ライフキャリア総研★主筆の部屋

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2003年12月13日
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●尊厳を支えるケア

 先に引用した「2015年の高齢者介護」では、今後あるべき介護のかたちとして「尊厳を支えるケア」ということを提唱しています。以下、その部分をご紹介しますと……

>これからの高齢社会においては「高齢者が、尊厳をもって暮らすこと」を確保することが最も重要であることから、高齢者がたとえ介護を必要とする状態になっても、その人らしい生活を自分の意思で送ることを可能とすること、すなわち「高齢者の尊厳を支えるケア」の実現を目指す

 尊厳を支えるというのは、どういう意味でしょうか。「介護福祉士」をキーワードにして新聞のバックナンバーを検索していたら、こんな投書を見つけました。山口県に住む58歳の看護師の女性からのものです(朝日新聞2003.02.22西部朝刊より)。

>51歳の彼女の死は、がん宣告を受けて、10カ月目にやってきた。あまりにも確実に病魔は進行し、「あと2~3年は生きたい」という願望は、無残にも打ち砕かれた。介護福祉士として、あれほど福祉の心のあつかった彼女が、こうも早く逝かねばならないのかと残念でならない。

>老人保健施設の痴呆(ちほう)棟での介護現場では、日々新しい問題が起こる。ある日、オムツ交換時、体格の大きな男性の便の処理が困難だと訴える職員が多くなり、陰毛を切除しては、という提案が出された。家族の許可を得て、その方向の流れになった時、彼女は「 その方の尊厳はどうなるのですか。 きちんと話せば協力してくれます」と発言した。

>私は、「尊厳」という言葉にハッとさせられた。一度切除したところで、人間の身体に必要な保護毛は再生する。あるがままの状態でケアすることの原点を諭され、深く恥じ入った。

>彼女の理念は、常に介護される高齢者が主体であるべきだというもので、その妥協を許さない精神に敬服する。惜しんであまりある彼女の死であった。

 これを読むと、「尊厳を支えるケア」が提唱される背景には、「尊厳を軽んじたケア」つまり「非人間的なケア」が横行していたという恥ずべき歴史があるのだと気付かされます。

 数年前には「高齢者をベッドに縛り付けるのはやめよう」ということが盛んに言われたものです。それがいまでは、オムツをさせる介護はよくない介護だとすら言われるようになりました。一人ひとりの行動をよく観察し、トイレに行きたくなる時間を見計らって誘導、介助するようなきめ細かい排泄ケアをすべきだという方向に進んでいます。ただその一方では、家庭や施設での高齢者虐待の問題もなくなっていません。

「尊厳を支える」という理念は素晴らしいけれども、現場はきれい事では済まないでしょう。「お年寄りだけじゃなく、私の尊厳もなんとかしてよ!」と言いたくなる場面も多々あるかと思います。現場の介護福祉士は、仕事に対してどのような不満、そしてやりがいを感じているのでしょうか。

●介護福祉士の専門性とは

 その前に、介護福祉士の仕事の定義を踏まえておきましょう。法律では、次のように定められています。

>「介護福祉士」とは、(中略)介護福祉士の名称を用いて、専門的知識及び技術をもつて、身体上又は精神上の障害があることにより日常生活を営むのに支障がある者につき入浴、排せつ、食事その他の介護を行い、並びにその者及びその介護者に対して介護に関する指導を行うこと(中略)を業とする者をいう。
(「社会福祉士及び介護福祉士法」第2条より)

「介護に関する指導」という部分が、ヘルパーとの大きな違いとなっています。

 さて、介護福祉士のナマの声を集めたアンケートがあります。社団法人介護福祉士会が実施しているもので、2002年3月に発表された第4回調査が最も新しいので、この中から興味深い部分をピックアップしてみましょう。回答者数は3151人となっています。

 まずは仕事のやりがいから。ヘルパーとの比較でいえば、介護福祉士にとっては、その専門性を評価されているかどうかが、やりがいを大きく左右する要素になるかと思われます。

 専門性を「認められている」と「どちらかというと認められている」と答えた人の合計は、全体で50.4%。特別養護老人ホームなどの高齢者社会福祉施設で働く介護福祉士(以後、施設介護と略します)の場合は51.5%、ヘルパー派遣会社などの居宅介護事業で働く介護福祉士(以後、在宅介護と略します)の場合は44.2%となっています。

 逆に専門性を「どちらかというと認められていない」、「認められていない」と答えた人の合計は、全体で33.4%。施設介護では31.2%、在宅介護では40.2%となっています。

 在宅介護のほうが「専門性を認められている」と感じている人が少なく、「認められていない」と感じている人が多いという結果になっています。これは、在宅介護の職場では、介護福祉士の資格を持たないヘルパーと同じような仕事をすることが多く、仕事の違いも評価の違いも見えにくくなっているからではないでしょうか。

 では、介護福祉士の専門性とは、具体的にどのようなものなのでしょうか。身体介護のほかの仕事で、専門性が生かされていると思えるものは何かという問いに対して多かった回答を3つ並べると、「ケアプランの立案・評価」「ケース会議などへの参加」「職員や実習生の指導」となっています。

