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2026.05.06
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 電話を切って、風呂に入って、ことさらごしごしと体を洗って、上がった時は2時を回っていた。

 身動き出来ない社会の裏側を、今美並は有沢と覗き込んでいる。不安定な足下に手を伸ばして探れば、支えてくれるのは真崎の涼やかな笑みではなくて、有沢の熱っぽい腕の感覚で。

 自分の存在が本当に役立つのは、真崎の側ではなくて、ひょっとしたら有沢の側、なのだろうか。

「……」

 携帯の有沢の番号に一つの曲を設定した、真崎のそれと同じように。

 それは有沢の電話を待つという意味、それを自分は本当にわかっているんだろうか。

「京介」

 声が、聞こえません。

 顔が、見えない。

 どうして今、ここにいないの?

 唇を噛んで、ベッドに潜り目を閉じる。

 いつかこの部屋に真崎が居た、それが幻のように遠く感じる。

 うつうつと反転を繰り返す寝床で、奇妙な夢を見た。

「京介、どこ?」

 闇の道を彷徨い歩く。

「美並」

「京介」

 ようやく見つけた相手を抱き締めて、互いに唇を重ね合う。

 と、ふいに掌の中の腕の感触がくしゅりと潰れた。

 力をいれると果てしなく握り込めそうな実体感のなさ、目の前の京介の顔がぼやけて、眼鏡の奥の瞳がますます平に、やがてボタンかスパンコールのように無機物的な黒い塊になり、どうみてもぬいぐるみに変わってしまう。

「キス」

 虚ろな声でよびかけてきて我に返った。

「正体が見えてますよ」

「オネガイ」

「ぬいぐるみですか、それとも」

 自分の中の暗闇に苦笑する。

「懐かしい顔の亡霊ですか」

「ミナミ」

 どうして、見捨てた?

 つぶやきは美並の傷みを抉る。

「救いを求めたのに」

 助けてくれと願ったのに。

「他には何もなかったのに」

 お前しかいなかったのに。

 大石だろうか、有沢だろうか、それともこれから見捨てることになるかもしれない京介だろうか。

 繰り返す声は怨嗟と呪詛に満ちている、けれど美並はそれを耳にしたまま、握り締めた掌から熱を送り込む、命の熱を、今生きている強い願いを。

「お願い」

 相手のことばより遥かに強く呼びかける。

「京介、ここに来て下さい」

 視界の奥を掠める真白な雪の庭。

「ミナミ、ボクハ、ココニ」

 くしゅくしゅのぬいぐるみが機械的な声で応じる。

 それをなおも抱き締めて願う。

「京介」

 私の声を聴き取って。

 落ちる紅、命を抱えて。

 また一つ、美並は失ってしまうのか。

「ミナミ」

 平坦な声に目を閉じる。体の内側の闇の孤独と傷を見つめる。

 ずっと一人で生きてきた。ずっと一人で生きていくつもりだった。それでも、今この時、愛しい人を抱き締めて歩く幸福を、大事な人が笑い返す喜びを、美並は必要としている。

「だって、私はずっと」

 一人が辛かったんです。

 落ちても花でいる。

 踏みにじられてもまた花のままで。

 そうやって気を張って、一歩も引くまいと、ただ気を張って。

 それでもずっと。

 閉じた視界を濡らして溢れる、真珠色の光。胸の内の空虚に滴り、零れ落ちていく甘やかな祈り。

「誰かを、待っていた」

 押しつぶされそうな、この重圧の中で。

「もういいよ、と言ってくれるのを」

 もう一人で背負わなくていい、そう笑ってくれる存在を。

「一緒に行こうって」

 一緒に生きようって。

 約束してくれたのはただ一人。

 約束を守ろうと必死にあがいてくれているのも、ただ一人。

 傷だらけの命の中で、

『美並』

 その笑顔をどれほど望んでいるだろう。

 目を開いた。ぬいぐるみになった京介の顔に微笑みかける。

「京介」

 私を、見つけて。

「迷子になっちゃいました、私」

 京介。

 呼ぶ声が溢れる涙に途切れた。

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Last updated  2026.05.06 00:00:10
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