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笑顔で退院していったあきらちゃん。その日から1年も経たない夏の夜、あきらちゃんは病院に戻ってきてしまいました。あきらちゃんは小学6年生、花はナース3年生になっていました。
あきらちゃんは、おうちの中で転び、足の骨を折って運ばれてきました。癌が再発し、骨にまで転移しており、骨が脆くなっていたため、転んだだけで骨が折れてしまったのです。
再び、長い入院生活が始まりました。あきらちゃんの病気は、もともと治りにくく、再発をしてしまったら・・・すでに、その時、あきらちゃんはもう助からないであろうことはわかっていました。ご両親には、余命1年と宣告され、治すための治療ではなく、症状の進行を遅らせ苦痛を緩和するための治療をしていくことが告げられました。残された時間を、楽しく過ごしていこうと、みんなで決めました。
あきらちゃんには、前の病気がまた悪くなってしまったので、1年くらいの入院が必要であることが話されました。あきらちゃんは、ぽろぽろ涙を流していました。
けれど、あきらちゃんは、やっぱりつらい治療にじっと耐え、しんどい時期を乗り越えると笑っていました。骨折し、不自由な体になっても、あきらちゃんは笑顔を忘れませんでした。花に、また、いろいろなものを作っては、プレゼントしてくれました。花の大好きなのび太君の缶バッヂも作ってくれ、お兄ちゃんがゲームセンターで取ってきたドラえもんのぬいぐるみなんかもプレゼントしてくれました。
あきらちゃんは、あるボランティア団体に、ディズニーランドに連れて行ってもらうことができました。医師も同伴でした。その日、勤務を終えた花は、同僚達と車でディズニーランドへ向かい、「あれ?偶然ですね。」なんて言いながら、一緒に楽しいときを過ごさせてもらいました。
それからのあきらちゃんは、調子がよいときには、車椅子で家族と一緒に大好きなディズニーランドに遊びに行けるようになりました。車椅子で、乗れるアトラクションは少ないものの、パレードや花火を楽しみ、たくさんのお土産と写真を持って、病院に帰ってきました。最高の笑顔で、花にお土産話をしてくれました。 「また行こうね。」花は、いつも言っていました。
けれど、あきらちゃんの病気は、どんどん進行して行きました。食事が摂れず、やせ細り、せっかくきれいに生えてきた髪の毛も殆ど抜け落ち、もともと顔の奥にあった癌に押されて、お目めが少しずつ飛び出してきました。骨は、両足と片腕まで折れてしまい、もうディズニーランドに行けるようには思えませんでした。
花は、あきらちゃんが、確実に死に近づいていることを実感し、あきらちゃんがいないかもしれない明日を想像すると、怖くてたまりませんでした。 でも、あきらちゃんは笑っていました。飛び出てきたお目めをガーゼで覆い、流れるディズニーのビデオの音だけをただ聴いていました。いつかまた、ディズニーランドに行けることを信じているかのようでした。
あきらちゃんの容態は急激に悪化しました。その日、夜勤だった花は、一晩中あきらちゃんのそばにいました。肺に水がたまり呼吸の苦しいあきらちゃん。どれだけ酸素を流しても、あきらちゃんは肩で息をし、「苦しい、苦しい。」と言い続けました。苦しくて、一睡もできずに、長い夜が明けました。花は、何もできず、ただそばにいました。どんなにつらい治療にもじっと耐えていたあきらちゃんが、苦しみを懸命に訴えていました。初めて見る姿でした。あきらちゃんは必死でした。
明け方になると、さすがに疲れてしまったのか、あきらちゃんは浅い眠りにつきました。夜勤明けの花は、一旦お家に戻りました。しかし、休む間もなく、病院から電話が入りました。あきらちゃんは、やっぱり苦しくて、あまり眠れていなかったので、鎮静剤を使って眠らせてあげることになったのです。一度深い眠りについたら、二度と起きることはない・・・。日勤の先輩ナースが「あきらちゃんが花を呼んでいるから。」と、病院に呼び戻してくれました。
花は再び病院に戻り、あきらちゃんのお部屋に行きました。あきらちゃんは、夜よりもいっそう苦しそうに呼吸をしていました。
「苦しい。花ちゃん、助けて・・・。」花の姿は、もうあきらちゃんの目には映っていなかったと思います。それでもあきらちゃんは、必死に花に訴えていたのです。
「苦しいね。あきらちゃん、頑張れ・・・。」頑張っているあきらちゃんに、花はそんな言葉しかかけてあげられませんでした。
そしてあきらちゃんは、家族の到着を待って、深い深い眠りにつきました。あきらちゃんは、中学1年生。花は、ナース4年生になっていました。ちょうど、ご両親に余命1年と宣告されたときから、1年が過ぎていました。最初の入院、あきらちゃんと花の出会いから3年の、長くて短いお付き合いでした。
あきらちゃんが亡くなって、花はいっぱいいっぱい泣きました。ナースとしての後悔ではなく、人としての永遠のお別れが、淋しくてしかたがなかったのです。あきらちゃんのいない、真っ暗なお部屋の前を通るたびに、せつなくなりました。あきらちゃんのいない、あきらちゃんの笑顔のない病院に行くのが、花は嫌で嫌でたまりませんでした。
花は、その年、病院を辞めました。
花のお部屋には、あきらちゃんコーナーがあります。あきらちゃんの死後、おうちの方とも全く連絡をとっていなかったので、自分のお部屋にあきらちゃんコーナーをつくって、お誕生日と命日には、あきらちゃんの好きだったディズニーグッズをプレゼントしています。 あきらちゃんが、花にくれたプレゼントには、どれもかなわないけどね。
「あきらちゃん、花と仲良くしてくれてありがとー。ずっとずっと大好きよ」
それではみなさん、そしてあきらちゃん、あろはー
☆ 花 ☆
「あきらちゃんが花にくれたプレゼント(一部)」

Mちゃんを偲んで・・・ 2006.09.17 コメント(7)
お通夜、告別式を終えて。 2006.07.21 コメント(10)