2012年04月22日
薯童謡『ソドンヨ』から韓流ドラマを興味深く観るようになりました。その1
薯童謡『ソドンヨ』から
韓流ドラマを興味深く
観るようになりました。
その1
ふとした切っ掛けから韓国の歴史ドラマ薯童謡『ソドンヨ』を途中から観るようになって、韓国の歴史ドラマを興味深く観るようになってしまいました。
それは、私の長編考古学小説「遙かなる大空」と、その一時代を切り出して描いた「浦島太郎って誰?」、「屋嶋の禿げとその兄達」に関係する歴史舞台がそれらのドラマで描かれていたからです。
先ず「薯童謡『ソドンヨ』」から・・・。
このドラマの主人公は、百済王国の30代 武王 (ムワン)になります。
そして百済滅亡の時の王が、この武王の嫡男である最後の百済王 義慈王(ウイジャワン)で、私の作品「遙かなる大空」の「四 古城(西暦660年夏、百済滅亡)に登場しますが、主人公をその百済の将軍 黒歯常之(フクチ・サンジ)に据えて描いています。
「遙かなる大空」の内容を少しだけ;
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唐の蘇定方左武衛大将軍
都に着くと黒歯が思っていたより都城は破壊されておらず、家々は黒歯が城を離れた時のそのままであった。
義慈王は都城が攻められる前に熊津に逃れたが、その地で唐軍に捕らわれて降伏に至ったとの事であった。
一方、王が都を見捨てたため将兵は防御する対象を失い、唐の軍勢が到達した時にはほぼ無血開城となったのである。
黒歯が後から知った事になるが、都城を捨てて北方の熊津に逃げた王は、后や王子達と共にその地で降伏すると唐軍に捕らえられしまう。彼らは直ちに唐の長安に送られて、そのまま長安で王は病に倒れ、亡くなってしまったとの事であった。
黒歯は降伏した時から、捕虜としての待遇が遙かに良遇されているのが、不思議であったが、その理由が直ぐに判った。
蘇定方の副官と名乗る者が、黒歯のところまで来て、平伏して告げるのだった。
「黒歯将軍殿、我らが将の蘇定方が貴官にお目に掛かりたいとの事で、是非とも宮殿までお越し願いたい。」
黒歯は、訝しく思いながらその副官に尋ねた。
「左武衛大将軍の蘇定方殿が?私の様な者に?」
副官はその言葉に立ち上がり黒歯に微笑んで言った。
「是非とも、共に一献傾けたいとの事です。」
黒歯は信じられないと云う顔をしながら、
「直ぐに参るとお伝え下さい。」
宮殿で待ち構えていた蘇定方は、黒歯を見ると飛び付く様にして駆け寄り、
「貴官が達率兼風達郡将の黒歯常之将軍殿か?良く参られた!初にお目に掛かる。私は蘇定方と申す者。宜しくお願いしたい。」
黒歯はそんな蘇定方を見て、身を屈めながら口を開く、
「左武衛大将軍、蘇定方殿ともあろう方が、敗残者の私などを召し出すとは?如何成されましたか?」
黒歯が身を屈めるので、蘇定方も慌てて身を屈めて言うのだった。
「我が唐にまで伝え聞く、名将の誉れ高き黒歯常之将軍殿に、この地で相見える事が私の願いで御座いました。この都度の戦いの中でご落命成さなければと、常に案じておりました。こうして相見えられる事をとても喜んでおります。さぁ是非、是非とも一献召され。」
黒歯は蘇定方からの杯を訝りながらも受けるのだった。
「忝ない!しかしこの様な接遇・・・まだ合点がいきませぬな。」
杯を飲み干した蘇定方は、黒歯の目を見据えながら、
「では腹を割ってお話致す。貴官を我が唐の将軍としてお迎え致したい。その腕を存分に広き我が国で発揮されて戴きたい。如何かな?我が国に来られる気はお有りか?」
蘇定方の思いもしない突然の申し出に、驚きながら黒歯は躊躇わずに答えるのだった。
