Accel

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January 20, 2014
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 大きくて、古ぼけた食卓に、ニルロゼが湯気の立つ皿を置いた。

「ほれーーー食え~食え~」
 背の高い少年が、両手の指を波のように動かして、まるで少女に念でも送るような格好を取っている。
 と。
 黒髪の少女は、匙を取って、ゆっくりと食事を始めた。

 木偶人形のように凝り固まり、その瞳も、その口も動かしていないセルヴィシュテの元に、ニルロゼがにこやかにやってきた。
「おい、おい。
 あまり、驚くなって。

 まあ、あんな美人はそんなにいないが、惚れてはダメだぞ」
「・・・・」
 セルヴィシュテは、かなりの絶妙な視線を、背の高い少年に送った。

「あの方・・・
 ビアルさん・・って・・・
 いうんですね?」

「・・・」
 ニルロゼも、セルヴィシュテの瞳を見た。
「・・?
 どうした?」
 流石に、その表情に尋常ならぬ様子を察知したニルロゼは、少し瞳が細くなった。

 俺ら・・・
 あの方に、何度も助けていただいたんだ。
 だから、ここまで来れたんだ・・・・」
 ぽつり、とセルヴィシュテが言った。

 ニルロゼが、少し息を呑んで・・・

「何度も?」
「え、ええ・・・
 薬を塗っていただいたり・・・」
「ああ!」
 ニルロゼは手をポンと打った。

「あいつは、薬師なのさ。
 なんだか、色々なところで、人を治している。
 俺も治してもらったよ」
 ハッハッハ、とニルロゼは笑って、少女の方に戻った。
 なんと、少女は机に突っ伏して寝ていた。
 そういう事は、いつもの事らしい。
 また寝てしまった少女をひょいと担ぎ上げ、また毛布の方へと運んでいく。
「で、いつもはこうやって寝てばかりさ」

 セルヴィシュテは・・・・
 寝ている少女と、ニルロゼを何度も見比べた。
「あの」
「なんだ」
 ニルロゼは、両手を腰に当てている。

「俺・・・
 この方を、神様かな、って思っていたんです・・・」
「は?はああああ?」
 すっとんきょうな声を出されても、セルヴィシュテは真剣である。
「だ、だってそうなんです。
 いつもいきなり現れて・・・
 どこからってこともなく・・・
 そう、いつも、でした。
 俺らが・・・
 そう、俺も・・・
 もう、もうどうしようも、どこにもいきようがないって、そういう時・・・
 来てくださって・・・」
 セルヴィシュテは思わずつばを飛ばして言葉を続けた。
「最初は、ただの綺麗な人だろう程度にしか思ってなかったけど・・・
 いつも、俺らを見ていたみたいで・・・
 だから・・・」

 セルヴィシュテは、意識が遠のくのを感じた。
 足がふらつき、前のめりに倒れそうになるところを、ニルロゼが支えに来た。
「・・・」
 セルヴィシュテは、やや、呼吸を整えながら言った。
「・・・か、神様が・・・
 こんなところに・・・?」

 顔を青くしているセルヴィシュテを見て、ニルロゼもやや、動揺してきた。

 神様だと?


「でも、黒髪の方は、いつ髪を短くされたんだろう・・・
 とても素敵な髪だったのに」
 セルヴィシュテは、やっと笑うと、ニルロゼに軽く会釈をし、自力で立った。

「髪?」
 ニルロゼが、鸚鵡のように聞いた。
「ええ。
 とっても長くて・・・
 それは、綺麗でしたよ。
 風が吹いて、お、俺にも少し髪が触れたことが・・・・」
 そこまで言うと、ちょっとセルヴィシュテは赤くなった。

 ニルロゼは、そんなセルヴィシュテの表情など気が付かず、口を曲げて言った。
「・・・・
 セルヴィシュテ・・・
 それは、もしや・・・
 髪の、長い、綺麗な人か?」

 茶色の髪の少年は、ごく短く答えた。
「は?」




「ううううううううううううううううううううんんんんんん」
 セルヴィシュテは、まだ諦め切れなかった。
「ほれ、ほれ、
 人間諦めが肝心。
 ハッハッハ」
 ニルロゼが、剣を構えていた。

 このニルロゼが言うには・・・
 ニルロゼも、出遭った、というのだ・・・
 長い髪の美しい、不思議な力をつかう方と。
 その時確かにビアルは別なところにいたし、よおおおおっく見れば、あの髪の長い人の方が、年が下のような気がするというのだ。
 だからして、あの髪の長い人とビアルは別人!だ!というのだった・・・。


