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安全地帯・玉置浩二の音楽を語るブログ、管理人のトバです。安全地帯・玉置浩二の音楽こそが至高!と信じ続けて四十年くらい経ちました。よくそんなに信じられるものだと、自分でも驚きです。

2023年07月29日

FIGHT OH!

玉置浩二ベストアルバム『 田園 KOJI TAMAKI BEST 』十曲目「FIGHT OH!」です。「 MR. LONELY 」カップリングのバラードです。

田園 」のカップリング曲「働こうよ」は収録されてませんし、その一方でシングルでもなんでもない「 CAFE JAPAN 」「 ROOTS 」「 花咲く土手に (New Recorded Version)」「 JUNK LAND 」が収録されているわけですから、これは本当にそのとき収録したい曲を選んだんじゃないかと思えてきます。

さて曲は『カリント工場の煙突の上に』の頃よく聴いたようなフィーリングのシンバルから始まり、ギターのアルペジオに併せてオーボエ的な音色をもつ管楽器が悲しげな旋律を奏でてはじまります。丸いけども腹にズシーンと来るベースが全体のムードを引き締めます。

「FIGHT…...OH......」と玉置さんが吐露します。なんだよ吐露って、激励とか発破とかそういうのじゃないのかファイトなんだから、と思わなくもないんですが、ホントに吐露としか言いようのない、覇気のない「ファイト」なんです。なんなら「OH」はできるなら避けたいけども仕方ないなと諦念の境地に達しています。いったい何があったんだと思わせる「ファイト」なんです。伴奏はなにやら単音の鍵盤に、ギターのアルペジオを重ねています。そしてポクポクとパーカッション……いやこれギターのボディー叩いたんじゃないですかってくらい簡素でささやかな打楽器音です。シンプル極まりません。

「ひさしぶりに」いやだけど仕方ないから喧嘩でもしなくちゃならないって感じですね、そのままに歌詞を読んだら。でも、そんなふつうの「ファイト」なわけはありませんから、たぶん自分からは手を出さないで殴られるんでしょう。もちろん殴られると痛いですからイヤなんですけど、仕方ないから殴らせるんです。詳しい事情は分かりませんが、それが「あの娘」を守る方法なら喜んで殴られましょう、もちろんやっつけてもいいんですけど、そうすると恨みを買いますから殴られて話を終わりにすることで後難を防ぐことが彼女を守る唯一の方法ならば、もちろん殴られますとも!でもまあ……痛いしなあ……という心境なのでしょう。

ふたたびベース、テンションを高めるアコギのストロークが入り、決意を確かめるように「OH FIGHT! FIGHT OH!」と二回繰り返します。今日だけでいい、もう一度だけ、と転調しつつメロディーもどんどん変化させていきながら非日常モードへと自分を突入させていくのがわかります。「勇気を」「戦う」と最高潮の伸びやかさで歌い、その直後に「フーンフーン 男にして」と二拍子を入れて一気に曲をコード進行が不安定なものにします。ここで一気に「崩れた」感覚があるのですが、そのいっぽうで歌詞は女性のために体をはる男、ファイトする男に変貌するさまを描いているという一種の倒錯がこの絶望的な気持ちで臨戦(殴られるだけですが)態勢へと変わりゆく心情を絶妙に表現しているように思われます。

さて、ここで間奏というべきか……バンバンバンバンバン、と目立つリズムを打ちつつ調を元に戻しているんですが、緩衝材的に機能しつつ曲を通常モードに戻す前のひと悶着が表現されている箇所が挿入されます。これは殴られたのでしょう。「ボコボコにされたって」と、わたしが殴られに行ったという説をぶち上げる根拠となる箇所にさしかかります。逃げないよ、好きなんだ、だから逃げやしない……もちろん殴られるというのは、物理的に拳で打撃をくらうだけではないでしょう。仕事上の攻撃をくらうとか、政治的経済的に不利益を被るとか、殴られ方はいろいろあります。そのどれもがあの娘を守るためなら耐えてみせると覚悟しなければならないほど痛いものなのでしょう。それこそ、中学生が席替えのくじ引きで一番前の席になってしまったあの娘の身代わりを買って出る程度のホンワカしたものから、ビジネスマンが借金の取り立てに苦しむあの娘の連帯保証人になる死亡必至レベルのものまであります。これは、守られた側の「あの娘」はどうしているのかが気になるレベルの熱の入れようです。元気でいてくれれば幸せなんですよ。後ろの席で新しい友達とよろしくやってこっちのことは見向きもしなくなったって、また借金して結局夜逃げしちゃったって、どこかでよろしくやっていてくれれば(人によっては)耐えられるんです。その元気はわたしの苦痛と引き換えに生まれたものなのですから。