「それは大変光栄な事で御座るが、この地を離れる気は毛頭御座りません。」
黒歯のその様な返答に心落ちしながら、蘇定方は黒歯に言うのだった。
「無理にとは申さぬが、お心置き下されば幸いです。」
暫く二人とも黙り込んでしまう。
ご先祖
蘇定方はこのまま黒歯を返す気配が無い。
「以前から黒歯将軍殿にお伺い致したいと思って居た事が御座る。宜しいか?」
黒歯はこの上に何を話したいのかと訝りながらも、
「何なりと!」
と一言だけ答えた。
「我が唐では、貴官のご先祖は遙か昔に倭国に渡り、その地で国を興したとの噂が在る。それは本当の事なのかを伺いたい。」
蘇定方の質問に、そんな事に興味が有るのかと思いながら黒歯は答える。
「確かに遙か昔、我が国が三韓時代だった頃に、我が先祖が倭国に赴いたことがあったと教えられている。」
と言うと、蘇定方はやはりと云う顔になり、
「では、貴官はかの大國主命に付き従って倭国に渡った弁韓国人の末裔で御座るのか?」
と込み入った事まで知っているらしく、詳しく聞いてきた。
「然り!我がご先祖は大國大将軍に付き従い倭国に渡り、その後に吉備の国に赴かされて、そこで城を築城して新たな国を興したと聞いている。」
と子供の頃から教えられて居る事柄を、蘇定方に話し始めた。
蘇定方はこの話に興味深く思ったのか、
「では、日本王の・・・確か・・孝霊天皇(コウレイテンノウ)と云う名の日本王の王子で、吉備津彦命(キビツヒコノミコト)に、貴官のご先祖の国が攻められたのでは無かったのか?」
と、さも蘇定方が見てきた様に話した。
そこまで知っていて他に何を聞きたいのかと思いながら黒歯は答える。
「あぁ、あの戦で我が祖先は韓半島に戻る事になったのだ。」
いい加減にこれ以上話をしたくなくなり、黒歯は素っ気なく答えてしまう。
蘇定方はその時のことをどうしても聞き質したかった。
それは、その時の戦では温羅と呼ばれた弁韓国人達は、大和朝廷から全滅させられたと聞いていたからである。
「済まぬが、もう少しだけ伺わせて戴きたい。宜しいか?」
蘇定方のその態度に黒歯も仕方が無いと腰を据えて答えることにした。
「何なりと申されよ!」
黒歯の言葉に力付けられたように蘇定方は質問する。
「あの時の戦いは、当時の我が国にまで伝わるほどの大きな倭国での戦。我らが知る範囲では、貴官の兵も民達も倭人に全て殺されたと聞いている。」
この言葉から、黒歯は自分がどうしてこの百済に居るのかを、蘇定方が知りたがっていると判った。
しかしこの事は黒歯の一族にとって話したくない事柄だった。
それは、あの鬼ノ城での戦いの最中に、黒歯の先祖は兵や民達を打ち捨てて、この韓半島に逃げ帰って来たからである。
しかし、蘇定方がどの様に思うか判らないが、彼は先祖から聞いた事を話す気になった。
「確かにあの時、我が先祖はあの城の将軍として、また国を束ねる王として鬼ノ城に居た事は事実である。そしてあの戦いの時に吉備津彦命の軍勢に攻められた事も事実だ。」
と苦渋に満ちた顔で話し始める。
「我らは鬼ノ城に民達と共に籠城する事となり、倭人達の軍勢に城は包囲されてしまった。」
「長期間の籠城が始まり、お互いの持久戦に陥る事になった。それは正面衝突で主力同士が戦うと、多分両軍とも甚大な被害が出ると双方共に恐れたからだ。」
「そんな時、不思議な事に城の直ぐ下を流れる大きな河の軍港に敵兵の姿も見えず、そして軍船が一艘だけ焼かれずに残っているのを我らの副官が見つけた。当時は海が城に近くにまで迫っていて、その河から直ぐに海に出られる地形だったと聞いている。」
蘇定方は黙ったままじっと目を瞑り聞いていた。
