リュミエール通信
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トレードマークのくわえタバコで、煙を燻らせながら、手振り身振りで現場を仕切る。そんな演出風景が、日本映画界から喪失してしまったことに、一抹の寂しさを禁じえない。巨匠というより、偉大な職人と呼んだほうが相応しい市川崑監督が、92歳でその生涯に幕を降ろしたからだ。最近は、30年前の自作『犬神家の一族』をみずからリメイクし、その旺盛な創作意欲で、映画監督としての健在ぶりを見せつけたばかりだったので、突然の訃報には不意を衝かれた。黒澤明監督の陰に隠れがちではあったが、彼の作品は海外でも高く評価されていた。あの、フランソワ・トリュフォーも世界で最も権威のある映画批評誌「カイエ・デ・シネマ」で、この監督の『おとうと』を絶賛していたほどだ。傑作『東京オリンピック』では、ドキュメンタリー映画の定義を、実験的なキャメラワークで豊かに拡張してみせた。また、久里子亭のペンネームで、「金田一シリーズ」のような娯楽作品を手がけ、その作風は、まさに自由自在、縦横無尽で、実験精神の高さから映像の魔術師と呼ばれてもいた。『犬神家の一族』が、市川崑の遺作に相応しい映画であったかどうかは別として、おそらく、監督自身が一番愉しんで撮ったに違いないであろう「金田一シリーズ」の傑作『悪魔の手毬唄』のDVDを借りに、TUTAYAに駆け込み、その演出の見事さを堪能することを、お奨めして哀悼の意としたい。
2008年02月18日
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