人間は結局利己的な動機でなければ他者のために動かないものだ的な人間理解をもつ人がこの世には無視できない割合でいます。哀れなことです。親が子どもに愛情を注ぐのは自分の老後の労働力として育てているのだ、教師が教え子に情熱をもって教育を行うのは社会の奴隷を育成して自分が優位であり続けるためだ、妻が夫にやさしくするのは夫をATMとして飼いならすためだ等々、それはもう自分が食われないためにそこまで人を疑うかってくらいの自己保身の情熱で燃え尽きて真っ黒な塊になってしまっているようなオリジナル信念の持ち主がいるわけです。これはたまにいるレベルでなく、90年代にはマンガやビデオで頻繁に描かれるくらいには一般的なものでした。そうじゃない、自己犠牲は結局は自分のためなんてそんなことあるもんか、誰でも自分が一番かわいいからいざとなれば他人を犠牲にして平気だなんてことがあるか、だってここに玉置さんがいるじゃないか、こんなにも、何も得られなくたってこんな名曲をサラッと作ってしまって、カップリングにしてへたすれば曲の存在を忘れてしまっているような人がいるじゃないですか(笑)。もっとテキトーな曲だってよかったんです。「MR.LONELY」さえあれば売り上げはそう変わらなかったことでしょう。その「MR.LONELY」だって自分はいいから君は頑張って元気でやってくれ的な歌じゃないですか。この玉置さんの人間理解、とことんまで人を愛する、そのためならとことん自分は犠牲にしてもいい、とことんまで惜しみなく与える、こういう生き方をする人が同じ時代にいるんだと感じながら生きられたことは、あのつらい90年代後半からしばらくの間、わたしにとって希望でしかなかったのです。

田園 KOJI TAMAKI BEST [ 玉置浩二 ]

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2023年07月22日

『田園 KOJI TAMAKI BEST』

玉置浩二ベストアルバム『田園 KOJI TAMAKI BEST』です。98年12月発売、ソニー時代のベスト曲という体裁ですがなぜか「ルーキー」も収録されているとか、シングル曲だけではない選曲でありつつ「カリント工場の煙突の上に」にはわざわざ「Single Version」と記載があるとか、なんだか意図のよくわからない収録曲になっています。ジャケット裏っていうんですかね、小麦畑の向こうに、ジャンクランドからCAFE JAPANへ跳んで行くLOVE SONG BLUEの玉置さんが組み合わされた図案になっています。JUNK LANDで人生に迷ってCAFE JAPANを訪ねてゆくんですかね……もっと未来志向を感じるデザインにすればいいのにと思わなくもありません。

さてこのベストアルバム、たんなるベストアルバムではありませんで、このアルバムでしか聴くことのできないものが含まれています。第一に、「FIGHT OH!」、いやそれヒットシングル「MR. LONELY」のカップリングだろ聴いたことあるに決まってるじゃねえかよとお思いになる向きもありましょうが、いえいえこの世の中にはめったにシングルを買わない層ってのがいるんですよ(あちき)。

【追記】わたくしこの「FIGHT OH!」が「田園」のカップリングだと思い込んでおりましたが、実は「MR.LONELY」のカップリングでした。訂正してお詫びいたします。

そして第二に「カリント工場の煙突の上に(Single Version)」、これもあちきのような層には初出です。第三に「花咲く土手に(New Recorded Version)」、これはわたしの知る限りほんとに初出です。三曲聴いたことのない音源が入っていれば「買い」でしょう。でしょうって言われたって一曲ずつデジタルで買うよって層はもちろんいるんだと思いますが、それはもう根本的にわたくし世代(の一部?)と考え方が違うのです。アルバム一枚2500−3000円、視聴コーナーもYouTUBEもないからどんな曲が入っているのかまるでわからない、えいっと思い切って買ってみる、だあー全部ハズレだ!ということが昔はよくあったのです。ですから、一曲感動できれば「当たり」であり「買い」だったんですよ。ハア?テレビとかラジオとか有線とかでかかっている曲でいい曲のシングル買えばいいじゃんって?いやいやいや、テレビとかラジオとか有線ってのは数を売るためのつまらない曲しかないし、それこそその程度のものはテレビとかラジオとか有線とかでかかったときだけ聴けばいいじゃないですか。どうせたいして感動しないし。とぼしい収入の中からそんなものに金を使う気なんてサラサラありませんでした。だからどんなにバクチでも、えいっとよくわからないアルバムを買うのです。その点このベストアルバムはいいですよ、聴いたことない音源で、感動可能性が高いものが三曲も入っています!現代だったら?あーそうですねえ……これまでの玉置ソロアルバムみんな持っているならその三曲だけデジタル音源で買うってこともあるかもわかりませんねえ。わかりません、だって買ったの98年でしたから。

さて、収録曲です。
1. 田園
2. CAFE JAPAN
3. ROOTS
4. 正義の味方
5. MR. LONELY
6. カリント工場の煙突の上に
7. 花咲く土手に
8. STAR
9. ルーキー
10. FIGHT OH!
11. 星になりたい
12. 元気な町
13. JUNK LAND
14. メロディー

全十四曲、『 カリント工場の煙突の上に 』から三曲、『 LOVE SONG BLUE 』から三曲、『 CAFE JAPAN 』から四曲、『 JUNK LAND 』から二曲、『 GRAND LOVE 』から一曲、シングル「MR. LONELY」から一曲という構成になっています。『LOVE SONG BLUE』の先行シングルであった「 LOVE SONG 」は収録されない、あの大名盤『JUNK LAND』からはたったの二曲だけという、もうホントにこの時点で入れたいと思った曲を選んだとしか思えないアルバムになっていますね。ヒットシングルはちゃんと収録されていますけども、ヒットシングル集では決してありません。

