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October 9, 2009

ばか、（その２）

カテゴリ：天国へのお手紙

女の子はその服を着ていられなくなって
脱ぐにちがいない

・・・

でも、その子は脱ぐことも
背中になんと書込まれたのかも
見ることもせず
ずっとそのままだった

授業中も、休み時間も、給食の時間も

そのことが先生に見られて
叱られることを恐れた

僕はその子の背中に書込んだ“ばか”の文字を
消しゴムで消すことを始めた
服は着たままの状態で
背中から直接消しゴムをかけた

赤鉛筆で書込んだノートの文字ですら消せないのに
カーディガンに書込んだ文字が消えるわけがない

女の子が持っていた砂消しをつかった

わずかに文字が薄くなった

このままなんとかごまかして

自分が犯した過ちにやっと気付いたと言うより
先生にバレて叱られることを時間の問題のように
焦って不安になっていたんだ

放課後

その子とふたりだけになった教室で

モミ洗いのようにして消しゴムをかけた

消せずにこのまま帰ってしまって
女の子の母親なり父親にばれてしまうと
きっと先生にも分ってしまう

ことここに至っても
自分が叱られることばかりを考える

無責任で自分本位の卑怯者

謝罪のためではなく
自分のために一生懸命になって
背中の文字を消そうとしている

・・・

ふと
女の子の片まで伸びた髪の毛をみた

洗ってもいないようなパサパサの臭くて汚い髪

そう思っていたが
近くからちゃんと見てみたら
意外にサラサラした感じだった

うなじ部分の髪にふれてみた
やはりサラサラしていて
よっぽど僕の髪の方がゴワゴワだった
髪をさわった指を嗅いでみても
臭くはなく清潔な石鹸のような臭いがした

僕は
声を絞り出すように小さな声で言った

「ごめんね」

やっとの思いで絞り出した言葉だったけど
このたった一言の言葉が出たら
なんの努力も絞り出すこともなく
目から涙がこぼれた

それからはなんどもなんども
「ごめんね」と謝った

その度に女の子は首をたてにうなずいたけど
言葉は一切なかった

僕は“ばか”と書いた服を脱がせて
流し場へ行った
服は濡れてしまうけど
ここならば手洗い用の石鹸がある

石鹸で洗うとかなり赤鉛筆の文字は薄くなった
あとは少しでも乾かさなければ
僕の持てる力で精一杯服を絞ったところで
女の子は言った

「もう、帰らなきゃ」

そうか、この子は遠い所まで歩いて帰るんだった

「帰るうちに乾くから」

そう言って絞っただけの濡れたカーディガンを着て
帰り始めた

僕は焼却炉のそばの階段まで見送った

そこでまたひとこと「ほんとうにごめんね」
と声をかけた
女の子は首をうなずかせそのまま何も言わずに
階段の先の登り道を帰って行った

翌日から僕はその子をいじめることも
その子を嫌がることもやめた

でも
まわりのみんなは相変わらずにいじめていた
きっとまわりからは僕はいじめをやめたんじゃなくて
無視しているだけと見えたことだろう

自分から始めたことなのに
いじめをやめさせる勇気がなかった

班長なんだから一言いえば
少なくとも班の中でのいじめはなくなるのに

僕は意気地がなく卑怯で自己中心で

“ばか”だった

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