トカトントン 2.1

トカトントン 2.1

2017/08/09
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カテゴリ: ひよっこ
■バスに乗る時はたいてい後ろの方に座った。窓側の席が空いていればできればそっちに座った。バスに車掌さんがいた頃のことはぼんやりと覚えている。でもそれがワンマンカーという名前に変わると聞いた時、なんだかかっこいい乗り物になるような気がしてちょっと嬉しかった。

■だから車掌という職業についてあまり真剣に考えたことはなかった。あんなに揺れるバスの中で乗客の様子を見るためにおそらく進行方向とは逆の方向を向いてずっと立ち続けているなんてことは私にはとてもできないと思った。

■あの頃、ああいう場所で、ああいう風に地域の人たちと触れ合っていた彼みたいな車掌さんはそれこそ日本中にいたんだろう。彼は村の人たちから慕われ、彼も村の人たちのことを家族と同じ様に思っていたんだろう。ともあれ、担任の先生役の津田寛治と共にこの益子次郎役の松尾諭は本当に良い役をもらったものだ。

■バス停から歩いて1時間ほどのところに自宅がある。そんな道を何か後ろめたい気分で歩くとしたらその距離は実際よりも長く感じるものなのか、それとも短く感じるものなのか。でも大丈夫だ、隣には自分を丸ごと受け止めてくれる自慢の娘が一緒だ。

■「雨男」と呼ばれた彼の帰還もまた薄っすらと小雨の見える午後になされた。でもそこでは誰も彼に傘を差し出すことはしない。農作業をするにはむしろそのくらいの雨が降っていた方が都合が良い。そうか、それはむしろ歓迎の雨だったのか。

■沢村一樹は家族一人一人に向け頭を下げる。正対した彼らもまた膝を崩さず「おかえりなさい」と頭を下げる。しかし、いくら父や妻や娘たちから泣き笑いの顔で「おかえり」と言われても、彼は決して「ただいま」と言わない、いや言えない。でもきっと大丈夫だ、だって、いつのまにか自然に訛ってる。





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Last updated  2017/08/23 08:43:38 PM
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Comments

ミリオン@ Re:「北の国から」を友達にすすめてみる(01/02) こんばんは。 嬉しいです。頑張って下さい…
Dehe@ Re[1]:カルトQ 2005 北の国から(10/18) adventさんへ ご指摘の通りです。例によ…
advent@ Re:カルトQ 2005 北の国から(10/18) 五郎が読んだ大江健三郎> 開口健ではなく…
しょうゆ@ Re:家庭教師 / 岡村靖幸(09/09) …最後まで岡村靖幸はわからなかったのでは…
背番号のないエース0829 @ Re:ヒトラー 映画〈ジョジョ・ラビット〉に上記の内容…
Dehe @ Re[1]:センチメンタル通り / はちみつぱい(04/17) Mr.Zokuさんへ 情報ありがとうございまし…

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