「カリント工場の煙突の上に(Single Version)」はアルバム収録のものに比べて音量が大きめですがリバーブがそれほど効いておらずクリアで、さらにギターとボーカルがいくぶん控えめに収録されているように思われます。「花咲く土手に(New Recorded Version)」はまったく別のアレンジが施されており、歌詞も一部異なります(じゃがいもの白い花に、が入る)。でもなぜか当時からすでによく覚えている歌詞だったようなのです。これはきっと玉置さんがそのように歌った機会があって、そのどれかをわたくし聴いていたんじゃないかな、と思っています。【追記】コメントでおしえて頂いたのですが、「 青い"なす"畑 」ですでに登場してました。どおりで当時から聴いていた気がしたわけです。

玉置さんのベストアルバムというのは現代でこそ複数バージョンがあって収録曲も充実していますけども、私の覚えているかぎり当時において企画盤でないものはこれだけだったように思います。90年代後半、玉置さんのソロ活動がその最初の絶頂期にあったころの空気をよく感じられるよいアルバムであると、わたくし思っています。

田園 KOJI TAMAKI BEST [ 玉置浩二 ]

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2023年07月17日

Inst.#2

横浜スタジアムライヴ〜ONE NIGHT THEATER 1985 [ 安全地帯 ]

価格: 2,945円
(2023/7/8 10:59時点)
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安全地帯ライブアルバム『 ONE NIGHT THEATER 1985 』七曲目「Inst.#2」です。これも矢萩さん作曲で、玉置さん抜きの四人での演奏になります(もしかしたらBAnaNAも入って五人)。

暗い照明が落とされたステージになにやらシンセでフワフワしたイントロが響きます。映像では六土さんが定位置に戻ってベースを構えているのがわかります。田中さんのハットが響き、一気にズシーンとしたベース、矢萩さんのメロウながらに深い歪みの、以下にも安全地帯のソロという音が深めのリバーブで響きます。ほどなくクリーントーンでのリフレイン、この間武沢さんもアルペジオをしていることが聴いてわかります。

それにしてもこの矢萩さんのクリーントーン……これは素晴らしい音です。この丸さなのにこの響き!なぜ?どうしてこんなに芯がいつまでも残ったサスティンが出るの?と一生懸命アンプをいじくりまわして試してみるんですが、ギターをとっかえひっかえしても一向に似た感じになりません。武沢さんフリークのわたくしたまに矢萩さんのソロもコピーしてみることもあるんですが、矢萩さんってどういう指の力してるのか、とうていそうは動かんだろってグリグリなチョーキングやトリル等を組み合わせたソロをお弾きになられます。おそらくはギターの種類なりアンプのセッティング云々よりも、その指使いこそがこの強力なトーンの秘密なのでしょう。クラプトンとかベックとかは、ふるーいアンプやギターで小細工なしの指使い一発でそれぞれの音を出していたわけなんですが、わたくしにとっては矢萩さんのギターもその域に突入しているのです。

そしてその指使いのまま一気に歪ませて官能のオーバードライブを横浜スタジアムいっぱいに響かせたあと、また曲はクールダウン、クリーントーンのリフレインに戻り、さらにまたまた官能のオーバードライブ……基本的にはこの動静を繰り返すことで曲が成立しています。

そして今度は武沢さんがエレガットで例のリフレインを弾きます。「 ワインレッドの心 」や「 ダンサー 」で聴くことのできる武沢さんのガットギターはみなさんご存知のように、この時期の安全地帯においては欠かすことのできない特色です。ギターシンセを駆使した最新鋭デジタルのサウンドに、このアコースティックなサウンドが付け加わることによって安全地帯のアンサンブルはその深みを完成させていたといっていいでしょう。

そしてまた矢萩さんのオーバードライブ……このあたりから映像では例のアニメが始まりますのでもうどの音をどっちのギタリストが弾いているのか視覚では確認することができません。途中から二人のギタリストがハモリでリフレインを奏でるのですがこれが最高に美しく、何度でも身を委ねたい完璧なハモリになっています。それなのになんだよこのアニメは!と文句ばかり言ってもアニメの発注を受けた会社や、ここにアニメを挿入することを決断した御仁に悪いといや悪いので、これも説明しておきましょう。

まずは宇宙空間にピラミッドが浮かびます。ピラミッドの下にはバッテンマークが下敷きになっており、それぞれNSWEと方角を記されているのですが、やがてピラミッドがつむじ風によって砂のように巻き上げられ、宇宙空間に「安全地帯」の文字だけが残るのです。何言ってんのと思うかもわかりませんが、ホントにそうとしか言いようがないのです。そして非常にMSゴシックくさい「安全地帯」が青抜き文字に変わり、ズームインして画面は青空になります。その青空を紙飛行機が飛び交い……そのうち一つが海に着水、折り紙の舟の形にトランスフォーメーション!やがて日が暮れてきて海面が赤く染まり、それも暮れてやがて藍色になっていきます。何やら陸地に向かう舟がとつぜん光ったかと思うと金色の光となって一直線に舞い上がり満月に命中!満月は一瞬金色に輝きますがすぐに薄い青に戻り、なぜかその月が少女の眼になっている……その少女は観音開きの窓を開いて紙飛行機だらけの床に座っており、月を眺めているのです。やがて少女は手近にあった紙飛行機をひとつ手に取り、月に向かって投げますが、もちろん月になど届くはずもなく暗い地面に落ちてゆくのです……。

