Accel

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December 5, 2013
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 ざわ・・・
 風が出て、目の前の女性の履いているサーンゲイン(腰に巻いて、腰元から足までを覆う布。胸から覆うものなど、種類も多く、男性も履く場合がある)が、ちらりとはためいた。
 ニルロゼは、息さえするのも忘れたかのように、穴の開くほど・・・目の前に立つ女性を見続けた。

「ニルロゼ」
 どれほどの。時間が経ったか。
 女性が、少年に向かって・・・少年の名を呼んだ・・・
「・・・」
 ニルロゼは、答えられなかった。
 今、今、なにか、言ってしまったり・・・


 女性・・・ロゼは、濃い青の瞳に、少年の姿を刻んでいた。
 逢うつもりはなかったのだ。
 だが。

 ずっと・・・ずっと・・・
 待ち焦がれていた人が、目の前にいる。


 あれは、1年ほど前のことか。
 当時はここから更に南に行った場所で、班を形成していた。
 ロゼは、子供と川に行って水を汲んでいた。
 そこで・・見たこともない恐ろしい化け物に、子供を持っていかれてしまったのだった・・・


 傍で、一緒にいてくれた人がいたのだ。
 一度つけた名前、ニルロゼの名前も、その男が、ロゼ、ロゼと呼ぶから・・・
 いつの間にか、ロゼになった。
 だが・・・

「忘れたことはなかったわ」

「元気そうね」

 ニルロゼは、暫く息をするのを忘れていたが、やっと息を吸って、ようやく言った。
「あ、ああ・・
 き、君も、元気そうだね」
 それだけ言うと、ちょっと横を向いてしまった。


 なんだ?

 ほかに・・・
 言いたい事があったような・・・


 遠くで、小さな子供が泣くのが聞こえた。
「あ」
 ニルロゼは、ちらりと”ナーダ”を見て言った。
「そういえば、子供は大きくなった?
 さっき、サーシャの子供を見たよ」
 ロゼは、笑いながら首を振った。
「死んでしまったわ」

 ざざざ・・・
 朝の冷たい風が吹いた・・・


「あ、そういえば、結婚するんだって?
 俺はさあ」

 ニルロゼは、顔が段々赤くなってきた。
「俺・・・・
 今、今でも、メルサを追いかけているんだ・・・
 君の傍にいたかったけど・・・
 でも俺、メルサの核を追いかけていたんだ」
 少年は、これ以上にないほどに、赤くなって、聞き取れないような小さな声で言った。

「あ・・
 あの・・・
 メルサを追いかけている途中なんだ、ナーダ・・・
 途中なのに、急に、君の事を思い出したんだよ。
 だから、来てしまった。
 悪かったね」

 ニルロゼは、女性に背を向け、その場を一歩、離れた。

「君が無事で・・・よかったよ。
 逢えて、うれしかった。
 じゃあ」
 ニルロゼは、更に一歩、前へと歩んだが・・・
 ぐるり、踵を返し、ダッと、女性の方へと大きく歩み寄って。
 両の腕で、女性の肩を掴んだ!


「ごめん、・・・ごめん」
 そう言うと、ガバッと、ロゼを抱きしめてしまった。
「ごめん、俺は、かなり、身勝手かもしれない、けど、許してくれ、
 俺・・・」


 しばらく・・・
 ニルロゼは、突っ立った姿勢のまま、ロゼを、胸に抱きしめていたが・・・・
 どこからか、また小さな子供の泣き声が聞こえてきて、ニルロゼは、少しだけ、瞳を開けた。

「ナーダ・・・
 君、名前を変えたってね・・・
 だけれど、俺にとって、君はきっと、ナーダのままだ・・・
 君は何回も何回も、俺を・・・
 俺を呼んでくれたね・・・
 俺は、そのたびに、君に助けられていた事に、ずっと気が付かなかったよ・・・。
 きっと、今回も、君に助けて欲しかった・・・・
 俺は、いつも我侭だな・・
 俺の目の前が見えないとき、君に助けて欲しくなる・・・」
 ニルロゼは、少しだけ、”ナーダ”を胸から離した。

