SF拡張の原理

SF拡張の原理

2009.07.13
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カテゴリ: 文学

ミノタウロス
粗野だが知的な普通の若者にひそむ獣性が、戦争によってもたらされた混沌の中で暴走し、人間でもなくけだものでもないミノタウロスを現出させた挙句、全く救いのない終末へといたる。この作者の大半の作品と同様に、第一次大戦前後のロシア東部(ウクライナ)という異国を舞台に、大局的な説明を意図的に欠落させた、徹底的に個人的な視点の一人称で描写される。こういったホッブズ的自然状態を現代の日本社会を舞台に現出させることは(たとえばバラードのごとく)超現実的手法やSF手法でも用いない限り無理なので、徹底したリアリストである作者の作風からすると、こういった過去の異国を舞台とすることはある種の必然だろう。
日本人になじみの乏しい歴史上の異国の地、しかも小作農から成り上がった小地主の息子の個人視点からの等身大描写を、日本人でありながらこれだけ写実的に本物らしく描写できる筆力は確かにすごい。しかも文体に全く無駄がなく、そこに時折差し挟まれる人間性に対する極限までにニヒルな認識も、不快ではあるが真実と認めざるを得ない説得力がある。
何の教訓も無駄な情報もない。ただ、人間性に関する生の事実を、そのままむきだしにして読者の目の前に投げつけるだけの作品である。戦中世代の戦争文学のごとく実体験をもとにして描いているのではなく、純粋な想像力だけでそれをやっているのが、この作者のすごいところだろう。
ただ、あまりにも描写に容赦や遊びがなさ過ぎて、読むとどっと疲れるのが正直なところ。1冊読んだら、次のはもうしばらく読みたくない、という感じ。評論家筋にめっぽう評価が高いのに爆発的に売れたりしないのは、そんなところに理由があるかも。





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Last updated  2009.07.13 13:30:01


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