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トールも製作に関わったオラクルカードです♪
2009年04月15日
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模様が描かれた裏面を上にして、トールの手がそれをシャッフルし、山にまとめて一枚めくった。
カードのメッセージを読んで、悪くはないけれど、まだいまいちだな、とトールは評価した。

「どう思う、デセル?」

仕事を手伝いにきてくれていたデセルは、明るいペリドットの瞳をきらめかせてカードを注視した。

「そうですねえ」

その手がカードを卓上にひっくりかえしてゆく。
デセルは神殿時代の筆頭技術者であり、エネルギー制御の技術は群を抜いている。彼が手伝いにきてくれるのは、願ってもないことだった。

「これなんかいい反応してますけど。メッセージによってエネルギーの質量が違うんだな・・・・・・」
「そうなんだ。で、七かける四、足す八だろ。横糸にエレメントを入れ込んだら安定するんじゃないかな。それから裏表紙と連動させて・・・・・・」
「たしかに。やってみましょう」

二人とも職人気質なところがあるので、凝りだすと止まらない部分がある。
チャクラカラーに対応するクリスタルのエネルギーを対比させたらどうか、動力源はどうするか、恒久性は、などさまざまな議論がかわされ、自宅敷地ルキアの研究室には、その夜遅くまで灯りがついていた。

真夜中もすぎたころ、トールは机にかがみこむようになっていた背中をのばして大きく息をついた。

「そろそろ寝ないと本体に文句言われるな。デセル、遅くまでありがとう」

「あ、いや」

顔だけあげてデセルが答える。しかし心はまだ半分以上机の上の魔法式にとらわれていることが、その表情からわかった。

「ちゃんと寝なきゃだめだよ。まだ納期には日があるんだし、ベッドは君の部屋に用意してあるから」

親友の肩を叩いて笑いながらトールは言った。外見よりずっと広い建物内には、客室やヒーリングルーム等、いくつも部屋がある。その中に、デセルの専用客室もきちんとあった。

おやすみ、と手をふってトールが研究室を出て行く。彼の本体に倒れられては元も子もないから、デセルは手を振りかえして、散らかった机の上を眺めた。
部屋の半分ほどを占めていそうな大きな作業台の上に、多面体の模型、魔法式や魔法陣を書き込んだ何枚もの紙、いくつものクリスタル。どれも必要な場所に置いてあるので、仕事が終わるまで片付けるわけにいかない。

マグカップに手を伸ばして、すでに冷えかけた茶で喉をうるおす。
もうすこしやってしまおう、と彼は思った。
明日、銀髪の錬金術師が驚く顔を見たい。そうしたらトールの分身である彼女も、きっと喜んでくれるだろうから。

デセルは大きく伸びをして、また机に向かった。




翌朝、背中の痛みでデセルは目覚めた。
顔をしかめてあたりを見回すと、落ち着いた色の床と机の脚が目に入った。どうやら昨日あのまま机につっぷして寝てしまい、その後なにかの拍子に転げ落ちたもののようだ。

「いって・・・・・・」

頭をさすりながら呟いてひょろっとした長身を持ち上げ、椅子に座り直す。机のメモ用紙には、ミミズののたくったような字が書きつけられていて残念ながら自分でも読めなかった。
なんとか解読できないものだろうか。メモを見たまま、彼は冷えた茶でも飲もうと左手をマグにのばした。
持ったものの手元が狂い、中身を自分の胸にぶちまけてしまう。

茶色く染まった服を見下ろしてため息をつき、デセルは椅子から立ち上がった。キッチンへ向かおうとして机の角にしたたか右腿をぶつけ、思わずしゃがみこむ。

不運をひととおり呪い終わって顔をあげたデセルの視線の先に、長い銀髪がゆれた。
はっとして見直すと、ドアを半開きにしてすみれ色の瞳が彼を見ていた。

「デセル、そこで寝たの?」

「あ・・・・・・いえ・・・・・・」

寝癖のついているに違いない髪と汚れた胸元と、どっちを隠すべきかと手が意味もなく動く。

「ご飯は? ちゃんと食べた?」

デセルが言いつくろうまえに、腹の虫が盛大に存在を主張する。片手のマグをもてあそびつつ、彼は幼い子供のように赤面した。
噴きだした銀巫女は、いいわ、いらっしゃいと彼をダイニングに誘い、その途中で姿を消した。戻ったときには男物の着替えを手に持っている。

部屋で着替えたデセルがダイニングに行くと、すでに美味しそうな匂いがただよっていた。もう一度大声をあげようとする腹の虫をなんとかなだめる彼の前に、新鮮なサラダやフルーツ、きつね色のトーストなどの朝食が次々と届けられる。

