その誰もいない店内で待ち合わせていた宿のスタッフが、
見知らぬ男と笑顔で酒を酌み交わしていた。
「あれ〜」
「なにしてんの、ここで」
「それはコッチのセリフでしょうが」
赤ら顔の彼は談笑を止め、突然現れたわたしたちに驚いていた。
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「待ってたんだぜ?」
「え?」
「待ち合わせしたジャン」
みなで矢継ぎ早に詰め寄る。
「あ」
「あ? って?」
「忘れてた…」
アジアン・スタイルという読みはあながちハズレじゃなかった。
「夕方に友達(チング)が尋ねてきてさ、『ご飯行こう』ってことになって、
それでここへ来たんだ」
「おーい、おれたちはキッチンで待ってたんだよ〜〜」
「ごめ〜ん」
「でもなんでここへ?」
「わからない、記憶の片隅に『焼肉行こう』っていうのがあったのかも。
ごめん、ホント、突然、友達が来て、忘れてしまったんだ。ゆるして〜〜」
「もういいよ〜。こうやって食卓囲んでいるから」
これ以上、怒っても文句をいってもしょうがない。
これが「アジアン・スタイル」なのだから。
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「で、彼がチング?」
「そう。白(ペク)さん。釜山の友達なんだ。
就職活動でソウルで面接があったんで、ホステルに立ち寄ったんだよ」
テーブルの向こうのネクタイ姿の彼を紹介してくれた。
「ホステルに泊まるために?」
「違う違う。久しぶりだから、ソウルに来たついでに会いに来てくれたんだ」
「へえ、旧友再会か。じゃあ、彼に免じて許してあげるよ」
「ごめんよお〜〜。ゆるしてくれよお〜〜」
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英語とハングル、日本語がゴチャゴチャになった会話で、友達はポカンとしていた。
彼が事細かに説明すると、ペクさんまでもが「お前が悪い」といい出し、
テーブルは一気に和んだ。
「腹減って死にそうだあ」
「ごめんよお〜〜。ビールも焼酎もあるからさあ」
貸し切り状態の店内に笑い声が響く。
釜山の友達も交え、彼を酒の肴にしながら、焼肉をつついた。
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