CD版ではそもそも映像はなくここで終わりなのですが、映像版には続きがあります。なんとこの紙飛行機が玉置さんの自室に届いており、エリック・サティ「ジムノペディ」が流れる中、玉置さんがその紙飛行機をやけに大きな仕掛け時計にむかって飛ばします。紙飛行機は白く部屋の調度も白く、ついでに玉置さんのシャツも白いです。大きな歯車が時計の内部で時を刻みます。玉置さんは曲作りに苦戦しているようでギターを抱え歌いつつもラジカセのボタンを何度もオンオフしています。コンサートの観客が大喜びしている様子、玉置さんがコンサートで歌っている様子、テレビで歌っている様子がそれぞれモノクロで一瞬映るのですが、大成功の陰にはこんな苦労があるんですよという対比となって玉置さんを苦しめます。思うようにいかずタバコを吸い、とうとう寝転んでしまった玉置さんのもとに、時計の内部から現れたらしい黒衣装で白い顔のデーモン閣下のようないでたちをした怪人が歩み寄ります。これはどうみても玉置さんなんですが、まあここでは本人がいうように「ともだち」ということにしておきましょう。そしてそのともだちは、苦しんでいる玉置さんを救うためにといって懐からプレゼントを取り出します。それは仕掛けオルゴールで、ピアノやラッパ、ギターを奏でる人形が動きながら回るタイプです。なぜかバカにするなと怒る玉置さんをよそに、オルゴールを残しともだち怪人は時計の中に消えてゆくのです。

そのオルゴールは「ワインレッドの心」のオルゴールで、スタジオにいる安全地帯のメンバーが機械仕掛けのオルゴール人形のような動きで口々にこの曲を絶賛します。「合わせてみよう」と武沢さんが言って映像ではふたたび横浜スタジアムに戻り「ワインレッドの心」が始まるという趣向になっているわけです。

いってみればこの映像は、デビュー直後に苦しんでいた玉置さんが悪魔に魂を売って売れセンをねらった曲を作ってしまった……という、暗い過去でありつつも輝かしい未来を開いたという現実を示唆しているわけなのです。その悪魔も、玉置さんが紙飛行機を時計に投げつけなければ現れなかったかもしれない、その紙飛行機も少女が飛ばさなければ玉置さんのもとに届かなかったかもしれない、あの夜に月が輝いていなければ少女は紙飛行機を飛ばさなかったかもしれない、その月が輝いていたのは……と、この名曲が生まれた因果はいくつもの要因と偶然が重ならなければ成立しなかったことを詩的に表現しているといえるでしょう。まあ、多賀さんでしょうねえこんな演出を思いつくのは。一人二役の小芝居をやらされた玉置さんはこっ恥ずかしかったでしょうし、人形の動きをしたメンバーも何だかわからなかったことと思います。純粋にライブ映像だけ楽しみたいわたくしのような人間にとってはジャマですらあります。ですが、まあ最初に観たときはそれなり感じるものはありました。現代からいえばずいぶん困ったちゃんな感じバリバリの映像ではあるのですが、当時はこれが標準というか最新の技法を使用した美麗なものでした。そして、安全地帯のイメージがこのように詩的でミステリアスなものでしたから、安全地帯を売っていくためにはこのイメージ戦略は有効だったのです。当時はツイッターもインスタグラムもありませんでしたし、テレビに出てもおすましさんであまりしゃべらないメンバーたちでしたから、安全地帯はその意志が見えにくい謎に包まれたバンドだったといってもいいでしょう。その物語を映像で抽象的に表現するという方針はかえって私たちの想像力をかきたて、安全地帯の魅力をブーストすることに貢献していたといえるでしょう。

ONE NIGHT THEATER〜横浜スタジアムライヴ〜 [ 安全地帯 ]

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2023年07月16日

Inst.#1

横浜スタジアムライヴ〜ONE NIGHT THEATER 1985 [ 安全地帯 ]

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安全地帯ライブアルバム『 ONE NIGHT THEATER 1985 』六曲目「Inst.#1」です。矢萩さん作曲で、玉置さん抜きの四人での演奏になります。

電飾がやけに派手ハデに会場に浮かび上がり何事かと思わせます。そのなか、シンセドラムのパッドをバシバシと叩く田中さんがいて、六土さんはおそらく鍵盤で、その隣に観ることのできる人物(何者?BanaNAか?)がシンセベースを弾きまくっているものと思われます。この三人が奮闘することによって80年代中盤にこれだけデジタルな音を出しまくっていたわけです。そしてギターのふたりがハモリで強烈なトーンを聴かせます。地味に変拍子の繰り返しです。これで歌モノでいうところのAメロになっています。

そして田中さんの強烈なフィルインが入りキュイーン……キュイーン……キュイーン……という寂しげなトーンでメロディーが奏でられるBメロ、田中さんはずっとフィルインのしっぱなしみたいなハードモードです。