「もう、ちゃんとベッドで寝てねってトールが言ったのに」

湯気のたつハーブティをデセルの前に置きながら彼女が言う。
かけらと統合を果たした後、彼女はマリアと名乗るようになっていたが、まさにぴったりだとデセルは思った。
なるべくがっつかないように自制しつつ、すみません、と彼は謝った。

「ちゃんと専用の部屋があるのだから、使ってちょうだいね。心配だから」

マリアは自分の分のカップを持って、デセルの前の席に腰かける。忙しく口を動かしながらデセルがうなずく・・・・・・なんだかやたらニコニコしていて、話はあまり聞いていなさそうだ。
案の定、彼はトーストを口に入れたとたんに激しくむせてしまった。

ハーブティを飲んで照れ隠しに笑う彼を見ていると、マリアもこらえきれず笑い出した。

「それで、仕掛けはうまくいきそうなの?」

「ええ、あと少しで。・・・・・・そういえば、彼は?」

「岩山の小屋へ行ってるわ、本はあそこが多いから。もうひとりはクリロズで結界点検、あとは本体の新居の調整」

マリアは優雅にハーブティを口に含んだ。もうすぐ来ると思うわよ、と続ける。

デセルはもったいないような気持ちで、最後の果物を飲み下した。甘酸っぱい味が喉をすべりおりてゆく。
両手をあわせて、ごちそうさまでしたっ、と頭を下げる彼の前の皿は、すべてきれいに空になっていた。

「おそまつさま。足りたかしら?」

身体ごとうなずく彼に微笑み、マリアの指が楽器を弾くように机の上を踊った。食べ終わった食器がきれいになくなって、おかわりの暖かいティーポットが現れる。このあたりの鮮やかさは、やはりトールと同一の魂なのだと感じさせた。

爽やかな味のハーブティを飲み終えて、デセルは幸せな気分で礼を言い立ち上がった。
床で寝た背中の痛みも、この朝のためだったなら悪くはない。
そう思っていると続いて席を立ったマリアがやってきて、彼の背に手をあてた。

「床で寝たなら痛むでしょう。もうそんなことしてはだめよ」

彼女の手があたったその場所から、すみやかに痛みがひいてゆく。

最高の朝だ、とデセルは思った。




ちなみに、その日の昼。

「デセル、そろそろ昼、どうだい?」

「・・・・・・」

「昼だよ」

「・・・・・・」

「デーセール」

「・・・・・・」

「デセル! 昼!」

「・・・・・・あー?」

四回目の呼びかけにして、ようやく金茶の髪の男は生返事をした。視線は手の中のカードと、浮かび上がる模型から外さない。
デセルの方が凝り性なのか、マリアという別人格がいる分トールの方が生活にも気を配りやすいだけなのか、は判断しがたいところではある。

しかしこのままでは埒が明かないと思ったトールは強硬手段に出ることにした。
デセルが夢中になってくれるのは嬉しいが、彼の本体に影響が出ては困るからだ。

猫に似たデセルの目が見つめる多面体の先で、突然空間がぐにゃりと歪み、亀裂ができた。
ダイニングを映した亀裂はどんどん大きくなり、やがて技術者二人を飲み込んでゆく。
デセルが目をみはり、まばたきひとつするうちには、彼らはダイニングのテーブルについていた。

「デセル、お昼ごはんよ」

ほかほかのスープを皿によそいながらマリアが微笑む。
彼らは「時間」に割り込んだのだ・・・・・・とデセルは気づいた。このダイニングテーブルから離れれば、時間は彼が生返事していたあの瞬間に戻る。
時間がもったいないから、という彼の言い訳を完全に封じられた形だ。

「さあ召し上がれ」

二声合唱で言われて、デセルは頭をかいた。
旨そうな匂いに、忘れられていた腹の虫のほうが先に応答していたのだった。









**************


この【銀の月のものがたり】シリーズは imagesカテゴリ でお読みいただけます。



↑トールとデセルさんが色々楽しく仕込んでる本、 「なにが見えてる?」 はこちら!
・・・・・・って売り切れになってるよ?! すごっ(笑)
新刊なのですぐ補充されると思いますけどね。重版とかねwwww
なにみえ専属錬金術師仕込みのカードを手に取ってみたいかたは、 2009年4月27日(月)9:59までに 楽天から購入されると特典がもらえます♪


仕込み、実際3次元でちゃんとできてんのか・・・!?と
私とデセルさんのご本体とひそかにかなり悩んだんですが(だってこんだけ言ってできてなかったら 笑)、
ものすごいエンジェルナンバーのオンパレードがあったので、どうやらできてるらしいですよw
お楽しみに~♪


物語を書くほうが忙しくてお返事遠慮させていただいておりますが、
ご感想大大大募集中です!!
執筆者に愛の手を~~~~~♪




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最終更新日  2009年04月15日 09時45分53秒
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