいですね。本書の刑務官たちは、みな一様にプライベートが描かれていません。勤務中の姿しか登場しないので、その人となりや考え方は読者が想像で補うしかありません。人物の丹念な心理描写に比べてあまりに少ない刑務官たち個人の描写は、作品全体に無機質な雰囲気を添えていると思います。【復讐に先に何を見る?】本作は「復讐法」を軸に、執行の様子やそこに至る過程を淡々と描いています。世界がひっくり返るような大事件が起こるわけでもなければ、主人公たちの活躍によって何かが変わるわけでもありません。「それでも世の中は回っていく」さまをただただ描いています。この登場人物たちによって世の中が変わるわけでもない所が妙にリアルだと思います。そして実際に復讐法ができたとしたら、こうしたことが起こりうるのではないかと思われるエピソードばかりでした。この物語から何を感じ取るか?それは読者それぞれ分かれる部分の多い作品なのではないかと思いました。個人的には「サイレン」と「ジャッジメント」が好きです。新品はこちら。ジャッジメント [ 小林由香 ]中古はこちら。【中古】ジャッジメント / 小林由香よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2016.12.05
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大切な人が殺された時、あなたは「復讐法」を選びますか?送料無料/ジャッジメント/小林由香舞台は20××年。凶悪な犯罪が増える日本において「復讐法」が成立しました。復讐法は犯罪者から受けた被害内容と同じことを合法的に刑罰として執行できるというものです。裁判によってこの法が適用となった場合、被害者かそれに準じる者は、旧来の法か復讐法のどちらで判決を下すか決定することができます。ただし復讐法を選択した場合は、選択した者自らの手で刑を執行しなければなりません。施行から一年が経過し、申請率とは増加。同時に本法を悪法と呼び廃止運動を行う人も増えてきました。今回はその第5話「ジャッジメント」のご紹介です。育児放棄により、5歳の幼女が餓死しました。母親と、幼女とは血はつながっていない内縁の夫が逮捕され、復讐法の適用となりました。権利者は幼女の兄で10歳の少年。彼は復讐法を選択しました。親が餓死するまで放置し、それに自分も立ち会うと言うのです。長く続く執行。やがて少年自身も食事を拒否するようになります。彼が許せなかったもの、裁きたかったものは何なのか?本作のタイトル名を冠しただけに、このエピソードは特に深いものがあるように感じました。育児放棄や暴力の果ての死。ニュースに出るたびにいたたまれない気持ちになる種類の犯罪ですね。人物の心情をここまで丹念に描いているのはすごいと思いました。新品はこちら。送料無料/ジャッジメント/小林由香中古はこちら。【中古】ジャッジメント / 小林由香よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2016.12.04
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大切な人が殺された時、あなたは「復讐法」を選びますか?ジャッジメント/小林由香【2500円以上送料無料】舞台は20××年。凶悪な犯罪が増える日本において「復讐法」が成立しました。復讐法は犯罪者から受けた被害内容と同じことを合法的に刑罰として執行できるというものです。裁判によってこの法が適用となった場合、被害者かそれに準じる者は、旧来の法か復讐法のどちらで判決を下すか決定することができます。ただし復讐法を選択した場合は、選択した者自らの手で刑を執行しなければなりません。施行から一年が経過し、申請率とは増加。同時に本法を悪法と呼び廃止運動を行う人も増えてきました。今回はその第4話「フェイク」のご紹介です。10歳の少年が建物の屋上から突き落とされ死亡しました。殺害したのは67歳の霊能者。彼女の孫が殺されることを予見し、孫を守ろうとして少年を殺害したのでした。霊能者は「自分は孫を守ろうとしただけで殺意は無かった」と主張するも認められず、復讐法の適用となりました。権利者は殺された少年の母親。予定通り刑が執行されるはずだったのですが……見ようによって簡単にひっくり返ってしまう状況証拠。結局どれが真実だったのか? 後味の悪いお話でした。新品はこちら。ジャッジメント/小林由香【2500円以上送料無料】中古はこちら。【中古】ジャッジメント / 小林由香よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2016.12.03