そして武沢さんが超ナイスオーバードライブトーンでメロディーを弾きまくるCメロ(サビ的なところ)に入ります。CDですと途中までなぜかクリーントーンで途中から歪みが入りますが、映像版ですとはじめから歪んでいます。これがCD版と映像版で最も違うところだとわたくし思うんですが、それにしても何があったんでしょう?ペダルの踏みそこない?いや武沢さんに限ってそんなことは……と思わなくもないんですが、これは明らかに歪ませるべきところです。つまり尊敬する武沢さんに対してとんでもなく失礼になるかもしれない見解なのですが、映像版が正しいほうで、CD版はミスしたほうだとわたくし考えております。でもそれはそれでナイスクリーントーンですのでわたくしトクをした気分でおります。

このときの武沢さんの立ち位置はまるで要塞のよう、ギターが二本もスタンドにセットされており、そのうち一本はエレガット、もう一本がギターシンセ用ギターなのですが、そのシンセ装置もスタンドにセットされております。これだけのシステムを使いこなすには、足元にあるペダルもとんでもない数になっているはずでして、わたくしのようなフロアマルチ一台とワウだけみたいなやつとはわけが違うのです。武沢さんの背後にみえるラックがその膨大なペダルによって制御されておりまして、あのナイストーンを横浜スタジアムに響かせていたのかと思うと、わたくしいまさらながらRoland GP-16とか買おうかと思ってしまうくらいのナイスな音なんです。ところでいまRoland GP-16っていくらくらいするんだろう?と思って調べてみましたら、なんとおじさんのお小遣いでもしばらく節約すればなんとか買えるくらいの値段になっており、ぬうううう!と悩んでしまいました。なんてこった!

いっぽう作曲者である矢萩さんはなにやらほとんど指盤上のポジションを変えることなく、なにやら弦を触っているんだか触ってないんだかよくわからない挙動をしています。この曲は最初のハモリ以外武沢さんに見せ場を完全に譲ったということがまるわかりです。これにより矢萩さんのメロウでヘビーなギターは次のInst.#2で炸裂することになるわけです。

そして曲はそのまま田中さんのドラムソロへとなだれ込んでいきます。バスドラのペダルに足を置いたままだと思うのですが、左後方に高くセッティングされたOCTAPADをヘッドホンでモニタリングしながら叩きまくります。わたくしはじめてこのドラムソロを聴いたときにひっくり返らんばかりに驚いたものです。田中さんあんた何者!いや田中さんなんですけど、こんなに手数が多いドラマーだという印象はまったくありませんでしたから、このスキルフルでありつつエモーショナルなソロに全身が直接叩かれるような衝撃を受けたものです。「あれ何観てんの?ふーん、うまいね、スタジオミュージシャンだろ」とか言いながらいつものごとく部屋に現れたうちのドラマーが大して関心なさそうに、それでもいちおうは感嘆しておりましたから、ドラマーからみてもトレメンダスなソロであったことは間違いがないでしょう。しかしその直後彼は画面の切り替えボタンをバシッと押していつものとおり煎餅をボリボリやりながら信長の野望を始めたのでした。うーむ!わたしの安全地帯鑑賞タイムはこうやっていつも寸断されるのが常だったのです。しかし、この後の少女趣味アニメやワインレッド誕生小芝居を彼が見たら大爆笑してわたくしの気分を害するに違いありませんでしたので、それでよかったといえばそれでよかったのです。そして田中さんが渾身の勢いでパッドを叩き切りヘッドホンをはずしドラムセットに向き直すシーンでこの曲は終わっていきます。

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2023年07月15日

【改名とメンバー募集のお知らせ】バンド・古今東西(仮)【年齢不問・ギタリスト・ベーシスト・キーボディスト】


こんにちは安全地帯・玉置浩二コピーバンド古今東西(仮)です。

ただいま、

ボーカリスト:ちゃちゃ丸さん
ドラマー:よしさん (脱退)
ギターかベース:トバ

の三人組です。【二人組になりましたがまた三人組に】

先日、メンバーによる調査活動により、なんと田園地帯というバンドがすでに存在することが判明いたしまして(しかもかなり活動されているっぽい!こっちはまだ集まってもいないのに)、涙の改名とあいなりました。でもすでに気に入っているので、うっかり古今東西というバンドが発見されない限りはいずれ(仮)は削除されると思われます。

いや、いろいろバンド名を話し合ったんですよ。X JAPANと同じ事情だから田園地帯JAPANにしようか、でもそれだと向こうがJAPANでないみたいになって軽いイヤガラセになるんじゃないのとか、やけくそで「ちまみれ!オレンジロード」にしようかとか、「一口大」とか(トバはなんのネタなのかわからなくてくやしいのであーあれねうんわかるわかるという態度)。そこへちゃちゃ丸さんの提案「古今東西」、おう!そりゃいい!と気に入って古今東西と名乗ることにいたしました。そんなわけでして、古今東西をどうぞよろしくお願いいたします。

ひきつづき、ギタリスト、ベーシスト、キーボディスト募集いたします!ギタリストもベーシストも揃ったらわたくしトバはよろこんで席を譲って補欠となりますので、ふるってご応募ください!関東南部のどこかで一年に一回か二回集まれればいいやくらいのゆるいバンドですので、かけもちもちろんオーケー!関東南部というのもべつにこだわってませんが、全国からおいでの場合に集まりやすいところってだけのことです。なんなら名古屋とかでもいいです。

