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地球の破片たち SHARDS OF EARTH エイドリアン・チャイコフスキー (英国SF協会賞)収録書:キンドル感想・点数:テーマ:基調感情:トピック;用語集;アーキテクト=建造者、アスピラト、ベトレイド=裏切られしもの、ブロークンハーヴェストソサイエティ(BHS)、コロニー=植民地、カウンシル・オヴ・ヒューマン・インタレスツ=ヒュー=人類利権委員会、ヘゲモニー=覇権、ヘゲモニック・カルト、インターミーディアリ=媒体、インターミーディアリ・プログラム=媒体計画、インターヴェンションボード=介入議会=モーダント・ハウス、カイバーネット、リエゾン・ボード=連絡議会、ネイティヴィスト=純血主義者、オービタル=軌道体、パーセノン=パルテノン、スルーウェイ=通路、アンスペイス=反宇宙=非空(域)。世界;アムラジ、バーレンホフ、アース=地球、ファーラックス、フォースブリッジ・ポート、フェイ・ケイヴァー=HC、ジェリコ、ロシュ、シンティリャ、タレクマ。種族:カスティガー、エシエル(=ヘゲモニー)、ハニランブラ=ハニ、ハイヴァーズ=冬眠者族、ナエロマシ=いなご族、オグドル、オリジネイターズ=創始者族、トシアト(共生人)。宇宙船;アセンディングマザー(AM)、ブロークンハーヴェスト(BH)、カタフラクタ(C)、ダークジョアン(DJ)、ガミン(G),ヘヴンズソード(HS)*、オウマル(O)、パイソネス(P)、ラプトリド(R)、サムファイア(SP)、サルク(SK)、サンダーチャイルド(TC)、ヴァルチャーゴッド(VG)*。キャラ:(VG号)ロロ・ロスタンド(船長)、イドリス・テレミア(イント)*、ケリスティナ(=クリス)・スーリン・アルミエ(弁護士)*、オリアン(=オリ)・ティモ、キッタリン(=キット)、ムソク・バルニエ(=バーニー)、メドヴィヒ(ハニの船員)、マーミドン・ソレス(パルテノン出身の強化人、もと戦艦乗員)*、ソレス執行官。(その他)アンスピーカブル・アクル&レイザー(=かみそり)&フック(=かぎ)、ハービンジャー・アッシュ、ヘレモン、チーフ・レーリ、ルシエル・ロン、メズモン、ハヴァエル・ムンディ*、サン・シアン・パーシファー博士、ヨン・ロベリン、賢人ベアラー・サシエル、アルバス・ソリエ、モニタ・スピリアー・タクト(ソレスの戦艦上司)、リヴォ・スレニコス、ザヴィエンヌ(=聖ザヴィエンヌ)・トリノ、ディリゲイト・トライン、ボヤリン・ピター・チェヴァー・ウスカロ。人称:3。ソレス、イドリス、クリス、ハヴァエル視点。設定:時系列(年表);107B;地球の探査体、エイリアン船遭遇、最初の接触。虫に似たカスティガー人より、非空(アンスペース)、通路(スルーウェイ)、拡大宇宙について知る。カスティガーは非空航行歴100年足らず、植民規模小。人類をその一部に連れていく。ナエロマシとヘゲモニーの情報提供。91B;人類、セカンドドーン星に最初のコロニー。カスティガー人向きで人類には向かない環境と判明。90B;バーレンホフに人類コロニー。90%海、暖かい気候。大企業と富豪に独占され繁栄。88B;リーフに人類コロニー。小惑星帯に希少鉱物豊富、氷の惑星。アンバーにもコロニー。水晶生態系の暑い惑星、冷却ドーム内に居住。75B;カスティガーの支援で小コロニーいくつか。産業目的多し。輸送のカスティガー依存問題解決のため、自前の重力ドライブ開発。72B;重力ドライブ宇宙船1号(ニュートンズバレット号)完成。61B;森林惑星リコスのコロニーで、オリジネイター遺跡発見。45B;ナエロマシの箱舟、コルドニエ系のコロニー襲撃、居住衛星を破壊。非公式の戦争勃発。宣戦布告なしも、双方に被害。25B;エシエル・ヘゲモニーと接触、相互理解困難。のち、アーキテクトの警告だったと判明。オリジネイター遺跡をヘゲモニーに売るようになる。22B;地球と人類の現状を憂うサング・シアン・パーシファー博士一派、パルテノン設立。遺伝子操作で人類改良。軍事力保有、人造人間製造。科学技術を革新し脅威になる。5B;カスティガー船がエイリアンのアッシュを伴い来訪、アーキテクト警告。深刻にとらえる者少なし。少数派が一定の準備。0;月より巨大なアーキテクト、地球近傍のアンスペース(反宇宙/非空)より出現。地球を面妖な渦巻き状の構造体に改造する。多くの生命が失われ、人類文明崩壊。宇宙船で可能な限りの人を避難させるも、数十億人死亡。宇宙船は様々な星へ植民(ポリアスポラ)。アーキテクト戦争開始。15A;7年にタイタンのコロニー改造、以後周辺コロニー次々改造される。食糧不足。アーキテクトに挑むも気づかれもせず。21A;チャームプライム星の宗教コロニー、ヘゲモニーに参加。アーキテクト排除の庇護受ける。他のコロニー、ヘゲモニーの陰謀と考え拒否。28A;作業用ロボットを改造、ロボット兵士ハイヴを開発。43A;ハニ(ランブラ)人と接触、クラークスワールドでの衝突事故がきっかけ。護衛輸送サービス受ける。48A;リコスのコロニー無事。アーキテクトとオリジネイター遺跡の関係判明。オリジネイター遺物を神殿に設置し魔除けに。しかし、カリス・コミューン破壊。ヘゲモニーより、遺物の輸送に一定の方法必要との情報。やむなくヘゲモニーに依存。51A;アーキテクト、アムラジへ。人類、カスティガー、ナエロマシ連合軍戦闘で住民避難。人類の生活水準最低に。68A;難民船サマーク号のザヴィエンヌトリノ、十五歳、アーキテクトと交信し退去させる。フォースブリッジポート。76A;アーキテクト交信因子特定、強化措置受けた第一世代誕生、二十歳のイドリス合格。78A;バーレンホフの戦い。人類とエイリアンのアーキテクト防衛戦。パルテノン兵器と交信因子強化員イントが撃退。イント八名中死者三名、発狂二名。80A;三十名のイント、アーキテクトと交信。84A;イドリスらイント三名、ファーラクスにてアーキテクト交信成功。以後アーキテクト出現なし。終戦とともに、貧困化したポリアスポラ人類分裂、エイリアンとの紛争も増える。88A;人類利権委員会ヒュー結成。パルテノンやヘゲモニー同盟コロニー参加。96A;サイボーグ兵士ヒヴァーズ独立要求運動。103A;ヘゲモニー派コロニー改宗運動と破壊工作。ヒューが排除決定。エシエルは傍観。105A;パルテノンの肝いりでヒヴァーズ独立。人類の住めないコロニーへ移住。以後パルテノンが仲介。107A;ネイティヴィスト運動勃発。ヘゲモニーに反発、古き良き人類に戻れという一派で、パルテノンなどの強化人も嫌う。ヒヴァーズの復讐を危惧し、へゲモンカルトのスパイ活動を恐れる。109A;ビトレイド運動勃発。人類は裏切られた、拡張を止められなければアーキテクトに勝てたと主張し、イント、パルテノン隊員、エイリアンを批判、テロ攻撃。110A;パルテノンのヒュー離脱、伝統コロニーからの独立宣言で和平実現。人類文明復興とともに、分断も進み、過激派やポピュリストも台頭。周縁空域で富裕層とエイリアンが入り乱れ繁栄。123A;現在。ミッション:結果:一行梗概:四行梗概:詳細梗概;プロローグ開戦歴78年、一体のアーキテクトがバーレンホフにやってきた。人類と同盟エイリアンは総力戦で戦い、住民を避難させた。ソレスは覚えてた。その場にいたのだ。ヘヴンスソード号女子部隊バシリスク課。あれが初めての戦闘だった。コロニーには秘密兵器がある、と言われていた。人間兵器が。ソレスも戦争委員会の場で見たことがあるが、おどおどと打ちひしがれた男女の集団でしかなかった。主力艦隊がバーレンホフの防衛準備をするとき、一握りの船が、この「兵器」をすでにアーキテクトに差し向けていた。悲惨な運命を少しでも先延ばししようとして。(絶対に無駄だ。祈って何とかしようとするのと変わんない)と思った。彼女の乗るヘヴンズソード号の全員が、人類(パルテノンを含む)、カスティガー人、ハンニ人、ナエロマシ人(イナゴ人)の船とともに、サイズが月ほどもある巨大なアーキテクトに向かって進んでゆく、人間兵器を乗せたパルテノンの小さな船の群を見つめる。人間兵器とは「イント(媒介員)」のことであり、脳を切り刻まれ改造されて作られるのだと誰かが言う。イントの船が犠牲を出しながらアーキテクトの進路を変え、生還した船からソレスは上司(「母」)の命令でイドリスという男性イントを保護、イドリスは泣いている。ヘヴンズソード号のデッキ半分の住人保護に成功。「もちこたえろ!」ソレスもイドリスも、各自で体を支えなくてはならなかった。イドリスの心はどこか別のところにあり、ソレスには想像すらおぼつかない戦場で戦っていたからだ。ひどい衝撃があり、スクリーンがしばし機能障害になった。ヘヴンズソード号が破壊され生存者脱出。しかし、彼らイントのおかげで人類史上初めてアーキテクトが破壊されたのだ。のち、惑星側の広大な医療キャンプで、ソレスがイドリスの手を握っているときに彼は目覚めた。6年後にイントがアーキテクト戦争を終わらせ、以後アーキテクトは現れなくなる。その39年後、彼らは再びソレスを冷凍ストレージから起こし、彼女の戦闘力が必要になったと告げた。アーキテクトが再来したからではなく、パルテノンとコロニー連合が開戦の危機に瀕していたからだ。第一部ロシュ1ソレス(視点者。以下同)ソレスは自分の部隊が、監督官の公式護衛らしく全員がぴったり同じぴかぴかの防護服を身に着けてシャトルベイに集合するのだろうと思っていた。タクトはソレスらを護衛につけてパルテノンの大輸送船を訪問し、外交交渉をする。タクトは2つの動議を出しているが、関税については同意を得る。もう一つの動議については審議中。この章の風景描写で、地球が巨大なソーラーパネル形に改造され、月がなくなっていることが読者に示される。ルナステーションにいるソレスはタクトからある者と会うように言われる。ステーション下部の指定場所に行くと人に似せたエイリアンのアッシュが来る。アッシュは前回のアーキテクト襲来を人類に警告した者である。それはイントのイドリスが来ているから会うように言い、船の名と場所を告げて去る。ドッキングベイに戻る道すがら、タクトに報告したが、彼は平気な顔をしていた。ソレスは自分の職種にまた新たな役目が加わるのを甘んじて受け入れた。難民(レフュジア)──自分たちの種族が置き去りにした人類種族──の中で、スパイを務めることだ。兵士になりたいだけなのに。2イドリスコロニー歴・後51年、戦争の真っただ中にあるとき、アムラジのコロニー世界上の非空から、アーキテクトが出現した。ヴァルチャーゴッド号でイドリスが冷凍睡眠から目覚め、駆動ドライブを調整し、他の仲間を起こしに行く。全員が起きて作業を始める(乗組員の紹介、略)。ガミン号という輸送船(今回は乗客を運んでいる)がアーキテクトによって損傷した状態で非空に逃げ込んでいるため、修繕と生存者の救助を行うのだ。ガミン号を発見するとリングの一部が欠落し、傾いている。生存者がいれば救助しなくてはならない。彼らは船内に掘り出し物がないか探す。ハッチを避け、壁を切り裂くが、中の空気は抜けていて真空だ。オリが次々とカーゴを開けていく。機能しなくなった冷凍睡眠槽が雑然と並ぶ。奥に進むと、むき出しの死体が見つかる。古い銃を持っており、このせいで空気が漏れたのかもしれない。ハッチの中にはおよそ200人の死体が詰まっており、パニックと狂気に襲われるさまがありありと目に浮かぶ。非空にいることが直ちに死や狂気を意味するわけではないが、そうなる可能性はある。ロロは技師のバーニイに命じる。「コンポーネント比較をしろ。古い船だが、いますぐ再利用可能な積荷がたぶんある」3、イドリスコロニー歴前には、誰も健康のためロシュに行くことはなかった。ヴァルチャーゴッド号はガミン号をロシュに運び休憩するが、イドリスとろろは二人組の男に逮捕・連行される。ソレスパルテノン人はお忍び旅行で名高いわけではなかった。ソレスは船員データベースからイドリスを見つけ出す。イドリスとロロが逮捕され市庁舎に連行されるのを見ると、他の船員たちのところへ行き、女に協力を求める。「あんたの友達が困ってるよ」女は相手が話す間もなく言いはなった。「あんたの船長とナビゲイターが。あんたを必要としてる。……そしてあんたには、私が必要」4イドリスマグダは地球に似た惑星で、寒いが、記述可能な生化学で成り立っていた。ウスカロと名乗るボヤリン人が官庁舎の留置場に現れ、自由人であるイドリスを「イントである以上、逃亡奴隷だ」と決めつけ、それを幇助した船長も共犯だから賠償義務があると主張する。ついてはここで元の主人の下で働けと。彼が去ると、イドリスとロロ(ロスタンド船長)はいかにして逃げるかを考える。ウスカロはイドリスを奴隷契約下の資産として持ち去ろうとするが、クリスがメドヴィヒを伴って現れ、カイバーネットが認めるヒュー選任の代理人であることを示し、まずロロを釈放させ、次にイドリスが「ウスカロの祖父よりも高齢な、アーキテクトを追い払い非空航行を安全化した伝説的イントの唯一の生き残りであること」を示してウスカロを仰天させ、イドリスを連れ去る。「さあ、ロシュ管理区から、コロニーの自由市民のように堂々と出ていこう」クリスが静かな口調で言った。「それから全速で船まで逃げるよ」彼女は後ろを振り返り、イドリスもそうして──ウスカロのどんよりと飢えた目を見た。「ボヤリンが合法的な手段しか使わないとはとうてい思えないからね」5イドリスロシュ管理区の拘置房は、ロシュ・プリマターの比較的文明化された界隈にあった。彼らはボヤリンの追手の追跡を振り切り、ヴァルチャー号に乗り込む。「あら、あいつら、あたしたちを厄介払いできてせいせいしてると思うけど」クリスが言った。パイロット席に収まったイドリスは、軽くうなずくのがやっとだった。惑星の重力に抗して、ヴァルチャー号のエンジンをふかし、空へと浮上させる──鷹のようにとはいかぬまでも、せめてあと一日ぐらいは生きられる年老いた鳥のように。「よし」ヴァルチャー・ゴッド号が大気を突き破り、ロシュの夜空に散らばる軌道上のデブリを注意深くよけながら進みだすと、ロロが言った。「おまえら、二度とこんなことさせるなよ。ほんのちょっとでもこんなクソみてえな仕事をやるにはおれはもう年を取りすぎてんだ、ベラボウめ」パルテノンのソレスが新入りとして船に乗り込む。ボヤリンのウスカロの船が追ってくるのでフエイ・ケイヴァーへ飛び立つ。そこにも問題が待っている。なぜならそこは。(ああ、そうとも。クラムに乗っ取られたんだ)希望にあふれた「戦前」の時代に、人類のコロニー人たちは、とうとう最も恐れていたものに出くわした。エシエル人のヘゲモニーは、本物の宇宙航行種族で、征服されてエイリアンの主人たちに完全に支配される種族があることによって完全となる。人類が目の前の存在を理解したとき、恐怖と混乱に駆られて退却した。あの当時はだれもが、人類を動物園に追加するエイリアンの政治体制よりも邪悪なものを想像すらできなかったのだ。ヘゲモニーは、まさにそういったものを代表していた。エシエルヘゲモニーはアーキテクト襲来を警告したことで多数の人類を入信させ、植民地を増やし、フェイ・ケイヴァーはその最新植民地の一つだ。着いたらステーションで休憩予定、とりあえず眠って体力を整えようと、各自船室へ。だが、イドリスが船室に着いたとき、すでに誰かがいた。やけに神経の張りつめた表情で、ソレスが彼のベッドに座り、待っていたのである。第二部フェイ・ケイヴァー6(ヴァルチャーゴッド、オウマル号捜索でアーキテクト再来の証拠を発見)ソレスパルテノンは、地球が破壊されたわずか12年後に、完全装備の軍事力として勃興した。人類の不死鳥、天使として。設立者はサン・シアン・パーシファー。が、アーキテクトによる惑星破壊を遅延させ得るイントを開発したコロニーとパルテノンの関係が悪化し今に至る。このためパルテノンはイント研究に立ち遅れ、バーレンホフ戦役の伝説のイントであるイドリスを獲得すべく、その旧知ソレスを派遣した。イドリスはソレスの申出を拒否する。彼は数十年眠ることも年を取ることもない苦悩を訴える。最近プログラムから生み出された奴隷契約のイントはもっと症状が酷いらしいよ……イドリスはマグダンにもパルテノンにも与するつもりはない、と断言する。「だから無駄だ、あんたはとっととフェイケイヴァーで降りろ」「あらそういうわけにはいかないぜ、俺はこの船と契約したのよ」自分がこの男を操ろうとしてるのかはわからない、彼の表情が緩むと、むしろいよいよ壊れやすくなる、それを見て、人として良心の呵責を覚えるべきなんだろうかと、ソレスは思う。「見ろ、あのポン引き野郎を」ロロがガラガラ声でがなる。船がフェイケイヴァーに近づく。この惑星は交通網が発達し、赤道周辺に集まっている。エイリアンであるヘゲモニーによる統治が決まり、ポン引き野郎呼ばわりされたヘゲモニー大使の巨大な平底船がちょうど降りて行く現場に出くわす。エシエルの代表はサシエル。空港にはカルト信者が人だかり。新しい依頼者であるラングクロウオービタルの長官ルシエル・ロンから、ヘゲモニー派住民用の衣服を積んだオウマル号が遭難したため捜索してほしいとの内容。ネイテイヴィストのテロも疑われる。合点承知の助で非空(アンスペイス)から深空(ディープヴォイド)をめざす。みな冷凍睡眠。ちょい遅れで、イドリスが去り、残ったソレスも……自分のポッドに飛び込み、貝殻状の蓋が閉じると、冷凍が始まる。イドリスそしてソレスは去り、イドリスはおなじみの非空の果てしないこだまを感じた。非空にはスルーウェイ(通路)が何者か(消えたオリジネイターと呼ばれる)によって引かれ、このスルーがリアル宇宙の各所をつなぎ、これに沿って文明が広がっている。通路外の非空はイントのナビゲイターなしでは航行できない。イドリスは星図制作部隊(カートグラフィコープ)所属だったがすぐに辞め、フリーになりこの船に雇われたのだ。イドリスは非空に潜む「存在」を感じつつ、オウマル号捜索に専念し、ついに発見してリアル宇宙に出る。ウーマルはそこにいたが、涙を流して感謝するクルーは誰もいないだろう。オウマル号は(アーキテクトによって?)解体・再構築されていた。花の形をした彫刻として。駄目だこりゃ、生存者がいるわけねえ。まさに戦場の光景だったが、ウーマルはその数日前にドックを出たばかりだったのだ。7イドリス「ひとつだけ教えてくれ」ロロがしわがれ声で言った。「あれは……もう行ったのか?」オウマル号はうっかりアーキテクトにぶつかったのか。いずれにしろオウマル号の居住部分は一部が無傷なので生存者捜索に行くことになり、オリとソレスが行くことに。それからクルーは待った。だが生存者なし。ソレスは物質サンプルを採取し、アーキテクトが原因なのかを調べることにする。バーニイは船を捨てようと提案するが、ロロが反対した。結局、オウマル号をラングクロウオービタルのコフィンまで曳航し、休憩に入る。イドリスとソレスはあの戦争以後何をしていたかをお互いに少しずつ教えあう。ニュースメディオタイプがアーキテクトの再来をどこも大げさに報じないのが妙に非現実な感じだった。偶然フエイケイヴァーの統治権がヘゲモニーに委ねられる儀式でカルト信者たちが熱狂しているためだ。エシエル人は動物に寄生した生物から進化したらしく、現在の姿は2枚の貝殻で、フジツボに似ている。コフィンがラングクロウに着く。ルシエル・ロンとロロが条件交渉する。数日間の守秘義務。どのようにエシエルの統治者にこの件を伝え利用するのがベストかを検討する。イドリスは思う、急がないとだめだ。1日以上いれば、ほとんどのポートが私たちを必死で排除しようとするだろうと。8ソレスソレスの新たな忠誠心はあくまでも目下の一時的なものだった。船員であると同時にスパイでもあるから、タクトに暗号連絡は続けている。船員たちとバーに行き、弁護士クリスと話す。パルテノンからイドリスを雇うため派遣されたと認め、何ならあなたも一緒に雇いたいと話す。そこへ大男が近づき、「オウマル号に案内してほしい、おれの主人が見たがっている」と要求する。しつこいのでソレスが殴り、乱闘になる。と、同時にバーで別の(カルティストとネイティヴィストの)乱闘が始まり、男(腰にキモい生物を貼り付けたシムビオント=共生者、トシアトと呼ばれる)は逃げ出す。イドリス、ロロ、オリがビトレイドと呼ばれるネイティヴィスト、人類原理主義者(右翼、尊人攘夷派)に襲撃されている。ビトレイドはエイリアンを排除し(コロニー)人類の力でアーキテクトを排除し宇宙を征服すべきと主張しているから、カルティストのみならず、パルテノンもイントも邪道の敵であり、テロの標的である。カルティストを襲っている二人組の乗客はネイティヴィストのシンパらしく、ナックルとナイフでソレスに襲い掛かる。この二人をソレスとクリスがやっつける。バーニーが乱闘に加わる。そこへ警備員が到着し、反ヘゲモニーの暴動者を逮捕する。カルティストの銀髪女がロロをディナーに招待する。「教えてくれ」オービタルの閑静な通路でカルティストのあとを進みながら、ロロがクリスに耳打ちした。「きゃつめら、すでにここを支配しているのに、おれたちに晩飯と酒をふるまっていったい何がしたいんだ……おれたちゃ、何もいいもん持ってないのに」「カルトも一枚岩じゃないのよ。今、新しいご主人様のマウスピースになるために、いろんな細胞たちが熾烈な競争を繰り広げてるってわけよ……二枚貝……もとい、エシエルは、統治するとなったらすごく放任主義なの、必要なもんが手に入りさえすりゃあ。神様のお気に入りになれれば、こそこそと甘い汁が吸えるってわけ」続いて、ソレスとイドリスの会話。「あんた大丈夫?」「今んとこは。でもバーニーが深空(ディープヴォイド)業務の件をうっかりしゃべっちまって、何とそいつがビトレイドだったんだ」深空業務をするのはイントしかいないってわけ。「いつもこうなるの?」「つまり、パルテノンでは絶対あり得ないってことか」カルティストの集まるディナー会場に着くと、ホストのヒエログレイヴが現れる。ニュースに出ていた有名人の賢者サシエルだ。料理が出る。虫のような集合生物ハイヴァーのメドヴィヒも筐体からぞろぞろと出てきて料理を貪る。サシエルは、オウマル号がアーキテクトにやられたことが明らかな状態だと知っており、ステーション管理官が没収命令を出そうとしていると話す。しかしヘゲモニーがカルティストに反アーキテクトの象徴としてこの船を示せば結束を固め支配を盤石にできる。この惑星には反ヘゲモニーの政治家がうじゃうじゃいる、敵の手に渡れば混乱が増すだろう。だから一緒にあの船を守ってくれとロロに持ちかける。没収命令を排除し、オウマル号をステーション外に移動して展示したいと。ロロは船員の意見を聴く。が、ファクター・ロンは裏切ってあの船を没収しようとしているのだからもう仲間でなく、気兼ねする必要はない。問題は報酬の額だけだ。ソレスにはパルテノンの利害を守る必要があるのでないかときかれるが、今は自分たちの生活の方が大事なので同意。ドックに行くと既にハイジャッカーどもが警備員を殺して船に入ろうとしている。例のトシアトと呼ばれる共生人もいる。また、エイリアンのハニもいる。銃撃戦が始まる。カスティガーというエイリアンがイドリスを襲う。イドリスはヴァルチャー号を操縦するため必要なのだ。カスティガーはイドリスを縦に銃撃を免れ船内へ。バーニーがトシアトを撃つ。銃撃戦でバーニーが死に、メドヴィヒのシェルもカスティガーのビームで焼け、オリのスコーピオンも破壊されるが、イドリスは脱出。しかし結局、敵はヴァルチャー号を奪い出て行ってしまう。間もなくかれらは荒れ果てたベイに残され、バーニーの遺体と、メドヴィヒの全焼した装甲を見つめていた。9ハヴァエルヒューの恐るべき介入委員会の委員であるハヴァエル・ムンディは、ひどい服を着ていた。チーフのラエリーが来て、フエイケイヴァーで問題が起こったと告げる。アーキテクトされたように見える難破船が見つかって騒ぎになっているから調べてきてくれ、表向きは「何でもない、ガセだった」と報告すればいい、しかし非公式に実態を確認して来い、この件はハービンジャー・アッシュが噛んでいる。ハヴァエルは聞かなかったことにして出発する。ハヴァエル、フエイケイヴァー到着。問題の船を曳航してきたヴァルチャーゴッド号がステーションから出てその船を見せびらかしたせいで、惑星は内戦状態の大混乱。ハヴァエルが乗るカスティガーの船はステーションに接近しドッキング許可を求める。ハヴァエルは一件記録を出し、ヴァルチャー号の船員名簿その他の情報を点検する。クリス逮捕された後、クリスは彼らが警備員殺害の容疑を向けられるだろうと予想していた。が、サシエルの抗議で全員釈放となる。彼らは死んだ二人の葬儀をし、船を強奪したサシアトとカスティガーを調査。サシアトはアシエルの奴隷種族であるトシアという虫に似た生物と志願者とのスーパー共生体で真空でも生きられるらしい。クリスは苦労してシンティラで優秀な学生となった過去を思い負けん気を振り絞る。大学は殺伐として決闘が横行していた。クリスはナイフ使いの才能があり、ある金持ちの子息を半殺しにし逃げるようにそこを出たが、あのままいた方がよかったかもと思う。犯人の共生人はメスモンという名で、ハイヴァーのユーリが知っている人物。サーク号という船できており、その船は既に去っている。サーク号のクルーはタレクマ宛の積み荷を受け取っていた。つまりタレクマに向かった。ヴァルチャー号の行方が分からない以上、そこに行くぐらいしかすることはなさそうだ。あるいは彼らは盗まれたヴァルチャー号と同じ目的地に向かってすらいないかもしれないが、ともかく前に進むしかなかった。10ハヴァエル乗客ベイから続く廊下にはピッカピカのテレビ画面が並んでいた。ラングクロウの税関で順番待ちしながらいらいらと靴を鳴らすハヴァエルは時間を持て余していたので、20人のコメンテイターがヴァルチャーゴッド号の逃亡事件をめぐって侃々諤々議論をするのを丸々見ることができた。船長の過失だと主張するトーキングヘッドも何人かいたが、支配的な意見は、正体不明の一派がヴァルチャーゴッドをハイジャックし、消え去ったというものだった。間違いなくアーキテクトされた難破船のなれのはてがヴァルチャーゴッド号のクローに挟まれている様子を撮ったものと思しい録画映像がいくつか流されていた。パニックが起こってはいたがこれを事実と認めない者もあった。誰もが思っていることを誰もが認めたくない。てなわけで。一触即発の静寂がラングクロウを支配している。まだ悲鳴を上げて避難する群衆は現れていない。現在この惑星は事実上ヘゲモニーの支配下にあるから、フエイケイヴァーへの停泊料金は鰻上りになりかねない……世論はエシエルに有利な方向に傾きかねない──ここでもここ以外でも──ひとたびこのニュースが広まれば。入国手続きを済ませ、コネを使ってサシエルと会談。「アーキテクトの証拠」隠滅事件の背景にあるヘゲモニー信者とアンチ信者(ネイティヴ主義者、攘夷派)の対立状況の説明を受ける。サシエルはヘゲモニーの信者ではなく、人類のために何が最善かを考えたうえで、ヘゲモニーにかしずくのがベストという判断をしているだけだといい、ハヴァエルも納得して別れる。しかしなおエイリアンの奴隷種族になるという結論には承服できない。次は船員に事情を聴かねばならない。最初は船員たちのホウクス(いかさま)と思っていたが、死者が2名でた以上、そこまでしていかさまを仕組む理由を見出しがたく、信念が揺らいでいる。船員たちに会うと、ハヴァエルはメディオタイプの記者という偽のプロフィールをかなぐり捨て、ヒューから派遣された捜査官だと明かすが、良し悪しで、モーダントハウス(ヒューの本部)の干渉を嫌うイドリス・テレミアは顔をしかめ皮肉を言う。彼らはアーキテクトにやられた船を持ってきたが盗まれた、やられたのはつい最近だ、以上、と証言。イドリスは自分を連れ戻しに来たのだと思い込み、「絶対に戻らねえぞ」と断言。一見若く見えるが実年齢は聖ザヴィエンヌ猊下と大差ないのだとハヴァエルは思う。「気が変わって何か知らせたくなったら遠慮なくいつでも。留守電にメッセージをいただければ折り返します」とハヴァエルは名刺を渡す。そこへパルテニの女(=強化人間兵士)登場。ハヴァエルはビビッて速攻お暇する。そして報告書を頭の中で仕上げる。「パルテノンがかかわってます。追加の指示をください」と。イドリスコロニーの伝統は、悲しみを短く済ませることだった。新しい仕事を探すも見つからず。ソレスはロロのクルーに留まると言い、クリスとオリを探しに行く。ロロとクリスは、タレクマがいかにやばい場所かを講釈する。戦前に7つのスルーウェイを結ぶ要衝の地として過酷な環境を地球化する事業が行われていたが、アーキテクト戦争の難民が集まり、エイリアンもカルト信者もこぞって押し寄せ、以後、ヒューの管理のキャパを超える状況が続いていると。ヒューは法を及ぼすのを差し控え、そこをスパイ活動の場として使っている。暴力団も多数おり、ブロークンハーヴェストもその一つであると。エシエルも無法者を嫌いつつ、一目置いている。BHはしかし、オウマルに関してはオークションで高く売って利益を上げうるだろうが、ヴァルチャー号の価値は知れたものだから、買戻しに応じてくれるかもしれぬというオリの希望的観測。イドリスは思う、しかしBHに利益を与えることはバーニーとメドヴィヒを殺した犯人と結託することになるんじゃないか、みなそこが気になっているのでは? 案の定、ロロはBHへの「復讐」を口にし、キタリング(キット)にタレクマ行きの切符をいくらかかってもいいから買ってくれと言い、クルーには「おりたい奴はここでおりて構わない、おれはこれから馬鹿なことをしでかすつもりなんだ。だからおりたからって恨んだりはしないよ」と告げる。タレクマまでかかる日数は3日以上、旅費は高額になるだろう。何だかんだで全員が行くことに同意。ドックに行くと、ダークジョアンという船だけがあり、ソレスはすでにその船を執行官として徴用済み(借用)と告げる。自分は確かにスパイであるが、イドリスを説得し手に入れるのが任務だった、しかし船員になるというのも自分の真意で決めたことで、単なる偽装ではなかった、船を取り戻したいというのも自分の真意で、そのために自分の強制徴用の権限を用いたが、そのことへの反発も理解できる、だから拒否するのもあなた方の自由だと、正直に腹を割ってぶっちゃける。また、パルテノンに対しても誤解がある、単に男性に対する嫌悪から強化人間の女性を試験管ベビーとして作っているわけではなく、単に女性から始めるのが容易だからで、決してミソジニー思想からできた組織ではないと弁解する。裁決を取り賛否同数、ロロに決定をゆだねる。ロロは受諾する。イドリスはほとばしる興奮を感じた。ハイジャック犯を出し抜くというのはぞくぞくするミッションだが、何よりも頭について離れないのは、ダークジョアン号ほど洗練された宇宙船を飛ばしたことはこの世に生を受けてこの方ついぞないということだった。第三部タレクマ11イドリスパルテニの厳格な外交官であるジョイ監督官は、ソレスの伯母でもおかしくないような外見だったけれど、少なくともそれよりは10年以上あとに生まれているらしかった。ダークジョアン号の艤装が終わると、イドリス以外の全員が冷凍睡眠に入る。イドリスはバーレンホフでパイソネス号に乗った時の悲惨な経験を思い出しながら、船を虚空へ発進させる。かたやアーキテクト、こなたエンティティ、はっけよい、残った残った! 二つの超越存在を感じながら。ディープヴォイド(深空)の旅は長くかかるだろう。クリス「荒れてるね」クリスは控えめに表現したが、この手の状況でイドリスを扱うのはいつも難しいことだった。タレクマに到着すると、クリスのシンティラでの学友であるスレニコス検察官を通じて仲介者のシュリーム大臣に賄賂を支払い、ブロークンハーヴェストの者と会合することになる。クリス、キット(ファクターのハニとして)、ロロ(船長として)の三人が参加、ほかのクルーは喫茶店で待機する。ハニ同士が「ランドステップ」というゲームで価格交渉し、値引きに成功。「事態は全く違った方向で進展した」シュリームの人工音声は穏やかだったが、手足は興奮で小刻みに揺れていた。「アクルの宮殿への招待状──ハーヴェストのまごうかたなき統治者、アクルの宮殿だ。いきなりトップに面会できる」12クリス(気味が悪いと思ってはいけない)アクルの眷属の言葉は、ロロがだれか代弁する者を用意することを求めていた。・・・・・・「ええ、船長」キタリングが認めた。・・・ゲームは続いた。13イドリス「この様子は気に入らないな」オリーが加速するブロークンハーベスト号の映像を見せた。・・・・・・ソレスソレスはアクセルの目盛りを下げ、ヴァルチャー号の船体や積み荷への損傷を最小にしようとした。・・・・・・それからメズモンは、脇腹にいくつも開いた穴をものともせずに戻ってきた。そして彼女は、自分自身にももっと大きい問題があることを悟った。イドリス「クリス」イドリスは言った。「後ろに折りたたみ式の座席がある。それを出して座り、シートベルトをしろ」・・・ソレスメズモンはソレスのヘルメットに拳骨をたたきつけた。・・・・・・それからようやくオリがこじ開け、みなで中身を見下ろした。たしかに、麻薬だの宝石だのといった類のくだらない品ではなかった。偽物かもしれないが──世界の運命を手に握る手段になるかも知れなかった。14ふたつのコロニーの物語リコスのコロニーは、難民の波が押し寄せる以前は、強固な環境保護論者や異星農業技術者からなる小さなこぶでしかなった。・・・・・・クリスクリスは4年の間、ヴァルチャーゴッド号の外で暮らしていた。・・・・・・「たしかに」とソレスが認めた。「見分けられる人がいるとしても、ヘゲモニーの外には、オリジネイターの遺物の専門家はろくすっぽいない。それに、私たちそっちには、行きたくないよね?」15ハヴァエルタレクマと、より広範な人類利権委員会との関係は、複雑なものだった。・・・・・・それから座って、一体全体どうして、ヴァルチャー号がこのタイミングでジェリコに着いたのかを調べた。第四部ジェリコ16クリスキタリングのいる区域は、人類のクルーから離れた、ハニランブラの故郷にある小さなバブルだった。・・・・・・「彼らにもっと大きな獲物がいるのを祈るだけ」クリスがいい、ヘゲモニーのカルト教団メンバーにうなずいた。