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nmcard_128128.gif
トールも製作に関わったオラクルカードです♪
2011年10月31日
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※作中えぐい表現があります。苦手な方はお気を付け下さい。








夢に、うなされる。
遠く時を経て、過去の痛みを見つめながら。



足を引きずって歩いている。手をついた壁に、不規則に途切れた赤い波線がいくつも描かれてゆく。
死体置き場から出ようとして。

浅い呼吸。
酸素が足りず、長くゆっくり息を吸おうとすると冷や汗が額に吹き出す。
歩いても歩いても、灰色の廊下が終わらない。


「お前は私のものだ」

呪詛のような声が響く。

「お前は私のものだ。その背に刻印があるのだから」

背中の新しい刺青、女の紋章を太い指がなぞる。
吐き気を催して必死に逃れようとする。

 違う、お前のものじゃない。

「私のものだ、グラディウス。私の玩具」
「お前をわかっているのは俺だけだ」

かぶさる声はあの男の。

「他の奴なんか駄目だよ、グラディウス。皆お前を捨ててゆく。ほら」

指さされて目を上げた先には、遠く去ってゆこうとする横顔。


 違う。

愕然とする自らを奮い立たせるように、両腕を抱いてかたくなに首を振る。違う、違う。

「違わない。俺だけがお前を愛してる。俺は心変わりしないぜ?」

見つめて銀髪に口づけてくる。ただし何人もの中のひとりにすぎないことを知っている。
この男の愛は、数がたくさん、ある。

多くに同じく愛をささやくように、多くを同じくばっさりと切り捨てるのだろう。なんの悪気もなく。

そしてまた捨てられる。一番ではないのだから。
躊躇もなく女王の命令の下に来る程度のものでしかないのだから。
この男は都合のいいところを取りたいだけにすぎない。

「忘れちまえよ…。忘れさせてやるよ」

 いらない。忘れたくない。
 何度も謝ってくれた。
 何度も手を差し伸べてくれた。
 背中の傷にキスしてくれた。
 汚いなんて言われなかった。

捕まえようと広げられた腕を避けて走り出す。
あの横顔のほうへ。
あれは幻影かもしれない。誰かのほうへ行ってしまう姿なら幻でいい。
けれど恐ろしい夢の中、そこに居ないかもしれないと思うのも胸の中を氷塊が滑りおりるようで。

幻であればいい。
幻であって欲しくない。

駆ける足に黒い墨のようなねばついた雲が絡まり重い。折れそうになる膝を叱咤する。
伸ばした手が届かない。
行けばきっと…、そう、行けばきっと、抱きしめてもらえるとどこかが知っているのに。


背中と腰の傷が痛い。


痛い …。。










一度目は焼かれ、二度目は皮膚ごと剥がされた。

生皮とはいえ痛覚遮断処理された人工皮膚だったから、痛みは思ったよりもなかったけれど。
ぬるりという感触が熟れた果物のようだった。
ひとしきり遊ばれた後は、また新しい人工皮膚を移植された。
三つ目の刺青は、途中で当時の飼い主が死亡したため、線彫りの入れかけでそのまま背に残っている。

子供から大人になるとき、押し込められた隙間に何を置き去ってきただろう。紅い瞳は、その色とは裏腹に硬く、かたく凍りついていった。

視覚、聴覚、嗅覚、嗅覚、触覚。
五感のどれにも検査上の異常はなかったが、すべて感覚が遠い。
昼は戦場に出て命を奪い、夜は誰かの相手をさせられる。ただその繰り返しの生活は、痛みも苦しみもかなしみもさびしさも、はるか触れえぬものとして暗闇の中に忘れさせていった。

ただひたすらに人を殺す自動人形、あるいは美しく強い獣。
施設の研究員たちが造りだそうと目指しているものは、つまり人ではない。
触れれば指が切れそうな、氷温下に凍てついた死神…。
人間ならぬそれは、彼らにとってはよい作品であったやもしれぬ。

混沌とした暗闇が周囲を包む。
蹴り出して走り出そうにも感触がなく、手探りをすれば空を掴む。
遠い空の真ん中にぽっかりと浮いているようで、胸のうつろを冷えた風が吹き過ぎた。

風が吹く感触があるなら、それはそこにいるからだと、言えるだろうか。
ああしかし、虚無を吹き抜ける冷たさが本物の風であると、どうして言うことができるだろう?
この感覚が間違いではないと、証明することなどできはしない。
きっと感じている気がしているだけ。
自分を騙し、なにも持たない寂寞の不安から目をそらしていたいだけ……