でも、いずれは安全地帯好きな人たちでホールを満員にできるといいねと話しています。畳まなくてもいい風呂敷ですから、大きく広げていいんです。

マスカレード 」「 真夜中すぎの恋 」「 あなたに 」「 どーだい 」「 エイジ 」あたりからやりたいなと思っております。さらに、まだ集まってもいないのにメンバー間の秘密会議所にてやりたい曲が増えてゆくという事態になっております!そんなわけで
夏の終りのハーモニー 」も追加で!

posted by toba2016 at 00:00| Comment(9) | TrackBack(0) | 古今東西

2023年07月09日

『ONE NIGHT THEATER 1985』

横浜スタジアムライヴ〜ONE NIGHT THEATER 1985 [ 安全地帯 ]

価格: 2,945円
(2023/7/8 10:59時点)
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安全地帯ライブアルバム『ONE NIGHT THEATER 1985』です。LDやVHSでのリリースはずいぶん前に行われていましたが、CDでのリリースは1998年8月、DVDは2000年12月でした。本記事はCDリリース時をなんとなく基準にしていましたもので、このタイミングでのご紹介とあいなりました。歌詞カードには横浜球場にて1985年8月31日9月1日にレコーディングが行われたとの記載があります。大洋ホエールズもこの間は遠征中だったのでしょう。確かこの年はいつものごとく夏場に調子を落とし、例年と違って秋に驚異的な上位いじめで四位に食い込んだ年でした。安全地帯の御利益か?なお2019年の阪神は三位でした。

ジュリー率いるタイガースが後楽園ライブを敢行して以降多くの名だたるミュージシャンがスタジアムライブを行ってきたのですが、渋谷公会堂等のホールクラスを制覇し武道館・大阪城ホール公演をも楽々と成し遂げた安全地帯も、とうとうその域に達したわけです。当時日本にはそれ以上の会場は基本的にありません。メンバー、スタッフその他関係者は万感の思いだったことでしょう。

さて、先行して発売されていたVHSおよびLDをもう失ってしまいましたので日付の詳しいことはわからないのですが、CD版とは若干収録されている音源が異なります。このことは、CD版にはMCが収録されているという点のみならず、Inst.#1のギター音、そしてドラムソロの音色が明らかに異なりますのでわかります。少なくともここだけは8/31と9/1の違いがあって、収録された音源が異なるわけです。ただもちろん買って聴いてみるまではそんなことはわかりませんでしたし、わたしからすればVHSでよく知っているライブであって収録曲にも変化はないようでしたので(なによりビンボーなので)、発売日に待ちかねて買うって感じではありませんでした。ただ、このCD二枚組リリースの衝撃は1998年当時でもそれなりのものでした。「最強のアンサンブル」「伝説のライブ」等々の触れ込みで、あれ安全地帯ってこんなに評価されてたっけとちょっと戸惑うくらいではありました。なにより安全地帯名義でのCDリリースはかなり久しぶりでしたのでうれしかったです。しかし実際に手に入れて音源の違いに気づいたのは(おもに金銭的な理由で)少し後のことになってしまいました。

さてCD版では、一曲目「Lazy Daisy」に最初「エンドレス」のSEがまるまる一曲入っていて、安全地帯に詳しい人でないとこれを「Lazy Daisy」だと勘違いしてしまうかもしれないというちょっとした不親切が起こります。映像だとスタジアムの照明が落とされていく光景から一気に「Lazy Daisy」ですからそんなことは起こらないんですけども。そして一気に「We're alive」と畳みかけ、CD版では「最近やってなかったんですけど」というMCが入って「萠黄色のスナップ」でひと段落という感じです。

そして「風」、映像だとほんとに風が強そうで、玉置さんのあの趣向のよくわからない衣装が風になびきます。いま微妙にクサした衣装ですけど(笑)、祭りの半纏のように見えます。この日の舞台は遊園地やお祭りの趣向で装飾されており、もしかして玉置さんの衣装もそれを反映させたものなのかもしれません。ほかのメンバーはそんなこと知ったこっちゃないよという感じの衣装でしたが。ライブは「Kissから」へと進み、相変わらずマーベラスな演奏です。渋谷公会堂や武道館の音源に比べて、野外ですからやはり音が拡散している印象はありますが、総じて録音状態は良好です。

ここで一息、矢萩さん作曲のインスト曲が二曲流れます。詳細は曲個別の記事に譲りますが、わたくしこれらがとても好きです。なんならしばらくこればっかり聴いていてもいいです(笑)。玉置さんの抜きのインストが収録されたのは少なくとも当時はこれだけでした。映像作品ですと、これまた趣向のよくわからないアニメが挿入されて驚きました。なんというか、少女趣味というか男が想像する少女の像というか、たぶん現代の若者がみたら軽くショックで一秒くらい呼吸が止まって真剣な顔をしたから星屑ロンリネスって感じになるんじゃないかと思います。まあ、当時は意味はよく分からんがなんだかロマンチックだ!詩的だ!くらいな感じではありました。そしてインスト二曲目終わりにも映像作品ですとまた演出がありまして、ここもビックリな小芝居が挿入されていましたが、それはまた今度の記事でということにさせていただきたいと思います。