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大切な人が殺された時、あなたは「復讐法」を選びますか?【送料無料】 ジャッジメント / 小林由香 【本】舞台は20××年。凶悪な犯罪が増える日本において「復讐法」が成立しました。復讐法は犯罪者から受けた被害内容と同じことを合法的に刑罰として執行できるというものです。裁判によってこの法が適用となった場合、被害者かそれに準じる者は、旧来の法か復讐法のどちらで判決を下すか決定することができます。ただし復讐法を選択した場合は、選択した者自らの手で刑を執行しなければなりません。施行から一年が経過し、申請率とは増加。同時に本法を悪法と呼び廃止運動を行う人も増えてきました。今回はその第3話「アンカー」のご紹介です。ショッピングモールで通り魔事件が発生し、多くの人が負傷、殺害されました。容疑者は精神鑑定の結果旧来の法律では不起訴となり、もう一つは復讐法の適用が認められました。今回復讐法の選択権利者に選ばれた人は3人。権利者が複数いる場合は多数決になります。復讐法が決定した場合、同法を選ばなかった者は参加しないという選択肢も与えられます。2人は即座に復讐法を希望しましたが、最後の1人は復讐法を選ぶことをためらっていました。実際に復讐法が運用されたら、こうしたケースって多々出てくると思うのです。こうしたエピソードをきちんと描いているのはさすがだと思いました。3人それぞれの気持ちも丁寧に描かれています。どれが正しいとか悪いとか無いだけに、何ともやるせないですね。また復讐法を選ばない人に対してネットで「腰抜け」とか「被害者を愛していないのか」とか、事情を知りもしないくせに勝手なことを書き込む連中もいたりして、人間やネット社会の醜い部分も味わえてしまいます。何か嫌ですね。権利者が複数ということで、これまでの2話とはまた違った味わいのあるエピソードです。新品はこちら。【送料無料】 ジャッジメント / 小林由香 【本】中古はこちら。【中古】ジャッジメント / 小林由香よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2016.12.01
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大切な人が殺された時、あなたは「復讐法」を選びますか?ジャッジメント[本/雑誌] / 小林由香/著舞台は20××年。凶悪な犯罪が増える日本において「復讐法」が成立しました。復讐法は犯罪者から受けた被害内容と同じことを合法的に刑罰として執行できるというものです。裁判によってこの法が適用となった場合、被害者かそれに準じる者は、旧来の法か復讐法のどちらで判決を下すか決定することができます。ただし復讐法を選択した場合は、選択した者自らの手で刑を執行しなければなりません。施行から一年が経過し、申請率とは増加。同時に本法を悪法と呼び廃止運動を行う人も増えてきました。今回はその第2話「ボーダー」のご紹介です。14歳の少女が祖母を殺害しました。少女は反省する様子は一切なく、自ら死刑を望んでいました。本件は復讐法の適用となり、権利者である少女の母親は復讐法を選択しました。孫が祖母を殺し、母が娘を復讐法で裁こうとします。人命を軽視するような発言をして自ら極刑を望む少女は世間で言われるような暴走した若者なのでしょうか? それとも……人が人を裁くという不確かさを描いた一話であると思いました。新品はこちら。ジャッジメント[本/雑誌] / 小林由香/著中古はこちら。【中古】ジャッジメント / 小林由香よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2016.11.24
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大切な人が殺された時、あなたは「復讐法」を選びますか?送料無料/ジャッジメント/小林由香舞台は20××年。凶悪な犯罪が増える日本において「復讐法」が成立しました。復讐法は犯罪者から受けた被害内容と同じことを合法的に刑罰として執行できるというものです。裁判によってこの法が適用となった場合、被害者かそれに準じる者は、旧来の法か復讐法のどちらで判決を下すか決定することができます。ただし復讐法を選択した場合は、選択した者自らの手で刑を執行しなければなりません。施行から一年が経過し、申請率とは増加。同時に本法を悪法と呼び廃止運動を行う人も増えてきました。今回はその第1話「サイレン」のご紹介です。16歳の少年が19歳の少年グループに拉致され暴行を受けた後、4日目に死亡。主犯格の少年が復讐法の対象となりました。本事件の「法の選択権利者」は殺された少年の父親。彼は復讐法の適用を希望し、執行者となりました。少し前に起こった少年の暴行による死亡事故を思い出してしまい、寒気のするお話でした。一種異様なリアリティもさることながら、人物の心理描写が丹念でした。被害者の父親も家族のためにと仕事に没頭し、こうした事件が起こって初めて「自分は息子のことを何も知らなかった」と愕然とするシーンは印象深かったです。ある日突然理不尽な理由で大切な人を奪われることに対する憤り。復讐によって「自分も殺人者になってしまう」ことへの苦悩。加害者の家族など、復讐法ができたとしたらこういうことが起こるんだろうなということが描かれていました。投げかけるテーマの重さと同時に、丹念でリアルな心理描写が見どころだと思います。新品はこちら。送料無料/ジャッジメント/小林由香中古はこちら。【中古】ジャッジメント / 小林由香よかったらクリックお願いします。にほんブログ村
2016.11.20
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