あるとき、暗闇にほそい一条の光が射した。
それは名刺大の紙のカードで、緑の縁取りがついていた。

『この部屋は、私の名前で一日キープしてある。 鍵はそれしかないから、今日は誰も入れない。
私は其所へは行かないから、残りの時間はお前の自由にしていい。 以上。』

それだけの短いメッセージ。
見世物として目隠しと手枷に戒められた10代の子供を相手にさせられたその人が、今日はお前を0時まで借り受けることにしていると、最後に口に銜えさせてくれたカードキー。

部屋に行くとその人はおらず、テーブルにカードが置いてあった。
もっと幼い子供と間違えられたのだろうか。何もかもが奪われることが普通だった自分に、生まれて初めて、キスをしてもいいかいと静かな声で聞いてきた人。
可否を聞かれて、迷ったもののすでに失うものもなかったからYESと答えた。生贄に意志を聞いてくる優しい言の葉の感触に、もう少し触れてみたかった。
どんな相手かと思っていたから、顔が見られないのは残念に思ったほどだ。

カードをとり、どこかにイニシャルでもないかとベッドに転がって裏表たっぷり眺めて……、気がついたら、そのまま時間まで泥のように眠っていた。

私物は持てなかったから、折ってベルトの裏に細工して隠した。夢も見ずに眠れた時間の御守のように。
一年ほど経って、戦場で失くしたときは探し回った。
よりどころを改めて喪ってしまったような気分になっていたから、急激に背が伸び出す直前、もう一度その相手に当たったときは幸運を感じた。
しかし小声で話しかけても返事はなく、当然だとなかば諦めながらも、どこか残念な心持ちがしたのだった。

いっときの相手でも愛さずにいられないその人が若い新任司令官のひとりであり、相手に当たった戦闘員をチームに迎えることになれば使いにくいからという理由で自らも目と耳を封じていた、と知ったのはずっと……ずっと、気が遠くなるほど後のことだ。

意図は通じていないまま、結ばれかけていた糸。




-----




走る。

何度目の悪夢だろう。
うつろな幻を追うよりも、もっと確実な場所を思いついた。
あの時にひとつひとつ実際に積み重ねた、強い記憶と経験。


この場所があの基地なら。
生まれてすぐ捨てられて、その時から暮らし、戦場に出続けたあの基地なら。

彼は戦略執務室に居る。

戦場から帰還するとき、よく帰投ゲートに立っていた。自チームの戦闘員たちの帰りを待って。
誰も帰れないかもしれなくても、立って待っていた。
ゲートに立つ余裕のないときは、執務室に必ず居た。
規定の報告をするより前に執務室のドアを開けると、必ず、「おかえり」と微笑むのだ。

その顔が見たくて、どんな戦場からも戻った。

今の自分は、彼のもとに配属された20歳の頃より少し若い。
エリート待遇の諜報暗殺員から戦闘員に転籍し、いろいろな意味でもっとも命の危険が多かった16歳の頃の姿。
まだまだ華奢な身体は成人後より背丈も頭ひとつ分は低く、未だ女性に間違えられることもある。
かすめた出会いはどれも朧で、だからこの姿を当時の彼は知らないけれど。


けれどもこれは夢だと、過去にからんだ悪夢だとわかっている。
だからきっと会いにゆけるはず。

あの部屋のドアを開ければ、きっと。


だから、走る。
背後の手と声を振り切って走る。

どちらを選びたいかなんて、とうに決まっているのだから。
どちらを信じたいかも、とうに決まっているのだから。

目を閉じても歩けるほど慣れている基地の通路を、靴音を響かせて駆ける。

あの角を曲がって、すぐの右側のドア。
走り寄って確認したプレートに見慣れた文字。

どきりと踊る心臓を叱咤してノブを回す。


「デューク!」


息をきらしてドアを開ければ。
……望みの人が微笑んでいる。おかえり、と。


だから、まっすぐにその腕に飛び込んだ。

あの当時、気持ちはあっても自覚がなく、ついに唇に乗せることのなかった言葉を抱いて。



  ただいま。

  ありがとう、待っていてくれて。



















【銀の月のものがたり】 道案内

【外伝 目次】


今日はハロウィン、ケルトの一年が終わり、新しい年がやってくる日。
なにかが終わり、なにかが始まる。

あのドアを開ければ … きっと。


この少年が、おかげさまで今は剣職人さんやってるのです。
とても楽しそうに生き生きとw
ご心配くださった皆様、どうもありがとうございます。




Trick or treat!



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11/1 比翼連理 ~ 融和のヒーリング





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最終更新日  2011年10月31日 16時31分57秒
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