せめてエレベーターを出るまでは、ビトレイドやカルト教団メンバーがナイフを手元に持っていられますようにと願うだけだった。17ソレスジェリコのアンカータウン(港町)は、同心円状のレイアウトで、個々の円は、次の難民の波が押し寄せるまでの、各世代の野心の限界を示していた。・・・・・・ジェリコの短い2昼夜が過ぎた後、ガタゴトときしむ車が小道を通ってやっと発掘現場に到着した。・・・その底に、時間それ自体の骨のように、オリジネイターが残したすべてがあった。18イドリス周辺にある人類入植地の不気味なこだまのように、オリジネイターは建築に関してはたしかに同心円状のレイアウトを好んでいた。・・・・・・「運が良ければ、かれらはあなたたちを放っておくだろう」パルセニは付け加えた。「すまない。私にできるのはそれだけだ」19イドリスソレスは一行を木立の2メートル中に配置したが、そこに隠れたままアンカータウンの小道を覗き見ることができた。・・・・・・クリス「で」オリは大きな体で、閉まろうとするハッチと格闘しながら叫んだ。。「イドリスは、私の後任としてちゃんとやれるの?」・・・「ハマー号、こちらはダークジョアン号。これからそちらに向かう」クリスが同意した。(マグダンの手にかかるよりはましだ。たぶん。おそらく)20ハヴァエル「ハヴァエル・ムンディ?」ケリスティナ・スーリン・アルミエがきいた。「待って、ラグマンのような? <伝わった意見>の男?」・・・イドリスヴァルチャー号のクルーは必死でハマー号と通信しようとしていた。・・・・・・ほかのクルーはまだ全員サスペンションポッドの中にいたが、最後のモーションを反対側でやり過ごさねばならなかった。・・・そして彼らはジェリコ星系から深淵へと落ちた。21イドリスというか、その計画だった。・・・クリスクリスはこだまする警報、別の部屋の音と振動に目覚めた。ほかのだれかに悲劇が襲い掛かったのだ。・・・かれらはまだ、非空からの通常の出口がこれまで導いてきたどんな場所よりも遠く離れたところにいた。・・・バーレンホフ。コロニーのスフィアの中心。第五部バーレンホフ22イドリス戦争の78年目に、アーキテクトはバーレンホフにやってきた。・・・アーキテクトは死んだ。・・・銀河の反対側から見つけ出したビーコン、無味乾燥な虚空の中の里程標。23ハヴァエル「あんたがこれをどんな風に扱ったのかが、既に問題になっている」ラエリー隊長が言った。・・・・・・ソレストラインの自動スプリンター・ユニットはまだ作動していて、非空の中を高速追跡中だった。・・・・・・「一つ困ったことがある」彼は特にオリーに向かって言った。「・・・私の上司と面接する羽目になる」24クリスかれらはオリーをスコーピオンから追い出した。・・・・・・船が攻撃されてるんだ、とクリスはぼんやり悟った。・・・誰かが常軌を逸した偏見で、アクルーの宮殿を襲っていた。25ソレスソレスはインプラント越しに、ちっちっという荒い声を聞いた。・・・・・・ソレスは訂正したかった。(それをやるのは死刑執行人・・・)・・・「ヴァルチャー号からコーディ号へ」彼女は相手の船に言った。「案内して、シスター。私たちはついていく」26イドリスイドリスの記憶では、アーキテクトは死んだ。・・・・・・「でもだめだ、聞いてくれ」彼は声をからして言った。「聞いてくれって。全然そうじゃないんだ。あいつらは戻ってきてる。アーキテクトたちがまた現れる。感じたんだ、非空で、戦争のようだって。また戦争が起ころうとしてる」27ハヴァエルパニック。悲鳴。神への祈り、無慈悲な宇宙への呪詛。・・・・・・イドリスかれらはバーレンホフの後、インツを大きく広げ、人類のスフィア(生存圏)を守ろうとした。・・・・・・「やってくる」彼はクルーに言った。「もうここにいる」28ソレス同胞たちは、これに続いて取り急ぎ開催された集会で、ソレスをヴァルチャー号のクルーとともに立たせた。・・・・・・イドリスイドリスとソレスがヘヴンズソード号のブリッジに着いた時、トラインはもうそこにいた。・・・・・・その驚くべき巨大な塊は、かれらに非空に逃げる暇を与えなかった。・・・そして彼は船を救い、だれもがまだそこで生きていた。少なくともアーキテクトが追いつくまでは。29イドリスかれらはイドリスの脳の炎症を治し、内出血を止めるため、薬漬けにした。・・・・・・そしてそれは去った。その巨大な塊のすべてが、現実宇宙から非空へと落ちていった。バーレンホフ星系を明け渡し、後に散らばる宇宙船と合金のデブリを残して。30クリスイドリスが意識を回復したのは、クリスが番をしている時だった。・・・・・・ハヴァエルラエリー隊長は、明確な理由があって、「歩きながら話す」形での会合を言い出すタイプではなかったが、今回は、ハヴァエル・ムンディと美しい景色を眺めて回ることにした。・・・・・・クリス「われわれにはこれを戦闘行為とみなす権利がある!」というのが、クルーが入ってきたとき最初にクリスに聞こえた言葉だった。・・・・・・ソレスタクト上級監督官は、ヴァルチャー号のクルーの四方山話が終わった時にはもう、サンダーチャイルド号に向かった後だった。・・・・・・「はい、母さん!」そしてソレスは颯爽と踵を返し、歩みだした。・・・ヴァルチャー号を迎えに出ていくときには、一人ほくそ笑んでいた。引用:開戦78年目に、一体のアーキテクトがバーレンホフにやってきました。・・・「はい、母さん!」そしてソレスは颯爽と踵を返し、歩みだしました。・・・ヴァルチャー号を迎えに出ていくときには、一人ほくそ笑んでいました。
2024.03.22
http://sffantasyhorrorlist.blogspot.jp/ブックリスト【SF・FT・HR・文芸】 読みたい本のリストがあると便利なので、ここに載せようと思ったが、文字数制限のため断念。文字数制限のないBloggerに専用ブログを作ってみた。とりあえず今読んでいる、英国幻想文学賞の長編のリストを掲載。で、楽天市場のリンクを貼ろうとしたが絶版・品切れが多くてなかなか見つからず、途中までしかリンク貼れていない。追って追加する予定。
2015.07.17
キャシー・コージャ「虚ろな穴」ハヤカワ文庫NV人物:ニコラス・ウィーナー(僕。ビデオ店員、詩人志望)、ナコタ(ウェイトレス)、ランディ(運転手)、ヴァニス(その恋人)、ノーラ(ニコラスの旧友)、マルコム(芸術家)、ドリス+アシュリー+デイヴ(その取り巻き)梗概:発端(~92)俺と女友達のナコタはアパートの倉庫で奇妙な穴を発見する。ブラックホールのようにどこか異空間へ通じているらしい。ナコタはそこへ虫や鼠、ついには死人の手を投げ込む。入れた物はばらばら、ぐにゃぐにゃになる。ナコタは性的に興奮し、俺との間で肉体関係が復活する。俺も性的興奮を覚えつつ、嫌悪感を止められない(1)。俺はビデオショップのビデオカメラを借用し穴の中を撮影する。そのテープには不気味な怪物が自分の内臓を抉り出しそこから生き物が生まれるような、わけの分からない映像が5分ほど映っていた。ナコタはその映像に夢中になり貪り見た。そして全裸になり、「私の頭が下にある」と言って穴に頭を突っ込もうとしたので、止めようとした俺ともみあいになった。弾みで俺の手が穴に突っ込まれた(2)。兆し(~221)俺の右手は丸い穴が開き、そこから白い液体が流れてくる。ナコタは友人のランディをつれてくる。穴を見せたが俺がいないときは何も起こらないという。ビデオを撮っても何も映らないと。俺たちがふたたび穴の部屋に入ると穴は匂いで俺たちを誘惑した。俺は穴に手を突っ込んで空中浮揚したらしい。まったく記憶がない。ランディの美術作品である捩れ梯子を持ち込んで触ったら溶けた。俺は吐いた。もううんざりだった(3)。俺は旧友ノーラの家に転がり込み、自殺を考えるが思いとどまり、アパートに戻った。店をやめて家賃が払えないので、ナコタに引っ越してきてもらい、ついでにランディとヴァニスも来た。4人でふたたび穴に向かった。俺が飛び込もうとしたのでランディが俺を殴った。俺たちはひどい気分で寝た(4)。俺は穴のある倉庫を見張ることにした。そして誰もその部屋を使わないし興味も持っていないことが分かった。やがて俺の右手から出た液体とランディの作品から溶けた金属が混ざり合って穴に吸い込まれ、俺は気絶し、ランディに助け起こされた。俺とランディはギャラリーに行きそこでマルコムという芸術家とその取り巻きに穴のことを自慢してしまった。俺は後悔しながらアパートに戻った。ヴァニスがいた(5)。絶頂(~324)マルコムが来てビデオを見ながら俺のデスマスクを作った。マルコムの取り巻き3人が来て皆でビデオを見た。俺は穴の部屋へ行き、他の連中もついてきたが、ナコタ以外を閉め出し、ナコタとセックスして気絶した。俺たちは部屋に運ばれた(6)。マルコムはデスマスク作業を継続し、3人の取り巻きは俺の親衛隊のようにやたらと質問してきた。ビデオを撮りたいといって一人がカメラを持ってきた。ナコタが撮ろうとするので俺は止めようとした。俺の右手の汁が触れるとカメラは溶けた。ナコタは激怒し、あのテープを奪って出て行ったが、ダビングできなかったといって戻ってきた(7)。ナコタは自分で派閥を作り3人組の取り巻きを連れてきて俺と対立する。マルコムが俺のデスマスクを完成させて倉庫の入り口の上に掲げる。室内でナコタと揉みあいになり追い出す(8)。収束(~424)俺は手錠で自分を倉庫に閉じ込める。室内には金属のしゃれこうべがいる。ナコタがやって来て開けろと叫ぶ。そして独自の宗教理論を主張する。トランスカーション、変化への道なのだと。だが俺はナコタを拒絶し、ヴァニスを呼べという。ヴァニスを一度だけ入れるが、けっきょく出てもらい、俺は倉庫にい続ける(9)。俺の体は粘液で覆われだす。ドアの外にはマルコムとナコタが新興宗教の信者を集めて騒いでいる。俺がドアを通して手をだしマルコムやナコタを殴ったり、締め上げたりする。ナコタは自分こそ変化に相応しいと言い張るが、欲望まみれだ。だから無理なのだ。おれが選ばれたのは俺に欲がないからなのだろう。俺は穴に飛び込もうとするがドアが開いてナコタらが入ってくる。俺はナコタを止めようとして足をつかみ、足をちぎってしまう。俺とナコタは腹の底で憎みあっていたのを悟る。ナコタは死ぬ。俺はマルコムの顔を穴に突っ込み、変形させる。鼻はもげ、口は魚のようになった。そのうち警察がくるだろうが俺は液体に完全に包まれてから穴に入るつもりだ。でもこの穴はけっきょく俺自身の空虚なのではないだろうか。愛とは心にあいた穴だという(10)。叙述形式:一人称一視点分析:対立性(対自的、対人的、対物的)対人的対立性:僕対ナコタ、マルコム(穴の争奪戦)対自的対立性:僕(生命欲・ナコタへの愛情対穴への支配欲)対物的対立性:僕ら対穴テーマ(欠けるもの、欲望、基調感情)とその結果(一致か不一致か、計画か偶然か)僕:ナコタへの愛(失敗)、穴への支配欲(成功)ナコタ:穴への支配欲=変身欲(失敗)新奇性:人を誘惑し異常な物理現象を起こす穴、セックスコード性とカオス性:コードが支配する物理空間に物理法則を破壊するカオスな穴が出現し、人々を支配する。カオス勝利型。叙述トリック(重要事実秘匿の有無):無(強いて言えば、ナコタに対する憎悪?)メタ性(物語宇宙は他の宇宙と錯綜しているか):無。総評:周囲のものを誘惑し変化させてしまう穴をめぐって、若者たちの欲望がぶつかり合い、どろどろの愛憎・宗教地獄絵巻が繰り広げられる。単一アイデアのみ、限られたキャラクターのみで話をうまくころがし単調にならず飽きさせず、「求めない・欲しないもの」が選ばれるというオチ。しかも、それは単なる「心の穴」かもしれないという両義的結末。処女長編らしく荒削りでテクニックはないのだが、モチーフに対する真摯で不動の熱意が奇跡的に持続し、実にオリジナルな傑作となった。シルヴァーバーグのBook of Skullを超えた? 9点。
2014.06.22
キング読んで改めて気づいたのが無駄なことをたくさん書いていること。1行で済むことを5行ぐらい使って書く。例えば↓こんな具合。ボビーはハーウィッチ・ウエスタン・オートのショーウィンドウに飾られた車輪26インチのシュウィン製自転車に首っ丈になっていた。ボビーは自分が知っているあらゆる方法で、この自転車のことを母親にほのめかしつづけ、遂にある晩ふたりで映画を見に行った帰り道で、母親に自転車を指差して教えた(ちなみに見てきた映画は階段の上の暗闇。ボビーには筋立てがさっぱり理解できなかったが、ドロシー・マクガイアが椅子に身を投げ出すようにすわった拍子に、すらりとした足をあらわにしたシーンは気に入った)。↑ここなど、普通の作家は↓こんな風に書くだろう。ボビーは自転車屋のショーウィンドウに飾られた車輪26インチの自転車に首っ丈になっていた。ボビーはある晩、母親に自転車を指差して教えた。↑これで十分だろう。自転車のブランド、母親に自転車をねだったとき映画を見に行ったことやその映画の内容など、全く不要な情報である。下手な作家がキングのように書いたら冗長になるだけで、ただのページ稼ぎにしか見えないはず。この「余計な情報による水増し」がキングの個性であり、なおかつ、キングの人気の源。固有名詞の選び方、膨らませ方が巧妙で、それ自体が興味を引き、臨場感を高めている。上記のシーンでは自転車を具体化、固有名詞化することで想定読者である平均的アメリカ人の共有記憶を刺激し、ノスタルジアを高めるのだろう。映画についても同様だ。共感性を高める手段として、平均的アメリカ人の共有記憶を刺激するためのディテール詰め込み。日本人作家が同じことをしたらどうなるか。例えばこんなふう↓啓祐はサイクルベースあさひのショーウィンドウに飾られた車輪26インチのブリジストン製自転車に首っ丈になっていた。啓祐は自分が知っているあらゆる方法で、この自転車のことを母親にほのめかしつづけ、遂にある晩ふたりで映画を見に行った帰り道で、母親に自転車を指差して教えた(ちなみに見てきた映画はスワロウテイル・バタフライ。啓祐には筋立てがさっぱり理解できなかったが、伊藤歩が裸でうつぶせて刺青を入れてもらうシーンは気に入った)。やっぱり微妙だ。具体化の仕方、固有名詞の選び方にセンスが問われる。キングはこのセンスがいいのだろう。
2013.08.07
英国のセミプロSF雑誌インターゾーンが出しているアンソロジーの第2集を再読中。冒頭3つを読んだが内容はほとんど忘れている。地味な近未来物が並んでるせいか。バラードの「月を歩いた男」が面白かった。SFというより妄想普通小説だけどね。
2013.07.24
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【送料無料】アメリカの鱒釣り価格:578円(税込、送料別)<人物>わたし(俺)アメリカの鱒釣り:俺の空想の中で?俺に答える鱒釣り師。<粗筋>導入(-19)「アメリカの鱒釣り」の表紙はサンフランシスコのフランクリン像だ。午後5時には教会で貧乏人にサンドイッチが配られる(表紙)。子供の頃俺はアメリカの鱒釣りについて初めて知った。1942年夏。義父が話したのだ。(俺の空想の中で、以下同文)アメリカの鱒釣りは俺に答える、「俺も、夜明けに釣りをする三角帽の男たちは好きだ」と。あるときポートランドで鱒のいそうなクリークを見かけて近寄ってみたら白い階段だった。鱒釣りは言う、「さすがに階段をクリークには変えられねえよ。ま、俺も婆をクリークとまちがえて人違いだって言われたことがあるんだがな」と(木を叩いて1・2)。兆し(-149)17年後俺は釣り道具を抱えて蠅を捕っている。廃れた公衆便所に向かって「死ね。俺は川下に行く車を拾いてえだけなんだ」と俺は唸る(赤い唇)。子供の頃クールエイド中毒になった友達がいたが奴はいつも儀式と称してクールエイドを2倍に薄めて振舞っていた(クールエイド中毒者)。鱒釣りとその彼女のマリア・カラスには林檎の砂糖煮、パイの皮、匙一杯のプリン、胡桃ケチャップが相応しい(胡桃ケチャップの一風変わった作り方)。ムアズヴィルでは地下に大量のネズミを見つけた男が撃ち始めたが、ネズミは他のネズミの死骸を食った。俺たちはスチールロッド・ヘッジにいた(グライダー・クリーク)。コブラ百合はバレエのように優雅に昆虫をワナにかける(鱒釣りのためのバレエ)。俺は公園で二人の画家と話す。画家たちは冬を精神病院で過ごそうかと話す(アル中たちのウォルデン池)。トムマーティンクリークで鱒を釣ったがあそこで鱒釣りをするのは俺ぐらいのものだとわかった(トムマーティンクリーク)。墓場の間を流れるクリークでも俺はときどき釣りをする(墓場の鱒釣り)。本屋の主人は俺に抱く女を見つけてきて、俺はその男連れの女とセックスした。その後店主は俺と女の物語を勝手に二つでっち上げて聞かせた(海、海乗り)。ヘイマンクリークの由来となったヘイマンは現地の名物男で、彼が亡くなったら川を昇って来る鱒がいなくなった。あとで鱒を放流してもすぐに死んだそうだ(ヘイマンクリークに鱒が登ってきた最後の年のこと)。釣り仲間で鱒をポルトワインで殺した奴もいる(ポルトワインに寄る鱒死)。ちなみに、俺は例えばバイロン卿をアメリカ鱒釣りと見立てた死体検案書を想像したりもする(アメリカの鱒釣り検死解剖報告)。車で移動中ヒトラーのような羊飼いを見た。眠る羊たちにスターリングラードのメッセージが届いた(メッセージ)。小学校のころ俺たちは背中にアメリカのます釣りと書きあうテロリストになった(アメリカノンます釣りテロリスト)。パードはアメリカのます釣りに手紙で、FBIがます釣り狂を指名手配したと知らせる(FBIとアメリカのます釣り)。ワースウィック温泉には流れ込んだ魚がたくさん死んでいる。そこで女房とセックスした(ワースウィック温泉)。アメリカのます釣りちんちくりんという脚のないアル中もいた。彼を作中に登場させるネルソン・オルグレンに彼を保護するよう頼む手紙は結局出さずじまいだった(ネルソン・オルグレン宛アメリカのます釣りちんちくりんを送ること)。アメリカのます釣りの変装をして夜な夜な殺人をする男もいる。彼は今市長だ(20世紀の市長)。羊まみれのパラダイスクリークでも釣りをした(パラダイス)。以前ミズカマキリ研究をしていたころよく浮浪者を交えてさくろんぼを摘んだ(カリガリ博士の実験室)。ソルトクリークにはコヨーテ退治の青酸カリがしかけられていてナチスのガス室を連想させる(ソルトクリークのコヨーテ)。ある電話ボックスがたくさん並んでいるように見えるクリーク(白い岩がところどころあり、昔見た死んだ白い猫に似ている)で背中にこぶのあるせむしますを釣ったこともある(せむします)。テディ・ルースベルトが作ったチャリス国有林にも行った。モルモン教にいう「霊魂の牢獄」があるらしい。靴下の保証書をなくしてショックだった。赤ん坊が雪を食べたので怖くなってとめた。クリークは釣り禁止とあったのでびびってやめておおいた。モルモン教徒の食堂マダムの話も聞いた。キャンプ場は寂れていた(テディ・ルーズベルト悪ふざけ)。アイダホではフライパンで雑魚をとった(スタンレー盆地ではプディングで勝負)。アメリカのます釣りホテルで友人から208という名の猫を買うぜげん崩れの男と愛人の女に紹介され、何度か訪ねた。猫の名の由来はホテルの部屋番号ではなく、友人を保釈させるために裁判所に行った時の担当部署の番号だった(アメリカのます釣りホテル208号)。リトルレッドフィッシュ湖であった外科医は医者がいやだとぼやき、幻想地平アメリカを目指していた(外科医)。子供の名を思い出すにはキャンプでます釣りがいいといわれたノリスはテントで寝ていたら隣に遭難者の死体を置かれ怒鳴って追い出すと、まもなく下のほうでほかのやつらが同じように怒鳴る声が聞こえた(目下アメリカ全土で大流行のキャンプ熱について一言 ※珍しく普通に面白いコント)。久しぶりにアメリカのます釣りに手紙で「君の友人のフリッツが無罪になったと伝えろとさ」と書くと「そりゃよかった。NYは暑い、風呂で水を浴びると犬や死人が集まってきてうざいからアラスカに行きたい」と返事(本書の表紙への帰還)。絶頂(-213)ヘルダイヴァー湖で制限いっぱいのますを釣ると赤ん坊が吐いたがすぐ治った(ジョセファス湖の日々)。永劫どおりを行きながら昔を思い出す。隣人の屋根修理の手伝いをして失敗したこと。その屋根裏で死んだ女主人の弟のます釣り日記を見つけたこと。釣り損ねたます平均10・8。7年かかって一度もつれない、もうたくさんだ、と書いてある。でも誰かがます釣りに行かねばならぬと、エイハブ気取りで(永劫通りのます釣り)。さて、メルヴィル+ヘミングウェイ的な一種のパスティーシュという見方も存在するこのふざけた作品もいよいよ佳境に入るはずだ。とある森の記念館で戦18年前の死者の写真、感慨深い(タオル)。再び表紙の広場。子供が砂場で遊ぶ。赤いドレスの女にFBIに売られここで殺されたジョン・ディリンジャーを思い出す(砂場からジョン・ディリンジャーを引くと何が残る?)。最後にアメリカのます釣りとあったのはヘミングウェイが死んでまもなく、二人ともその事実を知らなかった。グレイとフォールズの話をした。ディアナ・ダービンは嫌われていた(・・・と最後にあったときのこと)。ます釣り旅行が終わると俺は友人男女のとまるキャビンに居候する。走り回る鹿を見てびびった(カリフォルニアの未開地で)。娘が生まれてまもなく、公園で娘はアメリカのます釣りちんちくりんを見たことがある(アメリカのます釣りちんちくりんに関する最終記述)。アメリカのます釣り共産主義者が行った平和デモはすごかった。アメリカはもう赤の巣窟なのだ(アメリカのます釣り平和行進に関する証言)。カリフォルニアの未開地ではごみをトイレに捨てていたがすぐにいっぱいになった(赤い唇への脚注)。クリーブランド建造物解体会社に小川を買いに行った。展示されているばらばらに分解された滝や川や動物を見た(クリーヴランド建造物とりこわし会社)。俺はアメリカます釣りのダヴィンチが最後の晩餐のルアーを発明するのを妄想する(レオナルドダヴィンチ賛歌うたう日曜日の半日)。シュモルトへクリスマスツリーをきるバイトに行ったが給料をもらえず自分で木を売って換金して帰ってきた男が金のペン先のペンをくれた(アメリカます釣りペン先)。収束(-217)エスキモーは氷の中ですごすが氷という言葉を持たない。言語の起源についてワンワン、どんどん、プープー語源説があるが決め手はない。木の上の動物は文明を起こせない。俺はずっとマヨネーズの言葉で終わる本を書きたかった(マヨネーズの章へのプレリュード)。1952年2月3日、母ナンシーが危篤のグッド氏に会いに行ったフローレンスとハーヴにお悔やみをいう手紙の追伸はこうだった。「あげるのを忘れてしまってごめんね、例のマヨネーズ」(マヨネーズの章)。<分析>視点 一人称現実・論理・幻想 幻想コード・カオス 徹底的にカオス基調感情、読者の期待と実現 アメリカの大自然と人情への憧憬、ほろ苦く皮肉なユーモア機軸人物の欲望と行動俺(ますを釣りたい)→(ひたすらますを釣って歩く)物語的新奇性人物間対立性なし。顕在的な葛藤性なし(そもそも心理描写もそれを暗示する描写も少ない)。環境対立性あるもののさほど敵対的でもない(思うようにますが釣れなかったり、いろいろな変な体験をしたりすることはある)。美的新奇性アメリカ西部の田舎の自然、人情。とぼけたユーモラスで皮肉な文体。所々顔を出す幻想モチーフ。分析感想普通の意味での物語性はほぼない。おちのない短いエピソードが脈絡なく時系列にも沿わずにえんえん羅列される(2つほどおちのある話もあるが例外中の例外)。読んでいる質感はほぼ紀行文のそれ。芭蕉のおくの細道とか。ますのモチーフはメルヴィルの白鯨を思い切りスケールダウンしたパロディのようにも見えるし、えんえん釣りをして歩く内容や題名、心理描写を省く簡潔平易な文体はヘミングウェイのパロディに見える。また短いスケッチを重ねる構成はワインズバーグオハイオなども連想させる。いろんなアメリカ文学をハイブリッドさせて自己流に仕上げたポストモダン文学。これが小説なのか詩のようなものなのかは分からないが、見た目の平易さに反しかなりラディカルな実験作なのは確かだ。ただ面白さという観点でいうと、ふつうの物語性を重視する俺としては、物語性がほとんどない以上、正直面白くはない。文学史的な意味に敬意を表して6点がせいいっぱい。もちろん、(内容は残念だが)文体はとても面白いと思う。ぜひ真似してみたい。
2012.04.13
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【送料無料】後藤さんのこと価格:777円(税込、送料別)短編集。粗筋を要約しても意味がない作品が多いから、原則として粗筋項目は設けない。●後藤さんのこと★★★1/2様々な一般名詞の意味を兼ねる「後藤さん」という固有名詞のような一般名詞について、スチャラカ真面目な考察を展開する言語実験ギャグ小説。タイムマシンで遡って自分を殺そうとする存在に始まり、囚人のジレンマ、量子力学、光の3原色、蛇、質量とエネルギーなど様々な議論に使われる基本概念と似た存在でもあるらしきこの謎の存在について、ときどき「後藤さん」という固有名詞的な人物の意味も顔を出しながらの摩訶不思議な世界が現出する。面白いがちょっとくどい感じもする。普通は半分ぐらいでやめるよね。個人的な好みよりちょっとおちゃらけ過ぎているのも微妙。むしろ一般名詞と固有名詞の関係性などについてもうちょっとシリアスな議論をしたほうが面白かったと思う。●さかしま★★★★ある官庁からウルと呼ばれる領域に調査分析のため送り込まれ帰還した存在への語りかけのスタイルで、読者の住む宇宙とは異なる物理・論理法則の支配するメタ宇宙についての宇宙論が展開される。マクロな揺らぎだのマイクロ凍結領域だの、すべてを反転させたような架空概念から構築される異常な宇宙像が過剰なまでに論理的に語られていており、くだらなさと難解さが絶妙にマッチして楽しい。●考速★★★★起 草稿はここで途切れている。承 目覚めると佐倉の声が聞こえる。奴は(1)2通り以上の意味に解釈できるひらがなの羅列、を板書しながら、あるいは、(2)左下に文字を付け足すことによって文字や文の意味を変化させて行く練習をさせながら、定義と公理と定理と系の関係について、エチカの神の存在証明が循環論法として自己完結しながらも一個の公理となっていることについて、語り続ける。転 彼は様々の論点に矢継ぎ早に触れ続ける。思考より速い速度で考えられるか。無理だ。ならどうして思考が可能なのか。あるいは面積が同じなのに周の長さが無限となる図形について。すべての量子が光速で動いており、ただ歪んだ軌道を動いているために遠くから見たら遅く見えるだけだというシュレディンガーの異端解釈。夜の間も脳は活動しており、電力消費の有無と思考は関係がないということ。神の存在証明は平面図には表せないから文字で表すしかないということ。結 「他の者によって考えられないものはそれ自身によって考えられねばならない」というスピノザの循環的な公理系に結局帰って行く。俺は目を開けて佐倉の声の源を捜す、すると冬を経て去年の枯葉が地表に出てざわめく。(冒頭に戻る)評 言語論理の持つ循環的構造や相対性を、論理学の言葉を用いながら、スピノザの公理や掛詞的な言葉遊びを通じて表現した思弁小説。言葉の不思議さを一つの小宇宙として表現できており、これが物語といえるかどうかは別として、少なくとも傑作である。●The history of the decline and fall of the Galactic Empire★★★1/2起 銀河帝国は墓地の跡地にある学校のような帝国ないし帝国のような学校であり、給食のメニューで闘争し滅亡を早めたといわれる。臣民には骨格を持つ者と持たぬ者があり、骨格を持つ者は自己の出身地の夜にのみ動き、骨格を持たぬ者はピアノを弾く。校庭にはときどき旧銀河帝国が出没する。異なる時間が接しているのか時間のずれた別個の並行宇宙なのかそれともそれ以外の二重存在あるいは単なる幻だったりするのかは分らない。皇帝の座は階段の上にあり、そこでは幼帝の霊がよく遊んでいる(怪奇)。承 銀河帝国は極めて広大で、超空間通路で網目状に覆われ、これをつかむことで銀河帝国を持ち歩くのが超空間航法だ。超光速航法は年々進歩する。最近人口が爆発的に増えた。幼帝の霊たちが超空間通路で柄杓をあさり空白を注ぎ込む(地勢)。銀河帝国はオタク商品あるいは単なる世間の人としての属性も場当たり的に持つ。予約不可ですぐに完売、初回特典入手困難、無許可撮影禁止。銀河帝国趣味はきもいから銀河帝国たちが陰口を聞く(巷間)。銀河帝国は人でもある。偽物は髭が黒い、酔って踊子に手を出す。幼帝が家に戻ると銀河帝国一家が荼毘に付されており幼帝は仇討ちを望む。銀河帝国は必ず滅びるのだ(人倫)。銀河帝国は貴重品でもある。謎でもある。被害者でもある(怪盗)。銀河帝国は全人口が全人口の倍はあり、何度でも甦る等等(質疑)。銀河帝国は戦艦のようなそうでないような存在でもある。つまり、銀河帝国は銀河帝国で銀河帝国に乗って銀河帝国を救いに行く的な存在である(大戦)。転 銀河帝国は学生服のボタン、友達、部活の名称、その他もろもろだ。文脈から分ったり分らなかったりする(卒業)。銀河帝国は呪いの手紙あるいは箱、犬、ゴミ、アレルギー性の食べ物、などである(残余)。結 いよいよ銀河帝国に決着がつく。二人の幼帝が相撃ちで滅びる(終局)。評 例によって「銀河帝国」の語を様々な語と置換して遊ぶ言語実験ギャグ小説。面白いけど普通半分ぐらいでやめるよね、という感想もいつもと同じだ。<二次創作>同じようなもの(語義の入れ換えごっこ)はいくらでも書けると思うので今更やらない。というか夢日記でしょっちゅうやっている。そもそもただのレトリックであって、大々的にテーマにするようなものでもあるまい。もっとも、文体実験は面白いので他にもいろいろ思いつく。たとえば、びっこを引く時間というアイデアを思いついた。普通の物語のように進行するのだがところどころで文章が反転し、ある時点まで戻って別の歴史を刻みだす。これを繰り返してバラバラの物語が展開するというもの。●ガベージコレクション★★★1/2これは羽山亨という友人が書いた遺書についての物語だ。遺書といっても時間の逆行が可能であるか、換言すれば可逆な計算が可能であるかについての彼の仕事だ。彼はチェスの王手から過去に遡ることによってその問題を把握しようとする。時間が進むにつれて、計算が進むにつれて、通常はゴミ情報が放棄されその分エントロピーが増大する。このゴミ情報をゴミではないものとして捨てずに記録すればいい。情報をこちら側と向こう側で互いに互いを不必要なものとすることでこの過程は成り立ちうる。そして向こう側では時間が逆に流れるはずだ。羽山はチェス盤を真逆に戻そうとする女の姿を見、そして女を消したという。その女は向こう側の俺たちなのか。羽山の研究が遺書だというのはこの意味だ、俺たちと彼女たちは一瞬接触しそして時間の逆方向に遠ざかって行くのだから──という熱力学、情報理論の観点から時間逆行の可能性を探った思弁小説。ハードすぎて一般性には欠けるが、力作だ。●墓標天球★★★★球面の上を時間を逆行しながら溝を掘り続ける男(「私」→最終章では「男」)が他の2人の登場人物、少年及び少女と偶然に出会いながら時間の原初へと遡り続けて行く話。登場人物はこの3人のほか、天使と豚。天使は天球を作ったり回したり壊したりする存在で、階層秩序を做している。世界は球体であり、3人の人物は直交する三本の輪を回っているのだが、視点人物だけが時間を逆行している。その原因なり動機は記されていない。この世界は3次元であるのだが3人の人物はただ輪に沿った「階段」をを一定速度で進むだけであり、4次元目の時間を順行する(登る)か逆行する(下る)かの2つの選択肢しかないようである。また、地面を掘ることは可能らしく、この地面を掘るという行為は、天使が失敗作の天球の皮を剥がして行く作業と一体(動作主と道具)の関係にあるのかもしれない。この球体世界を時間発生後に動かしている力はインペトゥムと呼ばれる。この概念は誰が発見したというのでもなく、少女と時間を逆行する男の間で無限ループでやり取りされている。そして、時間を順行して行けば真の時間のある世界に入ることができると少女は信じているが、男はそのような概念を持たないか少なくとも疑っているらしく只管時間の原初を求めて逆行し続ける。少女は男が物語の中で忘れられずにいられる視点を見つけられればいいのにと願う。始原に達して自分の存在もろとも消える前に。──ほぼ要約するとこのようになる。作中に示唆があるとおり、球面を直角に交叉する3つの輪に沿って3人の人生が交叉する世界があるとしたら、という世界原理改変に基づいて導かれた物語世界を舞台とする作品である。この舞台世界を暗喩の如く用いて(完全な暗喩ではなく、暗喩的に転用して着想に利用している程度にとどまるが)時空を支配する原理についての思弁的議論を登場人物たちに行わせている。3人の人物の繰り広げる図式的な物語は、人間の出会いと別れの象徴物語にもなっている。環境対立性と葛藤性の物語を中心に、対立性は弱いながらも人的物語性も含んでおり、本書収録作の中では最も物語性(対立的新奇性)と思弁性(美的新奇性)のバランスのよく取れた佳作である。本作品の持つ思弁性と物語性の結合をより推し進めたのが例えば「道化師の蝶」であるし、本作後半の時間逆行のメッセージのループのアイデアは最近SFマガジン掲載になった短編でも再利用されていることからも分るとおり、本作は最近の円城の作風推移の原点ともいうべき内容になっている。●目次INDEX★★★★円城塔が魔法使いにして少年であり、自分が登場する本が自分自身を読む話を書く、という話。巻末付録のミニ本。目次自体が本文であり、目次のみで物語が成立するという人を食ったメタフィクションである。ウリポ的実験作だが書かれている内容も物語として面白く、傑作である。最後に円城ならぬ「炎上」するのが嗤える。
2012.04.13
久々の書き込みだけど書くことない。とりあえず、坪内逍遥の「小説神髄」と「クルアーン」を読み始めた。坪内は現代語に訳そうかと思ってる
2012.02.01
黎明の王 白昼の女王 を読んでいる、面白い。
2011.11.14