「大体、短時間で髪は伸びないぜ。
 俺が出会った時からビアルの髪はあの長さだ」
 ニルロゼが、剣を振っている。
「ほら、ほら。
 角度が違う」

 セルヴィシュテは、なぜかニルロゼに剣技を教えられていた。
 ラトセィスが起きるまで、特にすることもなかったので、ニルロゼがいきなり、では、と剣を取り出したのである。
「いいか、ここの角度で、こっちにずらすんだ」
「こう?」
「そうだ」

 ニルロゼが、左手をひらひらとさせている。
 思いっきり切り込んで来い、というのだ。

「では!」
 セルヴィシュテの猛烈な剣を、ニルロゼの剣はあっさりと受け流した。
「甘い甘い。
 もっと深く」
 さっきから何度も斬りつけているので、セルヴィシュテの額には汗がにじんでいる。
「そりゃっ」
 カキーン!
 セルヴィシュテの剣はまたも、ニルロゼによって跳ね返され、床に叩き付けられた。

「うう・・・
 本当に強いですね・・・」
「っていうか君が弱いんだよ・・・
 俺は全然本気を出してないんだぜ?」
 ニルロゼは自身の剣を斜め上に構えた。
「ほれ、この角度に構えて、こっちに下ろしてみ」
 茶色の髪のセルヴィシュテは、言われたとおりに剣を構えて振ってみた。
「違う違う。
 こうだ、こう」
 ニルロゼは自分の剣を腰の鞘に納めると、セルヴィシュテの右手を握った。
「こうやって、こっちに払う」

 ひゅっ、何度もその払いをさせられ、セルヴィシュテは腕がジンジンと痺れて来た。
「ほら、そうしたら、別の方に払うんだ」
「ええ?逆に?」
「そんな泣き事みたいな事を言うなよ。
 ほれっ、左脇をもっと絞めて」
「こうですか!?」
 上段に構えた剣を、まずは右に刺し、すかさず左に持って行く。
「左に行く時に目線に気をつけろ。
 相手から目を離すな」
 ニルロゼはセルヴィシュテの腕から離れると、自身の剣を抜いた。
「じゃも一回」
 蜂蜜色の瞳をきらきらさせ、ニルロゼは剣を上段に構えた。
 ものすごい威圧感である。
 セルヴィシュテは、唾を飲み込みながら、彼と同じように剣を構えた。
「よし、いい角度だ。
 じゃあ振り下ろせ」
 ひゅっ、ニルロゼが剣を下ろすと、すばらしい音が鳴る。
 セルヴィシュテはぎこちなく、彼に教わったように剣を回した。

「まだしゃちほこばっているんじゃないか?
 どれどれ・・・」
 ニルロゼは、ひゅん、と、美しく剣を回し、あざやかに仕舞う。
 そして再びセルヴィシュテの手を握って来るのであった。
「これが、素早くできるようになると、実戦はかなり楽だぜ」


 結局、ラトセィスが起きた頃には、手に豆ができて、それが潰れてしまったセルヴィシュテである。
 ニルロゼに、なかなか見込みがいい、と、笑われた。

 こうして、彼らは西を目指すこととなった。
「王国があれば・・・
 俺らの事とか、判るかも・・・」
 セルヴィシュテは、まだ見ぬ地に思いを馳せ、ニルロゼに見送られて歩き出した。
 ラトセィスは、やや遠くを見つめているようである。
「ラマダノン王国があるんだってさ。
 名前知っている?」」
 ラトセィスは、セルヴィシュテを見ずに、頷いた。

「・・・」
 なんだか、ラトスは、不機嫌だなあ、と思うセルヴィシュテである。
 今日はとても晴れていい天気だし、明らかに王国があるという場所にこれから行くというのに、なにが不満なんだろう・・・

 ・・・

 そういえば・・・

 俺の、おかあさんの国の名前は・・・
 なんていうんだろう・・・

 ふと、抜けるような空を見上げると・・・
 灰色の羽の小さな鳥が二羽、連れ立って西へ飛んで行っていた。
 これから西へいこうという自分達を暗示しているようで、セルヴィシュテは暫し鳥を目で追った。

 そして、その茶色の髪が揺れているのを、ラトセィスが静かに眺めた。


 いま・・・
 いま、いるところも、王国ですよ・・・

 そう、言いたかったが、言わなかった。

 ナイーザッツ王国。
 ここは・・・・
 ここは・・・・・・・


 ラトセィスは、唇を結んだ。
 軽く、右の鎖骨の下に手を添えた・・・

 リュベナ・・・




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Last updated  January 20, 2014 07:21:06 PM
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月夜見猫 @ 愛するケーナさまあはあと! おはようございます☆ >いつも本当にあり…
月夜見猫 @ オスン6757さん おはようございます。 >いつもありがと…
月夜見猫 @ もぷしーさん★ おはようございます。 >今まだうろうろと…
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