「副官はその一艘だけ残された軍船が、我が先祖にここからこの軍船で脱出せよとの、吉備津彦命の勧めだと感じたらしい。」
「我が先祖は勿論のこと、副官からの城からの脱出の進言を聞き入れなかったと聞く。しかし最終的に我が先祖は城も自分の兵も、そして大事な民までその城に残してこの国に舞い戻ったと教えられている。」
蘇定方はこの時になって納得した様に口を開いた。
「黒歯将軍殿、その様な経験が在ったからこそ、貴官は国の民を守る気持ち、そしてご自分の兵達を大切になさるお気持ちが強くなられて居る訳ですな?」
その言葉に絶句した黒歯だったが、暫くの沈黙の後に、
「そうかも知れませんな。我が先祖はそれからは人が変わったように民達を慈しみ、兵達を自分の弟のように可愛がる様になったと聞いている。」
「その事から、我ら子孫は物心が付いていない時から、将として一番大事なことは何かを考えさせられ、それを実践するように教えられております。」
今回の降伏の時も自らの命を投げ出して兵達の命乞いをした黒歯に、唐の将軍達は心から敬服していたが、その原動力が大昔の倭国の戦がその由来だと判った蘇定方は、感慨にふけるのだった。
ふと感慨から我に戻った蘇定方は、もう一つ聞きたい事が有るのを思い出す。
「黒歯将軍殿。あと一つだけお伺い致しても宜しいか?」
丁寧な言葉で尋ねる蘇定方を無下に断れない。
「何をお話致せば宜しいのか?」
黒歯が拒否する態度も見せずに返答するので、蘇定方は尋ねる。
「今回この都城を見捨てて逃げ出した義慈王と貴官は親戚だと聞いているが、その事の真偽は?」
黒歯は答えても問題が無いと考え、
「確かに義慈王と私は親戚で、それも近い血筋になります。それが?」
黒歯がその質問に疑問を感じているのが判った蘇定方は、
「いや、貴官と違いその義慈王は、先の新羅の大耶城を攻撃した折りに、降伏してきたその城主や妻子共を全員斬首したと聞いた。」
「貴官と違い、敗残者に対して思いやりの無い事をする王だと、唐国内では問題になっていたのだ。降伏した者を斬首するのは如何なものかと・・・。」
その様な事まで唐には知られていたのかと、黒歯は恐れながら、
「いや、その時に派遣されて城を攻撃したのは我らが允忠将軍であり、義慈王はその斬首とは関わりが無いと聞いているが。」
蘇定方は、黒歯が義慈王を親類なるが故に弁護している様に思えたが、敢えて反論する事をしなかった。
蘇定方は思い描いていた黒歯の偶像と、目の前に自分と対面して居る黒歯の実像との差が無いのを喜んでいた。
そしてどうしても自国の将軍になって貰い、唐の国のために働いて貰わなければと思い込みが強くなっていくのだった。
黒歯は捕虜収容所に戻された。
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ほんの一部ですが、「この文章のどこが考古学?歴史学ではないの?」と疑問に思われていらっしゃると思います。
この文章では百済滅亡時の時を描いていますので、どうしても歴史学の話になっていますが、他の章では三韓時代の弁韓国から当時の倭国(日本)に渡来した集団を描いたり、彼らが時代毎に周りの倭人(日本人)と交流や争いを繰り返していた事に触れています。
「遙かなる大空」の主人公は、考古学好きの無線工学の研究者と、香川県高松市に在る古代韓国式築城法に依る「屋嶋ノ城(ヤシマノキ)」へ韓国からセミナー旅行で訪れた考古学者の卵とが出会い、次第にお互いを気にしながら結婚に至ると云う筋書きです。
どうして彼らが好き会うのか・・・それを考古学的な説明を伴いながら描いています。
それぞれの韓国の歴史ドラマに沿って、その歴史背景とそれに合わせた私の作品を少しだけご案内致したいと思います。