楽天ブックスの「ブログネタ」をブログで紹介して10万ポイント山分けに参加しよう風の影(上)価格:780円(税込、送料別)風の影(下)価格:780円(税込、送料別)カルロス・ルイス・サフォン「風の影(上下)」集英社文庫 - 俺 URL風の影読了。終盤で俄然面白くなって評価を上げた。最後まで読まないと分からないね。9点。現在パートのストーリーと過去パートのストーリーを重ね合わせた着想の勝利。作中作的な位置づけの過去パート(フリアンとペネロペの悲恋とそれに起因する破滅と復讐の物語)が、その謎を解き明かす現在パートの「ぼく」の教訓になり、成長の鍵となっている。そして、最後にフリアンと「ぼく」の物語が現実に重なり合い、「ぼく」が救われて幸福になることで、フリアンも代償的に救われ、生きる元気を取り戻すという流れが秀逸。顔のない男=フリアンであり、自分の本を燃やしている男がフリアン自身であったという真相は十分に衝撃的だったが、この真相をより切なくしているのは、ペネロペが最初の時点で死んでいたことを全く知らないままフリアンが10数年も生き続けていたためだ。ペネロペと会うために費やされた俺の人生は全て無駄だった、意味がなかったと認識したときのフリアンの絶望感とその後の自暴自棄な自己抹消衝動は同情できるし、胸に迫る。したがってフランコ独裁の象徴的存在とも言える、歩く狂気・凶器とも言うべき無差別復讐鬼フメロとの死闘へ向けての終盤の怒濤の展開はサスペンス満点だし、ベアトリスをかばおうとして凶弾に撃たれ生死の境をさまよった「ぼく」の復活と再出発へのエンディングが很も感動的になる。凡庸な作家なら近親*相*姦ネタを出した時点で満足してあとは雑に展開させてしまいそうなところを、この作家は単なる一要素にしかせず、その後にもそれ以上の衝撃を畳み掛けるように繰り出してくるのだ。正直やや退屈な感のあった上巻に比べて、終盤のネタや展開の密度の濃さは圧巻だ。後半の印象を高めるべく計算された前半のゆったりさだったのかとすら思われる。更にはスペイン内乱とその後の圧制時代という時代の暗い影も内容にシンクロしており、この重層性が文学的深みを加えている。本作のシリーズを書き継ぐ予定らしいが、この水準を維持するなら勝手ながら「スペインのゴダード」と称するに値する力量だと思う。本作にテクニック的に学ぶべき点は多い。1、ストーリーラインは1つよりも2つ重ねたほうがいい。2、主要人物は二面性を持たせたほうが魅力的になる。3、主要人物は不幸や危難に陥っているほうが共感やサスペンスを生みやすい。4、個人・家族の人間関係、人間間の情念(愛情、憎しみ、復讐)を表面上のテーマ(謎解き、ミッションクリア、闘争など)に重ね合わせたほうがよい。特に、中心に恋愛要素は入れたほうがよい。5、恋愛を入れる場合は悲恋にしたほうがよい。親や所属集団同士が仇敵であるほうがよい。不倫関係などに起因する知られざる近親関係は、障害要素として効果的である。恋愛は失敗に終わってもよいが、その場合は何らかのテーマ的必然性(人生の教訓など)や、それに代えて主人公が得るものがなければならない。6、最も強大な敵(本作ではフメロ)は絶えず脅威として登場しつつ、クライマックスにおいて主人公と対決し、最大の危難をもたらさなければならない。7、主人公は、終盤において生命の危機に陥ると物語が面白くなる。ただし、主人公の命は助かるほうがよい。主人公が絶命する場合には、そうすべきテーマ上の必然性があるべきだ。これらの要素の多くはクーンツも挙げているが、本書はこれら全てを満たしていて、なるほど確かに物語の面白さに基本法則というのはあるらしいと分かる。他の本を読みながらもう少し調査分析を進めてみたい。ところで可能世界論的にもこの作品の面白さは説明できる。人間関係が複雑なんだけど、その各々の思い描いている世界の食い違いが錯綜しているがゆえに面白い。互いに騙しあっているために、様々な人間が無駄なことに人生を費やしたり死んだりしている。こう見ると「人物の関係の変化が面白い」というよりも、それらの人間を介して「衝突する諸世界の関係の変化が面白い」のだといえる。つまり、8、主要人物の主観世界および客観世界は、全て互いに食い違っていなければならない。そして、互いにその食い違いを利用して騙しあわなければならない。という法則も立てられるのだ。むしろ、これが一番大事だと思う。
2010.10.31

