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トールも製作に関わったオラクルカードです♪
2007年03月19日
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カテゴリ: 天使夜話
     三


 すると、自分の内側にひびくようにして、新しい声が聞こえた。

――苦しみ悲しみの原因が、まだ癒されていないからだ。

 だれ、という幼子の問いに、声は虹色の風でこたえた。

――幼きいとし子よ、私はおまえだよ。
  泣き叫ぶおまえの中で、つねに光を守ってきた。
  心の片隅に、いつも私の声が聞こえていただろう?
  おまえは辛すぎて、声の言うことを聞く余裕がなかっただけだ。
  だけどおまえが求めるなら、私はいつでも力を貸してやれる。


 大きな目の涙をぬぐって、彼は尋ねた。

――いいや。

 声が否定したので、幼子はまた泣きそうになった。このままでいてはいけないのなら、自分はどこへ行けばいいのだろう。あの優しい緑の声も、前へすすみなさいと言った。
 だけどぼくは、おおきくなることもできないのに。

――そのままでいい、とは私は言わぬ。
  けれど、おまえのすべてを赦そう。
  その怒りも、悲しみも、立ち止まって動けぬ時の流れも。

 虹色の風はいまや幼子をとりまき、やわらかな光を放って伝えてくる。私はおまえだ、と声は言ったけれど、白い閃光とひろげられた緑の腕が、気づくために必要なきっかけであったことに、幼子はおぼろげながらも思い至った。
 闇を切り裂く閃光がなければ、溺れてしまっていただろう。待っていてくれる腕がなければ、立ち上がることもできなかっただろう。
 そして、虹の声には耳をふさぎつづけていたのだろう。

――いと幼き愛(めぐ)し子よ、私の安息の翼の上で、しばし憩うがいい。

  私は、おまえとともに泣きはしない。
  けれども涙を流すおまえを、いつまでも抱きしめていよう。
  いつかその涙が乾いて、瞳が未来の光を見られるようになるまで。
  おまえを襲った怒りや悲しみの、ほんとうの意味に気づくときまで・・・・・・。

 幼子の胸にひびいたその声は、虹色の風にのって二人の天使にも聞こえていた。落ち着いた声は懐かしい、聞き覚えのあるものだった。

 幼子は嬉しそうに笑って、それを受けいれた。

 ちいさな幼子の影と、かがやく虹色の光とが完全に重なり、光が爆発する。ミカエルの剣で斬られていた牢獄がさらに光の波によって洗われ削りとられ、壁も鉄柵も崩れ落ちていった。

 虹色の光は、完全に廃墟となった牢獄の中心にあつまり、こんどは形をなしてゆく。
 それは背が高く、大きな力強い翼を持った天使だった。
 背に流れる黒髪は長くつややかで、瞳は深い紫色だ。その翼は闇色をしていたが、翼にも輝くばかりの白いローブにも、美しい虹色の光がたゆたっている。

「ルシフェル様・・・・・・」
 ラファエルが思わず呟く。

「ラファエル、ミカエル。ふたりとも、礼を言おう」
 黒髪の天使は微笑んだ。闇色の翼を大きくはためかせると、きらきらとした光が生まれ、さまざまな色に反射してまるで水晶の珠をふりまいたようだ。

「私は間違っていたんだな。ともに泣くことも、強い力で救おうとすることも、どちらも本当の救いではなかったのだ・・・・・・そして、そのことに自分自身で気づかねばならなかった」

 彼は目をあげた。視線の先には、あいかわらずの黒い流星たちがある。しかし、礫はもはやルシフェルを打つことなく、つらなる黒い真珠のように、おとなしくその翼に留まった。
 黒い翼は七色の虹をまとい、やわらかなその輝きが真珠をつつむ。真珠はゆっくりと眠るうちにしだいに虹が濃くなり、やがて浄化された光の蝶として、自らふわりと飛び立っていった。

 必要なのは存在を認める勇気と赦しだったのだ。それはミカエルの剣と、ラファエルの手が彼に気づかせてくれたことだった。
 天界に戻られますか、というミカエルの問いに、彼は遠く星屑の空を見やって首をふった。

「いや、私はここにいようと思う。どこへもゆけぬこの小さき者たちに、わが翼と眠る幼子の魂にかけて、ひとときの安息を与えよう」

 闇のやすらぎを守る天使、光と闇のめぐりを見守る暁の明星として。

 ルシフェルが片手をかざすと、やわらかな光が虹色の旋律となって空間を満たしていった。それは穏やかで優しい子守唄のように、虚無の空間をつつみ、癒してゆく。

 仲間を残してゆくことに躊躇を見せる二人の天使に、自分は大丈夫だからと、彼は静かな微笑みをむけた。

「伝えておくれ。どこにいようとも、どんなに時が経とうとも、ずっと愛していると」


 愛し子よ。
 いつでも、おまえが必要とするときに。
 その傷が癒えて光に変わるまで、私の翼に苦しみを預けよ。
 おまえのすべてを赦し、すべてをこの翼で抱いていよう。



 私はおまえを愛している。
 私はおまえを愛している。






(了)









*************

天使夜話 ~暁の星~ 完結編です。

フリーページ にて、全編つづけて読むことができます。


読んでくださった皆様、どうもありがとうございました。
ご意見ご感想等、いただければ幸いでございます。







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最終更新日  2010年05月14日 17時26分36秒
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