さてその小芝居と大いに関連がある曲「ワインレッドの心」でライブは前半部クライマックスの盛り上がりを迎えます。ここに「ワインレッドの心」を投入してもよいくらい、当時の安全地帯には余裕があったのです。「Yのテンション」「瞳を閉じて」「エクスタシー」と『安全地帯III』の佳曲を惜しげもなく投入し、一枚目は終了しいつのまにか二枚目に入っています。偶然かどうかわかりませんけども、二枚目一曲目「エクスタシー」からBaNAnaがステージに登場したような気がするんで、一枚目は安全地帯のみ、二枚目はBaNAnaを入れた編成でのライブというように前後半を分けていたのかもしれません。

「ノーコメント」、これは「悲しみにさよなら」カップリングですが、玉置さんと石原さんのスキャンダルを執拗に追いかけるマスコミをからかうような曲で、安全地帯ストーリーの異様な熱気と盛り上がりを示すものでした。以前にもわたくし書いたのですが、当時安全地帯はとんでもないレベルの曲と演奏、歌、そしてスキャンダル、そのすべてを劇場的に展開する大きなノンフィクションラブストーリーのストーリーテラーだったのです。そのスケールはまさに空前絶後、後にも先にもこんなアーティストは現れていないと思います。スキャンダルうんぬんは本人たちが仕掛けたことではなかったでしょうけども、結果としてたんなるロックバンドの域をはるかに超えた芸術的表現を放っていたのです。それは、やはり意図的にそうなったわけではない玉置さんの復活物語とリンクする90年代の玉置ソロと構造的によく似ています。

そして曲は「彼女は何かを知っている」「マスカレード」「碧い瞳のエリス」とだんだん深刻な感じの曲、いやぜんぶ深刻なんですけど、恋愛のダウナーサイド方面を強調する曲が固めて演奏されます。「マスカレード」以降はもうほぼシングル曲ですから(「あなたに」を除く)、ヒットパレードの意味合いもあったことでしょう。「碧い瞳のエリス」から「恋の予感」「あなたに」とスロー気味な曲から、このあと「熱視線」「真夜中すぎの恋」「悲しみにさよなら」とアッパーサイド方面の曲をたて続けに演奏して会場をこれでもかと沸かせてライブは終わります。なお、「あなたに」には曲の後にオーケストレーションが流れ、ここでライブが終わりであったことを示唆しています。つまりこの後の曲はアンコール扱いになるわけですが、1985のライブで「悲しみにさよなら」を残したまま終わっちゃたまらないですから(笑)、もちろんこれは想定されたアンコールということになります。

「ありがとう!さよなら!」と玉置さんの挨拶、歓声、そしてまたもやSE「エンドレス」……この「エンドレス」にはひときわ歓声が大きくなる箇所があるのですが、よく聴くとここはボーカルが重ねられていますから、玉置さんが出てきて歌ったんじゃないかと思います。これはみなさん嬉しかったでしょうね。

収録曲は以下になります(SE「 エンドレス 」除く)

1. Lazy Daisy
2. We're alive
3. 萠黄色のスナップ
4.
5. Kissから
6. Inst.#1
7. Inst.#2
8. ワインレッドの心
9. Yのテンション
10. 瞳を閉じて
11. エクスタシー
12. ノーコメント
13. 彼女は何かを知っている
14. マスカレード
15. 碧い瞳のエリス
16. 恋の予感
17. あなたに
18. 熱視線
19. 真夜中すぎの恋
20. 悲しみにさよなら

では、次回以降、インスト二曲の記事を順にお届けしたいと思います。インストの記事書くの久しぶりなのでちょっと緊張しております。

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2023年07月01日

ぼくらは…

GRAND LOVE [ 玉置浩二 ]

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玉置浩二『 GRAND LOVE 』十二曲目、「ぼくらは…」です。この曲でこのアルバムも終わりになります。

このアルバム全般に言えることなんですが、玉置さんの声が生々しく耳元で響きます。「ぼくらは〜」と歌だけで始まるこの曲ではなおさらその衝撃を強く感じることができます。初聴時にヘッドフォンでなかったことを後悔するほどです。

「ぬー」とも「ふー」ともつかぬ低音のコーラス、重ねられたシンセ、これが通常ベースが表現する部分を担当する強力な演奏となっています。そしてこれまた低音の打楽器が「タッ…………タタッ…………ドドドン!」とリズムを取ってはいるのですが、これは曲のリズムというよりも、生命の鼓動を表現しているんじゃないかと思うくらいバイオリズムというか血の流れというか、脳を含むなんらか身体の動きに直接響く効果をもっているように思えます。

時折響くギターのクリーントーンによる細かい高音のリック……その少し歪ませたもの、低音のピアノ、これらが歌の裏に入ることで、静謐さを増します。森の中は動物植物だらけですし、風は吹くし樹々がざわめくし葉擦れはするし沢は流れるしで、本当は音だらけなのにわたしたちはそれを静かだと感じますよね。人工の音が入るとそれを音と認識するのに、森の自然な音はあまり認識しないわけです。玉置さんの作り上げたこの曲は、明らかに人工の音でありながら自然の音なんじゃないかというくらい静かなのです。安藤さんのピアノがあるという環境でなければこの境地にはたどり着けなかったんじゃないかとわたくし考えているんですが、おそらく安藤さんはこの曲でも玉置さんの作りたい音にスバリな形で応えたんだろうと思います。

