Accel

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February 12, 2014
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 リュベナの部屋を出たニルロゼは、ふらり、と足が揺れた。

 うかつだった。

 確かに、あの部屋の雰囲気とか、姫の声とかは・・・
 メルサそのものだった。


 赤に取り憑かれているリュベナ・・・
 赤がある限り、メルサの形もまた、ありつづける・・・・
 なんとしても、なんとしても、
 赤の核を・・・




 ああ、どうすれば、赤にたどり着く?
 どうすれば、赤を倒すことができる・・・・

 ・・・リュベナ、ごめん、君を斬ろうとしてしまうなんて・・・



 廊下に倒れこんでいる少年を発見した人物がいた。
 その人物の手には盆が握られていた。
 盆の上には食事が乗っている。
 この人物は、これから、王に食事を持っていこうとしてたところであった。

 短く切られた、髪がさらりと揺れる・・・
 闊達そうな表情の、若々しい少女である。
「あら!
 やだ!

 あんなところで寝て・・・
 でもなんで城に?!」
 少女、マエーリは、思いっきり口と眉を曲げ、転がっているニルロゼを大きく避けて通ろうとした。
 が、流石に少しは心配になってきて、ちょっとだけ近づいてみる。
「ちょっと・・

 なにやってんの?」


 マエーリは、父マーカフに連れられて、ナイーザッツ城の中で暮らしていた。
 主に、料理長である父の手伝いをすることが多かった。
 本当は、付いて来たくなかったが、ドパガに目をつけられてしまったのだ・・・


 あの日・・・ 
 使いから返る途中、旅人がドパガに絡まれているのを見過ごせなかったマエーリは、身代わりとなったのだ。
 が、少女であることを隠すため、自ら髪を切り、ドパガの機嫌を取るふりをして、逃げる機会を窺っていた。
 そこを、セルヴィシュテに助けられたのだが、ドパガはルヘルンではかなりの権力者の息子・・
 いつ恐ろしい報復が来てもおかしくはなかった・・・・

 オヤジと、城に住むのは、ちょっと狭苦しい気分でもあったが、あのドパガの手が届かないのは、確かにここ、城の中ぐらいであろう・・・・・


 ずっと、城に住むのを拒んだオヤジが、城内に・・・・

 それを思うと、申し訳ないような、でもやっぱりどこかでまだオヤジに反発したい気分もあるような、複雑な心境だった。


「ねえったら!
 あんた、そこに寝てると警護に斬られるわよ!」
 マエーリは、右足でニルロゼの背中を軽く蹴りつけてやった。
 すると、蹴られた少年が僅かに動いた。
mae-ri.03jpg.jpg


 ものすごく青い顔をし、苦しそうなその表情をみたマエーリは、流石に尋常ではない事に気がついた。
「・・・」
 少女は、慌てて自分の部屋に戻ると、父マーカフを呼んだ。
 城の料理長、マーカフは、自分が住んでいる部屋に、ニルロゼを休ませることにした。
 それは同時に、マエーリが住んでいる部屋に、ニルロゼが入ることになった、訳だ。

「もおおおおおお~!!!
 嫌~!!!!!!
 こんな奴と一緒だなんて!」
 マエーリはプイッと顔を背けると、仕切られた小さな部屋に隠れるように篭ってしまった。
 マーカフは、やれやれ、と頭を掻いた。
「そう嫌がるなよ。
 一応病人なんだから、少し面倒みてやってくれ。
 俺は、厨房に行かねば・・・
 な?」
 仕切りの向こうに、宥めるように声をかけ、マーカフは身支度を始めた。
 城内の部屋に住まう事としたとき、寄越された服である。
 マーカフはきっちりとした身なりは好みではなかったが、流石に我がままは言えなかった・・・

 濃い目の緑の襟元の衣装を崩して着ながら、マーカフはやや皺の寄った目でニルロゼの額に手を触れた。
「マエーリ、頼むぞ。
 じゃあ」
 マーカフは、ゆるりと手を振って部屋を出て行った。
markatof03.jpg

 仕切りの奥から、恨めしそうにオヤジを見送ると、マエーリは仕方なく寝台の傍へと寄った。
 その寝台はオヤジの寝台。
 青い顔で寝込む少年の表情を、チラリと見て、仕方なく布を取り出して水に濡らした。
 少年の額に濡れた布をあてがってやり、寝台の脇の椅子に軽く腰掛けると、オヤジが寄こした本を読み始めた。
 この大陸の歴史の本らしい。
 最初はまったく興味がなかったのだが、オヤジがここだけでも読めよと見せた場所に惹きつけられた。

 何度も読んで、もう内容を熟読していたが、何回読んでも興味の持てる本だった。
 マエーリが夢中で本を読んでいると、少年がうなり始める・・・


 もう、嫌ね。
 男と二人きりなんて、本当に嫌。
 どうしてあたしがこいつの面倒みなきゃなんないのよーーー

 少年ニルロゼに嫌悪感ばかりを持っているマエーリだ。
 まあ、それも仕方ないのであろう。
 何といっても、まだまだ15歳。
 男友達といっても、精々街中で会話をする程度。
 家の中にまで入れるような親密な関係の男性など、いない・・・

 マエーリは汚いものにでも触るように、指先でニルロゼの額の布を持ち上げ、水に濡らして冷たくし、再度あてがってやる。
 すると、ニルロゼがうっすらと瞳を開けた。
「・・・」
 蜂蜜色の髪の下の、蜂蜜色の瞳が、憂いるように揺れた・・・
 ニルロゼは、よほど苦しいのか、瞳を瞑ると、右手を軽く上げた。
「・・・ありがとう・・
 嬉しいよ・・・」
「・・・」
 マエーリは、左を向いて荒く息をする少年の表情を見ていると、段々彼の苦しみをなんとか取り除けないかと思えてきた。

 マエーリは、恐る恐る、ニルロゼの右手首に僅かに触れた。
 と、ニルロゼの手が動き、少女の手を取った。
 ビクリ、とマエーリは手が震えたが、ニルロゼは苦しい息を吐いて、唇をかみしめている。

 手を繋いでいると、気分が落ち着くのかしら?

 少し、視線をニルロゼに落としながら、マエーリは椅子に座った。
 ずっと前・・・
 あたしが寝込んだ時、オヤジがずっとそばについていてくれたっけ・・・

 少女は瞳を閉じ、少年の手を両手で包んでやった。
nirumae02.jpg


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Last updated  February 13, 2014 05:46:42 PM
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月夜見猫 @ 愛するケーナさまあはあと! おはようございます☆ >いつも本当にあり…
月夜見猫 @ オスン6757さん おはようございます。 >いつもありがと…
月夜見猫 @ もぷしーさん★ おはようございます。 >今まだうろうろと…
風とケーナ @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) 月夜見猫さま、こんばんは♪ いつも本当に…
オスン6757 @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) おはようございます。 いつもありがとう…

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