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2005年11月18日
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なにせ毎日がボヘミアンのような生活を送っていた委員長ですから、自分ひとりでくつろぐ時間などと言うものはほとんどなく、まして一日中寝ていられる日などはたまの公休日しかありませんでした。
そんな委員長の安らぎの公休日が、思いがけない人物からの1本の電話によって台無しにされることとなってしまいました。

「ロニー、久しぶりです」

ヒロシから突然の電話があったのは一番深い眠りに入りこんでいた昼過ぎでした。

「なんだヒロシかよ。まだ寝てんだから後にしてくれよ」

「ロニー、お願いがあるんだけどさ、今日お休みでしょ」

「なんでお前がそんなコト知ってんだよ」

「へへ~、実はさ、成田のディスコで急にトラが必要なのよ」



「ボクもこのままじゃ男として引き下がれませんからね。いつかジュリーを見返してやりますよぉ」

「おまえ、まだそんなこと言ってんのか。もう足洗ってまともな仕事でもしろよ」

「とにかく力貸して下さいよ。ハコ取りするからさ、ロニー一緒にやらない?」

「もうオレは昔とは違うんだから、今更同じことができるかよ」

「知ってますよ、C子ちゃんと別れちゃったんだってねぇ、残念だよね」

「もういいから、用を言えよ」

ということで、突然電話をしてきたヒロシの話によると、エスメラルダの営業で繋がった地方のディスコを自分でハコ取りしていこうという魂胆らしく、そのしょっぱなに成田のディスコでトラを探しているという依頼があり、あちこちのDJに片っ端から電話したということでした。
といっても、連絡を取ったのはシンジやユウジとかのエスメラルダ足抜け組だったらしく、そこから委員長が休みということを探り当てて電話してきたようでした。

「助けると思って今日だけ引き受けてよ」

ヒロシにも多少負い目のある委員長は、渋々ながらこの仕事を引き受けることにしたのでした。
あまりにも突然の話でしたが、旅慣れている委員長にとってはどんなハコだろうとそれなりにこなす自信はありましたから、仕方ないとは言いながらもヒロシへの義理を返すつもりで出張ることにしました。


「なんだ、お前もその店知らないのか?」

「ええ、電話で頼まれただけなもんで内容はよく知らないんですけど、とにかくその高橋さんて人が切羽詰ってるモンで、助けてやって下さいよ。まあ上手くハコ取りできたら御礼はしますから」

「しょうがねぇなぁ。御礼は良いけどよ、こんな無茶な話はこれっきりにしてくれよ」

4時に錦糸町だったら遅くとも2時半にはここを出なければ間に合いません。
世田谷からだと小一時間はかかりますからね。

錦糸町の改札を抜けてそれらしい人を探すと、こざっぱりした背広姿の中年の紳士が向こうから声をかけてきました。

「あの、ロニーさんですか?」

さすがにこの頃の委員長は、一般の人にロニーと言われるのは多少気が引けましたが、初対面の人との待ち合わせにはこっちの方が判りやすかったようでした。

「じゃ行こう、車、そこに停めてあるから」

そう云って駅前に路上駐車してある黒塗りのセダンに案内されました。
車には「高橋音楽事務所」と名前が入っており、へぇ、プロダクションかあ、などと少々興味の湧いた委員長でした。
委員長もこの業界で長くメシを食っていましたが、当時はディスコDJの派遣まで手がけていた音楽プロダクションは稀で、元々業界が違うと思っていましたからちょっと気になりました。

京葉道路をぶっ飛ばして到着したのは成田のとあるホテルの地下にある「アストロハウス」というディスコでした。
店に入るや否や、この高橋さん、妙に低姿勢で店長にご機嫌を取っています。
店長はちょいと頭の禿げ掛かったおっちゃんで、高橋さんに対して「ふん」というような横柄な態度でした。
DJブースに入れられた委員長は、まるでビビって逃げるような高橋さんの「じゃ頼んだよ」の一言に、これはひょっとしてとんでもないハコに入れられてしまったんじゃないだろうかと空恐ろしくなりました。

ブースから見たダンスフロアーは8畳くらいの中型ディスコといった感じですが、さすがホテルの中にあるお店のせいかインテリアは見るからに高級そうでした。
コンソールは通常のTEAC縦型ミキサーにテクニクスのターンテーブルという比較的オーソドックススなタイプで、ブースはやたらと狭く、座ったままで調光ができるように、左手側にフェーダータイプの調光卓ユニットが設置されていました。
後ろにはレコードラックがあり、ざっと目を通すと並みの品揃えといった感じで、今夜一晩ならこれでなんとかいけそうという感じでした。

しかしいきなりブースにぶち込まれたものの、機材や店のポリシーなど一切説明もなく、これはこの店と高橋さんの間があまり上手くいっていないということを暗黙のうちに悟った委員長でした。
どっちにしろ一晩のトラなんだから、あとがどうなろうと知ったこっちゃないし、取りあえず無難に勤めりゃ良いだろってなもんでした。