ぼくらは……君と手をとり……え?「君」はぼくらに入ってないの?と初っ端から違和感を感じますが、ここでの「ぼくら」はたぶん人類とかそういう意味で、「君」はもちろんその中に含まれているんだけども「愛しい人、かけがえのない存在」くらいの意味だろう、とあまり深く考えないのが吉だろうと思い直して、詞の世界を味わってみたいと思います。

手をとる、歩く、みつめる、わかる……全部書くときりがないのですが、この歌詞にはひとつも人工物がありません。『 JUNK LAND 』のジャケットで全裸になった玉置さんそのままの、人工物ぬきの、自然の姿です。ガラクタだらけの東京から裸になって逃れてきたわけですから偶然ではないんですけども、人工物をひとつも歌詞に入れないようにしようと心がけて書いたわけじゃないと思います。玉置さんの心情・心境、今後の生き方への決心が歌詞から人工物を排する結果になったのでしょう。

愛しい人が欲しい、だから悩む、人と人だから、そこには合図が生まれ、それを交わす……人類が人類と呼ぶにふさわしい知性を獲得した太古の昔から、わたしたちは、「ぼくらは」これを繰り返してきました。何十年前も何百年前も……何百万年前でもきっとそうだったのでしょう、それこそ「嘲笑」の歌詞(ビートたけし)で描かれた時間軸に迫るほどのスケールで、人と人とは交信・交流を重ね、愛しさを発生させ育んできたわけです。

「Ummm〇×△□!」と玉置さんが叫んでキーが変わります。一音アップですね。玉置さんの歌が、こうした人生の、いや人類の歴史全部を称えるように、叫ぶように、歌います。まさにGRAND LOVE壮大なる愛の詠唱です。近年のシンフォニックコンサートで聴くことのできるような、感情をそのまま眼前に生の姿で突き出してくるような鬼気迫る歌い方の原形をここにみることができます。「君」の涙を拾うと……涙という合図の意味は様々です。たんに異物が目に入ったこともあれば、歌に感動したこともあるし、はてまた別れがつらいこともあるでしょう。ぼくらは、その様々な意味を推理します。とはいっても、なんの手がかりもなければ目のゴミも歌の感動も同じような可能性しか持ちません。ですから、ぼくらは考えるのです。感じるのです。自分だったらこのときどうして涙を流すだろうかとほとんど無自覚に考えて、その意味をかなり的確に察知する能力をもっているからです。「マインドリーディング能力」と専門家が呼ぶ、人類においてとくに発達したその能力は、ぼくらにとってはごく普通のことでまったくそんな能力を自分たちがもっているなんて自覚すらしていません。相手に、自分と同じような心があると無自覚に前提して、自分の心だったらこの反応をするのはどのようなときかという推理を一瞬のうちに済ませることができるのです。おそらく人類がまだホモエレクトゥスとかいうサルだったころから、自然選択の結果として先鋭化させ発達させてきた能力なのでしょう。KYとかはたんに程度の問題であって、しかも大した違いじゃありません。現代人類はひとしく、すくなくとも数十万年の進化の結果としていまここに生き残っていて、互いにマインドリーディング能力を発揮させながら生きているからです。ですからぼくらは「君」の涙の意味を知り、そして手を振るんです。大丈夫だよ、愛してるよ、ここにぼくがいるよって、合図を送るんです……ここにぼくがいたよ、幸せだったよ、できることならまた会いたいね……と合図を送りながら、穏やかに死んでゆくんです。

曲は鳥の声を思わせるシンセ音からフェードインの大音量でギターのトリル、いくぶん大きくなった感のあるパーカッションにリズムをまかせ、ジャーンと鳴るピアノ、薄いストリングスをバックにそのままギターソロに入ります。ずいぶんリバーブのかかったギターなんですが、不自然なところはありません。そのままホーミー(コメントで教えていただいたモンゴルの発声法)のような……ただこれもギターでしょうね、音色の違うギターでのソロに引き継ぎ、掛け合いをしながら曲は終わっていきます。そのホーミー的な音が、モンゴルの大草原、いっさいの人工物が見あたらない大地を空から眺めている視界の広がりを感じます。さらにはそのギターが途切れるタイミングで鳥の鳴き声が聴こえて、徹底的な自然の静謐さを表現しようとしていることに圧倒されているうちにこのアルバムは終わります。ここはそのまましばらく余韻を味わうべきタイミングなのですが、わたくしうっかりしていてライブラリの次の曲である「 太陽さん 」が流れてハッとしました(笑)。いかん、CDだとここで自動で止まるから忘れていた!

【追記】ギターギター言ってますが、 志田さんの記事 により、これは玉置さんの声にギター用のディストーションをかけた音だということがわかりました!

さて、おかげさまでこのアルバムも終わりました。今年はちょっと忙しくてというか本業や地域のことにちょっとマジになってしまって(笑)、ここ三年くらいのなかでも更新ペースが遅くなっているほうなんですけども、いったん止めるともう年単位で止まっちゃうのは経験済みですんでなるべく種火を絶やさないように続けて参りたいと思います。次は久しぶりの安全地帯、『ONE NIGHT THEATER』を扱う予定です。どうぞ引き続きの御贔屓を!

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posted by toba2016 at 07:15| Comment(14) | TrackBack(0) | GRAND LOVE
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