楽天ブックスの「ブログネタ」をブログで紹介して10万ポイント山分けに参加しよう江戸の暗黒街改版価格:540円(税込、送料別)池波正太郎「江戸の暗黒街」新潮文庫おみよは見た★★★むぅ……。改行が多くて薄っぺらい文体。読みやすいのだが、なんか味気ないなぁ。殺し屋が女に亭主の妾の殺しを依頼され、殺す。しかし下女に目撃され、下女を消そうと目論む。一方の下女は妾に虐待を受けていて、殺してくれたことを感謝し誰にも犯人を見たことを告げない。そんなこととはつゆ知らず、犯人は誤ってほかの娘を殺してしまい、処刑される。人物同士の表象世界の相違が悲劇を生む、というトリック自体はいちおう合格点だが、展開は単純だし、人物描写もやや浅い。それに、江戸時代を舞台にしなくても成り立つ話だよね。だれも知らない★★1・2これまた微妙。父を殺された武士が逃走した男を追って仇討ちに出るが、腕に自信がなく行きずりの浪人に殺しを依頼、しかし金を持ち逃げされる。この浪人が偶然、犯人の家に盗みに入り、それと知らず刺し殺す。それを知らぬ先の男は、仇討ちの為放浪を続けている。単なるコントだし、展開が偶然に頼りすぎ。白痴★★★強*姦する男を殴って白*痴にした男がやり手の美人*局になる。だが相方の女を突き飛ばした弾みで女は頭を強打し、白*痴に。男は客の侍に斬り殺される。白*痴の男女が夫婦になる。男の毒★★★精力絶倫の夫から逃れる為絞め殺した女が、自ら精力絶倫となり、嫁いだ先々で失敗し、やがて最初の夫の弟と会い夫婦になるが、やはり失敗する。ここまでで作風を見ると、複数のピカレスク的な町民の人生を対比的に絡ませながら運命の皮肉を描く作風と見える。心理描写が少なく、キャラクターも透明で類型的。文体は慣れると平気になってきた。改行の多いページ稼ぎ文体は酷いと思うけど。女毒★★1・2香具師元締め一人娘の勝気な女に求婚され逃げた男が殺し屋と差し違え左手を失い、ガンマンとなってかつての先輩を助ける。途中まではよかったのにオチが雑……。片腕伐られたから生き残ったとか意味不明だし。殺★★★主人を殺して逃げた盗賊二人が別れて町商人と殺し屋の仲介になり、仲介が商人の女房から頼まれた夫殺しを仲介するも、商人は機転で死を免れ、逃走。しかし、最初の盗賊団の2代目に見つかり脳出血で死ぬ。途中まで面白かったのにやはりオチが弱い。ただ、犯罪者にもいろんな種類があるなあと思った。香具師というのは今でいう暴力団に近いようだ。いっそ刑法犯のすべてについて専門部署を設けている暴力団があったら面白いかも。どんな依頼でも受ける犯罪代行の総合商社。強*姦請負の姦し屋とか。縄張り★★★1・2香具師の縄張り争いで殺し屋たちが各組の親分を殺しあった挙句、最後の黒幕が笑う。どんでん返しが効果的に使われていて面白い。なんだよ、やればできるんじゃん。罪★★★上司を殺して逃げた浪人が町商人になり娼*婦を妻にするが、妻が雇った殺し屋に命を狙われ、仇討ちと勘違いする。オチがイマイチだが、思惑の食い違いぶりが割と複雑で面白い。この本、総合6点ぐらい。時代物だろうが何だろうがやはり物語として面白くないものは面白くないことがわかった。思惑の食い違いが複数ないと、十分な興味をひきつけられず面白さが足りない。また、偶然への頼りすぎも禁物だし、クライマックスであるオチは一番の落差を持たなければならない。池波はどうもこのオチが弱すぎる。あまり才能がないのだと思う。もうこの人の本は読まなくてよいだろう。
2010.10.26

