わずかな銭でトントンと値が出てきやがった
大儲けしちゃったぜ
だらか博打って止められないなぁ
・
こう懐が温かくなってみるとこれも、下らなく使ったらつまらないな
そうだ、俺の所にも友達が来るけど殺風景でいけないな
良い茶箪笥や箪笥が在ると引き立つものだ
台所もそうだよ良い米櫃やへっついの良いのが在ると引き立つけどな
そうだ、俺の所のへっついは馬鹿に悪いや
あそこでへっついを買って帰るかな
ごめんよ
へい、いらっしゃいまし
へっついを一つ欲しいんだけどな
どうぞご覧くださいまし
そこにあるへっついはいくらだ?
それはどうも、いい出来で御座いまして二両二分で御座います
値も良いんだな
そっちのほうは?
こちらはちょっとお安くなりまして二分二朱
でもちょっと出来が悪すぎるな
おい、そっちに良いへっついが在るじゃないか
これはあつらえだろうな
あぁこれはいけません
なんだい?
買い手が決まっているのか?
そうじゃないんですよ
このへっついばかりはお願いできないんですよ
売らないわけではないんですけどね
これだけのいい出来ですからすぐ買い手が付くのですが二〜三日すると戻させる
こっちも半値で引き取って店に並べておくとまた買い手がつくけどまた戻される
どうも変な噂が立ちましてね
あのへっついには幽霊でるとかなんとか
こっちも気味が悪いのでね壊してしまおうと思っておりまして
そうか
でも気に入ったな
値と相談して貰おうじゃないか
いやぁ、また返されたら困りますので
返しっこないよ
変なへっついなら壊していいなら俺が壊すよ
そうですか
それほどご執心ならただで差し上げますよ
お宅に持ち込みましょう
その代りにお返しになったら困りますからね
タダでくれるのか!
いやぁ返しっこないよ
これはすまないなぁ
お宅は・・・へい、畏まりました。
早速お届けに参りますので
断っておきますけどね、しょっちゅう返される品物ですから
ろくな品物では御座いませんよ
心配するなよ
承知しているよ
ご苦労さん、すまないな
この所に置いてくれよ
あと今使っているへっついは要らないから引き取ってくれ
じゃこれはほんのわずかだけど運び賃だ持ってってくれ
どうもご苦労さん
・
・
これで台所は立派になった
良いへっついだ
・
博打をやれば儲かるし、へっついを買いに行けばタダでくれるし
これで箪笥を買えばお金を付けてくれたりしてな
どうも畳もいけないから明日は畳を入れ替えようか
風呂に入ってくるか
風呂から出ますとお酒を飲み、行灯の下でごろりと横になりました
だけどなんだな
あぁやってへっついをタダでくれるんだからなんか在るんだろうな
幽霊が出るとか何とか言ってたな
へっついに幽霊って・・・
・
・
ぁあなんか嫌な心地だな
・
・
おや?台所がぽぉっと明るくなってきた
なんだ
・
おい出やがった幽霊だ
なるほど出るんだな
恨めしぃ
何?
恨めしぃ
何を言ってやがるんだ
俺はお前に恨みを買った覚えはないぞ!
・・・・ごもっともです
いや、別にあなたに恨みが在って恨めしぃって言った訳ではないんです。
これは幽霊の枕詞でして
お気に障ったらご勘弁してください
なんだよ
愛嬌のある幽霊だな
何だって出てきた
親方、あなたは気丈夫ですな
度胸がありますね
どうして?
私はね
こうやって幽霊になって出ますけど大概の人は
青い火を見ただけでびっくりして腰を抜かしたりするんですよ
私の姿を見た人なんか気を抜かしてしまいます
言いたいことが在るので出てきてるのですがねぇ話をすることが出来ない
親方は私の姿を見ても驚かない
何言ってやがるんだ
まぁ話せば長いのですが
実は私は元左官屋をしておりまして名前を半次と言います
私は三度の飯より博打が大好きなんですよ
おぉそうかい
俺も博打が大好きなんだ
親方、おやめなさい
博打で大豪邸なんか築けませんよ
幽霊に小言なんかされる筋合いはないよ
それでなんだ?
