SF拡張の原理

SF拡張の原理

2009.07.01
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カテゴリ: SF

超弦領域

08年日本SF年刊アンソロジイ。とはいえSFとは呼べない作品がかなり多い。
法月綸太郎「ノックス・マシン」★★★1/2
ノックスの十戒というミステリのルールを題材にした、真っ当なタイムパラドックス小説。オチは古くからある常套的なものだが、ミステリルールに関する尋常でない薀蓄の深さが作者ならではで、単なるSF者には書けない点がワンアンドオンリー。数理文学解析なる架空の学問に対するディテールのSF的な描写も面白い。ミステリ作家による本作が、皮肉にも集中で最も正統的なSF作品になっている。
林  巧「エイミーの敗北」★★★1/2
集合無意識が社会をコントロールしているという魅力的な設定の下に、新たな集合無意識との接触を描いた作品。精神分析ネタでありながら、理論的に深入りせずさらりと流し、SF的質感と結末の神話ホラー的質感の描述に集中しているところが良い。
樺山三英「ONE PIECES」★★★
フランケンシュタインの怪物を題材に取り、その象徴的意味、人々がそこに求めようとしたものを、さまざまな「怪物」と称されるものをピックアップしながら論じた、フィクション形態の評論。この作者の他の同種短編と同じく、物語性が皆無であることと、奇を衒った構成の割に表現されている思想の微妙な浅さゆえに、個人的には評価が低い。
小林泰三「時空争奪」★★★★
川が小さなものから次第に大きくなり、他の川の上流を奪い取ってしまう「河川争奪」の現象を、メタ時間の流れの中におけるいくつかの時間の流れに類推適用して物語化した、超絶バカSF。理系的感性あふれる奇想と、読みやすい簡潔なスタイルの結合という作者の特長が遺憾なく発揮された傑作だと思う。

偽名で日露戦争に赴いたことから本来の氏名を失ったまま天寿を全うせざるを得なくなった男の数奇な人生を、騙りに満ちたスタイルで叙述した佳作。実話を基にしているらしい。ただ、「事実は小説より奇なり」とはいえるが、いくらなんでもこれSFじゃないでしょ。あと、もって回った文語調も、個人的にはいやらしく感じてあまり好きじゃない。
藤野可織「胡蝶蘭」★★★★
生物を捕食する胡蝶蘭を扱った植物怪談。簡潔で味のある文体で、日常生活に入り込む怪異を描く筆さばきはうまい。ただこれも、まったくSFでないとまではいえないとしても、分類するなら普通ホラーでしょ。
岸本佐知子「分数アパート」(「あかずの日記」より)★★★★1/2
これは面白いねえ。めっぽう面白い。翻訳家が日々の妄想を事実と織り交ぜながら日記スタイルで書いたものだが、とにかく着想が非常に奇抜で面白い。・・・でも、これもSFとはいえないでしょ。
石川美南「眠り課」★★★1/2
会社の中に存在する幻の部署<眠り課>をテーマとした短歌集。ユーモアと幻想がない交ぜとなって独特の味がある作品群だが・・・やっぱりSFじゃないです。ファンタジーでしょ、これ。
最相葉月「幻の絵の先生」★★★
星新一の伝記を書いた作者の、新一の父・星一の謎の私生活に関する取材過程を記したルポ作品。結局、著者の推理の真偽不明なまま取材は頓挫するわけで、そこがフィクショナルで面白いといえば面白い。ただ、星新一の一族に興味がないと面白さが半減するという意味では一般性に欠けるし、それを小説作品と並べてSFアンソロジーに入れるのもどうよって感じ。
Boichi 「全てはマグロのためだった」★★★1/2
最後のマグロを食べた男がマグロをよみがえらせるため全力を注ぎ、様々な発明を行うという超絶バカSF漫画。作者は韓国の漫画家らしい。バカな着想で最後まで突っ走る破壊力はすごいと思うし普通に面白い漫画だが、年刊アンソロジーに選ぶほどの作品かというと正直、微妙。

筋金入りのラノベ文体+挿絵で、山田風太郎の「忍法剣士伝」というギャグ忍者小説をパロった作品。アキバ12人衆のキャラ設定、キャラデザイン、12人衆を出しながら2人しか戦闘シーンがないといういい加減さなど、心置きなく大笑いさせてもらったが、この種のギャグ小説は数限りなく書かれていて特に珍しくもないわけで、これをわざわざ年刊アンソロジイに入れるってのはどうなんだろう、と思う。
堀  晃「笑う闇」★★★1/2
人間とロボットの漫才コンビをめぐる心にしみる佳作。久方ぶりに真っ当な小説のSFだが、やや地味なのも確か。
小川一水「青い星まで飛んでいけ」★★★
人類に作られ、長大な時間をかけて<融合すべき知的生命>を探し回る機械人の話。テーマは壮大なのだが、全体が<結婚相手を探し求める男の話>の比喩になっている上に、会話文がラノベ丸出しで下品。オチも普通だし、アンソロジーに入れるほどのレベルの作品かというと、非常に疑問。

この作者の売りである「過剰に理知的に回りくどい駄洒落多様の韜晦文体」にすでに食傷している私の目には、まずこの文体が「内容の乏しさを誤魔化すためのおためごかし」「バカの一つ覚え」にしか見えないので、その点で減点。その欠点を超えるような優れた内容があるかどうかが評価の分かれ目になるわけだが、本作は、あの馬鹿げた「オブザベースボール」などと比べると、「少女の脳の一部に出現した、コンピュータとして機能するある数値」というトンデモアイデアを正面から扱っている点できっちりSFだし、ちゃんとした人間のキャラクターが数人出てきて、一応物語の体もなしていると思うので、それになりに読み応えあるものにはなっている。とはいえやはり冗長な文体が物語の進行を大幅に阻害し、その結果肝心の筋があらすじ程度のものに終わってしまっている。
酷なようだが、この作者は一度この文体を完全に捨てて違うものを書いてみないと、絶対に成長することはないと思う。
伊藤計劃「From the Nothing, With Love.」★★★1/2
「007」の主人公をモデルにした人物像を脳にコピーして生み出される無数の「哲学的ゾンビ」が殺人事件の謎を追いながら、自意識の問題を追究するうちに、意識の消失という現実と殺人事件の恐るべき真相に行き当たる、という話。フィクションと実在との関係を追究した哲学的メタフィクションでもあるし、ストレートな意識論、存在論テーマの作品にもなっている。長編「ハーモニー」の問題意識そのままの作品だが、007に興味のない人間には読みづらいのと、ユーモアの乏しい生硬な文体や展開が、作品の切れ味をやや殺いでいる印象なのがちょっと残念。

総じて、そこそこ面白く楽しめる本ではあるが、編者がいうような「オールタイムベスト」級の作品が一つも入っていない点でも、非SFが過半数を占める点でも、看板に偽りあり、かもしれない。あまり期待しないで読むなら、たぶん満足できるでしょう。





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Last updated  2009.07.02 04:07:58


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