楽天ブックスの「ブログネタ」をブログで紹介して10万ポイント山分けに参加しよう江戸の暗黒街改版価格:540円(税込、送料別)池波正太郎「江戸の暗黒街」新潮文庫おみよは見た★★★むぅ……。改行が多くて薄っぺらい文体。読みやすいのだが、なんか味気ないなぁ。殺し屋が女に亭主の妾の殺しを依頼され、殺す。しかし下女に目撃され、下女を消そうと目論む。一方の下女は妾に虐待を受けていて、殺してくれたことを感謝し誰にも犯人を見たことを告げない。そんなこととはつゆ知らず、犯人は誤ってほかの娘を殺してしまい、処刑される。人物同士の表象世界の相違が悲劇を生む、というトリック自体はいちおう合格点だが、展開は単純だし、人物描写もやや浅い。それに、江戸時代を舞台にしなくても成り立つ話だよね。だれも知らない★★1・2これまた微妙。父を殺された武士が逃走した男を追って仇討ちに出るが、腕に自信がなく行きずりの浪人に殺しを依頼、しかし金を持ち逃げされる。この浪人が偶然、犯人の家に盗みに入り、それと知らず刺し殺す。それを知らぬ先の男は、仇討ちの為放浪を続けている。単なるコントだし、展開が偶然に頼りすぎ。白痴★★★強*姦する男を殴って白*痴にした男がやり手の美人*局になる。だが相方の女を突き飛ばした弾みで女は頭を強打し、白*痴に。男は客の侍に斬り殺される。白*痴の男女が夫婦になる。男の毒★★★精力絶倫の夫から逃れる為絞め殺した女が、自ら精力絶倫となり、嫁いだ先々で失敗し、やがて最初の夫の弟と会い夫婦になるが、やはり失敗する。ここまでで作風を見ると、複数のピカレスク的な町民の人生を対比的に絡ませながら運命の皮肉を描く作風と見える。心理描写が少なく、キャラクターも透明で類型的。文体は慣れると平気になってきた。改行の多いページ稼ぎ文体は酷いと思うけど。女毒★★1・2香具師元締め一人娘の勝気な女に求婚され逃げた男が殺し屋と差し違え左手を失い、ガンマンとなってかつての先輩を助ける。途中まではよかったのにオチが雑……。片腕伐られたから生き残ったとか意味不明だし。殺★★★主人を殺して逃げた盗賊二人が別れて町商人と殺し屋の仲介になり、仲介が商人の女房から頼まれた夫殺しを仲介するも、商人は機転で死を免れ、逃走。しかし、最初の盗賊団の2代目に見つかり脳出血で死ぬ。途中まで面白かったのにやはりオチが弱い。ただ、犯罪者にもいろんな種類があるなあと思った。香具師というのは今でいう暴力団に近いようだ。いっそ刑法犯のすべてについて専門部署を設けている暴力団があったら面白いかも。どんな依頼でも受ける犯罪代行の総合商社。強*姦請負の姦し屋とか。縄張り★★★1・2香具師の縄張り争いで殺し屋たちが各組の親分を殺しあった挙句、最後の黒幕が笑う。どんでん返しが効果的に使われていて面白い。なんだよ、やればできるんじゃん。罪★★★上司を殺して逃げた浪人が町商人になり娼*婦を妻にするが、妻が雇った殺し屋に命を狙われ、仇討ちと勘違いする。オチがイマイチだが、思惑の食い違いぶりが割と複雑で面白い。この本、総合6点ぐらい。時代物だろうが何だろうがやはり物語として面白くないものは面白くないことがわかった。思惑の食い違いが複数ないと、十分な興味をひきつけられず面白さが足りない。また、偶然への頼りすぎも禁物だし、クライマックスであるオチは一番の落差を持たなければならない。池波はどうもこのオチが弱すぎる。あまり才能がないのだと思う。もうこの人の本は読まなくてよいだろう。
2010.10.26

