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2005年11月15日
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媒酌人はRCAレコードのK課長。
司会はなんと小林克也さんです。
招待客は日本フォノグラムの渡部氏はじめ業界の人間が殆どでした。
エスメラルダのメンバーに混じってジョイ吉野やオーティス中村の顔も見えます。
そして委員長の顔を見つけて近寄ってきた女性がいました。
ムラちゃんの彼女です。

「久しぶりね」

「ホント、久しぶり。ムラちゃんは来ないの?」



「結婚したの?」

「私たち?まだよ」

「そう。ムラちゃんは元気でやってるの?」

「うん、PA関係の仕事だけど順調よ。ロニーもジュリーもうまくいってるようじゃない」

「見た目ほど上手くはいってないんだけどね・・・」

そう言いかけて言葉を呑み込んだ委員長でした。
ムラちゃんという生贄を乗り越えてここまでやってきた委員長とジュリーですから、ここで泣き言を言ってしまってはムラちゃんに申し訳なく思えたからです。

「とにかくムラちゃんによろしく伝えてよ」

思えば皆半端な出来損ないが、お互いを傷つけあって転がるように生きてきたひとつの節目が、このジュリーの結婚式だったように思います。
そうそうたる出席者の顔ぶれの割には穏やかでこじんまりとした結婚式でした。
ただ、司会の克也さんが会場を沸かせたジョークが、この二人の将来を暗示しているように思えた委員長でした。



そしてテーブルにひとつ空席がありました。ヒロシの席です。
何はともあれ無事結婚式は終わり、ジュリーも委員長もこれでひとつの時代が終わったという儀式でもありました。

しかし、この式が始まる前、ジュリーが過去関わった女が乱入してきて暴れるとか、乱入女同士がまたそこで揉めて式がパニックになるとか、皆のヨタ話は留まるところを知らず、実際にそうなったときのことまで心配したりする始末でした。
委員長はお祝いにペアのパジャマをC子と連名で贈ったのですが、その後ジュリーからマジな電話があり、この女は誰だ?とかなり神経質に聞いてきたのには笑いましたね。
ジュリーもC子の本名、苗字までは知りませんから、誰かが委員長の名前を使ってあてつけに贈ってきたモノかとも思ったのでしょう。


さて、この結婚式への出席を以って、委員長とジュリーの関係に終止符が打たれ、この後はお互いに自分達の道を行くことになりました。
長いような短いような付き合いでしたが、若さ一番、同じ時代を生きた相棒との別れでした。
認め合ってもウマが合わない、そんな感じのおかしな仲でしたが、城を追い出された時の屈辱感と反骨魂は生涯二人が共有できる思い出だと今も思っています。
タイプこそ違うもののその心の底に流れていた血はきっと同じだったのでしょう。

委員長がエスメラルダを辞めると同時に、なし崩しに足抜け者(笑)が続出しました。
シンジ、ヤスオ、ユウジ、コジャ、ナオと中央線沿線で委員長につるんでいた奴らが、次々とエスメラルダを抜けていきました。
もちろん委員長がそんなことをそそのかす訳もなく、ヒロシの突然の退社や委員長の脱退に何かあったとは感じてはいたようでしたが、やはりみな疲れ始めていたのかもしれません。
高円寺亀屋マンションに集結したロニー軍団は、何故か委員長に異常な期待を寄せていました。

「ロニーさん、これから何か一発やるんでしょ」

「俺たちついていきますから教えて下さいよ」

一人歩きしているロニーという偶像は更に彼らの頭の中で勝手に膨らんでいきます。

「ロニーが何か始めればエスメラルダの奴らもみんなついてくると思うよ」

「いや、サムは来ないんじゃないか」

「俺もあいつとは一緒に仕事したくないな」

「ねえ、ロニーさん、何か考えてるんでしょ?教えて下さいよ」

皆で好き勝手な想像を膨らませて遊んでいます。
委員長はまるでハメルンの笛吹きですね。笛を吹くと子供たちが踊りながらついて行く。ハメルンの笛吹きはついてきた子供たちを池の中へと誘い込んで沈めてしまいます。
確かに委員長がホラを吹けば馬鹿者達はついてくるでしょう。
でも委員長には彼らを誘い込んで連れて行く場所がないのです。
持って生まれた才能を生かすことのできる目的地が委員長にはないのです。
思えば18歳からディスコ業界に入り込んでからというもの、次々と思いのままワクワクすることだけを追い続けてきた委員長は、ついにここで夢の行き止まりにぶち当たったのでした。
もうこの世界には委員長が成りたいモノがなくなってしまっていたのでした。
委員長が夢中になれる遊びがもうないのです。

ダンサーごっこ、DJごっこ、バンドごっこ、そして会社ごっこにアウトローごっこ、結局どれひとつとしてホンモノにはなれませんでしたが、どれも皆心の底からワクワクして楽しんだ遊びばかりでした。
今まで通りその気にさえなれば何だってできるはずの道楽者なのですが、夢見るモノ、目指すモノがないのです。
遊びを失った道楽者ほど悲しいものはありません。

「お前らも自分で覚悟を決めてエスメラルダを辞めたんだから、これから先は回りに流されずにしっかりと先のことも考えろよ。じゃないとオレみたいな中途半端なことになるぞ」

委員長から後輩へ贈る言葉のつもりでした。
皆いつもと違う委員長の態度に戸惑っていたようでしたが、いずれはそれぞれがぶち当たるであろう行き止まりが来ると言うことを伝えたかっただけのことでした。

そしてこの頃のC子はといえば、ほとんど毎日朝帰りで酔って帰ってきてはそのまま寝るという乱れた生活が続いていました。
さすがの委員長も心配になりましたが、彼女は彼女でやはり壁にぶつかっているのでしょう。それでも委員長は、そんな彼女を思いやる余裕もない自分がふがいなく、その情けなさにまた落ち込むというような暗黒の世界を彷徨うだけの日々でした。
そんな隙間を埋めようとすればするほどお互いの気持ちは、見事なまでに滑稽な空回りを始めていきます。好き合って暮らし始めた男と女が肌を触れ合わせなくなった時、それは出会う前のただの男と女に戻るエピローグとなります。

一度は生涯を共にすると思った相手だからこそ、さり気ない終わりを演じたかった委員長は、殺風景な部屋に転がっている楽器の山をひとつずつシンジの部屋に運び、その他の数少ない荷物は年老いた母親の元に運び込みました。
きちんとしたケジメをつけずに自然に別れていきたい。
それがせめてもの思いやりだと思ったからです。

「あんたと別れたらきっと後悔すると思うんだよね。でもやってみたいんだよ」

C子の最後の言葉でした。これも彼女の委員長への最後の思いやりだったと思います。

「別れていくヤツに向かって手を振ることもないだろう」

静かな別れでした。言い争うわけでもなく、憎みあうわけでもなく、お互いに時代の終わりを悟った自然な成り行きの終わり方でした。
さよならを言える分だけ彼女の方が強かったということです。
言い出せずにいる委員長は、雲が風に流されるように彼女に流されます。

「これだけでも持っていけよ。結局最後まで何もしてやれなかったから」

大型のラジカセと彼女の好きだったロドニー・フランクリンのレコードを置いて部屋を出た委員長でした。
1階の郵便受けに部屋のカギを落として二人の絆が切れました。





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最終更新日  2005年11月15日 07時13分06秒
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