SF拡張の原理

SF拡張の原理

2009.12.20
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カテゴリ: SF

Nova(1)
大森望編「NOVA1」河出文庫
オリジナルの日本SFアンソロジー。
●北野勇作「社員たち」
得意先から帰ってきたら、会社が地中深くに沈んでいた
とぼけた味の落語っぽい話。冒頭に置くにはちょうどいい軽さ。★★★
●小林泰三「忘却の侵略」
「冷静に観察すればわかることだ。姿なき侵略者の攻撃は始まっている」
作者お得意の「シュレディンガーの猫」もの。「記憶に残らない侵略者」というアイデアがなんといっても秀逸で怖い。それと「波動関数の収縮」ネタをうまく結びつけて、シュールな青春SFに仕上げている。★★★★
●藤田雅矢「エンゼルフレンチ」

「夜のオデッセイ」風の深宇宙探査船テーマに、人格コピーのアイデアと、「終りなき戦い」風の壮大な時空を股にかけたラブストーリーを結合させ、ブラッドベリ的な絶妙なセンチメンタリズムで仕上げた絶品。★★★★★
●山本弘「七歩跳んだ男」
その男は死んでいた。初の月面殺人事件か? 本格SF的と学会的本格ミステリ開幕
月面を舞台にした「逆密室」殺人事件を扱い、真っ向勝負の本格ミステリに仕上げた傑作。直球勝負の本格ミステリのコアに本格SF的思考が不可分に結びつき、かつ、と学会の研究成果が盛り込まれた作者ならではの作品になってる。シリーズ化希望。★★★★
●田中啓文「ガラスの地球を救え!」
……なにもかも、みな懐かしい……SFを愛する者たちすべての魂に捧ぐ
ファーストコンタクト(宇宙戦争)ものに手塚治虫をからめた、作者お得意のドタバタギャグ小説。少々ふざけすぎであまり好みではないが、普通に面白い。★★★1/2
●田中哲弥「隣人」
家庭を襲い胃を満たし脳に染み入るこの臭い……恐ろしい非常識が越してきた
「迷惑な隣人」ものの不条理ファンタジーに始まり、次第にグロテスクで異様なエイリアンもの風のホラーにエスカレートして行く話。文体がちょっと筒井っぽ過ぎるのが個人的に好きではないが、まあ普通に面白い。★★★
●斉藤直子「ゴルコンダ」

不幸の手紙の書き間違いで嫁が28人に増えるというドタバタ喜劇だが、後半のロジカルな展開が言語SF的で面白い。★★★1/2
●牧野修「黎明コンビニ血祭り実話SP」
戦え! 対既知外生命体殲滅部隊ジューシーフルーツ!!
テキストの解読と書き換えによって人類を既知外人類から守る秘密戦隊を扱った、形而上的なドタバタ言語SF。隊員視点からの「人間のテキスト解読」の描写が抜群にシュールですごいし、支離滅裂な解読テキスト、上書きや脚注による攻撃など細かいネタも笑える。ただし、オチが若干投げやりなのが残念。★★★★1/2
●円城塔「Beaver Weaver」

様々な公理系を貪欲に飲み込んでは整除しなおす「ビーバー」について夢見る男の話。自同律多用の論理ギャグ文体で、過度の論理欲求を抱く男の内面、夢世界を例によってだらだらと羅列している。しかし、結局はこの男の私小説的な日常描写に収斂するのがこの作者らしい。★★★
●飛浩隆「自生の夢」
七十三人を死に追いやった稀代の殺人者が、かの怪物を滅ぼすために、いま、召還される。
メタフィクションのスタイルで、Googleを思わせる自動検索システムによる言語空間の大規模な組織化の進行(一種のシンギュラリティものとも見ることができる)と、その中における「言語の癌、ウイルス」とでも言うべき「忌字禍」の蔓延との対立状況を描き、言語が世界を埋め尽くそうとすればするほど、逆説的に存在が明確化していくカオス、言語・論理で語りえぬ余剰の存在を浮き彫りにして、老荘思想的な不可知論の領域にまで踏み込んだ、形而上的な言語哲学SFの力作。「言葉で人を自殺に追い込む能力者」は表面的には伊藤計劃の「虐殺器官」の虐殺言語と類似するが、そのメカニズムはまったく似て非なるものである。★★★★1/2
●伊藤計劃「屍者の帝国」
わたしの名はジョン・H・ワトソン。軍医兼フランケンシュタイン技術者の卵だ。――圧巻の絶筆、特別収録
SFマガジンで既読。冒頭のみのため評価は控えるが、続きが書かれていたら傑作になっていただろうと思われる。

総じて、粒ぞろいの作品集でした。創元文庫の年刊アンソロジーのように既に書かれたものの再録ではなく、編者の注文と厳しい推敲をくぐり抜けてコントロールされた作品群だけに、「SF」としての核(=科学性、論理性)をしっかり持った作品が多く、より読み応えがあった。





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Last updated  2009.12.21 02:17:55


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