音楽日記 ~ロックやジャズの名盤・名曲の紹介とその他の独り言~

音楽日記 ~ロックやジャズの名盤・名曲の紹介とその他の独り言~

2010年01月25日
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 エリック・クラプトン(Eric Clapton)という人はある意味、不幸だと思う。若くしてその才能を認められ、“神”や“天才”ともてはやされる一方で、その後の各時期や各作品の音楽性については様々に批評されてきた。それだけ注目され、多くのファンを抱えていることの裏返しなわけで、それはそれで恵まれたことなのかもしれないが、いろいろと考えて出した作品を時に評論家やファンから酷評されたりというのはやはり不幸と言った方がいいように思う。

 このアルバムを出した頃にもいろいろと批判を受けた。何といっても、本作『ミー&Mr.ジョンソン(Me and Mr. Johnson)』は、かの偉大なブルース・マン、“ロバ・ジョン”ことロバート・ジョンソンのカバー曲集である。その時点からして、生粋のブルース愛好者たちから様々なコメントが出ることが予想された。おまけにクラプトンは遥か過去にロバート・ジョンソンの曲を名演として残している(クリーム時代の「クロスロード」は、ロバ・ジョンの「クロス・ロード・ブルース」と同一曲だし、他にもカバーした曲がある)。

 しかし、私見を述べれば、エリック・クラプトンはブルース・マンではない。ブルース的要素を含む(あるいはブルージーな)プレイを得意とするロック・ギタリストであるといった方が正確だと思う。ましてシンガーとしては、絶対にブルース・シンガーではない。そんなクラプトンがロバート・ジョンソンの楽曲をギター演奏し、なおかつ歌うというのは、そうした批判を覚悟の上で敢えてやったとしか考えられない。クラプトンはそのことは見通していて、その上で、ロバート・ジョンソンの存在をこれまで以上に知らしめる役割を担おうとしたのではないかと思う。

 実際、本盤リリースの前年(厳密には2003年2月から04年1月まで)は米国で“ブルースの年”として大々的にキャンペーンがなされていた。クラプトンの『ミー&Mr.ジョンソン』のリリースがこの動向を見据えてのことであったことは想像に難くない。

 以上のことを考えれば、本盤の各楽曲が原曲とは全く違う雰囲気で解釈・演奏されていることにも合点がいく。“オリジナル(ロバート・ジョンソン)から感じられる魂の叫びがクラプトンのヴァージョンにはない”などという批判は、実は案外的外れなのかもしれない。地位も名声も手に入れたクラプトンが演るからこそ聴衆は注目するのである。そう思って聴くと、バンドサウンドでカバーしたということも、曲によってはギタープレイが控えめなのも、なるほど納得がいく。クラプトンは自己を強く主張するよりは、ロバート・ジョンソンという敬愛するブルース・マンの存在に対する人々の注目や理解を深めてほしいと考えたのではなかろうか。“ブルースかくありき”といった姿勢を前面に出すことも意図していなければ、革新的なブルース的ギタープレイを披露することもを目的ではなかったのではないだろうか。つまりは、本家(オリジナル)に敵わないことを承知で、批判が出るであろうこともわかった上で、敢えてこのスタイルを選択したのだと思う。

 余談ながら、個人的には「スウィート・ホーム・シカゴ」をやって欲しかった。後に発売されたDVD『セッションズ・フォー・ロバート・J』にはリハーサルでのこの曲の演奏が含まれているらしい。筆者は未見だが、そのうちどんなものか見てみたいとも思う。

 ロバート・ジョンソンは音源(録音は1930年代)が古いことからもとっつきにくいし、実際のところ聴きやすいものとは言いにくい。でも“ロバ・ジョン”の名が気になる人にとって、このアルバムは貴重な入口になるに違いない。コアなブルースの21世紀的解釈を提示して過去への入口を開く。そんな入口を作ったクラプトンの功績は、十分に評価されるべきだと思う。



[収録曲]

1. When You Got a Good Friend
2. Little Queen of Spades
3. They’re Red Hot
4. Me and the Devil Blues
5. Traveling Riverside Blues
6. Last Fair Deal Gone Down
7. Stop Breakin’ Down Blues
8. Milkcow’s Calf Blues
9. Kind Hearted Woman
10. Come on in My Kitchen
11. If I Had Possession over Judgement Day
12. Love in Vain
13. 32-30 Blues
14. Hell Hound on My Trail

2004年リリース。





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Last updated  2016年01月28日 21時32分36秒
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