私はね、しょっちゅう土場に出入りしておりまして
家族をはじめ親戚中、みんなから愛想が付かされまして
相手をしてくれなくなりました。
・
わずかばかりの金で百三十両の金が手に入ったですよ
有頂天になってしまったのですが、わずかな銭で百三十両もとれるんだ
これは博打なんかやるもんじゃないなっと思いましてね
私は一人者でしまう所がありません
左官ですからへっついをこしらえまして、そのへっついに百両を塗り込んだんですよ
あとの三十両で飲み食いしてたんですよ
・
でも悪い事って出来ないもんですね
罰ですかね、往来の真ん中で頓死をしっちゃったんですよ
どこの者か分からないっと言うことで下らない所に埋められてしまいました
そうなってみると私も浮かぶこともできません
地獄の沙汰もなんていうけれども、あの百両が在ったらと思いまして
寺に納めて有り難いお経でもあれば私も浮かばれると思いまして
そのことを話そうとして出るのですが皆さん話を聞いてくれません
親方すみませんが、へっついに埋めた百両を出していただけませんか?
そうかぁ、百両の金に気を残りして幽霊として出るんだな
別に出してもいいけどな俺もタダで買った訳じゃないんだ
高い金を払ったんだから、そこの所を分かってほしいな
へへへへ、冗談を言っちゃいけませんよ
親方それタダ貰ったんじゃありませんか
知ってるのか?
知ってますよ
だけど貰えば俺の物じゃないか
壊そうが何をしようが俺のかってだ
どうだ、長い短いの言わない半分の五十両を俺にくれるか
五十両・・親方それはないでしょ
もう少し何とかなりませんか
何言ってるんだ
五十両じゃなかったら俺は壊さないよ
お前がどこに化け出ても俺みたいに話を聞いてくれる奴がいればいいんだけどな
いなければ目をまわされたり、気を失ったりする奴等ばかりでどうすることも出来ないぞ
え!どうだ?
そうですねぇ
親方の仰る通りで半分っこにしますので
よし、分かった
どこだ?
・
・
ここの隅っこの方か?
・
暗くってわからないなぁ
お前が出てくる時に出したあの火の玉で照らしてくれ
そうはいかないんですよ
あれは幽霊の規則で出るときにしか出したらいけないんですよ
何言ってるんだ
もう少しで出るからな
あぁそこです、金づちで強く殴って下さい
・
・
あぁ、出ました!
それです!!
なるほどお前の言う通りだ
出てきた
百両ある、これに気を残して出て来たんだな
えぇこれです
泣くなよ
じゃ約束だから五十両貰うぞ
あとはお前のだから持っていけ
これでねぇ百とまとまっていたらなぁ
五十両じゃ半端ですからな
いまさら何言ってるんだ約束しただろ
約束しましたけどねぇ
どうでしょう
運試しで勝負しませんか?
勝負?
気に入った勝負しようじゃないか
これでねもし私が買ったら親方
幽霊に負けるようじゃ運が無いんです
博打なんかやめてしまいなさい
それもそうだな幽霊に負けるようじゃなぁ
お前の言う通りに博打なんかやめようじゃないか
サイコロはいつだって持ってるんだ
懐かしいですな
親方、ちょっとサイコロを私に振らせてください
やってみな
恐れいります
・
・
丁とでました
・
・
今度は半ですね
・
・
よく目が変わりますね
おい、サイコロを転がすなら手を上に向けて転がせよ
そういう訳にはいかないんですよ
幽霊の決まり事でこの手を上に向けることが出来ないんです
じゃいいか
壺皿がないから湯飲み茶わんでやるぞ
さぁ入れてみるぜ
・
・
良いな?
・
どうだ?入るよ
・
・
さぁどっちに張る
私はね左官の半次って言うくらいですからね
半しか張らないんですよ
半と行きます
じゃ俺は丁だよ
いくら張る?
一両も張るか?
そんなちびちび張っていたんじゃだめですよ
私は明るくなったら帰らなくっちゃ行けないんです
早いところ勝負しないと
五十両全部張ります
五十両張るのか、よし気に入った!
お前は半だな、俺は丁だ
五十両だ、勝負になるからな
良いか?
・
・
勝負
・
・
気の毒だな
五三の丁と出た
はぁ
丁ですか
丁だと思った・・・
おい、幽霊ががっかりするなよ
すまないけどなこれは俺が貰うぞ
へぇ
親方、すまないけどもう一番勝負をお願いします
おい、それはよそうぜ
お前に金が無いのは分かってるんだよ
それは勝負できないだろ
いやぁ私も幽霊
決して足は出しませんよ
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