韓流ドラマを興味深く
観るようになりました。
その1
ふとした切っ掛けから韓国の歴史ドラマ薯童謡『ソドンヨ』を途中から観るようになって、韓国の歴史ドラマを興味深く観るようになってしまいました。
それは、私の長編考古学小説「遙かなる大空」と、その一時代を切り出して描いた「浦島太郎って誰?」、「屋嶋の禿げとその兄達」に関係する歴史舞台がそれらのドラマで描かれていたからです。
先ず「薯童謡『ソドンヨ』」から・・・。
このドラマの主人公は、百済王国の30代 武王 (ムワン)になります。
そして百済滅亡の時の王が、この武王の嫡男である最後の百済王 義慈王(ウイジャワン)で、私の作品「遙かなる大空」の「四 古城(西暦660年夏、百済滅亡)に登場しますが、主人公をその百済の将軍 黒歯常之(フクチ・サンジ)に据えて描いています。
「遙かなる大空」の内容を少しだけ;
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唐の蘇定方左武衛大将軍
都に着くと黒歯が思っていたより都城は破壊されておらず、家々は黒歯が城を離れた時のそのままであった。
義慈王は都城が攻められる前に熊津に逃れたが、その地で唐軍に捕らわれて降伏に至ったとの事であった。
一方、王が都を見捨てたため将兵は防御する対象を失い、唐の軍勢が到達した時にはほぼ無血開城となったのである。
黒歯が後から知った事になるが、都城を捨てて北方の熊津に逃げた王は、后や王子達と共にその地で降伏すると唐軍に捕らえられしまう。彼らは直ちに唐の長安に送られて、そのまま長安で王は病に倒れ、亡くなってしまったとの事であった。
黒歯は降伏した時から、捕虜としての待遇が遙かに良遇されているのが、不思議であったが、その理由が直ぐに判った。
蘇定方の副官と名乗る者が、黒歯のところまで来て、平伏して告げるのだった。
「黒歯将軍殿、我らが将の蘇定方が貴官にお目に掛かりたいとの事で、是非とも宮殿までお越し願いたい。」
黒歯は、訝しく思いながらその副官に尋ねた。
「左武衛大将軍の蘇定方殿が?私の様な者に?」
副官はその言葉に立ち上がり黒歯に微笑んで言った。
「是非とも、共に一献傾けたいとの事です。」
黒歯は信じられないと云う顔をしながら、
「直ぐに参るとお伝え下さい。」
宮殿で待ち構えていた蘇定方は、黒歯を見ると飛び付く様にして駆け寄り、
「貴官が達率兼風達郡将の黒歯常之将軍殿か?良く参られた!初にお目に掛かる。私は蘇定方と申す者。宜しくお願いしたい。」
黒歯はそんな蘇定方を見て、身を屈めながら口を開く、
「左武衛大将軍、蘇定方殿ともあろう方が、敗残者の私などを召し出すとは?如何成されましたか?」
黒歯が身を屈めるので、蘇定方も慌てて身を屈めて言うのだった。
「我が唐にまで伝え聞く、名将の誉れ高き黒歯常之将軍殿に、この地で相見える事が私の願いで御座いました。この都度の戦いの中でご落命成さなければと、常に案じておりました。こうして相見えられる事をとても喜んでおります。さぁ是非、是非とも一献召され。」
黒歯は蘇定方からの杯を訝りながらも受けるのだった。
「忝ない!しかしこの様な接遇・・・まだ合点がいきませぬな。」
杯を飲み干した蘇定方は、黒歯の目を見据えながら、
「では腹を割ってお話致す。貴官を我が唐の将軍としてお迎え致したい。その腕を存分に広き我が国で発揮されて戴きたい。如何かな?我が国に来られる気はお有りか?」
蘇定方の思いもしない突然の申し出に、驚きながら黒歯は躊躇わずに答えるのだった。
「それは大変光栄な事で御座るが、この地を離れる気は毛頭御座りません。」
黒歯のその様な返答に心落ちしながら、蘇定方は黒歯に言うのだった。
