売り場に学ぼう by 太田伸之

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Nobuyuki Ota

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2024.02.10
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私がニューヨークで取材活動をしていた頃、米国人気デザイナーブランド御三家はカルバンクライン、ラルフローレン、ペリーエリス(86年急逝。代わって自らのブランドを立ち上げたダナキャランがそのポジションに)でした。ネイビーブルー、チョコレートブラウン、バーガンディーなどシックな色調とミニマリズムを絵に描いたようなシンプルなデザインで、カルバンクラインは社会で成功するキャリアウーマンに絶対的に支持されるブランドでした。


話題にもなったブルース・ウエバー撮影の広告

そのコレクションもさることながら、カルバンクラインはデザイナージーンズでも、アンダーウエアでも大成功、フレグランスやセカンドラインのCKカルバンクラインのビジネスも軌道に乗せました。しかしながらコレクションブランドは数年前に販売中止、アンダーウエアなど一部ライセンスブランドだけが市場に残る形になってしまいました。寂しいことに、現在もデザイナーブランド市場で存在感を保っている御三家ブランドはラルフローレンのみです。

私はニューヨーク在住時代から今日までずっとカルバンクラインの白無地クルーネックTシャツ(ライセンス商品)を愛用してきました。帰国して米国出張するたび、ブルーミングデールズ百貨店地下メンズウエア売り場で3枚入りパックを2,3個購入、出張に持参した古いTシャツはホテルのごみ箱に捨てて帰る、そんなパターンを四半世紀以上続けました。

ところが新型コロナウイルスで出張不可、愛用するカルバンクラインTシャツを現地で新旧入れ替えることができず、仕方なしに日本でネット通販してみようと検索したら、入手できるのはVネックのみ、クルーネックは入手できません。大きなロゴの入ったデザインものクルーネックはありますが、長年愛用してきた白無地クルーネックは販売していないのです。


お気に入りの白無地クルーネックTシャツ

日本では夏のクールビズ対応でネクタイをせずにシャツの第一ボタンを外すビジネスマンが増えたからでしょうか、クルーネックは過去の遺物となり、Vネックだけの販売になってしまいました。白無地クルーネックを探すのはたぶんほんの一握り、私のようなおかしな消費者だけでしょう。

個人的にTシャツには思い入れがあります。何度洗濯してもリブがピシッと元気なTシャツは好きでありません。日本製のTシャツには案外この手のしっかり品質が多い。何度も洗ううちにクルーネックのリブが弛んでちょっとヨレヨレになる感じ、あれが私のイメージする本来のTシャツ、カルバンクラインの白無地クルーネックはまさしくヨレヨレになるんです。だからずっとTシャツだけはカルバンクラインにこだわってきました。ほかのブランドに白無地クルーネックで微妙にヨレヨレになるものがあれば、別にカルバンクラインでなくてもいいんです。

Vネックは嫌い、大きなロゴ入りも嫌い、仕方なく米国ネットブランドEVERLANEで白無地クルーネックTシャツを購入しました。が、リブの感じもボディーの素材もしっかりしていて私好みではありません。言い換えれば、その質感が長年愛用してきたカルバンクラインより良過ぎてヨレヨレになりそうもありません。



個人的に大きな柄入りクルーネックは要りません

そんな話を数日前Facebookにあげたところ、たまたまビジネススクールの元教え子で元部下がニューヨーク出張中だったので、ブルーミングデールズで例の3枚入りを2パック買ってきてくれました。手に取ったらまさしく30年余着続けてきた触感、本当にありがたいです。

数年前までカルバンクライン白無地クルーネック3枚入りパックは30ドルほど、当時の為替レートでは1枚1200円程度でしたが、原料高騰と為替変動で1枚2300円になってしまいました。ほかのブランドでは得られない満足感ですから、決して高いとは思いません。



考えてみれば、春先にラルフローレンのお店に行けば必ずチノパンがあり、夏には無地ポロシャツが多色ずらり、秋になればチェックのネルシャツが並びます。毎年すべて同じ色、同じ柄、同じ素材、同じ寸法ではなく、色に微妙な変化もあれば、サイズに数ミリの違いはあります。が、それでも消費者からすれば必ず店頭に登場する定番アイテムがの安心感があります。もちろん変化がないとマンネリに感じる人も中にはいるでしょうが、この安心感があるからこそラルフローレンは半世紀以上も米国を代表するブランドとして長く続けてこれたのではないでしょうか。


これもブルース・ウエバーによる広告

デザイナー系ブランドにとってシーズンごとに新しい何かを提案するのは重要なことですが、同時に顧客に長く愛される定番商品を微妙な修正を感じさせずに維持することもブランドビジネスには重要なことだと思います。

元シャネル日本法人社長だったリシャール・コラスさんから聞いたことがあります。シャネルの永遠のヒット香水「シャネル5番」(発売から100年以上経過)、時代の流れに沿って少しずつボトルデザインを変化させているけれど、恐らく多くのお客様はその変化に気がついていない、と。フレグランスの世界でシャネル5番は特別な存在ですが、大きなモデルチェンジをせずに来たから保てたポジションと言えるのではないでしょうか。

たかがTシャツ1枚のことなんですが、ブランドビジネスにとって重要なこと。どこにでもありそうな白無地クルーネックTシャツ、カルバンクライン社がシャネル5番のように注意深くケアして永遠の定番にポジショニングしていたら、創業デザイナーがまだ存命なのにコレクション市場からこんなに早く消えるようなことはなかったのではと私は思います。ど定番のTシャツ、ライセンス商品であっても大事に継続して欲しいです。





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Last updated  2024.02.11 18:29:09
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