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2003年12月01日
原因を探るのはやめて、前へ歩き始めよう
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告発が先か、新しい病名が先か、どちらかは判然としないけれども、これらの心の病気はPTSDやAC(アダルト・チルドレン)などと呼ばれる。アメリカの精神科医やカウンセラーがマーケティング戦略で作り出した「新商品」という側面も大いにあるような気がしてならない。
いま、こういった比較的軽い精神病が増えているそうだ。その一方で、治療の難しい重い精神病は減っているという。
なぜなんだろう。
そもそも、「なぜ?」という問いそのものに原因があるのかもしれない。
心の病気になってしまった、どうも私はおかしい……というとき、その原因を人は突き止めようとする。原因がないのに、こんなふうになってしまうはずがないというわけだ。
でも、自分自身に原因があると考えるのは非常に恐ろしい。自分以外の「犯人」を見つけ、その対象を徹底的に憎悪し、自分は被害者なのだと思い込むことで、心の平安を得ようとするのではないだろうか。そして、そのかりそめの「平安」の状態を続けるには、被害者であり続けなければならないから、病気はなかなか治らない。
親が悪い、社会が悪い、教育が悪い……。
フランスの哲学者・レヴィナスの研究者である内田樹さんは、ご自身のホームページの日記にこんなふうに書いている。以下、少々引用します。
>「親が悪い」「社会が悪い」「学校が悪い」という他罰的な説明に対して、にこやかに耳を傾けてくれて、その告発の理路を支持するような言動をする人間が一定数いれば、子どもは必ずこのチープでシンプルな「物語」にとびつく。
>だって、らくちんなんだから。
>ここから始まる「チープでシンプルな物語のオーバードーズ」という「病気」は、ひとによっては死ぬまで続く。
>すべての人間はなんらかの物語に依存しているから、そのこと自体は責められるべきではない。
>しかし、自傷的・自己破壊的な言動を正当化するような「物語のオーバードーズ」はときに致命的な結果を招く。
>そのことを危険性をアナウンスする人間があまりに少ない。
(引用はここまで)
おっしゃる通りだと思う。実際、ACを自称する人の中には、リストカッターが大勢いる。彼らは生と死の間をつなぐ細い細いロープの上を綱渡りしているようなもので、「被害者物語」のジャンキーである。
どんな言葉を投げかければ、彼らの呪いの呪文を解くことができるだろうかと、私は悩んでいる。
つい、言いたくなるのが、「甘えるんじゃない!現実を見て前向きに生きようよ!」というフレーズなんだけれども、そんなことを言おうものなら、ロープから奈落の底に飛び込んでしまいかねない。
……。
風邪がまだ抜けないせいか、今日は朝からひどい頭痛に悩まされている。机に向かう元気が出なくて、寝室でゴロ寝しつつ、『ラッキーウーマン マイナスこそプラスの種!』(竹中ナミ著、飛鳥新社)という本を読んだ。
著者の「ナミねぇ」は、重度脳障害の娘がいる。本の腰巻の宣伝文を紹介すると……「大きなハンディをものともせず、“障害の有無に関わりなく誰もがいきいきと働ける社会”を実現するために、ビル・ゲイツに会い、ペンタゴンに行き、法案を作るまでを綴った感動のノンフィクション」。
なぜペンタゴンかというと、ペンタゴンでは障害者の雇用が進んでいる。高度な軍用技術を障害者の就労支援へ応用する取り組みが盛んに行われているのだ。ベトナム戦争で大量に発生した傷痍軍人の社会復帰支援がその直接のきっかけであったらしい。ひょんなきっかけからペンタゴンで働くキャリアウーマンと知り合ったナミねぇが、感動して彼女の職場に会いに行ったというエピソードがこの本の中に出てくるのだ。
ビル・ゲイツと障害者の関係についてはご存知の方も多いと思うが、障害者などに対する寄付活動を熱心に行っていることで有名だ。また、コンピュータとコンピュータ・ネットワークは、障害者にとって「人類が火を発見したような、そんな道具です」とこの本の中に書かれているとおり、障害者の手足の代わりとなり得る道具である。
そして、「法案作り」というのは、バリアフリー社会推進を目指す法律のことで、アメリカのADA法(Americans with Disabilities Act=アメリカ障害者差別禁止法)をモデルにしたものを日本にもつくろうという趣旨である。
この本の中でとくに私が感動したのは、娘の障害に気付いた「ナミねぇ」が、その障害の原因を突き止めるために、医者や大学の研究者を訪ねて回り、最後にある「結論」に行き着いたというエピソードだ。その悟りは、サリドマイド訴訟のニュースをテレビで見ていたときに突然、ひらかれたのだった。以下、ちょっと長いけど引用します。
>あるときハッと気づいた。「原因がはっきりわかると、憎しみがわくんや」。
>それからこう考えた。「薬が原因で、自分の子どもに障害が出たとわかったら、母親は一生、その薬や、薬を作った製薬メーカーや、投薬したお医者さんに対して許さない!っていう気持ちで生きていくことになるのかもしれへん。そういう原因のはっきりした薬害で障害をもって生まれてきたのがもし自分だったら、すごく辛いかもわからへん」
>原因がわかって、ずーっと恨み続ける自分はイヤだなと思った。
>そして、原因がわからないままこれからどうやって生きていくかということを次のステップとして進んだほうが、前向きなエネルギーを持てるかもしれんと自分に言い聞かせた。
>私は、娘の脳障害の原因を探るのをやめた。
この前向きさを多くの人に分けてほしいものだ。
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最終更新日 2003年12月01日 16時10分19秒
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