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2005年11月14日
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彼は相変わらずエスメラルダの使途不明金というか、ヒロシのノートに記載された金額の行方を追っていました。

「ロニー、ボクはこのままじゃどうしても納得がいかないんですよ」

どうもヒロシは昇ちゃんを疑っているようでした。
ただ悪いことに、ヒロシはこの悩みを一人で抱えていることが出来ず、サム岡田をはじめナガイや他のスタッフにも話して回ってしまったのです。
そんなことをすれば当然昇ちゃんの耳にも入るわけで、そうなれば身内の争いになることは必至です。
そして委員長はこの話を聞いた時から、あるひとつの仮説を立てていました。

「ジュリーの親父さんの葬式にいくらか用立てたんじゃないのか。それにもうすぐ結婚式も控えているし」

「それならそれでボクらに言ってくれるべきでしょう。それに葬式なら我慢もできますけど、結婚式の費用に使われたりするんじゃ納得いかないですよ」



「たぶん、本当はみんなも気が付いているはずなんですよ。でもやっぱりジュリーが怖くて言い出せないでいると思うんですよね」

「そうかもしれないけど、岡田やナガイにしてみればそんなことは直接の関係がないことだと思ってるだろうな」

「そうかもしれません。どうせ彼らはこの仕事がダメでも戻るところがありますからね。所詮は他人事ですよ。でもボクはこれしかないんですよ。帰る所もないし、だからDJの夢もあきらめて、ジュリーやロニーの言うとおりマネージャーとしてやってきたんですよ。そしてその一生懸命稼いできた金が無くなったんです。これは大事なことじゃないんですか?」

またしてもヒロシに詰め寄られた委員長でした。

「でもなヒロシ、お前の気持ちは良くわかるけどな、ここまでやってこれたのはジュリーの力があってこその話だろ。だったら多少のことは目を瞑っても良いんじゃないか」

「それも分かりますけど、そんな簡単に割り切れるような半端な金額じゃないんですよ。ボクはどうしても納得いきません」

「そうか、そこまで言うならしょうがないな。好きなように、お前の納得のいくようにしたら良いじゃないか」

「そのつもりです。でもその時はロニー、ボクに味方して下さいよ」

「味方って、それはお前の言っていることが正しかったらの話だよ」

「じゃあ、ボクがそれを証明したら一緒に戦ってくれますね」

「戦うってお前、喧嘩にでも持ち込むのか」



「う~ん、そりゃないと思うけどな。万が一喧嘩にでもなった時は必ずオレが止めてやるよ」

そんな会話をして別れたのですがせっかちなヒロシは間髪を入れずにその夜、田無のジュリーの自宅へ乗り込んだのでした。

「ロニー、悪いけど大至急ウチに来てくんないか。ここにヒロシが来てるんだけどよぉ、こいつはよぉ、人を泥棒扱いしやがるんだよ。それで岡田やナガイにも来てもらうことになってんだけど、急いでこっち来てくれよ」

既に夜の12時を過ぎていましたが、突然のジュリーからの電話で呼び出された委員長は、相棒のリトに事情を説明して田無のジュリー宅へと急行しました。
やれやれ、とうとうおっぱじめちゃったかって感じでしたが、こりゃ今夜は修羅場になるな、とそんな憂鬱な気持ちでタクシーに乗った委員長、結局はこんな終わりにしかならないのかと自戒しながらも出来れば逃げ出したい気分で一杯でした。


所詮は単なる落ちこぼれの集まりが寄って集って馬鹿騒ぎをしてきただけのことでした。

田無のジュリーのアパートのドアを開けるとナガイが出迎えてくれ、部屋にはジュリーが腕組みをして胡坐をかく前でヒロシがうなだれた様子で正座していました。
その隣には岡田が緊張した顔つきで委員長の方を見ています。