楽天ブックスの「ブログネタ」をブログで紹介して10万ポイント山分けに参加しよう魔界転生(上)価格:790円(税込、送料別)魔界転生(下)価格:790円(税込、送料別)山田風太郎「魔界転生上下」角川文庫 7点天草四郎の参謀の妖術師・森宗意軒が死者復活の術(自らに指を女に食わせ、その女と交われば、その女の体に乗り移り、自らの死後、魔性の存在として生き返るという術)を会得し天草四郎、宮本武蔵らを生き返らせるとともに、徳川頼宣をそそのかし、幕府転覆をたくらむ。この仲間に柳生十兵衛も引き入れようと画策するが、柳生は仲間とともに立ち上がり、この魔性の一味との死闘を開始する──という話。双方次々と仲間が死んで行き、最後は十兵衛と武蔵の一騎打ちで決着する、というお約束の展開。うーん、ちょっと期待はずれだった。上下あわせて1000ページ近い長さなので、かなり冗長で中だるみしているし、展開がご都合主義で偶然が多いし、敵が弱すぎるし。それに自ら立てたルールを変更しすぎる。何か意図があっての変更ならともかく、ただのご都合主義だし。無駄なキャラクターも多いし、キャラの魅力も今ひとつ(二面性に乏しい)。しかも、オチがただの剣豪小説(武蔵との決闘)だし。ま、期待しすぎたんでしょう。期待せずに読めばそんなにつまらない本でもない。前半はけっこうわくわくしたしね。
2010.10.25

楽天ブックスの「ブログネタ」をブログで紹介して10万ポイント山分けに参加しよう江戸の暗黒街改版価格:540円(税込、送料別)池波正太郎「江戸の暗黒街」新潮文庫、購入。ガラにもなく時代小説読みたくなって。
2010.10.24
不要な本をブックオフに売ってもまた買い込んでしまうので本棚はやはり欲しい。でもいま住んでいる部屋には入らないか。広いところに引っ越したいけど家賃がなぁ……。悩む悩む。
2010.10.24

楽天ブックスの「ブログネタ」をブログで紹介して10万ポイント山分けに参加しよう妖異金瓶梅価格:820円(税込、送料別)妖異金瓶梅読了、最後までこれでもかというどんでん返し連発、終盤数章でアクション小説化しながらも、あくまでもミステリとして完結。死んでまで淫乱殺人鬼潘金蓮マンセーエンドには笑いすぎておなかが痛い。今まで読んだすべての小説の中でもオールタイムベスト級の10点満点で100点的な天才的面白さだった。同じシリーズで未収録の「錢鬼」という作品があるそうだがぜひとも探して読みたい。
2010.10.24

楽天ブックスの「ブログネタ」をブログで紹介して10万ポイント山分けに参加しよう甲賀忍法帖価格:620円(税込、送料別)山田風太郎「甲賀忍法帖」角川文庫記念すべき忍法もの第1作。のみならずチーム対戦バトルもののはしりなんだそうだ。内容は、舞台設定のみ時代小説風だが完全にSFファンタジーで、超能力・モンスターものといって差し支えない。ナメクジのように体が溶ける忍者、死んでも死んでもヒドラのように生き返る忍者、息でカマイタチを起こす忍者、他人に化ける忍者、周囲の景色に色を変えて姿を消す忍者など、ヴァン・ヴォークトのエイリアンをも上回る生理機能を持つ怪物ばかりが出てくる(しかも、医学部出身作者の懇切丁寧な医学的・物理学的解説つきで、それゆえに本作をSFたらしめている)。この怪物たちが、徳川の3代目跡とりを決めるために甲賀と伊賀の10対10でバトルロワイヤルするという話。でありながら、バトルもののお約束と思われるフェアプレーなどという概念は存在しない。そもそもバトルが始まったことすら知らされないまま、甲賀側忍者が4人も殺されてしまうという掟破りの展開に始まり、いかに敵をアンフェアに騙しあざむくかという観点から、殆ど予測不能な破天荒な死闘が展開していく。忍術の一つ一つが出鱈目のように見えながらも、互いの相性で勝敗が理詰めに決するという合理性を保持してミステリ的な対読者フェアプレーを守っているところがさすがミステリ出身者だけある。このミステリ的合理性に貫かれた破天荒な超能力SFアクションに、「ロミオとジュリエット」の悲劇を重ね合わせ、結末できっちり辻褄を合わせる怜悧さには全く恐れ入った。この終盤の緻密な展開あってこそ、本作はただの面白読物を超えて不朽の名作たりえたと言える。文句なし10点。風太郎はすげえ。
2010.10.24

楽天ブックスの「ブログネタ」をブログで紹介して10万ポイント山分けに参加しよう警視庁草紙(下)価格:900円(税込、送料別)警視庁草紙(上)価格:900円(税込、送料別)山田風太郎明治小説全集(1)価格:998円(税込、送料別)山田風太郎明治小説全集(2)価格:998円(税込、送料別)警視庁草紙読了。微妙だった。実在の事件・人物をフィクションでつなぐタイプの作品だが、「この事件は実はこうだった」「この人は実はこうだった」的な記述が多すぎて、その部分がことごとくつまらない。意外性がないんだよね、せこいっていうか。歴史オタクのキモイ爺さんしか喜ばねえだろって感じの特殊さでついていけねーよって感じ。一つ一つのサブエピにはなかなか面白いのもあったが、メインの警視庁対元同心・南町奉行の対戦部分があんまり面白くない。なんつーかキャラ立てに失敗してる感じ。多視点的記述(いわゆる「神の視点」)は山田のいつもの文体だからいいとしても、これだけ登場人物が多いと一人一人の描写が浅くなって共感どころかキャラに興味を持つことすら難しい。キャラで客を釣れない場合は矢継ぎ早の展開で事件を連鎖させることで興味を持続させる以外ないと思うんだけど、本作の場合は歴史的辻褄合わせに引っ張られて話のスケールが小さく、展開ものろい。結局退屈な代物になってしまう。こういうタイプの(改変歴史物の走り?)作品の先駆者としての功績を認めるから7点ぐらいはつけたけど正直主観的満足はもっと低い。そういや俺、改変歴史SFって面白いと思ったことあんまりないな。パッと思いつく作品がひとつもないや。高い城の男もイマイチだったし。強いて言えばプリーストの双生児は面白かったがあれは叙述トリックミステリ・幻覚SFとして面白かったんであって、歴史ものとして面白いと思ったわけではないし。
2010.10.24

楽天ブックスの「ブログネタ」をブログで紹介して10万ポイント山分けに参加しよう明治断頭台価格:483円(税込、送料別)山田風太郎明治小説全集(7)価格:998円(税込、送料別)明治断頭台読了。主人公が真犯人というアンチミステリなオチはいいが、どうも全体的に雑な感じがする。トリックも雑だし、キャラクター描写もおざなりで魅力がない。特にフランス娘エスメラルダの描写はひどい。ヒロインに魅力がないんじゃ読者はひきつけられないよねえ。
2010.10.24

楽天ブックスの「ブログネタ」をブログで紹介して10万ポイント山分けに参加しよう幻燈辻馬車(上)価格:780円(税込、送料別)幻燈辻馬車(下)価格:780円(税込、送料別)幻燈辻馬車読み出すが見違えるように面白い。ミステリではなく幻想的な人情もの? 幽霊の出る辻馬車の御者老人と幼女というメインキャラクターに魅力があるし、話も「自由民権運動の暗黒面」に焦点を絞っているので読みやすくて面白い。やはり、共感できるキャラクターを中心に据えるってのは大事なことなのだなあと思った。金瓶梅のメインキャラも悪人ではあるけど憎めない魅力があったし、甲賀もメインキャラがほぼロミジュリだし。これに反し断頭台のメインキャラは淡々と謎解きするだけで魅力がなかった(しかも真犯人で、動機も共感できないし)。警視庁草紙は歴史記述に行数を割きすぎてメインキャラの描写が薄すぎた。物語の構造だけじゃなく、クーンツの言うような共感できるキャラ作りってのも大事なんだな。***幻燈辻馬車、名作だった。このシリーズもっと読みたかったな。
2010.10.24

楽天ブックスの「ブログネタ」をブログで紹介して10万ポイント山分けに参加しようくノ一忍法帖価格:600円(税込、送料別)山田風太郎「くの一忍法帖」講談社文庫 9点大阪夏の陣で秀頼討たれるも、真田の女忍者5人がその胤を宿し、千姫とともに江戸へ。ここ事実を知った家康は服部半蔵を介して伊賀忍者5名に豊臣の血を根絶やしにすることを命ずる。長曽我部盛親の胤を宿す怪力の大女・丸橋、千姫を慕う若き頼宣の助けを得て、くの一5人が伊賀忍者と血みどろの死闘を演じる。忍術のほぼ全てがエロ系なのが凄い。忍者10人は全滅するが、女忍者一人と丸橋の子は生き延び、由比正雪とその腹心になったとかならなかったとか、というオチもいい。息をもつかせぬ面白さで一気に読みきった。
2010.10.24

楽天ブックスの「ブログネタ」をブログで紹介して10万ポイント山分けに参加しようFの肖像価格:960円(税込、送料別)楽天ブックスで買った本。井上雅彦編「Fの肖像(異形コレクション)」光文社文庫青髭の城で(吉川良太郎)/★★★★衒学的な文体でゴシック的雰囲気たっぷりに探究される、青髭男爵の大量殺人の真の目的とは? テーマに沿った語り手の正体に関するオチまで含めて、完成度の高い珠玉の佳作。CLASSIC(真藤順丈)/★★★1・2カンボジアで地雷撤去をする人造人間が霊媒化して知能を高め、失踪。これを追う女が悲劇的な最期の闘争へと突入していく。オチがやや中途半端だが読み応えある力作。屍舞図(朝松健)/★★★1・2事故死した姉を呪術で甦らせた妹が、姉の結婚に嫉妬し、すべてを覆滅させる、室町時代を舞台に一休を主人公にした時代ホラー。手馴れて普通に面白い。死なない兵士(黒崎薫)/★★★クリミア戦争で死なない兵士として蘇生され戦う兵士たちとその息子の話。叙述トリック多用でやや分かりにくい。文体もやや安っぽい感じがする。切り裂き魔の家(石田一)/★★★1・2切裂きジャックが人造人間を・・・と見せかけて、ただのメイクでしたのオチが人を食っていて新しい。そして船は行く(井上雅彦)/★★1・2前半のグダグダにこりゃ駄作だと思ったが、破滅SF風の後半の展開で巻き返した。とはいえ、映画の知識を引用してかさ増ししているこの冗長文体ではこの点数が精一杯。編者のがいちばんつまらないってどうよ。野鳥の森(間瀬純子)/★★★★死体から生命を創造し、「子供」として育てる女の話を流麗な文体で描いた珠玉の幻想未来SF。一般公募で発掘された作家だそうだが、それにしては巧すぎる。生まれ変われない街角で(岩井志麻子)/★★★1・2中年に差しかかり自己の虚像を作り上げるのに疲れた女性タレントが、タイのロボット産業に投資して失敗したかつてのパトロンの手で殺される。ヒロインの下世話な生活描写が作者らしく異彩を放つ。自画像(天野邊)/★★★★★これは凄い! ツイッター上のモノローグの形で語られるミーム伝播や生命進化史のヴィジョンと、サイバーパンクな未来でのオタク中年と女子中学生の悲劇的な出会いの物語が絡み合う力作。終盤のネットログの中で語られる強烈なヴィジョンが圧巻。あるグレートマザーの告白(平山夢明)/★★★鬼畜な女が息子を鬼畜に育てようとする話。この作者が書くとどことなくコミカルな感じがする。金繍忌(入江敦彦)/★★★★死んだ赤ん坊を復元する為に殺人を繰り返す陶芸家の話を京都の焼き物薀蓄満載でかたった佳裂く。セイヤク(中里友香)/★★★★SF新人賞出身作家でありながら、本書中では最もSF度が希薄なのが面白い。姉への道ならぬ思慕への懊悩のあまり自殺を試みた弟が一命を取り留めたもののつぎはぎだらけの身体となり、姉との泥沼の生活へとのめりこんで行く。グロテスクな近*親*相*姦幻想を高い文章力で紡ぎ上げた佳編。完全なる脳髄(上田早夕里)/★★★1・2奇*形児にバイオテクノロジーやホテツ技術によって小さな脳を持つシムの肉体を与えた未来を舞台に、シムが他人の脳の移植を受け、一般人並みの自意識を得ようとする話。題材は刺激的だが、あまり深く突っ込まずに娯楽的な物語として流している感じの作品で水準以上ではある。ドクターミンチにあいましょう(詠坂雄二)/★★★1・2動物の肉体をもとに何にでも分化可能な巨大な肉(細胞群)を作り上げたマッドサイエンティストの話。ショグゴス(小林泰三)/★★★1・2南極に現れた2種の怪物(クトゥルフ)と戦うロボット部隊の話。Jail Over(円城塔)/★★★★自分の似姿の怪物を作り、ともに監獄に閉じ込められた男が、様々な妄想を見ながら、脱獄と自由を夢見る話。自我の孤独と想像による飛翔の寓意にもなっている。光の栞(瀬名秀明)/★★★★★最新バイオ技術で自分の自伝を「生きた本」の中に永遠に生きさせようとする女性の話。人物描写が巧みで感動的な名作。帰郷(菊地秀行)★★★★フランケンシュタインの怪物一族が数を増やし現代に生きながらえているという話を、叙述トリックを使ってうまくまとめている。総じて実に質が高くバラエティに富み、読み応えのあるアンソロジーであった。
2010.10.24

楽天ブックスの「ブログネタ」をブログで紹介して10万ポイント山分けに参加しよう山田風太郎「妖説太閤記」10点すげえわ、これ。史伝ものは史実頼みだから10点つけないポリシーの俺だけど、これは掟破りで10点つける。確かに秀吉の晩年の狂気の凄さは実話だから山風の手柄ってわけでもないんだけど、でも「秀吉の天下取りの原動力はお市の方へのストーカー的な片想いただそれだけであり、一姫死亡により目標を失った後は、ただ性的コンプレックスと疑心暗鬼だけからスターリン的な狂気に陥っていった」というこの着眼点は、山風独自のものである。そしてこの作品がこれほど背筋も凍るような恐怖の物語として成立したのも、まさにこの着眼点ゆえのものなのだ。そして、明らかに主君が狂っているにもかかわらず、誰もが武士のしきたりや組織に縛られてそれを諌めえず、理不尽な大量処刑や無謀な侵略戦争へと諾々と従って行く武将たち。この日本人の民族性が太平洋戦争に至るまで一貫していることも正当に言及されている。前半こそ愛すべきロリコン俗物オヤジの謀略成り上がり物語として、ピカレスクヒーローものの面白さを持っているが、それが下巻になり、天下を取って以後の傲慢ぶり、そして市姫の死に至るや、残虐ホラー小説へと一変してゆく。上巻の英雄が、下巻ではもはや恐怖のモンスターである。とりわけ終盤近く、美男子への嫉妬ゆえに甥の秀次とその妾29人、その子や侍女合計39人を公衆の面前で次々と打ち首にする「畜生塚」の描写は恐ろしすぎる。国民的人気の歴史上の英雄の虚像を剥がし、人類史上稀に見る狂気の大残虐独裁者の性心理学的分析までやってのけた、恐るべき傑作といえる。
2010.10.24
楽天ブックス: Fの肖像 - フランケンシュタインの幻想たち - 井上雅彦 : 本すごかった。今年のベストSF有力候補。最近の国産SFはハイレベルすぎる。
2010.09.18