 他の項目についても見てみてみましょう。介護福祉士が考えている専門性の中身やヘルパーとの違いがよく分かってきます。

・給与「基本給が高い」「資格手当がつく」
・指導的立場「リーダーを任される」「ヘルパー養成講師の仕事もしている」「実習生の指導をする」
・職場や社会の評価「ナースとの連携がスムーズ」「職場では資格があって当たり前の意識がある」「社会的認知度が高まってきた」
・業務内容「身体介護が多い」「ヘルパーの管理・指導」「相談業務・クレーム処理」「ケアプランに対する意見をケアマネジャーから求められる」「レクリエーションなどの企画業務」
・役職「サービス提供責任者に任ぜられる」
・資格取得奨励「職場の全員が取ろうとしている」「研修会へ参加させてもらえる」「経営者が資格取得を推奨する」
・雇用「常勤の雇用は介護福祉士の有資格者のみとなっている」
・専門知識や技術「専門職としての意見を求められる」「専門職として尊重される」「痴ほうなどの困難事例を任される」

●「あなただから、いいのです」

 本当のナマの声を聞くには、厚生労働省の「 JOB JOB WORLD 」へどうぞ。新人、中堅、大ベテランの3人の女性介護福祉士がそれぞれにやりがいを語っています。

 私が見てとくに印象的だったのは、「あなたが来るのを待っていたのよ」と言われて嬉しかったという新人介護福祉士の言葉と、自分ができなくて代役を立てたときに「○○さんじゃなけりゃ、イヤだ!」と言われたのが嬉しかったという中堅介護福祉士の言葉です。

 つまり、「あなただから、いいのです」「他の人じゃ、代わりはできません」というメッセージを贈られる仕事なんですね。

 大ベテラン介護福祉士の部分は必見です。この仕事の奥深さが伝わってきます。彼女は重度の痴ほうのお年寄りを専門に担当していて、その仕事の性質上、常に心がけ、後輩たちに指導しているのは、「大きな声で話さない」「走らない」ということだそうです。その2つの行動は、痴ほうのお年寄りには緊急事態を知らせるものであり、パニック状態を起こしかねないからです。

 つねに声のトーンに気をつけて、相手のペースに合わせて、いつも安心して過ごしていただけるようにお世話をするのだそうです。

「人を安心させる仕事」というのは、誰でもできるようでいて、実はできない。高度な専門性……というよりも、強い使命感と人徳によるものではないかと、彼女のたたずまいから感じ取れます。

●腰痛と低賃金がネック

 仕事への不満、大変さについても見ておきましょう。

 先のアンケートで「やめたいと思ったことがあるか」という質問に対し、6割以上の介護福祉士が「ある」と答えています。その理由で多かった3つを並べると、「仕事の内容がきついから」(22.4%)、「給料が低いから」(19.6%)、「体力に自信がないから」(18.5%)。

 仕事のきつさについては、介護保険制度が始まってから、以前よりも大変になったと感じている人が80.3%にのぼりました。仕事の内容、量、事務量の増加などをあげています。「責任が増した」と感じている人が63.1%。「労働時間が増えた」という人が56.2%。

 自由記入欄には、次のような意見がありました。「利用者の権利意識が強くなり、クレームが増えた」「サービスの質を問われる」「1人ひとりの満足度を要求される」「経営者からコスト管理を求められる」「他のスタッフへの責任が重くなった」「事故に対する責任をきびしく問われるようになった」。やはり「尊厳を支える仕事」は、ラクじゃなさそうです。

 気になる給料ですが、施設介護か在宅介護かで差が見られました。

15万円未満 (施)9.3% (宅)18.4%
15~19万円(施)26.7%(宅)28.4%
20~24万円(施)22.0%(宅)29.2%
25~29万円(施)11.2%(宅) 6.6%
30万円以上 (施)11.5%(宅) 5.2%

 いずれも15~24万円の幅の中に過半数の人が入っているわけです。一方、施設介護では30万円以上の「高給」に恵まれている人が1割以上いて、在宅介護では15万円未満の「低賃金」の人が2割近くいるというのが大きな違いです。

 ちなみにアンケートに答えた人の89.5%が常勤で、非常勤は8.0%となっています。とすると、在宅介護で15万円未満の人が2割近いというのは非常に問題ですね。

 施設介護のほうが給料ではやや恵まれていますが、こちらには夜勤が伴います。「している」と答えた人は59.6%で、その回数は月に4回という人が最も多くなっています(38.7%)。一方、在宅介護のほうは24時間循環型で勤務する場合を除くとレアケースのようで、夜勤を「している」と答えた人は8%にとどまりました。

●一人ひとりを大切にする

 最後に、介護福祉士に求められる資質・条件についてのアンケート結果をご紹介しましょう。上位3つは次の通りです。

①利用者を理解する態度(54.8%)
②人間尊重の価値観(48.9%)
③介護理論・状態に対応できる技術を持っていること(42.8%)

 経験年数の長い人ほど③をあげた人が多く、また、経験年数の短い人は、4番目の「介護の仕事が好きであること」(40.5%)をあげた人が多いという差が見られます。

 ざっくりまとめて言ってしまうと、介護福祉士に求められるのは、介護を必要とするお年寄りの「一人ひとりを大切にすること」ではないでしょうか。これが、「尊厳を支えるケア」の本質であると思います。






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最終更新日  2003年12月13日 15時36分08秒


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