ライフキャリア総研★主筆の部屋

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2002年07月21日
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 人はみんな、誰もが自分の居場所を求めている。居場所を間違えると、幸せじゃない。定まった居場所が見つからなければ、ひどく不幸だ。

 近所……といっても1キロ近く離れた蕎麦屋で夕食をとった。空席があるのがガラス戸の外から見えたが、入ってみると、残りひとつのテーブルを除き、すべて2人連れ以上の団体が占めている。すでにひとりでは居心地が十分過ぎるほど悪いが、まあ、店の人とは顔見知りだから大丈夫かなと思った。

 蕎麦が来るまで、生ビールぷふぁーっ!を楽しんでいたら、2人連れの新規客が入ってきた。店の人に頼まれ、仕方なく常連用のカウンター席へ。挨拶や愛想を言う暇もないほど忙しく立ち働いている戦場のような調理場が見える。本気で暑い。

「暑いけど、ガマンしてね」

 ガマンするために来たんじゃないぞー。いくら私の父と店主が幼友達だとはいえ、思いやりのない言葉が身に沁みた。裏返しの親密さの表現?と慮るほどの余裕が私にはなかった。

 隣でオヤジ2人が盛り上がっている。実に居心地が悪く、うつむき加減で考え事をしていたら、話しかけてきた。

 近くのスポーツジムの帰りに寄ったというと、「体育会系か?」だって。で、「オレの手を思いっきり握ってみて」という。

 なぜ、見ず知らずのオヤジの手を握らねばならんのだ。くそー。力自慢はアホらしくて嫌いだ。仕方なく、テキトーに握って、「これでもう限界なんです。弱くてごめん」と言ったら、なぜか先方が怒り出した。

「拒否権を発動するのか」

 参ったねえ。こっちは、腹ペコで、しかも暑苦しいカウンターに押し込まれ、酔っ払いにからまれて。つい、目尻から涙がにじんで来ちゃったよ。

 まあ、こっちに余裕があれば、「子どもの頃、同級生の男の子の手を思いっきり握って複雑骨折させた原体験がトラウマになっていて、男のひとの手を握れないんです」って言ってやるんだがな。

 ひとりなら地元の酔っ払いオヤジの特権か、あるいは家族連れか、オヤジ団体客か。要はなじまないひとり者が来てはいけない店だったということだろう。不似合いな居場所に迷い込んでしまうような、鈍感な嗅覚の持ち主への当然の報い。

 できることなら、冷やしたぬきそばをキャンセルしたいと思った。来る途中で見かけた穴倉のようなバーにしけこむべきであった。アジア風焼きそばって、黒板に書いてあったのが、妙に引っかかってる。ここよりも座り心地の良さそうなカウンター席が空いていた。

「場所がない。場所がない」

 あれは「鏡の国のアリス」のほうだったけか。中学時代、演劇部に所属していた私が、マッドハッターを演じたことを思い出した。ここ一番、決めのセリフである。

 フツーの人がフツーに選ぶようなライフスタイルからはみ出すと、居場所に困るのだなあ。私は誰?奥さんでもないし、お母さんでもないし、二号さんというのともちょっと違う。オールドミスっていう古臭いカテゴリーに入れてもらうしかないか。

 居心地のいい酒場は山ほど知っているけれども、美味しいご飯をひとりでも心地よく食べられる場所の持ち札は、ほとんどないといまさら気付いた。

 ヨシギュウじゃ情緒がなさ過ぎる。チェーン店は絶対に嫌だ。でもまあ、探せば独身サラリーマン相手の地場の定食屋や居酒屋が見つかるかもしれない。せっせと開拓しよう。

 店を出た帰り道、なんだか死にたい気分になってきた。場所がない、場所がない、場所がない……。私の人生は、何だったんだろう。はやくおうちへ帰らないと、途中で死神に魂を奪われ、どこかへ連れて行かれそうだった。

 オヤジに握られた手を石鹸でよく洗おう。嫌な記憶は全部洗い流してしまうのだ。





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最終更新日  2002年07月22日 22時52分05秒


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