そうですねえ・・・・・・八丈島。熱海もいいかも。
2010.03.24

・・・というお題ですが、普通に『蛍の光』ですな。
2010.03.24

ウルトラモバイルPCとDVDレコーダーです。
2010.03.24

どこでしょうね。やはりアジアかな。台湾とかベトナムとか。
2010.03.24

やはり語学でしょうな。ほんとにこれでポイントくれるの?
2010.03.24
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Nova(1)大森望編「NOVA1」河出文庫オリジナルの日本SFアンソロジー。●北野勇作「社員たち」得意先から帰ってきたら、会社が地中深くに沈んでいたとぼけた味の落語っぽい話。冒頭に置くにはちょうどいい軽さ。★★★●小林泰三「忘却の侵略」「冷静に観察すればわかることだ。姿なき侵略者の攻撃は始まっている」作者お得意の「シュレディンガーの猫」もの。「記憶に残らない侵略者」というアイデアがなんといっても秀逸で怖い。それと「波動関数の収縮」ネタをうまく結びつけて、シュールな青春SFに仕上げている。★★★★●藤田雅矢「エンゼルフレンチ」ひとり深宇宙に旅立ったあなたと、もっとミスドでおしゃべりしてたくて「夜のオデッセイ」風の深宇宙探査船テーマに、人格コピーのアイデアと、「終りなき戦い」風の壮大な時空を股にかけたラブストーリーを結合させ、ブラッドベリ的な絶妙なセンチメンタリズムで仕上げた絶品。★★★★★●山本弘「七歩跳んだ男」その男は死んでいた。初の月面殺人事件か? 本格SF的と学会的本格ミステリ開幕月面を舞台にした「逆密室」殺人事件を扱い、真っ向勝負の本格ミステリに仕上げた傑作。直球勝負の本格ミステリのコアに本格SF的思考が不可分に結びつき、かつ、と学会の研究成果が盛り込まれた作者ならではの作品になってる。シリーズ化希望。★★★★●田中啓文「ガラスの地球を救え!」……なにもかも、みな懐かしい……SFを愛する者たちすべての魂に捧ぐファーストコンタクト(宇宙戦争)ものに手塚治虫をからめた、作者お得意のドタバタギャグ小説。少々ふざけすぎであまり好みではないが、普通に面白い。★★★1/2●田中哲弥「隣人」家庭を襲い胃を満たし脳に染み入るこの臭い……恐ろしい非常識が越してきた「迷惑な隣人」ものの不条理ファンタジーに始まり、次第にグロテスクで異様なエイリアンもの風のホラーにエスカレートして行く話。文体がちょっと筒井っぽ過ぎるのが個人的に好きではないが、まあ普通に面白い。★★★●斉藤直子「ゴルコンダ」先輩の奥さん、めちゃめちゃ美人さんだし、こんな状況なら憧れの花びら大回転ですよ不幸の手紙の書き間違いで嫁が28人に増えるというドタバタ喜劇だが、後半のロジカルな展開が言語SF的で面白い。★★★1/2●牧野修「黎明コンビニ血祭り実話SP」戦え! 対既知外生命体殲滅部隊ジューシーフルーツ!!テキストの解読と書き換えによって人類を既知外人類から守る秘密戦隊を扱った、形而上的なドタバタ言語SF。隊員視点からの「人間のテキスト解読」の描写が抜群にシュールですごいし、支離滅裂な解読テキスト、上書きや脚注による攻撃など細かいネタも笑える。ただし、オチが若干投げやりなのが残念。★★★★1/2●円城塔「Beaver Weaver」海狸(ビーバー)の紡ぎ出す無限の宇宙のあの過去と、いつかまた必ず出会う様々な公理系を貪欲に飲み込んでは整除しなおす「ビーバー」について夢見る男の話。自同律多用の論理ギャグ文体で、過度の論理欲求を抱く男の内面、夢世界を例によってだらだらと羅列している。しかし、結局はこの男の私小説的な日常描写に収斂するのがこの作者らしい。★★★●飛浩隆「自生の夢」七十三人を死に追いやった稀代の殺人者が、かの怪物を滅ぼすために、いま、召還される。メタフィクションのスタイルで、Googleを思わせる自動検索システムによる言語空間の大規模な組織化の進行(一種のシンギュラリティものとも見ることができる)と、その中における「言語の癌、ウイルス」とでも言うべき「忌字禍」の蔓延との対立状況を描き、言語が世界を埋め尽くそうとすればするほど、逆説的に存在が明確化していくカオス、言語・論理で語りえぬ余剰の存在を浮き彫りにして、老荘思想的な不可知論の領域にまで踏み込んだ、形而上的な言語哲学SFの力作。「言葉で人を自殺に追い込む能力者」は表面的には伊藤計劃の「虐殺器官」の虐殺言語と類似するが、そのメカニズムはまったく似て非なるものである。★★★★1/2●伊藤計劃「屍者の帝国」わたしの名はジョン・H・ワトソン。軍医兼フランケンシュタイン技術者の卵だ。――圧巻の絶筆、特別収録SFマガジンで既読。冒頭のみのため評価は控えるが、続きが書かれていたら傑作になっていただろうと思われる。総じて、粒ぞろいの作品集でした。創元文庫の年刊アンソロジーのように既に書かれたものの再録ではなく、編者の注文と厳しい推敲をくぐり抜けてコントロールされた作品群だけに、「SF」としての核(=科学性、論理性)をしっかり持った作品が多く、より読み応えがあった。
2009.12.20
ついでにPS3本体も大幅値下げしている。これはさすがに買わないとな。
2009.12.17
作SF再録○「凍った旅」 フィリップ・K・ディック ★★★移民宇宙船で冷凍睡眠装置の不具合により覚醒状態になった男の気を紛らすため、船のコンピュータが男の記憶を呼び起こすと、様々なトラウマ体験が明らかになるという話。普通レベル。○「明日も明日もその明日も」 カート・ヴォネガット ★★★★1/2不老薬が開発され、超過密社会となった未来の大家族の物語。爺ちゃまが最強すぎて笑った。ベタなギャグ小説だが、めちゃくちゃ面白い。○「昔には帰れない」 R・A・ラファティ ★★★★月と称される巨大な岩が地上に散在し、笛を吹くと浮き上がる未来。この岩の上には町がある。子供の頃、竪穴を通ってこの月を探検した子供たちが成人後、「あれは本当に月だったのか?」と疑問を抱き、ヘリコプターで再び探検に赴く話。こうストーリーを紹介するともっともらしいが、実際に読んでみると、作者らしく相当に「ヘンな話」である。ファンタジーのようにも読めるしSFのようにも読める、人物の言動といい、この異常な舞台設定の情景描写といい、予測どおりに進むものがほとんどない。教訓のようにオチで記される「昔には帰れない」というせりふにも、いったいそれがどういう教訓になるのかさっぱり見当がつかないナンセンスさである。「想像領域拡張性」という点から見るなら、ラファティ作品というのは相当にポイントが高い。○「いっしょに生きよう」 ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア ★★★★★名作。他の生物に入り込み、共生関係を作っている生物と人類が接触する。転落死した隊員の脳に生物が入り込み、生き返らせることで共生関係が成立。隊員たちは恩返しに、この生物を故郷へ返してやるため奮闘する。圧倒的な孤独と異質なものとの共感へのあくなき欲求という作者の真骨頂が表れている。前向きなエンディングがとてもさわやかである。○「記憶屋ジョニイ」 ウィリアム・ギブスン「クローム襲撃」で既読のため省略。
2009.12.15
SFマガジン2010年1月号50周年記念号2500円を図書カードで購入。○「息吹」 テッド・チャン★★★★★さすがですね。100%仮定で構築された世界での理詰めの真理探究談。空気の詰まった肺を毎日交換する機械的構造の生物が、意識の謎を探究するため自らの脳を解剖し、恐るべきエントロピー宇宙の真理を悟る。機械生物の身体構造が珍妙かつ精巧で面白いし、意識の本質、エントロピーに関する比喩的舞台設定を駆使した思弁は深く、読み応えがある。エンディングも決まっている。SF以外の手法では表現し得ない独創的な作品。○「クリスタルの夜」 グレッグ・イーガン★★★イーガンはどうもマンネリ化の兆しが見える。コンピュータ上でAIを進化させ、彼らに移住先の新宇宙生成の研究をさせる話。AIたちが新宇宙を製造する過程の科学的ディテール説明にイーガンならではの科学知識が生かされているところにオリジナリティはあるが、ストーリー展開もキャラクター設定もどこかで見たようなものでいささか退屈に感じた。○「スカウトの名誉」 テリー・ビッスン★★★★1/2これは面白い。ホモサピエンスとネアンデルターレンシスの遭遇ネタを、時間ループのアイデアと絡め、なおかつ、電子メールという身近なメディア、孤独癖のあるヒロインという親しみやすい主人公と組み合わせて、ミステリアスに話を進行し、綺麗なオチへと収斂させている。物語作者としては断然イーガンよりも上だろう。○「風来」 ジーン・ウルフ★★★★★資源が枯渇し衰退した未来の人類の下へ、「風来」と呼ばれる姿を自在に消せる種族が現れる。彼らへの憎悪から、人類は互いに裏切りものを焚刑に処するようになる。ある孤独な少年が風来の子と接触したことから、彼の祖母が刑に処せられることになるが──という話。オースン・スコット・カードを思わせる繊細な少年心理の描写、叙情味がすばらしい。SF的な仮設の設定をくどくど説明せずさらっと断片的に言及するにとどめることで、かえって作品世界の日常的リアリティが感じられるし、途中の展開からオチにいたるまでの物語構成も実に手練れている。名作といっていい。この作品を読んでいる間、SFを読む快楽の本質について考えていた。本を読む快楽の本質は、私の場合「想像できない物を想像できる物に変える」ところにあると感じている。そして私が特にSFというジャンルに面白さを感じるのは、まさにこの「想像できないものが想像できる物に変わったという実感、驚き」が、SFというジャンルの作品において顕著に強いがゆえである。この観点から、上記4編をみてみる。テッド・チャンの作品は、完全に想像だけで構築した環境の中での科学的思弁を展開しているという点で、まさに私が読書に求める上記快楽の本質そのものを提供してくれる典型的作品だ。次のイーガンも本来の作風は同様であるのだが、上記作品に限っていうなら、「既存の作品の焼き直し」の域を出ず、要するにそこで提供されている意味体系の中に私が個人的に「想像できない物」が何一つ含まれていないがゆえに、今ひとつつまらなく感じたのである。次のビッスンの作品は、「ネアンデルタール人とホモサピエンスの邂逅」という場面が私個人の知識の範囲では「想像困難なもの」にあたる(ただし、ゴールディング「後継者たち」を既読なので「想像不可能」とまではいえない)し、電子メール・タイムループといった素材は「想像可能なもの」であるが、それとネアンデルタール人の話との結び付け方、あるいは謎解きの過程における情報の小出しの仕方がよく工夫されていて、このような展開での物語進行は、私個人の力だけでは容易に想像し得ないものであるから、面白く感じた。ウルフ作品に関して言えば、衰退した未来と新人類という素材自体は陳腐であり、「想像困難なもの」ではない。登場人物のキャラクターや心理の動きなども特異なものではない。ではなぜこの作品を面白く感じたのだろう? 第一には、「登場人物のキャラクターや心理」がむしろ「想像しやすい」がゆえに親しみやすいものであることから来る、感情・情緒レベルの移入による快感である。これは、「想像できない物を想像できるようにする快楽」とはまったく別種の、世間ではより一般的な(人気のある)タイプの快楽だ(この快楽は、ビッスン作品における主人公の造形においても作用している)。では、「想像領域拡張的快楽」がないのかといえば、そんなことはない。「風来」と呼ばれる新人類の謎めいた描写、主人公の犯した不文律違反によって祖母が処刑され、ある結末に至るまでの意外性を含む物語展開、この2点に「想像領域拡張的快楽」があると思う。要するに、快楽には、知的快楽と情的快楽とがある。想像領域拡張的快楽とは、知的快楽のほうを指し、ある意味体系の有する快楽は、知的快楽と情的快楽との相乗によって決せられる、ということが分かった。SFにおいては通常前者の比重が高い作品が多く、またそれがSFの独創性でもあるわけだが、必ずしもすべての作品が知的快楽のみを重視するわけではない。上記分析によるとウルフ作品のように情的快楽重視の作品もSFジャンルにおいては傑作として成立しうるのである(とはいえ、ウルフはどちらかというと、物語構成技術上の知的快楽依存型の作風であるが)。対して、知的快楽と情的快楽の両方とも提供できずに終わると、イーガンの作品のような凡作に終わってしまうというわけだ。今後、作品の評価基準として、ある作品を「厳密に」評価する必要があるときには、「想像領域拡張性」と「情的快楽提供性」の2本柱で評価するようにしたいと思う。これによると例えばイーガン作品は、想像領域拡張性 ★★★情的快楽提供性 ★★程度が妥当であろう。ところで、「情的快楽提供性」もよく考えてみれば、一種の「想像領域拡張性」ではないだろうか。なぜならば、ある感情的イベントが快楽と感じられるためには、常に意外性、新鮮さが必要だからであり、もし仮にそれが物語素材の助けを借りなくとも自らの想像力だけで脳内再生産できる類の陳腐なものであるならば、おそらく情的快楽の提供性が弱いだろうからだ。つまり、われわれが自らの想像力だけでは想像困難な「感情的イヴェント」を提供して「想像可能なものに変える」という性質を、情的快楽提供性の強い作品のすべては当然に具備しているはずなのだ。そうすると結論的には、知的快楽も情的快楽も、最も広義における「想像領域拡張性」に止揚される、ということができるのではないだろうか? 例えばウルフ作品も、「登場人物が親しみやすい」としても、そこで発生する事件が陳腐なものであったとしたら、そこから得られる情的快楽は限定的なものにとどまるはずであって(陳腐であざとい「お涙頂戴もの」としか感じられない)、やはりそこで起こっている事件の異常さ、新奇さ(意表をつく物語展開)のあったればこそ、高い情的快楽が提供されていると考えられるのである。要するに、「想像領域を拡張」することを通じて「知的快楽または/および情的快楽を得る」こと。これが物語を読むなど、人が何らかの意味体系を摂取しようとする行為の動機なのではなかろうか?○「カクタス・ダンス」 シオドア・スタージョン ★★★★★サボテンに魅せられた植物学者が生態系の織り成す幻覚とおぼしき娘に魅了されていく話。メインの共生ネタが「人生における人と目標との共生関係」の隠喩にもなっていて、深みがある。サボテンの生えるアメリカ西部の風景の魅力、幻想的事象の妖しい美しさ、程よく俗物な登場人物の親しみやすさ、人生の本質に対する新しく深い洞察など、想像領域を拡張するファクターを多く含み、かつ、情緒喚起的である。名作といっていい。○「秘教の都」 ブルース・スターリング ★★トリノでの環境保護運動家魔術師の活躍話。魔法の設定が陳腐だし、環境保護運動という題材も食傷気味、主人公の思想に共感もできず、非常につまらんかった。○「ポータルズ・ノンストップ」 コニー・ウィリス ★★1/2観光バスツアーがジャック・ウィリアムスンの自宅周辺を名所として案内する話。内輪受けでつまらない。○《ドラコ亭夜話》 ラリイ・ニーヴン ★★★1/2玉石混交だが総じてまあまあ面白い。特に複数の所有格を使い分ける言語が戦争を遠ざけるという「言語と思考・思想との関係」をえぐった「文法のレッスン」は、言語が思考や文化に影響を与えないと言い張る西洋の馬鹿言語学者どもに読ませてやりたい傑作。地球人類の戦争風習が極めて特異で珍しいものとしてエイリアンの好奇心の対象となり大人気を博するという風刺ものの「戦争映画」もすばらしい。この2編がずば抜けた傑作。○「フューリー」 アレステア・レナルズ ★★★何万年も生きながらえ、現在は巨大な鯨のような姿になっている皇帝と、彼に使えるロボット。ある日、皇帝が遠隔操作している人の形をした「代わり身」が銃撃される事件が起こる。護衛ロボットはその犯人を追って、廃墟となった火星の都市を訪れ、そこで兄弟のロボットと出会う。そして、太古の昔に皇帝が犯したある犯罪と、自分たちの起源を知る、という話。脳や身体の改変などのガジェット類が非常に面白いのに、ただの道具立てとしてとしか使っていないのが作者らしい。メインのストーリー自体はややありきたりでイマイチ。それとラスト、皇帝が銃弾を割って泣き出した理由が不明。再読してみないと。○「ウィケッドの物語」 ジョン・スコルジー ★★1/2戦艦同士の闘いを、船のAIが調停するという話。機械知性に対する捉え方が素朴で古臭いし、話もありきたりでつまらなく、飛ばし読みしてしまった。○「第六ポンプ」 パオロ・バチガルピ ★★★1/2環境汚染によって多くの人類が「トログ」と呼ばれる白痴と化してしまった近未来を舞台にした、汚水処理員の話。問題解決しようとして大学を訪れた主人公が目にする大学生の惨状は圧巻。「トログ」というショッキングな素材はとてもいいのだが、ストーリーがやや淡々としすぎていて、オチらしいオチもついていないのが残念。この続きこそが面白そうなのに。○「炎のミューズ」 ダン・シモンズ ★★★★グノーシス神学的な宇宙を舞台に、シェイクスピア巡業劇団が、人類の進化能力を証明するため神々の前で4大悲劇を演じる話。ディテール描写が魅力的だし、ミッションクリア物の定石にのっとったストーリー展開も普通に面白い。最終試験のロミジュリで主人公と女が本当にセックスしてしまうというくだりは笑った。2段組90ページという長さだが、物足りなくて続きを読みたいほど。さすが物語巧者。名
2009.12.15
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ラナークアラスター・グレイ「ラナーク」冗長でつまらない。途中から斜め読み。間の回想風の2章がつまらないため斜め読みし、最後の章に入ったところで「そのまま斜め読みで済ませ楽をする」か「普通に読むモードに戻す」かで迷っている。そして、このクオリアは前に確かに経験したことがあるが、デジャヴュかと思いつつ、そんなはずはない、ほかの本で実際にそういうことがあったというだけだろう、なぜなら俺の思考回路はパターン化されているからだ、と思い直す。***読了、最後まで面白くならなかった。あからさまなメタフィクション構成が陳腐だし、とにかく無駄に詰め込まれた膨大なディテール描写に魅力がない。3,1,2,4章という順番に構成されていて、1,2章が作者自身の生い立ちをもとにした半分自伝的な小説、3,4章が、その主人公のその後、という設定での、ラナークという人物が奇妙な世界で遍歴を重ね、妻子を得て市長となり、時を超え、老いて死ぬまでを描くSFファンタジー的な内容になっていて、全体がメタフィクションとなり、作品終盤で「この物語の作者」が登場するという構成。だが、メタフィクション性は序盤である程度ネタバレしていて意外性がなく「やっぱりか」という感じだし、まったく新しさを感じない。そして序盤からメタフィクション性がにじみ出ているのが災いして、話の内容に素直に没入する気になれないし、ストーリー展開もグダグダで、退屈そのものである。3,4章の世界設定やグロテスクな描写(巨大な口が出てきて、その中に飛び込むなど)、SF的なアイデア(暦のない地帯という設定など)に若干、魅かれるものもあるものの、それがストーリーにまったく生かされず、退屈なグダグダストーリーの中にうずもれてしまっている。はじめは1,2章と3,4章を別の作品にしたらどうかと編集者に勧められたそうだが、まったく同感である。どうしてもこの構成にするのならもっと無駄を省いて半分ぐらいの長さにすべきだったと思う。ただし、オリジナリティは感じるので、最大限甘く採点し、4/10点とする。
2009.12.07
今泉忠明「絶滅巨大獣の百科」データハウスめちゃくちゃ面白い。イクチオステガに始まる魚類の陸生化から、エリスロテリウム、エオゾストロドンに始まる哺乳類の様々な種の誕生、反映から絶滅にいたるまでを、可愛いイラスト満載で手際よく説明している本。とにかくイラストの動物たちが可愛すぎる。広大な空間が気象変動や乱獲などで支配動物が絶滅して空くことで、別の種が繁栄し進化するという、動物進化に関する著者独自の理論が展開されている。肉食獣による捕食や気象変動が大きな絶滅の原因であったようだが、生物史上で最も大きな災厄は人類の誕生であったというのが皮肉で最高にいい。人類がユーラシアから南北アメリカへと進出しながら哺乳類の70~80%もの種を絶滅に追い込んだというから、寒冷化だの隕石落下だのどうってことないじゃんとすら感じてしまう。特に最後に出てきた、発見からたった27年で人類に滅ぼされたステラーカイギュウの愛らしい容姿や優しい習性を読んで泣いてしまい、読んでから2日ほどはステラーカイギュウのことが頭から離れなかった。俺ももう年かもしれない。9/10点
2009.11.25
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Xのアーチスティーヴ・エリクソン「Xのアーチ」集英社一種の改変歴史幻想小説。トマス・ジェファソンの黒人の愛人サリー(奴隷の娘)の「自由か愛か」の選択によって異なる歴史の流れが成り立ち、歴史の流れを超越したその狭間に「永劫都市」という幻想世界が現出する。本作は中盤から、永劫都市におけるエッチャーという男のサリーへの愛を軸に、さまざまな異なる歴史の間を記憶とともに揺れ動く人々の姿を、ボルヘス的な前衛手法を駆使しながら描いていく。終盤では、作者エリクソン自身が登場し、ほかの登場人物に殺害されるというメタフィクション的なおまけまでがつく。内意識が世界に歴史を与えるという作品構造はバラードと通じ、夢と現実との間を揺れ動くメタフィクション的手法はボルヘスと通ずる。幻想SF(異次元・改変歴史テーマ)としても愛と自由の相克を描く純文学としてもなかなかの秀作だった。未読だが、世評の高い「黒い時計の旅」への期待も高まる。8/10points
2009.11.20
アドルフォ・ビオイ・カサーレス『日向で眠れ/豚の戦記』集英社 ラテンアメリカの文学ノヴェラ(短めの長編)2編を所収。「日向で眠れ」★★★★1/2(9/10点)73年の第5長編。『モレルの発明』『脱獄計画』につづく、マッドサイエンティストもののSFミステリだが、SFネタであることは終盤まで伏せられている。妻を精神病院に入れた男。退院した妻はすっかり性格が変わっていた。はじめは妻の外見、イメージを愛していたと思っていた主人公は、次第にこの妻のあまりの性格の変わりように疑念を抱き始め、精神病院を訪ねて治療内容を尋ねる。しかし自らが病室にとらわれの身となってしまう。はたして、この精神科医が行っている治療とは?SFアイデアの奇想性は前2作に比べて減退し、普通の脳科学ネタになっているし、結末もすっきりと辻褄が合い、メタフィクションとしての多義性・幻惑性も減退(逆に言うと、すっきりした結末を好む読者にはかえって読みやすいだろうが)。つまり、「普通のホラーがかったSFミステリ」により近づいている。しかし本作の読みどころは、むしろ結末に至るまでの過程の描写にある。前2作と異なり、本作品は市井の平凡な人間の日常生活の中に異常な要素が入り込み、それを通じて主人公と妻との微細な心の揺れ動きが非常にリアルに描き出されている。その分、前2作のような作り物っぽさが消え、普通の文学作品としての読み応えを感じさせる作品になっている。超現実的な人工設定での幻想(初期2作)と、よく見知った日常生活の観察(第3,4長編)という両極を経て、本作において、両要素のバランスのよい統合が実現したのだとみる。やはりカサレスの作品にはずれはない。全作読むべき作家だ。「豚の戦記」★★★★(8/10点)69年の第4長編。中高年(50代ぐらい?)にさしかかりながらも、まだまだ若い気分が満々の主人公が、老人(中高年も含んでいる)に対する嫉妬からテロに走る若者たちとの「戦争」に遭遇し、命を狙われながらもしぶとく生き延び、女をものにするという、作者自身の願望充足および当時のアルゼンチン社会に対する風刺的描写を兼ねたタイプの作品。世代間の戦争というイヴェントがSF的ではあるが、あくまでも社会造形から演繹的に導き出された設定として位置づけられうるに過ぎず、作者が一貫して書こうとしているのは「青春の欲望を保持している中高年たちがどう生きていくべきか」である。この問題意識は今の日本社会にもそのまま当てはまる先取り的なものでもあり、より興味深く読める。作者の真骨頂はやはりSF三部作のような奇抜な人工社会を舞台にした観念的スリラーにあると思うが、それに比べると地味とはいえ、作者の違った側面を見ることができ、意外な才能の奥の深さを確認することができた。
2009.11.15
サルバドール・エリソンド「ファラベウフ」水声社メキシコ作家のきわめて前衛的なSM妄想小説。ジョルジュ・バタイユが偏愛した、清国末期の<陵遅処死刑>廃止直前の処刑写真に触発された性的妄想をひたすら<私>が<おまえ>に語りかけるスタイルでつづっている。死への願望・タナトス、死体へのフェティシズムと性的欲求の強い結合というバタイユのエロティシズム論の、小説的実践というべき内容。<陵遅処死刑>の写真が引用され、そのディテール描写が再三繰り返され、処刑されている人物の恍惚たる表情からその人物が味わっているであろう性的快感をひたすら想像し、この写真を持ち帰った医者による処刑再現(手術・解剖)という形態での性戯(性交の暗喩であると同時に、性的遊戯としての人体解体そのものでもある)に強く憧れる<おまえ・あなた>(訳文では女性と特定されているが、原文には性別を特定する意図はなく、タナトスとエロスとの結合の快感を共有することの可能な不特定のすべての人間=作者自身+読者一般を指すだろうから、極力性別特定しない訳語を当てるべきだろう)というものを語りかける対象として想定し、その人物に対するファラベウフによる解剖手術の実施が性的エクスタシーの極致として妄想される場面が全体の締めくくりにおかれている。作者=私というよりも、むしろ作者=お前、と考えて読んだほうが、本書の製作意図はより明快に理解できるだろう。作者は、陵遅処死の写真に性的興奮を覚えたというバタイユに深く共感し、自らもこの写真から強烈な性的妄想を膨らませ、その自分の中の性的妄想者を愛人に見立てて<おまえ>として作中に登場させ、この愛人に語りかけるというスタイルの中で、自己の中の性的衝動の視覚化を企てたのである。これは、死に行く自己の肉体を外から眺めることで性的快感をフィードバックさせて高めるという作者の欲求に起因するものでもあろう。作者のそのような欲求は、「解剖される自己を鏡で眺める」という、作中で再三言及される性的妄想によっても裏付けられる。作者のこういった変態的な性的妄想に資するべく、陵遅処死刑の写真や中国の文化に関するもろもろの付随情報が(西洋人で中国文化に疎いのをよいことに)さまざまに強引に歪曲されているのが面白い。例えば写真の人物は史実では男性であるはずなのに、両乳の部分の肉がそぎとられていることを根拠に女性であると強弁しているし(両胸の肉を最初にそぐのは当時の清国の刑法上、刑の執行方法が詳細に定められていて、それに従っているに過ぎず、囚人の性別を問わないことはちょっと調べればわかることである)、刑吏が6人であることの意味について、「六」という漢字が「処刑される人の形」=「ヒトデの形」であることにちなんでいるという漢字の字源とまったくそぐわない勝手な解釈をしている。が、本書が歴史的事実の追求にまったく興味を持っていない以上、作者にとってこういった史実はどうでもいいことであり、作者のすべての関心は、いかにしてこの写真をズリネタに、己の変態SM妄想を極限まで高めるかというただ一点のみにつぎ込まれているのだ。そして、バタイユの同種作品に比し、本作はかなり具体的で詳細な即物的文体を用いている分、インパクトもよりシュールで強烈である。★★★★(8/10点)なお個人的には、この陵遅処死の写真よりも、ネットで検索してて見つけた中国の公開銃殺刑の写真(女の子が連行されて頭を撃たれ、頭が半分なくなっている写真のアップなど)のほうが強烈だった。しかもその写真の刑は、2005年ごろに執行されたもの。やっぱり中国はすごい。
2009.11.09
ヴァージニア・ウルフ「波」みすず書房若いころは記憶をほぼ共有している6人の霊(生き霊か死霊かは不明だが、集合知性に近い存在)が各自のその後の人生を振り返りながら、人生や文学の本質についてとりとめもなく語り合う様を、岸辺の波の情景とパラレルに描述した、散文詩的な作品。一種の幻想的なSFともいえるし、メタフィクションでもある。最後にバーナードという男が全体を総括し、人生を死と生の相克として捉える結論と、砕け散る波とが符合して終わる末尾がうまく決まっている。ただし、物語性は皆無なので、「面白い」類のものではない。★★★1/2(7/10点)
2009.11.08
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死の泉皆川博子「死の泉」早川文庫JA戦時中から戦後20年程度の期間のドイツを舞台にした歴史ミステリ。ナチスを信奉し、自己の美的信念を追究して過激な人体実験を繰り返すマッドサイエンティストへの子供たちの復讐を軸に話が進む。全体がメタフィクション構造をとっていて、殺されたはずの男が実は語り手だったのではと思わせるどんでん返しの「訳者あとがき」がついているという凝った構成である。作中では死んでいたはずの人体接合された女が最後にチラッと生きて出てくることでそれを暗示。凝った構成、執拗な出来事や人物の書き込みなど、その筆力は圧倒的で、完成度はとても高い。しかしながらあまりにも長すぎるので、第1部で飽きてしまい、体調が悪くなってしまって後半は流し読みで済ませてしまった。もっと若くて体力のあるときに読んでいたら「これはすげえ!」と叫んでいたかもしれないが、人間中年の域に入ると、体力・健康上の制約からあまりに長く重厚な作品は次第に読めなくなってくるものだ。やはり、読書は若いころにたくさんしなければだめだと痛感した。客観評価は満点に近いが、上記の体力的理由で、主観評価は★★★(6/10点)。
2009.11.08
