SF拡張の原理

SF拡張の原理

2014.06.22
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キャシー・コージャ「虚ろな穴」ハヤカワ文庫NV

人物:ニコラス・ウィーナー(僕。ビデオ店員、詩人志望)、ナコタ(ウェイトレス)、ランディ(運転手)、ヴァニス(その恋人)、ノーラ(ニコラスの旧友)、マルコム(芸術家)、ドリス+アシュリー+デイヴ(その取り巻き)
梗概:
発端(~92)
俺と女友達のナコタはアパートの倉庫で奇妙な穴を発見する。ブラックホールのようにどこか異空間へ通じているらしい。ナコタはそこへ虫や鼠、ついには死人の手を投げ込む。入れた物はばらばら、ぐにゃぐにゃになる。ナコタは性的に興奮し、俺との間で肉体関係が復活する。俺も性的興奮を覚えつつ、嫌悪感を止められない(1)。俺はビデオショップのビデオカメラを借用し穴の中を撮影する。そのテープには不気味な怪物が自分の内臓を抉り出しそこから生き物が生まれるような、わけの分からない映像が5分ほど映っていた。ナコタはその映像に夢中になり貪り見た。そして全裸になり、「私の頭が下にある」と言って穴に頭を突っ込もうとしたので、止めようとした俺ともみあいになった。弾みで俺の手が穴に突っ込まれた(2)。
兆し(~221)
俺の右手は丸い穴が開き、そこから白い液体が流れてくる。ナコタは友人のランディをつれてくる。穴を見せたが俺がいないときは何も起こらないという。ビデオを撮っても何も映らないと。俺たちがふたたび穴の部屋に入ると穴は匂いで俺たちを誘惑した。俺は穴に手を突っ込んで空中浮揚したらしい。まったく記憶がない。ランディの美術作品である捩れ梯子を持ち込んで触ったら溶けた。俺は吐いた。もううんざりだった(3)。俺は旧友ノーラの家に転がり込み、自殺を考えるが思いとどまり、アパートに戻った。店をやめて家賃が払えないので、ナコタに引っ越してきてもらい、ついでにランディとヴァニスも来た。4人でふたたび穴に向かった。俺が飛び込もうとしたのでランディが俺を殴った。俺たちはひどい気分で寝た(4)。俺は穴のある倉庫を見張ることにした。そして誰もその部屋を使わないし興味も持っていないことが分かった。やがて俺の右手から出た液体とランディの作品から溶けた金属が混ざり合って穴に吸い込まれ、俺は気絶し、ランディに助け起こされた。俺とランディはギャラリーに行きそこでマルコムという芸術家とその取り巻きに穴のことを自慢してしまった。俺は後悔しながらアパートに戻った。ヴァニスがいた(5)。
絶頂(~324)
マルコムが来てビデオを見ながら俺のデスマスクを作った。マルコムの取り巻き3人が来て皆でビデオを見た。俺は穴の部屋へ行き、他の連中もついてきたが、ナコタ以外を閉め出し、ナコタとセックスして気絶した。俺たちは部屋に運ばれた(6)。マルコムはデスマスク作業を継続し、3人の取り巻きは俺の親衛隊のようにやたらと質問してきた。ビデオを撮りたいといって一人がカメラを持ってきた。ナコタが撮ろうとするので俺は止めようとした。俺の右手の汁が触れるとカメラは溶けた。ナコタは激怒し、あのテープを奪って出て行ったが、ダビングできなかったといって戻ってきた(7)。ナコタは自分で派閥を作り3人組の取り巻きを連れてきて俺と対立する。マルコムが俺のデスマスクを完成させて倉庫の入り口の上に掲げる。室内でナコタと揉みあいになり追い出す(8)。

俺は手錠で自分を倉庫に閉じ込める。室内には金属のしゃれこうべがいる。ナコタがやって来て開けろと叫ぶ。そして独自の宗教理論を主張する。トランスカーション、変化への道なのだと。だが俺はナコタを拒絶し、ヴァニスを呼べという。ヴァニスを一度だけ入れるが、けっきょく出てもらい、俺は倉庫にい続ける(9)。俺の体は粘液で覆われだす。ドアの外にはマルコムとナコタが新興宗教の信者を集めて騒いでいる。俺がドアを通して手をだしマルコムやナコタを殴ったり、締め上げたりする。ナコタは自分こそ変化に相応しいと言い張るが、欲望まみれだ。だから無理なのだ。おれが選ばれたのは俺に欲がないからなのだろう。俺は穴に飛び込もうとするがドアが開いてナコタらが入ってくる。俺はナコタを止めようとして足をつかみ、足をちぎってしまう。俺とナコタは腹の底で憎みあっていたのを悟る。ナコタは死ぬ。俺はマルコムの顔を穴に突っ込み、変形させる。鼻はもげ、口は魚のようになった。そのうち警察がくるだろうが俺は液体に完全に包まれてから穴に入るつもりだ。でもこの穴はけっきょく俺自身の空虚なのではないだろうか。愛とは心にあいた穴だという(10)。
叙述形式:一人称一視点
分析:
対立性(対自的、対人的、対物的)
対人的対立性:僕対ナコタ、マルコム(穴の争奪戦)
対自的対立性:僕(生命欲・ナコタへの愛情対穴への支配欲)
対物的対立性:僕ら対穴
テーマ(欠けるもの、欲望、基調感情)とその結果(一致か不一致か、計画か偶然か)
僕:ナコタへの愛(失敗)、穴への支配欲(成功)
ナコタ:穴への支配欲=変身欲(失敗)
新奇性:人を誘惑し異常な物理現象を起こす穴、セックス

叙述トリック(重要事実秘匿の有無):無(強いて言えば、ナコタに対する憎悪?)
メタ性(物語宇宙は他の宇宙と錯綜しているか):無。
総評:周囲のものを誘惑し変化させてしまう穴をめぐって、若者たちの欲望がぶつかり合い、どろどろの愛憎・宗教地獄絵巻が繰り広げられる。単一アイデアのみ、限られたキャラクターのみで話をうまくころがし単調にならず飽きさせず、「求めない・欲しないもの」が選ばれるというオチ。しかも、それは単なる「心の穴」かもしれないという両義的結末。処女長編らしく荒削りでテクニックはないのだが、モチーフに対する真摯で不動の熱意が奇跡的に持続し、実にオリジナルな傑作となった。シルヴァーバーグのBook of Skullを超えた? 9点。






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Last updated  2014.06.22 22:13:41
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