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カテゴリ: 映画の話
映画や本についての感想を日記に書くときは、なるべく話の核心を明かしてしまわないように、これから作品に触れる人の驚きや感激を奪ってしまわないように…と、心がけているつもりです。

でも、先日見てきた、この二本の映画について、とくに「ミリオンダラー・ベイビー」については、どうしても…終盤の展開について触れたいところ。
アカデミー賞の授賞式を見た限りでは、「女性ボクサーと老トレーナーの絆を描いた物語」という印象でしたが、日本公開後は「いやいや、それだけでは終わらないんですよ」という宣伝方法をとっているみたいですね。
えっ、それはCMで見せてほしくなかった…というシーンも、さも「見せ場です!泣かせ場です!」という感じで、TVで流れております。

とにもかくにも、もし、これから映画をご覧になる予定で「ネタバレはイヤ!」という方は、この先の文章はお読みにならないでください。ただ、私は二作品とも、映画館に足を運んだ価値は十分あったと思いました。
【映画公式サイト】
<ミリオンダラー・ベイビー>
 http://www.md-baby.jp/
<海を飛ぶ夢>


まずは「ミリオンダラー・ベイビー」。

ウェイトレスをしながら、ボクシングで貧しさから這い上がることを夢見る主人公、マギー(ヒラリー・スワンク)。年老いたジムの経営者、フランキー(C・イーストウッド)に半ば強引に弟子入りし、その出会いから、二人は強い絆で結ばれ、チャンピオンへの階段を登っていく…。

性別も年代も違うけれど、それまでの人生でたくさんの「痛い目」にあって、もう傷つけられることに慣れてしまっているようなマギーとフランキー。
そんな共通点を持つ二人が、一つの目標に向って突き進んでいくとき、お互いの輝きがどんどん増していく。

その様子に、見ているこちらもぐんぐん引き込まれていっただけに、タイトル戦でのある出来事によって、マギーが描いていた全ての夢を絶たれる…という運命の痛ましさが、強烈に胸に迫ってきました。

夢を追っていた頃は、働いているレストランで、客の食べ残しのステーキを夕食に持ち帰ることすら厭わなかったマギー。
そんな彼女が、「愛されること」「賞賛を受けること」を体験した後で、夢を奪われる残酷さ。
苦しみに耐えた末に、自分の生きていく上での「誇り」とは何なのか、という問いに対して彼女が出した答え(それが「逃げ」には見えないところがうまい!)と、その願いを突きつけられたフランキーの苦悩。

マギーは、最後、フランキーに「ありがとう」という言葉を口にしないのですね。
代りに、万感こもった涙が、彼女の思いの丈を込めて頬を伝う。
映画館では、すすり泣きが起こっていたけれど、この映画はいわゆる「泣ける映画」ではないと思います。

「彼らは、こう生きた。」
という物語が淡々と紡がれていく。
余計なヒューマニズムや、過剰な叙情性は一切排除されているのが、監督の力量だと思うし、(もしかしたら)原作の魅力なのかもしれません。

でも、一つだけ文句を言いたい点があるとすれば。
この映画、イーストウッドのオスカー受賞作「許されざる者」とどうしてもかぶる…

物語の中盤まで、人生の盛りを過ぎたイーストウッドの衰えを前面に押し出しているのに、ラストでその彼が、唐突に強大な力を発揮し、そして…いなくなってしまう。っていうところも、(あれ?こんなの前に見たぞ??)という感じで。
私にとっては、その「既視感」が、映画の世界にのめりこんでいたのがスゥっと醒めてしまう部分でもあり、惜しいなぁという感じでした。

次に見たのが「海を飛ぶ夢」です。
「アザーズ」で知られるスペインの映画監督、アメナーバルの新作。

肢体の自由を奪われ、30年近くベッドの上で過ごす主人公の「尊厳死」をテーマにした作品です。
映画は、死を決意した主人公ラモンと、それを取り巻く人々の姿を描きながら進みます。

「ミリオンダラー・ベイビー」同様、この作品も
「彼らは、こう生きた。」
という物語であって、作品に出てくる様々な登場人物が繰り広げるような「その死は是か非か?」を問うような気持ちにはなれませんでした。
下手な感情移入を許さない、崇高な存在感が主演のハビエル・バルデムにはあります。

「なぜ、僕は死にたい?なぜ、自分の人生を愛せない?」
と、ベッドの上で寝返りも打てぬまま、泣き叫ぶラモンの姿が、忘れられない。
「自分らしく」って言葉は、大嫌いなのだけれど…彼にとっては、死ぬことがすなわち「自分の人生を生きる」ということだったのでしょう。
しかし、彼を愛して、献身的に支えてきた周囲の人々は、彼を失うことを受け入れられるのか?
その葛藤も見事に描き出されていて、
「私だったら、どうする?」
という思いにずっと突き動かされていました。

映画の中で、彼と同様、不自由な体と未来への絶望を胸にして心を通わせる女性が登場します。
物語のラストに登場する、病が進行した彼女の姿…
「尊厳ある生とは何か、死とは何か」
むしろ、彼女の虚ろな瞳と表情が、自死を選んだ主人公の姿よりも強烈に、その問いを訴えかけているように思えて、ふいに涙がこぼれてしまいました。

この映画は実話を元に作られたのだと言います。実際に、ラモン・サンペドロ氏の著作を読んでみたいと思いました。

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最終更新日  2005.06.16 16:58:16
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