ある自治体から依頼を受け、生活保護受給者向けの就労支援の仕事を経験しました。
2時間だけの講座なので、私にできることには限度がありますが、お役所からは「就職活動の進め方のプロセスをやさしく解説してほしい」との要望があり、それに副うべく構成してみました。
参加者は5人と少ないので、できればグループワーク形式にしようかと思いましたが、「他人と話すのが苦手な人もいるので、それはやらないほうがいい」と言われ、講義形式にして、「就職準備度テスト」を多少アレンジしたものを用意して、なるべく一方通行にならないように心がけました。
ところが……。
筆記用具を持参してきた人は、5人中の紅一点の女性のみ。仕方ないので、お役所のほうで鉛筆を用意してもらい、セルフチェック方式のテストに取り組んでもらいました。1問ずつ読み上げ、意味を説明し、○、△、×の三者択一で答えてもらい、あとで合計点を計算して、準備度を各自で確認し、自分に足りないものは何かを考え、それをどう補い、今後、どう活動を進めていくかの目安にしてもらうものです。
1人の男性は、やる気がないのか、あまり手が動いていないように見えました。実はそうではなかったことが、あとで分かりました。
テストは、簡単な掛け算と足し算で合計点を求めるものですが、その計算がままならない人が5人中2人。難しい漢字が読めない人が3人。
「長所って何ですか? 意味が分からない。長いトコロって、どういうこと?」と、質問されたときは、まさに絶句してしまいました。
採用面接では、「あなたの長所は何ですか」と質問されることが多いので、自分の長所を2つか3つ言えるようにしておきましょうということだったのですが……。
これはもう、細かいことをウダウダ説明しても無理だと思い、後半は履歴書の書き方についての個別指導と、面接でのあいさつの仕方やマナーに絞り込みました。
学歴は5人中3人が中卒、2人が高卒でした。
中卒の人のうち、1人は60代の独身男性。卒業と同時に家業の農業を手伝っていたとのこと。その後の就業経験はなし。おそらく、親が亡くなったか、その地域の都市化によって農業を廃業せざるを得なくなったか、それで、ご本人にはひとりで農業を続ける才覚がなく、かといって勤め口もないまま、健康を害して無収入状態に陥ったということらしい。
あとの2人は、ともに50代の独身男性。新卒で製造業に就職したものの、その後、何か事情があって会社を辞め、親の家業を手伝うことになり、親が高齢で続けられなくなったか、倒産したかで、本人が失業し、病気という不運も重なり、生活保護を受給することになったらしい。
就職活動をしようにも、求人広告が読めないし、履歴書を書くのもおぼつかない。
スーツなんて、持っていないかもしれない。男性は皆、粗末な身なりで、1人はズボンの膝に大きな穴があいていて、もう1人はこの寒いのにサンダル履き。栄養状態が悪いのか、皆さん厚着で、暖房のきいた部屋でも上着を脱がない人もいる。襟元には、寒さしのぎのタオルが巻いてありました。
生活保護受給者は甘えている、やる気がないなどと批判されますが、やる気以前の問題があるのだと気づかされます。
エンプロイアビリティ(雇用されうる能力)という言葉が以前、流行りましたが、産業構造が大きく変化し、農村の都市化、コミュニティの崩壊、家族の崩壊が進む現在の労働環境のなかで、エンプロイアビリティがゼロに近く、伸ばすことも難しいという人がいるのです。
農業、個人経営の商店や工場、工務店といったところの経営がどんどんきびしくなる中、家業を継ぐことがままならず、キャリアチェンジしようにも、専門技能はおろか、読み書きやソロバンの能力も怪しい、しかも年齢が高い、健康状態も十分ではないとすると、正規雇用はまず望めず、日雇い派遣でもあればいいほうだというのが現実です。
専門家が指摘するように、日本は企業福祉と家庭福祉が充実していた。ところが、企業がきびしい状況に追い込まれたり、個人が失業し、家族が崩壊して孤立してしまうと、日本では個人に対する福祉政策が、財政的にもソフトウェア的にもあまりにもお粗末であるため、福祉のない「丸裸」の状態になった個人は、最底辺へ追い込まれてしまう。
若い人のニートやワーキングプアの問題は、まだしも「時間」があるので、少しずつでも前進できるでしょう。ところが、50代、60代以上の生活保護受給者やホームレスの人たちには、再チャレンジの気力以前の問題がある。
資格を取ったものの、生かす場がないとぼやいているキャリアコンサルタントや産業カウンセラー、社会福祉士の皆さんはぜひ、こういった「最底辺に追いやられた人たち」に目を向け、彼らの就業支援に取り組み、成功報酬を自治体に請求するぐらいの才覚があってもいいんじゃないかなあと思うのでした。
私自身も、ハードな宿題をもらってしまった気持ちです。
人を孤立無援にしては、絶対にいけない。自立には支援が必要であるし、絆を断った自立は精神的にも肉体的にも、もろい。お金の支援だけでは足りない。「自立力」のようなものを身につける教育や指導が欠かせないでしょう。
協働や共生という言葉が盛んに使われるようになったけれども、これらの華々しい言葉が届かない、孤立無援の人が大勢いることを決して忘れてはならないと思いました。
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