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台湾セクシュアル・マイノリティ文学(2)台湾セクシュアル・マイノリティ文学(2) 紀大偉作品集『膜』 著者: 黄英哲 /白水紀子 出版社: 作品社 サイズ: 単行本 ページ数: 299p 発行年月: 2008年12月 この著者の新着メールを登録する ISBN:9784861822285 本体価格 2,400円 (税込 2,520 円) 送料無料 在庫あり(1~2日以内に発送予定) ※注文個数によりお届け日が変わることがあります。 残りあと4個です 個数 友達にメールですすめる ケータイにURLを送る お気に入り商品に追加 レビューを書く 【内容情報】(「BOOK」データベースより)本書は台湾クィアSF小説の旗手、紀大偉の代表作4篇を訳出したものである。「膜」「赤い薔薇が咲くとき」「儀式」は、“記憶”を題材にした作品となっている。「膜」と「赤い薔薇が咲くとき」は、近未来社会における先端科学による記憶の移植・改竄・消去と身体改造を描いており、時間と空間が相互に複雑に交差する異空間の中で、クィアの転覆性を表現している。「儀式」は主人公の記憶と「事実」との間の矛盾を突くことによって、ホモフォビアの内面化を描いている。また、「朝食」は、第21回聯合報ショートショート賞第1位を受賞した。 【目次】(「BOOK」データベースより)膜/赤い薔薇が咲くとき/儀式/朝食 【著者情報】(「BOOK」データベースより)紀大偉(キダイイ)1972年、台湾台中県生まれ。現在、アメリカコネチカット大学外国語学科准教授として教鞭をとっている白水紀子(シロウズノリコ)1953年、福岡生まれ。東京大学大学院博士課程修了。専門は中国近現代文学およびジェンダー・セクシュアリティの研究。現在、横浜国立大学教育人間科学部教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです) これ、SFらしい。「SF」として売るよりも「文学」として売ったほうが売れるんだろうね。同じような売り方をすれば未訳の古典SFも翻訳して採算がとれるかもしれない。しかし、台湾SF、読んでみたい。でもその前に、手持ちの2004年の科幻小説アンソロジーを読まねば。
2009.11.03
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死者の軍隊の将軍死者の軍隊の将軍 東欧の想像力 著者: イスマイル・カダレ /井浦伊知郎 出版社: 松籟社 サイズ: 全集・双書 ページ数: 301p 発行年月: 2009年10月 この著者の新着メールを登録する ISBN:9784879842725 本体価格 2,000円 (税込 2,100 円) 送料無料 在庫あり(1~2日以内に発送予定) ※注文個数によりお届け日が変わることがあります。 残りあと3個です 個数 友達にメールですすめる ケータイにURLを送る お気に入り商品に追加 レビューを見る(1件) 書く 【内容情報】(「BOOK」データベースより)掘り起こすのは、遺骨と、記憶と、敵意と、徒労感と…第二次大戦中にアルバニアで戦死した自国軍兵士の遺骨を回収するために、某国の将軍が現地に派遣される。そこで彼を待ち受けていたものとは…。 【著者情報】(「BOOK」データベースより)カダレ,イスマイル(Kadare,Ismail)1936‐。アルバニアの作家・詩人。1936年、同国南部のジロカスタルに生まれる。ティラナ大学卒業後、モスクワに留学するが、アルバニアとソ連の関係悪化をうけて帰国した。その後ジャーナリストとして活動しながら、詩や小説を発表。1963年の小説『死者の軍隊の将軍』が国際的に注目され、作家としての地位を確立する。労働党の一党体制下で制限を受けながら執筆を続けていたが、1990年にフランスへ亡命。翌年、複数政党制となった母国に帰国、現在も旺盛な執筆活動を続けている。第1回「国際ブッカー賞」受賞井浦伊知郎(イウライチロウ)1968年、福岡生まれ。1998年、広島大学大学院文学研究科博士課程後期単位取得退学。博士(文学)。1998~2001年、日本学術振興会特別研究員。現在、広島文教女子大学非常勤講師(ドイツ語)。専攻はアルバニア語学、バルカン言語学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです 東欧の想像力シリーズ。
2009.11.03
ハヤカワ文庫早川書房 ハヤカワ文庫JA 未踏の時代 福島正実 798 上旬 9784150309763 名著文庫化!早川書房 ハヤカワ文庫SF へリックスの孤児 ダン・シモンズ酒井昭伸ほか 924 下旬 9784150117382短編集かな?早川書房 ハヤカワ・ミステリ文庫 現代短篇の名手たち7 やさしい小さな手 ローレンス・ブロック田口俊樹ほか 924 下旬 9784151782572 早川書房 ハヤカワ文庫NF 〈数理を愉しむ〉シリーズ 量子コンピュータとは何か ジョージ・ジョンソン水谷 淳 735 下旬 9784150503611 発行角川グループパブリッシング発売 ホラー文庫 保健室登校 矢部 嵩 630 25 9784043901029 角川書店発行角川グループパブリッシング発売 ホラー文庫 恨み忘れじ 松村比呂美 620 25 9784043943173 角川書店発行角川グループパブリッシング発売 ホラー文庫 魂追い 田辺青蛙文倉 十 567 25 9784043923021 角川書店発行角川グループパブリッシング発売 角川文庫(海外) アーサー王宮廷のヤンキー マーク・トウェイン大久保 博 735 25 9784042142089 角川書店発行角川グループパブリッシング発売 角川文庫(海外) コララインとボタンの魔女 ニール・ゲイマン金原瑞人ほか 735 25 9784042971047 文庫落ち。
2009.11.03
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黄昏の遊歩者黄昏の遊歩者 A・L・マカン 下楠昌哉訳978-4-336-05145-5四六判460ページ定価2,730円(税込)(本体価格2,600円) 19世紀末から20世紀初頭までのメルボルンとウィーンを舞台にし、特異な性癖を持つ親子と、彼らの生み出す芸術作品が、様々な軋轢を生み出していく……。オーストラリアの歴史的に大きな事件を背景に描き出した、ときにグロテスク、ときにエレガント、ときに官能的な、メルボルンという都市の神話化を目指した、純文学志向のゴシックホラー小説! 歌の翼に歌の翼に トマス・M・ディッシュ 友枝康子訳978-4-336-05116-5四六判426ページ定価2,520円(税込)(本体価格2,400円) 少年は歌によって飛翔するためにあらゆる試練をのりこえて歌手を目指す……SFのみならずゲイ小説、教養小説、音楽小説などのあらゆる要素を投入しながら、支配する者とされる者の宿命、芸術の喜びと悲惨をエモーショナルに描く、奇才ディッシュの半自伝的長篇にして最高傑作がついに復刊!
2009.11.03
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壊れやすいもの壊れやすいもの 著者: ニール・ゲイマン /金原瑞人 出版社: 角川書店 /角川グループパブリッ サイズ: 単行本 ページ数: 455p 発行年月: 2009年10月 この著者の新着メールを登録する ISBN:9784047916203 本体価格 2,800円 (税込 2,940 円) 送料無料 在庫あり(1~2日以内に発送予定) ※注文個数によりお届け日が変わることがあります。 残りあと39個です 個数 友達にメールですすめる ケータイにURLを送る お気に入り商品に追加 レビューを書く すべてのページに驚きと感動が詰まった、いまだかつてない短編集!ホームズがSFに? ベイカー街に住む偉大な探偵が遭遇した緑の血が飛び散る殺人事件の顛末を描くヒューゴー賞受賞作「翠色の習作」の他、空前絶後の想像力を駆使したゲイマンの才能の全てが詰まった、傑作短編集! 【内容情報】(「BOOK」データベースより)ベイカー街の名探偵が挑む、緑の血が飛び散る殺人事件、ひとりの女性が忽然と消えた、いかがわしく謎めいたサーカス、パーティで女の子に話しかけようと奮闘する男の子の純真…。ほんのちょっぴり、何かがおかしな、ゲイマンのマジック・ワールド!生涯、忘れられない一冊との出会い。すべての予想を鮮やかに裏切る、傑作短編集。 【目次】(「BOOK」データベースより)翠色の習作/妖精のリール/十月の集まり/秘密の部屋/顔なき奴隷の禁断の花嫁が、恐ろしい欲望の夜の秘密の館で/メモリー・レーンの燧石/閉店時間/森人ウードゥになる/苦いコーヒー/他人/形見と宝/よい子にはごほうびを/ミス・フィンチ失踪事件の真相/ストレンジ・リトル・ガールズ/ハーレクインのヴァレンタイン/髪(ロック)と鍵(ロック)/スーザンの問題/指示/どんな気持ちかわかる?/おれの人生/ヴァンパイア・タロットの十五枚の絵入りカード/食う者、食わせる者/疾病考案者性咽喉炎/最後に/ゴリアテ/オクラホマ州タルサとケンタッキー州ルイヴィルのあいだのどこかで、グレイハウンド・バスに置き忘れた靴箱の中の、日記の数ページ/パーティで女の子に話しかけるには/円盤がきた日/サンバード/アラディン創造/谷間の王者─『アメリカン・ゴッズ』後日譚 【著者情報】(「BOOK」データベースより)ゲイマン,ニール(Gaiman,Neil)イギリス生まれ。アメリカンコミック「サンドマン」の原作者としてあまりに有名。世界幻想文学大賞、ヒューゴー賞、ネビュラ賞、ブラム・ストーカー賞など数々の文学賞を総なめにする、今、もっとも注目される作家。『壊れやすいもの』で、ニューベリー賞も受賞金原瑞人(カネハラミズヒト)岡山市生まれ。法政大学教授。翻訳家。海外作品の紹介者として不動の人気を誇る野沢佳織(ノザワカオリ)東京生まれ。翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
2009.11.03
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《ソル》の子供たちマール&エーヴェルス「<ソル>の子供たち」ハヤカワ文庫SFペリーローダンシリーズ357。「ロボットは嘘をつかない」「ソルの子供たち」の中篇2本を収録。クルト・マール「ロボットは嘘をつかない」★★★1/2惑星<ラストストップ>に不時着したソル号が、<赤い芋虫の谷>で異星種族が残したと思しき機械類(ガジェット)や、《ロミオとジュリエット》と名づけられる2体のロボットを発見する。一部のガジェットを船内に運んだことから、ケロスカー人が<ソル>を司るコンピュータ知性、セネカと結託。ソル乗員に対するテロ行為が相次ぐという話。セネカ視点とソル号乗員視点で交互に描写しながら謎を小出しに解いてゆくミステリ仕立ての作品に仕上がっていて、スミス風の古典的なスペオペとは一味違う知的エンタテインメントになっている。H・G・エーヴェルス「ソルの子供たち」★★★★<ロミオとジュリエット>エピソードの続き。ケロスカーによるソル乗っ取りを撃退したローダンらは、<ロミオとジュリエット>を仲介としてケロスカー人との交渉を企図する。いっぽう、次元歩行能力を持つソル生まれのミュータント兄弟の関与で、ソル乗員たちが異次元空間への転移を経験する事件が相次ぎ、交渉のためソルを離れたプレシア号も、ミュータント兄弟の力で異次元空間に閉じ込められてしまう。前作よりもスケールアップした話で、いっそう面白い。このエピソードは完全には完結せず、未回収の伏線を残したまま次作へ持ち越しとなっている。このシリーズは本書で初めて読んだのだが、抽象的な超科学のハッタリとミステリ仕立てのストーリーがうまく融合していて、ドイツで何十年も続いている理由がなんとなくうなずけると思った。今後も他に読むものがなく、100円ショップで見つけたときにはまた買って読んでみたいと思う。少なくとも昨今、大量に出ているアメ製ミリタリSFよりはずっと読む気がする。総合8/10点
2009.10.21
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パトリック・ジュースキント「香水」文春文庫ドイツの小説なのに、翻訳がアメリカの世界幻想文学大賞を受賞、全世界1500万部の大ベストセラーだそうだ。日本でもそこそこ売れたようで(映画化のおかげもあるが)、在庫過剰のためブックオフでは100円コーナーに頻繁に見かける。とりあえず読まねば語れないから、買って読んでみた。そして、さすがに面白いと思った。人間のなりをしていながら人間になりきれない、超人的に鋭敏な嗅覚をもち、その嗅覚によって世界観と己の欲望体系を構築して行く男の一代記である。彼に翻弄され、かかわった欲深い人間たちは、次々と滑稽な最期を遂げて行く。一貫した嗅覚の論理によって生き、成長にするにつれ、次第に彼の欲望と生活様式はグロテスクなまでに人間離れしてゆく。究極の理想の匂いを手に入れるため、遂には連続殺人事件に手を染め、あっさりと逮捕されながらも、作り上げた究極の香水の力によって処刑をたやすく逃れる。しかし、人間界ですべてを実現できる力を手に入れながらも、自分は人間たちに憎悪しか覚えないし、人間たちも自分ではなく匂いを愛しているに過ぎないことを痛感した彼は、さいごのその香水の力を使って、あっけない最期を遂げる。まずその一貫した人間に対するシニカルな視線に基づいた、淡々とポイントを突く、ユーモラスな語り口がすばらしい。この見事な文体を用いながら、超人的な嗅覚という一種の「超能力」を異化要素として導入し、そこから極めて首尾一貫した論理によって人間世界を異化し、客体化する(異質な論理によってセカンダリー・ユニバースを外挿する)その手管は、(幻想小説の衣を綢っているにもかかわらず)SF的なセンスオブワンダーすら感じさせるほどに強靭であり、とてもこれが処女長編であるとは思えないほど巧みさである。とりわけ、「人間の感情や愛情など、嗅覚による化学的な記号操作によって簡単に左右される条件反射のようなものに過ぎない」という、そのシニカルな人間観と、カミュの「異邦人」を思わせる主人公のピカレスクを貫いた最期がたまらなく素敵。これは紛れもなく傑作。10/10点
2009.10.18
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天使の蝶プリーモ・レーヴィ「天使の蝶」光文社古典文庫イタリアの化学者作家の短編集。15編を収録。「ビテュニアの検閲制度」★★★検閲システムに関する技術変遷を描いたギャク小説。検閲機械の話は普通に面白いが、動物を使うオチはもう一つか。「記憶喚起剤」★★1/2匂いによって記憶・気分を喚起するというアイデアはコロンブスの卵で面白い(私の場合は匂いよりも音楽だが)が、オチらしいオチがなく残念。「詩歌作成機」★★★★1/2いやあこれは面白かった。シンプソン氏の新製品シリーズの一つ。戯曲スタイルが新鮮。詩歌作成機の作る詩作品の内容がいちいち面白くて感心する。オチはややベタだが。「天使の蝶」★★★1/2人間が幼形成熟だという奇想が何と言っても面白い。ナチスが行う実験の描写も不気味。ただ、オチらしいオチがないのが残念。「猛成苔」★★★★自動車に生える苔という奇想から出発して自動車の性別にまで及ぶ話の展開が異常で素敵。カーSFアンソロジーの冒頭に最適な作品だろう。「低コストの秩序」★★★シンプソン氏のシリーズ。物質複製機を扱っているが、オチがない。ちなみにこの作品の続きが「ミメーシンの使用例」。「人間の友」★★★★1/2サナダムシの細胞配列が言語を発信しているという奇想が凄い。ルグィンの蟻に関する同様の着想の短編を思い出した。解釈されるサナダムシの「詩」の一つ一つの内容も面白く、特にオチはお見事。「ミメーシンの使用例」★★★1/2物質複製機で妻を複製する男の話。着想自体はそれほど独創的ではないが、オチがうまい。「転換剤」★★★1/2もろもろの感覚を反転させてしまう(辛いと甘い、暑いと寒いなど)薬剤の話。イーガンの「しあわせの理由」を思わせる題材。内容はシンプルだがよくまとまっている。「眠れる冷蔵庫の美女」★★★★1/2「眠れる森の美女」をイメージした冷凍睡眠ものの戯曲。ブラックでピカレスクなオチが見事に決まっていて、クールで面白い。「美の尺度」★★★1/2一定のモデルを基準に顔の美醜を判定する機械の話。シンプソン氏のシリーズ。これはチャンの「顔の美醜について」を思わせるネタ。皮肉のきいたオチがいい。「ケンタウロス論」イタリア小説集にて既読。本書で読み直すと、違った意味が浮かび上がってきて(人間と動物のあいのこであるケンタウロスが人間の隠喩であり、作者の自己像でもあるなど)、評価が★★★1/2にあがった。「完全雇用」★★★★1/2これまた傑作。シンプソン氏ものは尻上がりにレベルが上がっている。「人間の友」につづく動物とのコミュニケーションものだが、本編では蜂や蟻などの社会性昆虫との会話に始まり、彼らを労働者として工場で雇うことで人間の工員が失業してしまうというすさまじいトンデモ展開に至る。昆虫言語に関する考察も楽しい。「創世記 第6日」★★★★地球の生物の創造を行っている神のようなエイリアンたちの議論を描いた戯曲。動物設計の手法に関するディテールも結構詳しく論じられるし、何より論じられる<ヒト>の形態に関するもろもろの奇想天外な提案が笑える。そして<鳥類>にすると決定されたにもかかわらずなぜか哺乳類にされてしまったというオチも人を食っている。「退職扱い」★★★★1/2シンプソン氏もののシメもこれまたヴァーチャル・リアリティものの大傑作。さまざまな人間や動物の体験を感情や記憶とセットでリアルに記録し追体験させる機械の話。一つ一つの体験ソフトの内容も楽しいし(とくにグラビアアイドルのセックスソフトのくだりは笑った)、いまどきの<ゲーム脳>を思わせるシンプソン氏の末路に関するオチのつけ方も的確。*****予想以上にすばらしい本だった。特に後半のクオリティの高さは異常。プリーモ・レーヴィの略歴と著作1919 トリノ生まれ(ユダヤ人)1937-1941 トリノ大学で化学専攻1942 製薬会社に入社1944 アウシュヴィッツに送られる1945 ソ連軍により解放される1947 「アウシュヴィッツは終わらない」(朝日新聞社)1963 「休戦」(早川・朝日)*カンピエッロ賞受賞。1966 本書1971 Vizio di forma(形の欠陥)短編集1975 「周期律」(工作舍)1978 La chiave a stella(星型レンチ)*ストレーガ賞受賞。1981 La ricerca delle radici(ルーツの探求)、Lilit e altri racconti(リリトその他の物語)短編集1982 「今でなければ いつ」(朝日)*ヴィアレッジョ賞、カンピエッロ賞受賞。1984 Ad ora incerta(不確かな時間に)詩集1985 L'altrui mestiere(他人の仕事)エッセイ1986 「溺れるものと 救われるもの」(朝日)評論1987 トリノ自宅で投身自殺。1997 「プリーモ・レーヴィは語る」(青土社)
2009.10.13
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ガルシア・マルケス「百年の孤独」を読み終える。今まで毛嫌いしていた「マジック・リアリズム」だが、単に駄作ばかり読んでいたからつまらなく感じていただけということが、本書を読んで分かった。最初に本書を読んでいたら全く印象は違っていただろう。俺が「マジック・リアリズム」に関してどうしても理解できなかったのは、なぜ執拗な「リアリズム」の手法を持ち込む必要があるのかということだった。文学におけるマジック的要素、幻想というのは、ロマン派的な自己解放であり、因襲的コードから自己を解放することによるカタルシスが主眼である。それなのになぜ、因襲の最たるものである「リアリズム」に縛られなければならないのか。多くのマジックリアリズムに分類される駄作群(例、カルペンティエール、名前は忘れたが「戦時生活」を書いたSF作家など)を読むたびに、せっかくの幻想事象が執拗な写実描写によって退屈なものに変わっているようにしか見えず、「俺にはあわねーな」としか思えなかった。しかしそれは「俺がマジックリアリズムに合わない」のではなく、単に、「幻想事象自体がつまらない」「魅力的な写実的描写力がない」「幻想と写実の混合の仕方が下手糞である」など、もっぱら作者の力量不足に原因があったらしいことが本書との比較で明らかになった。ちなみに、その駄作の中には、マルケス本人の「族長の秋」が真っ先に入る。他のマジックリアリズムの駄作群とは見違えるように、本書はぐいぐい引き込む魅力を持っている。やはり、発売されてすぐ大反響を呼び世界中に翻訳され、一気に作者をスターダムにのし上げた作品だけに明確な質の違いがある。本書の実質的な主人公と言っていいマコンドという町は、完全な架空の存在であるにもかかわらず、その町での出来事や、登場する人々もどことなく現実離れしている(寓意的設定をされている)にもかかわらず、南米独特の空気感を伴ってリアルに描写されることで、読んでいる最中にはもしかしてこれは実在した町の話ではないかと錯覚してしまうような現実感を生んでいる。そして、読者が脳内でこの町の住人になりきったあたりで、次第に滅びの声が聞こえ始め、住人たちが次々と死に、マコンドという町と最後の登場人物に、衝撃的な終末が訪れると、やっぱりこれは架空の町だったのだという事実に、愕然としてしまうという仕掛けになっている。とにかく、このある意味ボルヘス的な結末は、あまりにも見事であり、そしてその衝撃ゆえに、マコンドという町の持つ魅力や価値が反射的に高まるという効果を生んでいる。そしてその衝撃を高める上で、あくまでも中途の描写にはリアリズムの文体を用いる必要があったのだということが、俺の鈍い頭にもようやく飲み込めた。幻想が幻想でないようななりをしていながらやっぱり幻想だったという事実を見るときの衝撃、これを与えるためにこそ、マジックリアリズムは「リアリズム」を採用せざるを得ないのだ。しかしその課題があまりにも困難でハイレベルでありすぎるがゆえに、マルケス本人を含め大半の作家がほとんどの作品で失敗をしているということなのだろう。本書は、その稀有な成功例であり、何度でも読み直すたびにその不思議な世界に否応なく没入させられるような不思議な空気感を持っている。これを読んだからと言ってマルケスの他の作品まで読もうという気にはならないが、少なくともこの作品だけは特別扱いされていい、そのことだけは素直に認めたいと思う。9.5/10点。
2009.10.11
10/9世界幻想文学大系41「現代イタリア幻想短編集」返されなかった青春 ジョヴァンニ・パピーニ ★★★ある男の娘に1年の年齢を貸した女が、年をとってから逆に「借年齢生活」に入ってしまう話。アイデアは面白いが特にひねりもなく、普通のショートショートになっている。自分を失った男 ジョヴァンニ・パピーニ ★★★仮面舞踏会に行き、倒れて「自分を失った」男が自分を捜し求める話。なくした「自分」というのが何なのか明記されないまま話が進み、最後に遺失物取扱所に届けられた自分を取り戻す。アイデアはシュールで面白いが、オチにひねりが足りない。禁じられた音楽 アルド・パラッツェスキ ★★あるアパートの住人が夜毎奇妙な音楽を奏でるというだけの話で、なぜこれが「幻想」短編として紹介されているのかいまいち不明。話もつまらない。「人生」という名の家 アルベルト・サヴィニオ ★★★★これは凄いです。母親と二人暮しの20歳の男が家の中を歩きながら現実と妄想が渾然とした心象風景が描かれる。そして最後に男が鏡を見ると60歳になっているというオチなのだが、このオチが癖のあるやや読みにくい文体によるはったりとあいまって、勁いインパクトを持っている。作者はキリコの実弟だそうだが、さすがである。巡礼 マッシモ・ボンテンペッリ ★★★1/2ある孤独な男がいきなり現れた巡礼の一団に加わり、一夜の幻想を見る話。日常と幻想との自然な融和ぶりが見事。オチにはもうひとひねりほしかったところ。ゴキブリの海 トンマーゾ・ランドルフィ ★★★★「月ノ石」などの邦訳がある作者の作品で、前から読みたいと思っていた。奇想度ではダントツ。父と子の確執が一応のメインテーマだが、それを素材に展開される妄想世界の徹底した強烈さがすさまじい。ゴキブリの海へ向かって航海する船上で女を奪い合う息子と蛆虫の闘争劇、といちおう要約は出来るものの、要約することに意味はあまりない。とにかく次々と繰り出されるシュールでグロテスクな言語遊戯世界のイメージの強烈さが凄すぎる。これは俄然、「月ノ石」ほかも読みたくなってきた。コロンブレ ディーノ・ブッツァーティ 既読、省略。魔法の上着 ディーノ・ブッツァーティ ★★★ブッツァーティの短編の大半は、シンプルな奇想に常套的な物語展開を持った、ショートショートのお手本といえる。その分、個人的にはやや物足りないのだが。本編もその例に漏れず、ポケットから大金が出てくると同じ金額の犯罪が起こる衣服を買った男の話で、無難にきれいにまとまったショートショート。壮麗館 アルベルト・モラヴィア ★★★★1/2リアリズム作家という印象だったモラヴィアが本編のようなシュールなホラーを書いていたのがまずは驚き。しかも出来がいい。婚礼式典で客が吊り上げられ料理されてしまうというブラックな奇想が、抜群のリアルな文体で描かれるのだからたまらない。傑作。パパーロ アルベルト・モラヴィア ★★★1/2正体不明の「パパーロ」という商品をめぐるブラックな風刺小説。一種の経済SFとしても読める。途中までは抜群に面白いのだが、オチがやや投げやりなのが残念。アルゼンチン蟻 イタロ・カルヴィーノ ★★1/2カルヴィーノがリアリズムからアンチリアリズムに転向する前後の作品だそうだが、つまらなかった。阿根廷蟻という蟻が引っ越し先の村で大量に発生し跋扈しているという話だが、人物設定などが平凡で興味をもてないし、基本的にリアリズムの文体で書かれているため、物語に抑揚がなく、退屈で、オチらしいオチもない。せっかくの面白くなりそうな着想が、リアリズムによって台無しになっている。この作者はリアリズムを捨てて正解だったといえるだろう。猿の女房 ジョヴァンニ・アルピーノ ★★★1/23人目の妻に猿を娶るという大馬鹿設定を普通に淡々と描写しているのが面白い。奇抜な設定以外は基本的にリアリズム文体で書かれているのだが、カルヴィーノと違って簡潔だから退屈せず、あっさりしたオチが逆に新しく感じる。娘は魔女 ジョヴァンニ・アルピーノ ★★★1/2「言ったことを本当にする」能力をもつ娘に手を焼く母親の話。かっちりまとまった秀作。娘が自らの妊娠を語るオチが怖い。ケンタウロスの探究 プリーモ・レーヴィ ★★★ケンタウロスの生態(性態)をインチキ生物学交えて語る話で、そこそこ面白いが、馬をレイプして回るオチがやや漫画っぽ過ぎるか。この作者は短編集を借りてきたので本書のあとに読む予定。虚偽の王国 ジョルジョ・マンガネッリ ★★★★母親の死に直面し、さまざまな妄想を打ち立てて抵抗する男の一人語りが次第にエスカレートして、ある王朝の国王と反逆者を兼ねる自己を妄想するにいたり、ついにはすべての登場人物と展開を思いのままに操る神として君臨し、最後は胡蝶の夢の不安に陥る話。要約するとこうなるが、この作品に関しては、題名に表れているとおり、「主観圧勝」を主張するメタフィクション的フィクション論となっている作品スタイルそのものが重要であり、ストーリー自体はどうでもよい。中で出てくる刑事裁判の全当事者を自己が兼ねる話は俺がちょうど思いついて書こうと思っていたネタ。似たようなことを考えるやつがいるなあと思った。ある鰯の自伝 ルイージ・マレルバ ★★★1/2ある男が鰯になる夢をとことん理詰めにリアルに追求した結果、缶詰になった自己=鰯が現実の商店に並んでいると主張するに至る話。リアリスティックな文体で語られる「およげたいやきくん」のような話だが、簡潔でしまった文体と明快なオチがなかなかいい。リゲーア ジュセッペ・トマージ・ディ・ランペドゥーサ ★★★ある古代ギリシア学者がセイレーンとの過去の恋物語を打ち明け、海に消える話。ストレートなファンタジーをリアリズムのスタイルで語っているのが新鮮だが、やや冗長なのと、オチがストレートすぎる気がする。***以上、他の作品も読んでみたいと思ったのはアルベルト・サヴィニオ、トンマーゾ・ランドルフィ、アルベルト・モラヴィア、ジョルジョ・マンガネッリの4名。<イタリア幻想文学史 抜粋>1861 イタリア国家統一。スカピリアトゥーラ派の作家たちが幻想小説を試みる。タルケッティが幻想短編を書く。20世紀。1908 ヴォーチェ創刊。パピーニが幻想的短編を多数書く。1909 マリネッティが「未来派運動」を提唱。機械文明を礼賛し、帝国主義的拡張主義を支持。未来派の詩人たちがシンタクス破壊、動詞を原型で使い、擬声語を導入。パラッツェスキが未来派に同調し、ユーモア・風刺作品を書く。のち離反。1915以後、キリコの弟アルベルト・サヴィニオが形而上学派の影響を受けた超現実短編をヴォーチェに発表。1926 ボンテンペッリが「900」創刊、前衛運動を試みる。魔術的リアリズムを提唱。1930年代 反ファシズム運動とともにネオリアリズムが若手作家に広まる。ランドルフィ、モラヴィア、ブッツァーティら。モラヴィアはリアリストだが、風刺作品は幻想的。「ロボット」「パラダイス」など。ランドルフィはヴィットーニ、パヴェーゼのようなリアリストと交流しつつも、意識下の世界へ下降するような作品を書き、イタリア最大の幻想作家と呼ばれる。ブッツァーティは新聞連載のショートショートが多数。人生の不条理をペシミスティックに描く。「タタール人の砂漠」など。戦後、ファシズム終了によりネオリアリズムも終了。カルヴィーノ、アルピーノ、レーヴィは幻想作家に転換。アルピーノはリアルな作風を維持しつつ、60年代に風刺幻想小説を発表。レーヴィは記録文学から出発し60年代に幻想作家に。カルヴィーノも普通小説から転向。1963以後、ネオリアリズムの死を宣言し、新前衛派が起こる。雑誌「ヴェッリ」中心に活動。ガッダをリスペクト。ヌーヴォーロマンの影響。マレルバは穏健派でンガネッリはマンガネッリはより前衛的。以上は北イタリアの動向。南イタリアではランペドゥーザらがいる。ランペドゥーザは南イタリアの地中海的風土に立脚して独自の幻想小説をいくつか書いた。他に注目すべき幻想小説家として。デルフィーニ、ボナヴィーリも必読。
2009.10.10
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