納豆のぬめりだけでいいんだよ
敗戦後のことだった
何年後かははっきり覚えていない
食べ物は乏しく
庶民はやっとの思いで命を繋いでいた
それでも雑炊や水団から辛うじて脱けだし
やっとお米のご飯を食べられるようになっていた
それももしかして闇で手に入れた
お米だったのかもしれない
四畳半の真ん中に置かれた丸いちゃぶだい
その上にお茶碗が三つ
ご飯が盛られている
納豆の入った小鉢が二つ
ご飯のそばにある
それだけだった
でも納豆の入った小鉢は二つだけ
妹と私の分だけ
母の分は無かった
「お母さんの納豆は?」
「母さんはね、納豆のぬめりだけでいいんだよ。」
「そんなんじゃだめ。栄養にならないから。」
妹と私は代わる代わる一鉢の納豆を母の方へ 突き出した
その度に納豆は母の太い腕で突き返された
「お前たちは育ち盛りなんだから食べなくてはだめ。
母さんはいくらだって蓄えがあるんだから。」
何回かちゃぶだいを納豆が行ったり来たりしたが
とうとう親心が勝って私たちは納豆を食べる羽目になった
するすると納豆が喉を通っていくとき
涙に濡れたしょっぱい味がした
でもそれは一級品の味だった
今でも納豆の糸をうまく絡めて
美味しそうにご飯を食べる母の姿が目に浮かぶ
子のためには自分を犠牲にすることを
決して厭わない母だった
(by ドレミ・どれみ)
-澪48号掲載ー
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