「君の安全が確認できれば、俺はもう大丈夫。
 俺は、次に進む、ナーダ。
 もう、君の助けはいらないよ。
 俺、今、最高にイイのが傍にいるんだ。
 俺は、そいつに助けてもらって、今ここにいる。
 だから、君も・・・
 君も、君の道を」
 ニルロゼは、ロゼを腕から離そうとした。
 目の前の女性と、瞳が合わさった。


「・・・」
 ニルロゼは、ちょっとだけ・・・
 目の前のその瞳を覗き込んでいたが・・・
「ねえ」
 少年は、また照れたような顔つきで言った。
「ええと。
 前・・
 こういうとき、どうすればいいかって聞いたよな・・・
 俺は、今、ああいう感じのを、して欲しいなと、思っている。
 ダメかな」
「ダメ」
 ロゼは、速攻でそう言うと・・・
 目の前の少年の高い背に、両腕を回し、ゆっくり抱きついて・・
「そう思っているなら、目を瞑りなさい」
 と、言って、顔を近づけた。
「・・・」
 ニルロゼは瞳を閉じて・・・
 思わず、息を止めた。
 唇が触れてくる・・・

 ハーギーでの時とはまた違った、感覚が、した。




「呆れるわ」
 サーシャが、つくづく、首を何度も振りながら、ロゼと並んで村の中を歩いていた。
「あんた、まだあいつが好きだったわけ・・・」
「違うわ」
「また、また~」
 サーシャは子供をあやしながら、自分達の住む家へと入っていった。
「結婚、どうするの」
「するわよ」
 ロゼは、憂いる瞳を宙に泳がせながら、言った。
「あら、それは当て付け!?」

 サーシャは、思い出していた。
 ニルロゼと一緒にやって来た、とんでもない美少女のことである。
「ううん?」
 ロゼは、軽く笑った。
「吹っ切った、ってところかしらね」
「ふうん?」
 サーシャは、眠った子供の顔を見て、また溜息をついた。

「それよりサーシャ」
 ロゼは、足を伸ばして言った。
「あなたも、意地を張らないで、素敵な人の傍にいたら?」
「・・素敵な人なんて、いたかしら」
 サーシャはムッと頬を膨らませて言った。



「ぎえええええええええ」
 また、とてつもない悲鳴があがった!
 家の外を守る男達が、ひい、と耳を塞ぐ。
 今日は、朝から、この小さな家の中から・・・ブナンとカンの悲鳴が飛び交っていた。
「おお、怖・・・
 いったいどんな荒治療してるんだ」
 中年の男が、家の扉に目をやる。
 もう一人の青年と共に、家の前で見張り番をしていた。

 中年男は、青年に片目を瞑って言った。
「あの、すっごい別嬪さん、どう思う?お前」
「え・・・」
 言われた青年は、少し赤くなった。
「え?そ、そりゃ、すごい綺麗だなあとは、ね」
 と、また家からまた悲鳴があがる。
「あの子、ニルロゼの・・なんなんだろう」
 中年男は、ちょっと舌なめずりして、ニヤっと笑った。
「俺もぜひ、あの子に治療して貰いたいもんだ」

 と、小さな家の扉がカタリと音をたて・・・
 開いて、中から。
 ゆるり、と、黒い外套を着た人物が出てきた。
 朝の光に照らされているにかかわらず、その表情は、髪に隠れていた。
「アルジェさんという方を、お呼びしていただきたいです」
 黒い外套の人物はそれだけいうと、また家に引っ込んだ。
「うは。
 怖っ」
 中年男は、肩をすくめると、青年に、アルジェを連れてくるように言った。


「ふふふん♪」
 ビアルは、唇だけを笑わせていた。
 そのビアルの脇に転がっている男どもは、もはや精根尽き果てているようである。
「チッチッチ・・・甘いですねえ・・」
 その指を左右に動かし、クスリ、また、笑った。