機材を適当にいじくってまずは使い方を学習しますが、モニターの取り方さえわかればあとは勘でなんとかなります。
(勘の良い子に生んでくれた両親に感謝です)
ブースは正面がガラス張りだったので、外の音をモニターするのがちょっと厄介でしたが1時間も回していればそこらへんの勘もつかめてきます。
確かこの時クインシー・ジョーンズが来日していて、やたらと「愛のコリーダ」のリクエストが来たのを覚えています。
MCで「They playing in Japan now!」ってのを連発しましたが、お客にシンガポール人の若い娘が来ていて、たまたまコンサートに行ったのかどうか知りませんがやたらウケてしまい、超ロングバージョンでつなぎまくってやりました。
はっきりとした記憶はないのですが、確かブラザース・ジョンソンのストンプのチョッパー部分を途中にかぶせてまた愛のコリーダに戻す、みたいなことを何発かかましたような気がします。なんか妙にウケたって覚えがありますね。

こんな感じで前半は軽くぶっ飛ばしたのですが、なぜか従業員は誰もブースには近づいてきてくれず、水一杯、コーラ一杯出るわけでもなく、タバコも吸えず、ほぼ監禁状態でした。それでも11時を過ぎる頃には客も減り、たぶん泊り客であろう日本人の若者が数名グダグダしているような状態となっていました。
そしてここで本日二度目のスローダウンってことで暗転すると、ようやくここで店長がブースに現れました。
「ご苦労さん」くらい云われるのかなと思っていたら、調光卓の前に腰掛けて店内照明をしばらく調整して出て行ってしまいました。
愛想のないヤッチャなあ、てな感じでした。ということで結局閉店までブースに監禁されたまま仕事を終えた委員長でした。

店内照明が上がってブースから出るとスタッフ全員が整列して終礼です。
(何処も同じですね)
委員長はこのあとどうすれば良いのか戸惑っていると、店長が声をかけてきました。

「おつかれさん。高橋が迎えに来るの?」

やっと労いの言葉をかけてもらいましたが、この後どうすれば良いのかはまったくわかりませんし聞かされてもいませんでした。

「は、はあ」と答える以外にない委員長。

「まあ、来るまで待つにしろ飯でも食おうか。腹減ったろ?」

なんだ意外と優しいじゃんこの禿げ店長は、って感じでホテルの中のレストランでピラフなんぞを頂いた委員長でした。

「今、どこで仕事してんの?」

店長が尋ねてきました。

「はい、赤坂シンデレラです」

「へえ、赤坂に居んの?オレは元々ホワイトホースにいたんだよ」

「あーそうですか。(って良く知らないけど)」

「いくら位貰ってんの?」

「えっ?」

「いや、よかったらウチに来ないかなと思ってね。いや、高橋の手前言い難いと思うけど、あんたならウチで雇っても良いよ」

「ありがとうございます。でもボク今の仕事まだ始めたばかりなんですぐに辞めるわけにもいきませんので」

「高橋のこと気にしてんだったら、オレから話すから心配しなくて良いよ」

ちょっと話が見え難かったのですが、委員長を高橋さんの事務所の社員だと思っていたようでした。
そんな話をしているところに高橋さんが異常に腰を低くしてやってきました。

「いやー、休憩も取らずぶっ通しで頑張ってくれたからさ、メシでも食わせてやらなきゃ悪いと思ってさ」

店長がそう言うと、やたら嬉しそうな高橋さんの腰はさらに低くなります。

「いやーそうですかそうですか。喜んでもらえてよかったあ」


「じゃ、また明日も頼むよ」

そう言って店長はさっと伝票を持って立ち上がりました。
すかさず高橋さんが店長の手から伝票をひったくります。

「これは私が」

店長は更に高橋さんの手から伝票を奪い取って

「いや、これはオレから彼への驕りだから」

そういってレジに早足で向かって行きました。
ここから高橋さんの態度が豹変しました。

「ロニーさん、だったっけ?今どちらで仕事されてるの?」

店長との会話の繰り返しのような質疑応答が終わり、委員長は高橋さんの車で東京まで送ってもらう事になりました。
途中渋谷で女の子を一人拾いました。
どうやら高橋音楽事務所の本業はエレクトーンとかピアノの演奏者派遣のようでした。
山手通りを過ぎた頃、委員長は代々木公園あたりで下ろしてくれるように頼みました。
またこんな夜中に年老いた母親の元へ帰るわけには行きません。
なんとなく事情を察したのか、高橋さんは一万円札を委員長に握らせてくれて「タクシー代、タクシー代、また頼むからね」と言って一緒に名刺をくれました。
お小遣いにしては大金です。
どうやらとっても気に入っていただけたようです。
委員長はこりゃ助かったってなもんで、貰った一万円を握り締めて新宿へと向かったのでした。





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最終更新日  2005年11月18日 07時02分34秒
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