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サイド自由欄

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トールも製作に関わったオラクルカードです♪
2011年11月29日
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一日二日で、足は立ち上がって水場に行ったり周囲に生えている食べられそうな草を採ってくるくらいはできるようになった。

流された小舟もなかなか見つからず、月が二度満ちるほどの間、私はその岩場に暮らした。

何度も彼女が海藻や貝を届けてくれた。夜に見た時は黒かった長い髪は、昼は青い海に映えるまぶしい金髪に変わり、私は最初他のセイレーンと間違えてしまった。

摘んできた野草ともらった海の幸を焚火で煮たり焼いたりして食べながら、お互いに遠い国の話をした。
彼女は海の中のことを(海の中のものは海藻すら友達ではないのかと提供を申し訳ながる私に、精霊のように優しい存在ではないから大丈夫と笑いながら)。
私は陸のはるかな国のことを。

あるとき、海の中から歌が聴こえることに気づいた。それは弔いの歌なのだと彼女が教えてくれる。

「そうか……。セイレーンが船を難破させるのではなく、難破した船からさまよう魂たちのために、君たちは歌うのだね。死して弔ってもらった者たちは言うに及ばず、私のように、命を助けてもらった者も多かったろうに」


人の世の誤解は、あまりにもひどいと思えたから。
口に手をあててコロコロと笑った彼女は、笑いをおさめると面白そうな目でこちらを見た。

「人に謝られたのは……二度目よ。まともに話したのも。長く生きてきたけれど」

切なげな瞳をまばたいて続ける。
たいていは人の命を助けても、(思い出してはいけない、忘れなさい)と言ってすぐに陸に帰すのだという。相手も怯えていて、逃げるように去ってゆくのが普通なのだと。

「あなたは船乗りではないのね。星図も読めるようだし、操船を知らないわけでもない。でも船乗りならば、セイレーンと話したり、まして謝ることなんてないわ」

何者なの? といたずらっぽく聞かれたのへ苦笑を返した。

さあ、私は何者なのだろう。
何者でありたいと思っているのだろう。

父から継いだ事業家、それが一応の肩書きではあるけれども。本当は妖精や不思議な生き物についての各地の伝承を集めるのが好きで、趣味が高じて講義をひとつやってみないかと地元の大学から持ちかけられている。

しかしいずれにせよ海難事故の後数週間も留守にしていたら、死んだと思われているに違いなかったが。


私の真面目すぎる返答が面白いと言われたが、大らかに海が笑うように思えて嫌な感じはしなかった。
誘惑者と言われ船乗りには嫌われている彼らだが、蠱惑的というよりも自然の豊かさや深さを体現しているように、私には思えた。


「……帰る?」

ある日、そろそろ治ってきた左手で小舟のオールを握ってみていると、彼女が聞いてきた。一拍おいてゆっくりと顔をあげ、そうだね、と答える。

朝夕の月の満ち欠けと海の潮汐。

月を見上げ数えている姿を、彼女が少し寂しげに見ていることは知っていた。

陸に待つものは、おそらく善い思いであるまい。
私が死んだほうが都合のいい親戚が、いくらでもいた。ここで生きて帰ったなら、むしろ彼らに憎まれることくらい簡単に想像がつく。

それでも帰ることを選んだのは、「陸の命を精一杯に生きなければ海のものにはなれないから、焦げ茶の髪の男を陸に帰したのだ」と、彼女から聞いたからかもしれなかった。

その男のことは、正直今でもよくわからない。
他人のような他人ではないような感じがするのは、あなたのことだ、と最初に言われたからかもしれない。
実際に言動の端々が似ているからかもしれない。

自分ならやりそうだと思う部分と、いや少し違うだろうという部分が同居しており、完全に自分だとも思えなければ、まったく別人とも言い難い、不思議な感じだった。

私には妻子も家族もない。待つ者のいない陸の国へ戻るのは、やりかけで残してきた責を果たすため…… それは、「陸の命を精一杯に生きる」ことのように思えた。



「先生」

呼ばれて顔をあげると、数人の学生が輪のように私の机を囲んでいた。夕焼けの光が窓越しに部屋を金色に染めている。
茶色いくせっ毛の男子学生が口火を切った。

「なんだい?」
「それは…… その、何ですか?」

全員の視線が、私の胸元に揺れる指の先ほどの小瓶に吸い寄せられている。慣れた質問に私は笑って、長い鎖をつけたそれをそっと掲げて見せた。

「これかい? 人魚の鱗だよ」

うそっ、ほら噂通りだろ、本当に? といった声が口々にあがり、小さな準備室はあっという間に賑やかになった。
鎖を外さないままで彼らの前に見せた小瓶の中には、通常の魚よりも少し大きな、不思議な虹色をたたえた鱗が一枚、入っている。
じっと見つめていた金髪の女子学生が、目をきらきらさせた。

「先生、人魚って本当にいるんですか? 船を難破させるのでしょう?」
「うん、いるよ。私は逆に、海難で死ぬところを助けてもらった。怪我が治るまで何度か話もしてね。この鱗は、もうそんな事故に遭わないようにと、彼女がくれたんだよ」

指先につまむ小瓶から、遠い海の囁きが聴こえる。
もらった鱗を身に着けるにも、穴を開けたら彼女が痛いのではないかという気がして、小さな硝子の小瓶を探し回った。

あれから三年。
事業を整理して親類に譲る手続きのかたわら、私は話のあった大学で講師として教鞭をとっていた。
週一度でも楽しかったし、仲良くなった教授の後押しで、今まで集めた伝説を本としてまとめることができた。
刷り上がったのは昨日だ。

セイレーンの頁にはこう書いてある。

「難破した船からさまよう魂たちのために歌い、海難で亡くなった遺体を海の奥津城へと弔ってくれる優しい存在」

届いたばかりの本の表紙を撫でてぱらぱらとめくり、一冊鞄につめて、残りを研究室の本棚の空いている最下段へと移した。
真新しいインクの匂いが鼻をかすめる。

「先生……、本当に行っちゃうんですか?」
「うん、一年の約束だったしね。この本は置き土産… 皆で好きに読んでくれるといいな。欲しい人にはあげるよ」
「駄目ですよ、ちゃんと俺らにも売らないと」
「いいんだ。もしお金を払ってくれるなら、その分どこかの募金箱に入れてくれたらいい。私はいいから」

すると、さっすが現役の事業家は違う、と誰かが口笛を吹いた。
静かにね、と苦笑で応じて立ち上がる。

講師契約が終わり、事業の移譲も終わったら私は旅に出ることにしていた。
家族のいない私の跡を誰が継ぐか、親戚の中には狙う者もいたようだ。
海辺に居た二か月の間、うまくまとめてくれていた叔父に渡すことに私は決めていたのだが、その叔父が去年病で急逝してしまい、話がこじれてしまったのだった。

しかしそれもどうにか収拾をつけ、新しい人物に移譲の手続きも済ませてある。
後はもう好きにしてほしい… 事業も財産もすべて譲り、肩の荷をおろした気分で私はそう思っていた。
次の社長に選ばれなかった親族に逆恨みされていることも知らないわけではなかったが、財産は分けたしそれなりの役職にもついてもらっている。それ以上のことはやりようがない。

本の入った鞄を掌でかるく叩くと、私は学生たちに別れを告げた。


















【銀の月のものがたり】 道案内

【外伝 目次】


To be continued …



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最終更新日  2011年11月29日 15時11分57秒
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