 ビアルは、きらりとする瞳を髪の隙間からのぞかせ、腰に手を当ててふんぞり返った。
「さあ、ご理解しました?私も怒ると結構怖いのです」
 そう言うと、ブナンの足から視線を外し、カンの肩に視線を移した。
「はい、カンさんもですね、そろそろ白状した方が、らくーーーに、なりますよお?うふふふ」
 ビアルが、ぎらりとカンを睨んだ。

「わ“ああああああああ」
 また、小屋から 悲鳴が上がった!
 数人の男達が、慌てて、女性を一人、引き連れて来る。
 連れて来られた女性もまた、青い顔をしていた。
 悲鳴の合間に、扉が叩かれた。
「どーぞおおおおおおお」
 なんだか、機嫌のよさそうな、声が中からした。


 家の中は、悲惨な状態であった。
 床のあちこちに血が飛び、そして黒い外套を纏った人物もまた・・・
 顔を血に染め上げて、ニタリ、笑った。
「うふ。
 いらっしゃいませーーー」
 おどろおどろしいその雰囲気に、男達も、女性も、圧倒されていた。
「あ、あなた、なにをしたの!」
 思わず、女性が声をあげる。
「うふ。
 なにって、私は薬師・・・
 治療していた、それだけですう」
 なんだか、黒い外套の人物、かなり、足元も口調もフラフラとおぼろげない。
「アルジェさん、ですね~。
 これから大事なお話があるです~。
 ささ、なかへ~」
 黒い外套の人物が手招きし・・・
 女性、アルジェは、恐る恐る、部屋の中に入った。

「はーーーーー」
 黒い外套の人物は、でっかいため息をついた。
「ええ~。
 私は、ビアルですう。
 いちおう、薬師です~。
 ええと、一度診たお方は、最後まで責任持つのが私の主義~」
 黒い外套を着たビアルは、ほにょーんとした声で言うと、疲れたかのように、ふんわりと座った。
「ですが~。
 ええと、もう今日ここを出ないとならないのですう~。
 はい、では、ブナンさん、あとは、きちんとあなたが言って下さい」
 ビアルは、がっくりと、壁の方に寄りかかって座り込んだ。
「え・・?」
 女性は思わず、ビアルの方と、ブナンの方を、見比べた。



 眠ってしまったビアルを背中にくくりつけ、ニルロゼは、来た道を、馬のリュベルと引き返していた。
 ゴウポル・ゲーギ達とも、一度顔をあわせ、そして数名の仲間にも挨拶もすませた。

 カンに逢わないでしまったが、まあ、カンなら、きっと大丈夫だろう。
 なんたって、ビアルが治してくれただろうから。
「な、リュベルちゃん」
 ニルロゼは、栗色の毛の馬の首を撫でながら、馬をゆっくり走らせた。

 結婚・・・
 まだ、それがなにをどう・・・
 意味するのか・・・
 まだ、本当はよくわかっていなかった。
 でも、なんとなく・・・
 もう、ナーダは、俺がいなくても大丈夫なんだな、って・・・思ったのだ。

 そして、俺も。


 ニルロゼは、背負ったビアルの体温を感じながら、城の姫の所に戻るべく・・・
 馬を走らせた。
 あの、おそろしい獣の声は、昨日しなかったし、もう居ないだろう・・・
 あとは俺は・・・


 俺は、赤を。

 ニルロゼは、ぐっと唇を噛み締め、東へと向かっていった。


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Last updated  December 5, 2013 06:21:57 PM
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月夜見猫 @ 愛するケーナさまあはあと! おはようございます☆ >いつも本当にあり…
月夜見猫 @ オスン6757さん おはようございます。 >いつもありがと…
月夜見猫 @ もぷしーさん★ おはようございます。 >今まだうろうろと…
風とケーナ @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) 月夜見猫さま、こんばんは♪ いつも本当に…
オスン6757 @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) おはようございます。 いつもありがとう…

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