Accel

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January 26, 2014
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 木々に囲まれた狭い道で、5匹の馬がいななく。

 誰がどう見ても、少年の方が不利な体制である。
 いったい何があって、このように、騎士に囲まれるなどという事に?

 そんな光景を見つめる目が、ひょう、と弓を放ってきた。
 その矢は、ぱさり、と、情けなく、7人の間に落ちた。
 何を狙って放った矢か・・・?
 どこにも当たらないその矢に、大人も少年も一瞬気を取られた。

「おう!こんなところにいたかい!

 これまた若々しい声と共に、こげ茶の長い髪を後ろで束ねた少年が一人、現れた。
 日に焼けた顔や手。
 使い込まれている皮の甲冑。
 その動作には無駄がなく、腰に下げている剣、鍛えられているのがわかる体躯、自信に満ちた視線は、年齢に不相応な雰囲気を醸し出している。

 少年は、ズカズカと馬の間に割り入り、同じ位の年頃の少年達に近づいた。
「ローガー様、失礼しました。
 こいつらは、俺の客で」
 束ねた髪の毛は背中の真ん中あたりまである。
 こげ茶色の髪の少年は、腰に手を当てて、馬に乗った大人どもを睨んだ。
「本当に大変しました。
 じゃあ、行こう」

 ラトセィスがぼーっと突っ立っていたので、そっちの方も手を引っ張り、森の奥へ連れ込もうとする。
 と、ひょう、と、また矢が飛んで、大人達と少年との間に落ちた。
 どうやら、威嚇しているつもりらしい。
「けっ、下手な弓め・・・
 だが、どうやら何人か”ヤツラ”がいるようだな。

 ローガーと呼ばれた男、セルヴィシュテに手綱を切られた男は、苦虫を噛んだ様な表情になると、ぎらり、と、茶色の髪の少年の背を斬るように睨んで・・・
 それから、仲間に合図を送った。

 城に戻るか。

 なにぶん、”ヤツラ”はやっかいだ。
 あんな小僧に斬り込まれて恥をかいたが、”ヤツラ”の仲間となれば、まあ話も別だ。

 荒々しく馬に拍車をかけると、ローガーは城への道に戻った。
 5匹の馬は、何事もなかったかのように整然と、大きな道を登って行った。



 森の中は明るかった。
 自分よりもやや背の高い少年に手を引かれ、どんどんと、やや南に向かっていた。
 使い込まれた皮の甲冑の少年の後姿に、以前自分が使っていた皮の甲冑の事を思い出しながら、セルヴィシュテは、どこまでだまってついて行こうかと、思案していた。
 どうやら、この少年が助けてくれたのだ、というのは判った。
 だが、なにか、感じ取れる雰囲気が、違う・・・

 なんだろう?
 以前にも感じたような雰囲気だ・・・
 いつ?

 と、手を引いていた少年が立ち止まった。
 そこには、樹によりかかってこちらを見る少年がいた。
 青い甲冑が、きらりと光っている。
 なかなかいい物のようで、凝った創りをしてあった。
 皮でできた肩掛けを斜めに、甲冑の上にしている。
 その腕は胸の前で組まれていた。

 と、ここまで連れてきてくれた少年が、ゆっくりセルヴィシュテに対し間合いを取った。
 セルヴィシュテは、なにが起こっているのか、理解に苦しんだ。
 目の前の少年が、さらりと剣を抜いてくる。
「・・・」
 一旦助けておきながら、なぜ闘おうとする?

