ご隠居さん知恵を借りようと思ってね
私はそんな知者ではないが何だな
私の友達の建具屋の半公を知っていましょう
あぁ建具屋の半次郎さん
えぇあいつは二言目にはつまらねぇ、つまらねぇって言うのが癖なんです。
聞いていて嫌な気分になるから、やめろって言ったんだ
そうしたら俺はいいけどお前にだって癖があるという
私は酒飲みでしょ
二言目には一杯飲めるって言うのが私の癖なんです。
・
お互いに評判の良くないからやめようじゃないかと
普通ではやまないから手拍子三つピタリとやめたんだ
新たにやったものは百円ずつの罰金と決めて来たんです。
あいつは落ち着いていてなかなか言いそうになんです。
先に取られるのは癪に障るんだ。
奴につまらないって言わせる工夫は御座いますかね
ほぉお、なかなか面白い事を言ってきたな
成程、ちょっといいことがある
その恰好では具合が悪い
汚いと言っては失礼だが仕事袢纏(はんてん)を裏返して手にちょっと糠を付けていく
これが道具だから忘れないように
それで向こうの半さんの家に慌ただしく行く
・
お前に話すのは初めてだが田舎に親類がある
そこから大根を百本ばかり送ってきた
これを漬け込んでしまおうと思うんだがあいにく一斗樽が無い醤油樽ばかりだ
百本って言っても細い大根でもかさがある
醤油樽なんてわずかなものだ、どう考えたってこれはつまらない
上手い事考えましたね
醤油樽に漬け込む、これはつまろうか?これはつまらない
誰だって言いますよ
どうも、ありがとうございます。
百円とれますので甘味は買ってきますのでお茶のご用意をお願いいたします。
宇治だけは私の方で用意いたしましょう
それではしっかりやっておいで
当人は大喜び。恰好はご隠居さんの言った通りにし、
手の先だけでは物足りないだろうと思い頭から糠を浴びてしまいました
おい居るか?
誰だ?
なんだ勝さんじゃないか
お前に話すの初めてなんだが田舎に親類がいる
へぇ永の付き合いだが田舎に親類がいるのは初めて聞いたよ
そうなんだよ、俺も初めて聞いた、、、って何か言うんじゃないよ
ここはトントンっていく所なんだからな
そこから大根を百本送ってよこしてきた
おぉしめたな
俺の所に半分くれ
黙って聞いてくれ
漬けようと思うんだがあいにく一斗樽がねぇ
醤油樽しかないんだが百本の大根がつまろうかな
何を言っているんだ。
考えてごらんよ
細い大根が百本って言ったらかさがある
醤油樽なんてわずかばかり、どう考えたって百本の大根はつ
・
・
・
この野郎上手く考えて来たな
どうだ?
つまろうか?
駄目だ
駄目だじゃ、、、
駄目なんだが、、、
つまろうか?
余るよ
余らないように上手く詰めるんだ
箍(たが)がはじけちゃう
百本だよ・・・
泣き面するな、ご苦労さん
お茶でも入れよう遊んでいきな
あ、お密や下駄を出してくれ
どっかに行くのか?
なに横町のうなぎ屋の開業式よ
伊勢六の若段に誘われてな
これから行ってくる
しめた一杯飲めるな
ありがとう
え?
飲めるって
あぁわわわ
もう言っちゃったよ
今のは五十円にまけてくれ
しみったれな事を言うな
約束だからな
下駄出さなくっても良いよ、行かないから
うなぎ屋で一杯・・・
嘘だよ
嘘?
ひどいよぉ今のは
大根が
もう駄目だよ
出直しておいで
さようなら
どこで間違えたんだ?
・
・
ただいま
おぉ早かったな
お茶の支度が出来ております
駄目なんだよ
お茶はいけないんです
トントントンって言ったんです
どうだつまろうか?って言ったら向こうがグズグズ言って
どう考えても百本の大根はつ・・・・って言ったきり後が出てこないんです。
駄目だって、余るって、うんと詰めたら箍がはじけるって、強情な野郎ですよ
それでどっかに行こうとしてますから、聞いたら若旦那と一緒にうなぎ屋に行くってもんだからしめた一杯飲めるって、、とられちゃった
とられたのを取り返したいんだ。
もう一つ考えて頂きたい
私も味方、身びいき
お前さんがとられてしまうとわしも残念だ
もう一つもしやと思って考えてはあるんだが
半さんは将棋は好きか?
将棋は三度の飯よりすきだ
それは好都合だ
お前さんは、、、
そうかまるっきり知らないでは困るがそれぐらい知っていれば大丈夫
・
将棋を指すのではない、詰め将棋だ
向こうに行くと悟られるから、半さんが来るのを待ちなさい
玄関に盤を置いて、並び方は私が教えてあげます。
手には金銀と歩三枚だ。他の駒を持っちゃいけないよ
二、三度声をかけられても黙っている
これは夢中になっている様子を相手に見せる
何をしているんだと聞くでしょう
王を都詰めにする詰め将棋、
雑誌の懸賞金に出ていたって言うと本当だと思うでしょう
お前に分かるはずがない貸なって必ず言うでしょう
向こうに盤と駒を貸して、暫くたってからつまろうか?って聞きなさい
本当は詰まないと言うが、口癖でつまらないと言うでしょう
好きなものには心奪われる
しっかりやっておいで
ありがとうございます。
今度は大丈夫でございます。
それと将棋盤を貸してください。
駒をなくさないようにな
並び方を教えてあげましょう
遅いな、まだ来ない
いつも来るんだけど何をしてるんだ?
おう勝さんいるか?
風呂に一緒に行こう
二、三度は聞こえないふり
なんか言ってるなぁ
居るんだろ?開けるぞ
・
表で怒鳴ってみっともねぇじゃねぇか
なんだ、盤に向かって珍しいな
詰め将棋か面白いな
何かに出ていたのか?
これはね雑誌に出ていた懸賞金付きなんだ
どこに駒を打つの
あぁ駄目だよそんな所は
お前には一生考えても分からないよ
ちょっと貸しなよ
・
あぁっと、そうだなぁ
つまろうかね
まだ考えてもいないんだよ
馬鹿だな
・
・
えっとここに打つとこう逃げて
・
どうだ、ここに金が効いている
・
こう打つと
つまろうかね?
えっとここにこう打つと
・
・
・
つまろうか?
うぅ〜〜ん
唸ってる
もう一息だな
つまろうかね?
これは駄目だ
俺にはつまらねぇ
言いやがった!!
飛びかかって来やがった
待ってくれ、俺が一生懸命考えていたら・・・
上手い!これは駒が取れない
へぇよほど将棋の上手い人が考えたんだな
お前の考えじゃないな、誰の考えにしろ敵ながらあっぱれだ
金銀歩三枚で王を都詰めとはなぁ
おい百円、百円くれよ
逃げも隠れもしないよ
良く出来てるなぁ
決めは百円だな
百円だ
あんまりにも出来がいい
二百円やろうかな
二百円!
ありがたい一杯飲める
おっと、差し引いとくよ
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