「おう、ロニー、悪いな、こんな夜遅くに。この馬鹿がよぉ、オレを泥棒呼ばわりするもんだからよ」

そう言ってジュリーは顎でヒロシを指しました。
ヒロシは委員長の顔を見ません。
ジュリー、ヒロシ、岡田、ナガイ、委員長の五人が車座になって座りました。

「まずはお前からロニーに説明しろよ」

ジュリーが突き放すようにヒロシに促しました。
黙りこくったままのヒロシ。

「いや、昇ちゃん、実は大体のところはもう聞いているんだ」

やっぱりな、という表情のジュリーはヒロシに向かってなじるように語り始めました。

「テメェはよぉ、オレにこんな気分で結婚式を迎えさせて楽しいか?」

相変わらず押し黙っているヒロシ。

「今、チ○子が帳簿持ってきてきちんと見せてやるからよぉ」

エスメラルダの経理は昇ちゃんのフィアンセ、チーちゃんの親父さんが面倒見てくれていました。
そしてヒロシが拘り続ける帳簿が今ここに届けられるのです。

「お前はオレの人生の一番大事な時をムチャクチャにしてんだぞ」

「いや、ジュリーさん、そうじゃないんですよ。ボクは自分の気持ちがはっきりしないままじゃ、ジュリーさんの結婚式にも出られないんですよ」

ようやくヒロシが口を開きました。

「ふざけんなよテメェ、もしお前の間違いだったら、お前はオレとチ○子の人生に一生の傷を残すことになるんだぞ」

そこで、部屋のドアがバーンと音を立てて開き、ザンバラ髪のチーちゃんがドカドカと上がりこんできました。
まるで修羅のような形相のチーちゃんは無言のまま、帳簿や領収書のファイルをヒロシの前に叩きつけるように放り出しました。

「これで全部だからよおく見なさいよ!」

仁王立ちのチーちゃん。
投げ出された帳簿をゆっくりと手にとってページをめくり始めるヒロシ。

「ふざんけんじゃないよ、あんた」

そう叫ぶと同時にヒロシめがけてケリを入れるチーちゃん。
ヒロシがかわす間もなく半べそかいたチーちゃんからパンチが繰り出されました。
揉み合いになったところでジュリーが乱入して鉄拳が繰り出されます。
さすがに横にいたナガイがチーちゃんを抑え、委員長もすかさずジュリーを後ろから抱き上げて引き離しました。

「もう辞めてくれよ!もういいよ!」

委員長はジュリーを抱き上げたまま叫んでいました。
本当にもう沢山でした。
もうこれ以上バカの揉め事は沢山です。
所詮オレ達はこんな馬鹿野郎でしかなかったのです。
ディスコだDJだと華やいだ世界でカッコばかりつけてきた奴らの集まりがこれです。
結局はそこらの不良のあんちゃんたちと何も変わらないことを、何年もかけて続けてきただけのことです。

委員長の叫びで取り敢えずは押さえ込まれて座り直した一同。

「ヒロシ、もういいだろ、はっきりさせたところでもう取り返しの付かないとこまで来ちゃったんだから、もうこれで終わりにしようぜ」

そう委員長が諭すと、うな垂れたように首を立てに振るヒロシ。

「これでエスメラルダも解散だな」

ジュリーが吐き捨てるように言いました。

「いや、ジュリーさん、もうボクは辞めますけど、他のスタッフもいることだし会社は続けて下さい」

ヒロシが最後にメンツを立てました。

「テメェの顔なんぞもう見たくないから出てけよ」

ヒロシは一同に頭を下げて部屋から出て行きました。
しばらくの沈黙の後、ジュリーが委員長に尋ねました。

「ロニーはどう思ってる?」

「昇ちゃん、実はヒロシからこの話を聞いた時さ、たぶん親父さんの葬式に使ったんじゃないかと思ったんだよな。俺も昔ばーちゃんの時に経験してるから葬式の大変さは知ってるからさ。ヒロシにも同じこと言ったんだけど、それはそれで良いじゃないかってね。元はジュリーあってのエスメラルダだったんだし、頭に立つ人間として口に出して言えないこともあるだろうって、メンツもあるからね。それを汲み取ってやるのが俺ら仲間ってもんじゃないかって。そう思ったんだよ。でも問題はそこじゃなくて、オレもヒロシ同様にジュリーを疑ったってことが問題なんだよな。少なくとも社長のジュリーを疑ったってことは、もうオレには一緒に仕事する資格はないよな」

何故か涙が溢れてきました。
男泣きというのか感極まったというのか、何故泣けてくるのか自分でもよく解りませんでしたが、この数年の結末がこの涙だったのでしょう。

「ロニー、ありがとう。でもオレはまだ一緒にやっていきたいと思ってるよ」

ここでナガイが突然声を上げて泣き出しました。

「ロニーさんすみません。オレはヒロシくんからこの話が出たとき、何も言えなかったんです。実はボク、ジュリーさんから内緒で出産費用出してもらっていたんです」

涙をボロボロ流して告白するナガイの姿がとても不憫に思えましたが、ことの良し悪しはともかく、こういう繋がりこそが本来のオレ達半端者の繋がりじゃなかったのかと思いました。

「もう良いじゃないか、その気持ちでこれからジュリーと一緒に頑張って行けよ」

最後まで悪役を演じさせてしまったヒロシには大変気の毒なことをしてしまいましたが、委員長の決意は変わっていませんでした。
これでまずはひとつ、精算が終わりました。





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最終更新日  2005年11月14日 08時56分01秒
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