「無理にとは申さぬが、お心置き下されば幸いです。」
暫く二人とも黙り込んでしまう。
ご先祖
蘇定方はこのまま黒歯を返す気配が無い。
「以前から黒歯将軍殿にお伺い致したいと思って居た事が御座る。宜しいか?」
黒歯はこの上に何を話したいのかと訝りながらも、
「何なりと!」
と一言だけ答えた。
「我が唐では、貴官のご先祖は遙か昔に倭国に渡り、その地で国を興したとの噂が在る。それは本当の事なのかを伺いたい。」
蘇定方の質問に、そんな事に興味が有るのかと思いながら黒歯は答える。
「確かに遙か昔、我が国が三韓時代だった頃に、我が先祖が倭国に赴いたことがあったと教えられている。」
と言うと、蘇定方はやはりと云う顔になり、
「では、貴官はかの大國主命に付き従って倭国に渡った弁韓国人の末裔で御座るのか?」
と込み入った事まで知っているらしく、詳しく聞いてきた。
「然り!我がご先祖は大國大将軍に付き従い倭国に渡り、その後に吉備の国に赴かされて、そこで城を築城して新たな国を興したと聞いている。」
と子供の頃から教えられて居る事柄を、蘇定方に話し始めた。
蘇定方はこの話に興味深く思ったのか、
「では、日本王の・・・確か・・孝霊天皇(コウレイテンノウ)と云う名の日本王の王子で、吉備津彦命(キビツヒコノミコト)に、貴官のご先祖の国が攻められたのでは無かったのか?」
と、さも蘇定方が見てきた様に話した。
そこまで知っていて他に何を聞きたいのかと思いながら黒歯は答える。
「あぁ、あの戦で我が祖先は韓半島に戻る事になったのだ。」
いい加減にこれ以上話をしたくなくなり、黒歯は素っ気なく答えてしまう。
蘇定方はその時のことをどうしても聞き質したかった。
それは、その時の戦では温羅と呼ばれた弁韓国人達は、大和朝廷から全滅させられたと聞いていたからである。
「済まぬが、もう少しだけ伺わせて戴きたい。宜しいか?」
蘇定方のその態度に黒歯も仕方が無いと腰を据えて答えることにした。
「何なりと申されよ!」
黒歯の言葉に力付けられたように蘇定方は質問する。
「あの時の戦いは、当時の我が国にまで伝わるほどの大きな倭国での戦。我らが知る範囲では、貴官の兵も民達も倭人に全て殺されたと聞いている。」
この言葉から、黒歯は自分がどうしてこの百済に居るのかを、蘇定方が知りたがっていると判った。
しかしこの事は黒歯の一族にとって話したくない事柄だった。
それは、あの鬼ノ城での戦いの最中に、黒歯の先祖は兵や民達を打ち捨てて、この韓半島に逃げ帰って来たからである。
しかし、蘇定方がどの様に思うか判らないが、彼は先祖から聞いた事を話す気になった。
「確かにあの時、我が先祖はあの城の将軍として、また国を束ねる王として鬼ノ城に居た事は事実である。そしてあの戦いの時に吉備津彦命の軍勢に攻められた事も事実だ。」
と苦渋に満ちた顔で話し始める。
「我らは鬼ノ城に民達と共に籠城する事となり、倭人達の軍勢に城は包囲されてしまった。」
「長期間の籠城が始まり、お互いの持久戦に陥る事になった。それは正面衝突で主力同士が戦うと、多分両軍とも甚大な被害が出ると双方共に恐れたからだ。」
「そんな時、不思議な事に城の直ぐ下を流れる大きな河の軍港に敵兵の姿も見えず、そして軍船が一艘だけ焼かれずに残っているのを我らの副官が見つけた。当時は海が城に近くにまで迫っていて、その河から直ぐに海に出られる地形だったと聞いている。」
蘇定方は黙ったままじっと目を瞑り聞いていた。
「副官はその一艘だけ残された軍船が、我が先祖にここからこの軍船で脱出せよとの、吉備津彦命の勧めだと感じたらしい。」
