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2005年11月19日
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「近○エージェンシーねぇ?」

「いや、実はボク今広告代理店で営業やってるんですよ」

「広告代理店?」

「ええ、彼女の紹介なんですけど、今までの事情やボクの学歴のことなんかも知った上で雇ってくれたんです」

「じゃこの近○エージェンシーってのは何だよ」

「それがね、未だにボクんトコにアチコチのディスコから仕事の話が来るんですよ。それでこっちはアルバイト的に手がけていこうかなと思いまして」

「せっかく就職したんならこの業界とは手を切った方が良いんじゃねぇのか」

「いや、最初はそのつもりだったんですよ。とにかく目一杯金稼いでジュリーを見返してやろうと思ってるんですけど、そのためには出来ることは何でもやって行こうかなと思って」



「当たり前ですよ、絶対にこのままじゃ許せませんからね。とにかくメチャクチャでかい金掴んでやりますよ。とにかく世の中は金脈と人脈ですから」

「おまえ、変わったな」

「何言ってんですか、ボクらみたいな無学歴な者が伸し上っていくには多少ヤバイ世界とも繋がっていかなきゃいけないって教えてくれたのはロニーじゃない」

アウトローごっこを気取っていた頃の自分がやたら恥ずかしい委員長でした。
ハメルンの笛吹きの話がまた頭の中に蘇ります。

「なあヒロシ、悪いことは言わないからその広告代理店の仕事に専念して、もうディスコの仕事は忘れろよ。それにディスコだっていつまで続く商売かわかんないんだし」

今更こんな説得をしたところで、委員長の言葉に耳を傾けるヒロシではありません。
それに、話を聞いているとどうやら成田の話で繋がった高橋さんがヒロシをうまく使おうとしているようでした。
まあ、歳の若い分だけ行動力があるヒロシですし、委員長が心配したところでどうにかできるものでもありません。所詮はヒロシ自身の人生です。
まして自分の人生すら何一つ満足にコントロールできない委員長に、いくら先輩だからと云って説教すること自体大きなお世話です。人の心配より自分の心配をしろってことですね。

赤坂シンデレラはリトに代わってユウジが入り、当面は終電に間に合うように12時で上がらせ、その後の閉店時間までは委員長が一人で残るというシフトで相変わらずのボヘミアン生活を続けていました。

就職したばかりで不安なのかなとも思いましたが、しかしなんて良いヤツなんだろうと、フーテン野郎に成り下がっていった委員長はリトの友情に感謝するばかりでした。
ところが、彼のこんな親切には実はとんでもないウラ事情があったのでした。

リトが千葉の君津へ3日間の出張に出かけることになり、3日間部屋を空けておくのも心配だしということで委員長が使わせてもらうことになりました。
いくら東京の夜が好きだからといっても、さすがにひと月もボヘミアンが続くと少しは体に堪えてきますから、このリトの申し出は委員長にとってしばらくぶりにゆっくりと寛げる時間を与えてくれることになり、あらためてリトの友情に感謝しました。
深夜大手を振って帰れるウチがあるということがどれだけシヤワセなことか、そして今までC子に頼りっぱなしで甘えているだけの暮らしをしていた自分がどれほどの果報者だったかということを身に沁みて感じた委員長でした。


寝ぼけた頭で出ようか出まいか思案していましたが、ひょっとするとリトからの電話だったらと思い、出ることにしました。
ところが受話器を取って一瞬空白があり、すぐにガチャリと切られてしまいました。
なんだ間違いかよ、と寝起きの悪い委員長はムカつきましたが、こちらから一言も発していないのに切るとは何だか妙な感じでした。
そのまま倒れこんで眠りに入ろうとするとまたも呼び鈴が鳴ります。
今度はすぐに取って「もしもし」と返事をしましたが、こちらの声を聞く前にプツッと切れます。なんだイタズラ電話かよ、勘弁してくれよって感じでしたが、それから間を空けずにガンガンかかってきます。
しかたなく受話器を布団に包んで寝ましたが、どうも中途半端なことになってしまい今度は寝付けなくなってしまいました。
そんなイライラした状態で布団の上をゴロゴロしていた委員長でしたが、さんざん鳴りっぱなしだった電話もしばらくするとあきらめたのか止みました。
こうなっては部屋に居てもボーっとしてるだけでもったいないので、少し早めではありましたがそのまま仕度をして仕事に向かいました。

さてその日は少々寝不足で仕事を終え、今日こそは思いっきり寝てやるぞってなもんで勢い込んでアパートに帰ってドアを開けると、委員長の足元に一枚の便箋が落ちていました。所謂コクヨの縦書き便箋が二つ折りになってそこに置いてあったのです。
拾い上げて便箋を開くとそこには毛筆で「女をばかにするな」の一言が。
一気に血の気が引いて背筋がぞっとしました。
その字体がなんとも言えず怨念のようなものを発散しているようで、もの凄く気味が悪くなりました。

リーン!

タイミングよく鳴り出した電話のベルにドキっとしましたが、まさかこんな夜中にリトから電話があるわけありませんから、これはきっと昼間のイタズラ電話だと思い、受話器をガバッと取って「誰だテメェ!ふざけんなよこの野郎!」と怒鳴りつけてやりました。

受話器の向こう側、電話は切れずに繋がっています。
数秒の沈黙のあと女性の声が耳に飛び込んできました。

「あ、あのぉ、リトさん居ますか?」

「えっ?あ、あの、ちょっと、イタズラ電話かと思ったもんで、すいませんでした」

思いがけない事態にムチャクチャ緊張してしまった委員長。

「あの、リトは今日は出張で、あの、あさってにならないと帰ってこないんですけど」

「あ、そうなんですか。じゃまた電話します」

名前を聞く間もなく一方的にガチャっと切られてしまいました。
そりゃそうだよな、いきなりこの野郎とか言われたらびっくりするよな。
ってそんな感じでした。
しかし、リト君もさすがに根性の入った道楽者のスケベ野郎です。
一体何人の彼女がいるのでしょうか。
そしてこの置手紙もきっと彼の女遊びのツケが回ってきているのでしょう。

その時ようやくリトが委員長を部屋に泊まらせたがる理由がわかったのです。
きっとこんな嫌がらせは一度や二度ではなく頻繁に起こっていて、そこはそれでやはり外国人ですから多少なりとも身の危険をも感じていたのでしょう。
正直言って「しょうがねぇなぁ~」って感じでしたね。
ただ委員長はこれで少々安心したと云うか、この時代がかった毛筆文書がオカルト系の出来事でないことがわかっただけでもほっとしました。
まさか呪いの手紙でもあるまいし、これが単なる痴情のもつれから来る嫌がらせだとわかれば、あとはどのみち修羅場がやってくるだろうから、その時リトの味方について解決してやれば良いことだと思いました。
そして、委員長がピンときたのは、やはり今の電話の女性でした。
あまりにもタイミングが良すぎたことと、いきなり委員長にあんな脅し文句を怒鳴られて電話を切らずに居たところをみると容疑者としてはかなり有力です。
当時はもちろん携帯電話なんてありませんから、これはきっと複数の人間の犯行だと直感しました。さあ、探偵ゴッコの始まりです。(ヤッターッ、久々の道楽だぁ)
案の定、翌日も翌々日も何事も起きず、そして被害者のリト君が出張から戻ってきました。





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最終更新日  2005年11月19日 06時52分36秒
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