「剣を抜け」
 長髪の少年が、構えた姿勢を崩さずに言った。
 セルヴィシュテは、少し、あの青い甲冑の少年に視線を送ってから・・・
 剣を抜いた。
amoregann.jpg
 間髪入れず、長髪の少年の剣が襲って来て、慌てて避けざまに、間合いを取る。
 セルヴィシュテの握り直す剣は、しかし、躊躇した。
「どうしてこんなことをするんです?
 俺は、セルヴィシュテ・・・
 さっき大人に囲まれた時も、さっぱりやられる理由がわからなかった・・・
 どうして、あいつらから離してくれたのに、こんなことを・・・」

 と、無表情にも、長髪の少年が切り込んできた!
 ものすごい力に腕がビリビリとし、思わずセルヴィシュテは顔をしかめた。
 剣が離れると、セルヴィシュテは、手を中段に構えた。

「ほう、やはり」 
 今まで切り込んできた長髪の少年が、そこでやっと一言言った。
 ひょい、剣をくるくると回し、鞘に収めた。
「セルヴィシュテといったな。
 その構え。
 誰にならった」
 長髪の少年は、腰に手を当てて、ニヤリと笑っていた。
 樹に寄りかかっていた、青い甲冑の少年が、こちらへと歩いてくる・・・
「・・・ニルロゼ・・・です」
 茶色の髪の少年がそう言うと、長髪の少年と青い甲冑の少年は、目を見合わせ頷いた。


 長髪の少年は、レガンと言った。
 驚いたことに、ニルロゼと同じハーギーのもので、ハーギーを出て、新しい生活をしている、と。
 この時初めて、ニルロゼがハーギーであった事を知ったセルヴィシュテであった。
 青い甲冑の少年は、こちらもハーギーのもので、名はアモ。
 弓と矢を背負っていた。
 大人達との間に矢を放ったのは、このアモだろうか?

 レガンとアモは、自分達の暮らす場所に、セルヴィシュテ達を招き入れてくれた。
 そこで少年達は、ハーギーが暮らすこととなったロワベの村の話をして、何人もの人に、同じ話を何度もする羽目になったのであった・・・

 それから、やっとレガンは、アモとまた二人だけになった。
 アモと二人で話し合うつもりで、ああやって班から離れた場所にいたのだ。
 そこに、見過ごせない少年を発見してしまった。
 ニルロゼが得意とする切り込みの角度に似た剣さばきを使う少年を・・・

「ニルロゼは、俺らの班には入らないのかな、やっぱ」
 レガンは右脇に垂らしたこげ茶色の髪をいじりながら、笑った。
 アモは、両手を組み合わせ、黒い瞳を伏せて笑う。
「あいつは、昔から単独行動ばかりさ。
 それより、俺が思ったより城の奴らはひどいな。
 お前がいてくれてよかったよ。
 俺がローガーとやりあうとまずくなる」
「まあ、そうだろうな。
 城勤めも大変だな、アモ」

 言われたアモは、ちょっと切なそうに笑った。
「ああ。
 できれば、お前にも、城に来てほしかった。
 が、こうやって、城に居る俺と、外の仲間と・・・。
 別れていた方が、情報が交換できる。
 城勤めとしてできないことをお前らはできるしな・・・」
 アモは、懐から銀貨を数枚、レガンに渡した。
「信頼できそうな人から聞いた。
 隣国の王も、なかなか話が判りそうだと。
 お前なら、きっとお目通りになるだろう。
 何人か仲間を連れて、少し様子をみてきてくれるか?
 身の回りを小綺麗にすれば、俺らだって、それなりの剣士に見えるだろう」
 アモから金を受け取ったレガンは、黒い瞳で、きらりと頷いた。

 レガンと別れたアモは、先ほど矢を放った所に戻り、矢を回収した。
 自分で作っているこの矢は、相手に当たっていなければ、再度使う事ができる。
 矢筒にそれらを収め、少年は音もなく走り出した。


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Last updated  January 27, 2014 06:04:59 PM
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月夜見猫 @ 愛するケーナさまあはあと! おはようございます☆ >いつも本当にあり…
月夜見猫 @ オスン6757さん おはようございます。 >いつもありがと…
月夜見猫 @ もぷしーさん★ おはようございます。 >今まだうろうろと…
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