「我が先祖は勿論のこと、副官からの城からの脱出の進言を聞き入れなかったと聞く。しかし最終的に我が先祖は城も自分の兵も、そして大事な民までその城に残してこの国に舞い戻ったと教えられている。」
蘇定方はこの時になって納得した様に口を開いた。
「黒歯将軍殿、その様な経験が在ったからこそ、貴官は国の民を守る気持ち、そしてご自分の兵達を大切になさるお気持ちが強くなられて居る訳ですな?」
その言葉に絶句した黒歯だったが、暫くの沈黙の後に、
「そうかも知れませんな。我が先祖はそれからは人が変わったように民達を慈しみ、兵達を自分の弟のように可愛がる様になったと聞いている。」
「その事から、我ら子孫は物心が付いていない時から、将として一番大事なことは何かを考えさせられ、それを実践するように教えられております。」
今回の降伏の時も自らの命を投げ出して兵達の命乞いをした黒歯に、唐の将軍達は心から敬服していたが、その原動力が大昔の倭国の戦がその由来だと判った蘇定方は、感慨にふけるのだった。
ふと感慨から我に戻った蘇定方は、もう一つ聞きたい事が有るのを思い出す。
「黒歯将軍殿。あと一つだけお伺い致しても宜しいか?」
丁寧な言葉で尋ねる蘇定方を無下に断れない。
「何をお話致せば宜しいのか?」
黒歯が拒否する態度も見せずに返答するので、蘇定方は尋ねる。
「今回この都城を見捨てて逃げ出した義慈王と貴官は親戚だと聞いているが、その事の真偽は?」
黒歯は答えても問題が無いと考え、
「確かに義慈王と私は親戚で、それも近い血筋になります。それが?」
黒歯がその質問に疑問を感じているのが判った蘇定方は、
「いや、貴官と違いその義慈王は、先の新羅の大耶城を攻撃した折りに、降伏してきたその城主や妻子共を全員斬首したと聞いた。」
「貴官と違い、敗残者に対して思いやりの無い事をする王だと、唐国内では問題になっていたのだ。降伏した者を斬首するのは如何なものかと・・・。」
その様な事まで唐には知られていたのかと、黒歯は恐れながら、
「いや、その時に派遣されて城を攻撃したのは我らが允忠将軍であり、義慈王はその斬首とは関わりが無いと聞いているが。」
蘇定方は、黒歯が義慈王を親類なるが故に弁護している様に思えたが、敢えて反論する事をしなかった。
蘇定方は思い描いていた黒歯の偶像と、目の前に自分と対面して居る黒歯の実像との差が無いのを喜んでいた。
そしてどうしても自国の将軍になって貰い、唐の国のために働いて貰わなければと思い込みが強くなっていくのだった。
黒歯は捕虜収容所に戻された。
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ほんの一部ですが、「この文章のどこが考古学?歴史学ではないの?」と疑問に思われていらっしゃると思います。
この文章では百済滅亡時の時を描いていますので、どうしても歴史学の話になっていますが、他の章では三韓時代の弁韓国から当時の倭国(日本)に渡来した集団を描いたり、彼らが時代毎に周りの倭人(日本人)と交流や争いを繰り返していた事に触れています。
「遙かなる大空」の主人公は、考古学好きの無線工学の研究者と、香川県高松市に在る古代韓国式築城法に依る「屋嶋ノ城(ヤシマノキ)」へ韓国からセミナー旅行で訪れた考古学者の卵とが出会い、次第にお互いを気にしながら結婚に至ると云う筋書きです。
どうして彼らが好き会うのか・・・それを考古学的な説明を伴いながら描いています。
それぞれの韓国の歴史ドラマに沿って、その歴史背景とそれに合わせた私の作品を少しだけご案内致したいと思います。
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