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カテゴリ: 映画の話
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小学生の頃、ニュースで見たイランのイスラム革命。
私は、ゲジゲジ眉毛のホメイニ師の顔がとにかく怖くて、直感的に(この人は悪い人に違いない)と、革命の背景も知らずに思い込んだものでした。
その後のイラン・イラク戦争については、新聞の「イラ・イラ戦争」という見出しが何だか冗談みたいだったと、そんなおぼろげな記憶があるだけ。

一応、今のイランの大統領の名前は言えるし、キアロスタミの映画は大好きだけれど、じゃあイランという国について何を知っているのか?と問われたら・・・

バブル期に上野あたりに群れていた出稼ぎのイラン人とか、ダエイとかマハダビキアとかアジジとか(←サッカー選手です)、わりと最近ではダルビッシュ君??そんな断片的なイメージしか、思い浮かびません。

この作品は、イラン出身で現在はフランス在住のマルジャン・サトラピ女史が、自らの幼少期から、15年以上にわたる前半生を描いたアニメ映画。




※楽天ブックスの商品紹介で、数ページ中身が紹介されています※


これ以上簡略化できないというくらい、シンプルな線で描かれる人物の表情。
それが、繊細な感情をとてもヴィヴィッドに伝えてくることに、冒頭から驚かされました。

アニメーションを映画館で観るのは、「ハウルの動く城」以来か?という感じでしたが、本当に、この表現方法でなければ出来ないことがあるんだ、ということを実感しました。


急激に自由が奪われ、「言いたいことの言えない社会」が作りあげられていく過程がテンポ良く描かれて、すうっと少女マルジの日常に入り込み、彼女の喜怒哀楽に同調してしまいました。

アイアン・メイデンを大音量で聞き、ブルース・リーに夢中になり、おばあちゃんと一緒に映画館で「ゴジラ」を観る・・・
そんな女の子の日常が、親しい人々の投獄や処刑、言論統制や空襲と隣り合わせになっている。

マルジが成長していく過程で、周囲の年長者たちが与える、深みのある言葉の数々がとても印象的です。

中でも、主人公に最も大きな影響力を持っていたのはおばあさんなのですが、自由と安全を求めて国外留学をするマルジに言う

「これから、お前の人生にたくさんの試練が待ってる。でも、バカなやつらに傷つけられても相手が愚かだと思えばいい。そうすれば仕返しをせずに済む」

・・・このセリフには本当に、色々なことを考えさせられてしまって・・・胸にズーンと響きました。

神経をすり減らす厳しい日常の中でも、楽しみを追わずにいられない“名もなき庶民のたくましさ”も、随所にユーモアを交えて描かれています。
これが、悪の枢軸、と超大国に名指しされた国家の下、現実に生きている人々の姿なのだと思うと・・・

マルジの人生に絡みつくイランの現代史。その出来事を追いつつ、あぁ、ニュースを追っていれば世界がわかるなんてことは、ないんだな。必要なのは、ニュース映像のさらに奥へ、裏へ、想像力をふくらませる力なんだ・・・ということ、改めて思い知らされました。

映画は、オルリー空港でテヘラン行きの便の掲示を見上げる、大人になったマルジャンの姿から始まります。
豊かな黒髪を、周囲の好奇の目にさらされながらヴェールで包み、“イスラムの女”となって、待合室のソファに座る彼女。



ちなみに原作・監督のマルジャンは1969生、私と同年の生まれでした。それを知ったとき、何とも言えない苦さが私の胸のうちに広がり、生まれ合わせた歴史に翻弄されずにはいられない人間の運命を思ったのです。

【「ペルセポリス」公式サイトはこちら。】
 http://persepolis-movie.jp/

この映画、アニメなので当然声優が演じるのですが、これがマルジャンとその母をキアラ・マストロヤンニとカトリーヌ・ドヌーヴの親子競演、という豪華ラインナップ!
しかも、おばあちゃん役の声優はダニエル・ダリュー、「ロシュフォールの恋人たち」や「八人の女たち」でドヌーヴの母を演じたあの女優さんです。フランス語はわからないけど、でも三者三様、すばらしかったです。






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最終更新日  2008.03.11 01:32:42
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Re:「ペルセポリス」を観た。(03/10)  
桃饅頭  さん
友人がイランの方と結婚したので遊びに行った時などに話す機会があります。
戦争に行った時の話も聞いたことがありますが、
サリィさんのおっしゃるように同世代が片やこんな経験をしてきたのかと、衝撃的でした。
知識としては知っているのと、実際の話を当事者から聞くのとでは全然違いますね。

戦時下の日本もそうであったように、どんな国がどんな状況にあろうと、
その中には自分たちと同じように普通の日々を大切に暮らしている人がいる。
という当たり前のことなんですが、
本当にニュースだけでは実感としてなかなか伝わってこないものです…。

アニメも本も、面白そうですね。
(2008.03.11 08:42:15)

映画と授業  
まろ0301  さん
 「入試」なんかの制約が吹っ飛んでしまったら、やってみたいのが、「映画で学ぶ世界史」です。
 あるいは、「アニメで知る『世界』」。
 映画のワンシーンを「語る」事はあります。しかし、なかなか、「見せる」というところまでは行きません。
 もう、半ばヤケクソでやってみようかな・・なんて空想しています。 (2008.03.12 20:47:32)

誰もが歴史を生きている  
サリィ斉藤  さん
桃饅頭さん

>友人がイランの方と結婚したので遊びに行った時などに話す機会があります。

そういう形で生々しい話を聞かせてもらうというのは、本当に重く心に響く経験でしょうね。

映画の中では、留学先のウィーンで、モヒカンのパンクスタイルの同級生からマルジが
「革命と戦争、両方体験したのか!」
・・・と、半ば羨むような態度を取られるシーンが何とも微妙で、苦い印象が残りました。

>戦時下の日本もそうであったように、どんな国がどんな状況にあろうと、
>その中には自分たちと同じように普通の日々を大切に暮らしている人がいる。

もう本当にその通りだと思います。そういう考え方を持ち続けることは辛いことでもあるけれど、忘れてはいけないことですよね。 (2008.03.13 00:30:55)

Re:映画と授業(03/10)  
サリィ斉藤  さん
まろ0301さん

> 「入試」なんかの制約が吹っ飛んでしまったら、やってみたいのが、「映画で学ぶ世界史」です。

これは教材には事欠かないですものね。私でさえ、どんどん授業プランの夢想が広がってしまいます(苦笑)。
歴史の描き方について、第三者の立場で外側から眺めたことではなく、当事者の、あるいは当事者の血を受け継いだ人々ならではの表現や、込められた思いが味わえるのも、映画や小説の持つ力だと思います。

「ホテル・ルワンダ」「麦の穂をゆらす風」「善き人のためのソナタ」・・・映画によって学ばされたことは、私の場合、本当に枚挙に暇がないです。学校を出ても勉強は一生、です。 (2008.03.13 00:38:08)

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