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2006年09月08日
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タイトルは「嘘つきアーニャの真赤な真実」、著者は米原万理さんです。
米原さんは1950年東京生まれ。
ロシア語会議通訳、エッセイストとして最近話題になっている女性です。
1960年から64年までプラハ・ソビエト学校で学び、2002年にこの本で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞しました。
そしてこの本は、著者が過ごしたプラハ・ソビエト学校での体験を綴った自伝的なお話です。なんせ時代が時代ですから、人類の究極の理想を追い求めた共産主義者、社会主義者の親達によって連れてこられたチェコスロバキアで、席を同じくした同盟国の子女たちとの生活、回想から、その後の友人達との再会など、時代背景に描かれる世界情勢の渦の中で育まれた世界観は、私のように民主主義国家の資本主義体制下で適当に飼いならされて育ったものにとっては相当な刺激となりました。

いや~とにかく面白かったです。著者のユーモアのセンスも、社会主義体制の中で葛藤する思春期の感性も素晴らしく斬新に見えました。
著者の語る「シモネッタ」はマサに秀逸です。
特に私が衝撃を受けた(ってちょっとオーバーですか)部分を抜粋しますね。

(以下本文より抜粋掲載)

「あの頃は、世の中のことすべて白か黒かで割り切っていた。今では、白か黒かなんてあり得ない。現実は灰色をしているものだって学んだけれど」

素直に頷けなかった。そのような一般論に逃げ込んでアーニャが自己を合理化していくのが嫌だった。

「アーニャはソビエト学校でも愛国の強さでは右に出る者いなかったでしょう。あれも、白黒の世界だったの?国籍を変える時は、辛くなかったの?」

「マリ、国境なんて二十一世紀には無くなるのよ。私の中で、ルーマニアはもう10パーセントも占めてないの。自分は、90パーセント以上イギリス人だと思っている」

さらりとアーニャは言ってのけた。ショックのあまり、私は言葉を失った。ブカレストで出逢った、瓦礫の中でゴミを漁る親子を思い出した。虚ろな目をした人々の姿が寄せては返す波のように浮かんでくる。

「本気でそんなことを言っているの?ルーマニアの人々が幸福ならば、今のあなたの言葉を軽く聞き流すことができる。でも、ルーマニアの人々が不幸のどん底にいるときに、そういう心境になれるあなたが理解できない。あなたが若い頃あの国で最高の教育を受けられて外国へ出ることができたのは、あの国の人々の作りあげた富や成果を特権的に利用できたおかげでしょう。それに心が痛まないの?」

次々とそんな想いが頭の中を駆けめぐるのだが、口ごもってしまって、言葉にならない。
アーニャは、顔を上気させて滔々とまくし立てる。

「そうよ、マリ。民族とか言語なんて、下らないこと。人間の本質にとっては、大したものじゃないの。今わたしは英語でしゃべり、マリはロシア語でしゃべっているというのに、お互いにほぼ100パーセント分かり合っているでしょう」

「類的存在としての人類ってわけね」

精一杯皮肉を込めて言い返したつもりだが、アーニャは、さらに高揚した口調で続けた。

「人類は、そのうち、たった一つの文明語でコミュニケートするようになるはずよ」

「アーニャ、私たちの会話が成立しているのは、お互い英語とロシア語を程度の差はあれ、身に付けているからよ。あなたがルーマニア語でしゃべり、私が日本語でしゃべったら、意思疎通はできないはず。だいたい抽象的な人類の一員なんて、この世にひとりも存在しないのよ。誰もが、地球上の具体的な場所で、具体的な時間に、何らかの民族に属する親たちから生まれ、具体的な文化や気候条件のもとで、何らかの言語を母語として育つ。どの人にも、まるで大海の一滴の水のように、母なる文化と言語が息づいている。母国の歴史が背後霊のように絡みついている。それから完全に自由になることは不可能よ。そんな人、紙っぺらみたいにペラペラで面白くもない」

「・・・・・・・・・・・・」

(以上本文より抜粋掲載)
このあとしばらくのやり取りがあってこの章は終わります。

え~、くだらないノーガキはコキませんが、道楽親爺はこの著者マリさんの言った、抽象的な人類の一員なんて誰一人いない、という言葉にもの凄いインパクトを受けました。
抜粋部分がちょっと硬めの文章なので誤解されると困りますが、本の内容はもっと気楽に読める楽しいお話です。ただ時代背景や、社会主義国での出来事なので、時折こうした硬めのエピソードが織り込まれています。
まあ、平和ボケした私らニッポン人には、せめてこの程度の知識というか情報だけでも得ておいた方が良いかなと思いました。
大変ありきたりな結びですが、どんなところで暮らそうが人間は悩み続け、考えながら生きているんですよね。あたりまえなことなんですけど、なんか実感の湧く一冊でした。





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最終更新日  2006年09月08日 15時07分47秒
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