ちょっと短いかもしれませんが。
なんやかんやで遅くなって申し訳ないです。
今年も読んでいただきありがとうございました、
皆様良いお年を!!
以下4−8本文(仮)です。
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『眠虎の民〜ネコノタミ〜』
第四章『水の国の転輪聖王(チャクラヴァルティン)』【八】
ターコイズブルーの鮮やかな水色をした巨大な丸屋根がいくつか、蓮の花弁のようにして集まり、淡い光を受けて輝いている。
その先の尖った丸屋根は『如意宝珠』を現しており、民の願いや祈りを受けとり叶える『坎宮水宮』と『坎王』の、慈悲や愛の象徴とされている。
中央の最も大きく高い一つの建物を囲むようにして、八方向にそれぞれいくつかの丸屋根の建物と、それを門のように守る尖塔が両脇に建っている。
中には大きく八種に分けられた官公庁がそれぞれ配置されているそうだ。
船着き場を上がった開けた庭園から坎宮水宮までは、真っ直ぐに舗装された白い大道が伸びており、その両脇には正方形に左右に四つずつ、蓮の花をかたどった八角星型の巨大な噴水が水と光をたたえている。
その泉水には蓮や睡蓮をはじめとした水生の植物が繁茂し、道のそこここには様々な花の咲く花壇、そして建物全体を囲むようにして低木の樹木が植えられている。
さらにその園の外側には水路として囲うように、清らかな水の小川が流れている。
この施設に用のある住民や観光として訪れる旅行者たちは、この美しい庭園を散策し、ベンチに座って談笑したりと、それぞれ思い思いに憩いの場として過ごしているようだ。
「でっかい温室の中にいるみたい……」
スズが建物からさらに上を見るようにして、歩きながら頭上を仰いだ。
実際、巨大なガラスドームのような物の中に建物や庭園ごといるのだが、あまりに規模が大きすぎて自分がどんな場所にいるのかを忘れそうになる。
中空では小さな蜜蜂が飛び、蝶がひらひらと行き交っていた。
じっと天井を見ていると、時折上空から金の光が目に飛び込んでくる。
『時の宝輪《カーラ・チャクラ》』と呼ばれる、金色の輪の光だ。
透明なドームのそのさらに向こうを、歴、年、日を表す輪が、それぞれに時を刻みながら、三重に覆っている。
ギンコの説明では、「たとえば、『原爆』みたいなものが落とされたとしても、この輪と水球の中だけは少なくとも何百年かは、守られるだけの備えがあるんだよ」という事だった。
「“”知識と知恵と、民の命。それが守られることだけが、歴史に繋がる”」。
フーカも独り言のように呟いた。
『坎宮水宮』に近づくと、その壮麗さはさらに目を見張るものがあった。
まるでイスラム都市のモスクのタイル装飾のように細微な文様で壁が埋め尽くされており、見れば見るほど、それぞれの彩色やデザインが圧倒的な存在感と美しさで迫ってきた。
花や樹木、動物などを筆頭に、眠虎の民、神だと思われる龍虎など、壁の一面を詳しく見るだけでも一日は掛かりそうな美麗な装飾だった。
スズが周囲の様子に気を取られていると、いつの間にか建物の内部に入っていたようで、そこには高名な美術館で見るような洗練された受付と、土産物店が展開されていた。
二階建てで、一階は小物など、上階には図書館のように、ぐるりと書籍が並ぶ本棚が置かれている。
「まずは君に見てもらいたいアイテムがあるんだよね」
ギンコがスズを引っ張って建物中程に連れて行った。
「じゃーん!『マレビトカレンダー』です!」
そこには大中小、大きさこそは違えど、来年のカレンダーが並べられていた。表紙には壊れたメガネ姿の三十代以降と見られるアジア系の人間の男性が写っている。
医療従事者が身にまとう白衣姿だが、床に胡座をかきながら三匹の子猫(地球でいうところのペットとして飼われる普通の『猫』の子猫)と戯れて、照れつつも幸せそうな笑顔を浮かべている。
「この人、どっかで見たような……」
スズは独りごちた。
気のせいだろうか。微かだが、何か向こうの世界の記憶が刺激された。
「毎年、新しく来たマレビトを表紙にカレンダーとかが作られるんだよ。こっちの世界のみんなに覚えてもらうためにね。来年はきっと今日撮る写真のスズが表紙だよ!」
ギンコが笑顔で言った。
そんな話は聞いていない、目立つのは嫌だがどうしようも無いことなのかと問おうと振りい向いたが、すでに数メートル離れたギンコは、別のカレンダーを指して言った。
「それでこの人がボクの運命の人で——」
「遅い!」
言いかけたギンコの言葉を遮るようにして、凛とした声が響いた。
振り向くと上階に続く階段に、白髪の美しい男性が立っていた。
【2024年12月29日 『眠虎の民〜ネコノタミ〜』
第四章『水の国の転輪聖王(チャクラヴァルティン)』【八】了】
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