PR
カテゴリ
コメント新着
トンネル抜ければ~

海が見えるから~

そのままドン突きの~ 三笠公園で~
三笠公園にはたどり着けなかった。
汐入駅からドブ板に抜けたら、そこはおしゃれな街だった。
せせこましい道幅だけが、かろうじて昔の面影を残しているだけで、30数年前のあの胡散臭さはどこにもない。
せめて昔ながらの店の一軒でもあったらと、通りを進んで行くと、
涙が出るほど懐かしかった。
昔はこんな店があちこちにあって、兵隊さんがオンリーさんと並んで微笑む額縁入りの似顔絵が飾ってあった。
隣には刺繍屋が一軒、この店と同じくぽつんと、そして細々と生きていた。
嬉しくなって通りを更に進むと、
ダサいスカジャン着て~、おまえ待ってるから~。
昔のまんま、そのまんま。
約30年前にここで買ったスカジャン。
どうしてもこのスカジャンを着せたい奴が居た。
店に入ると耳の遠いオヤジが出てきて愛想笑いをした。
その笑顔がそのまんまオレの青春とかぶった。
「オレ30年前にここでスカジャン買ったんだよね」
「ああそう」
「値段も倍になったんだね」
「この刺繍は全部手仕事だから」
「妹と弟に買ってってやりたかったんだけど、これじゃちょっと無理だね」
「大きさは、どのくらい?」
「そうだね、オレより一回りくらい大きいかなぁ」
「大きいのはねぇ、やっぱり高いんだよ」
「いや、良いよ高くても。ひとつもらうから」
「デザインは?」
「そうだなぁ~、やっぱ、虎かなぁ、これから戦わなくちゃならないから」
「えっ?」
「30年前にね、ここに居た奴でね、海自で船に乗ってたんだよ。オレより二つ下なんだけどね、ちょっと患っちゃっててさ・・・・・、たぶんオレより先に行きそうなんだ」
「じゃ、端数は負けときましょう」
「ありがとう。これも想い出になるよ」

オレの話を聞けぇ~、5分だけでも良い
三笠公園で、ダサいスカジャン着て会う約束はとうとう果たせなかったけど、30年前の店で虎のスカジャンを買ったオレは、横須賀から終点の久里浜まで出た。
ここも昔の面影はほとんど残っちゃいなかったけど、少しだけ潮の香りがして、古い創りの駅が心もち優しかった。
横須賀・・・・・次に来るときは奴の歩いた道を、今度はゆっくりとなぞってみたいと思った。
完