音楽日記 ~ロックやジャズの名盤・名曲の紹介とその他の独り言~

音楽日記 ~ロックやジャズの名盤・名曲の紹介とその他の独り言~

2011年07月26日
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テーマ: Jazz(1978)
カテゴリ: ジャズ




 唐突だが、バド・パウエルとエリック・クラプトンは似ている。いや、他にもこの手のミュージシャンは何人もいると思うのだが、人生が作品の録音に安易に反映されるという意味において、同種のミュージシャンだと言いたいのである。このような言い方は、クラプトンを神と仰ぐ人たちには不満かもしれないし、バド・パウエルの愛好者にいたっては“ブルースもどきのロックミュージシャンと一緒にするな”と目くじらを立てる人もいるかもしれないが、お許しいただきたい。

 ともあれ、生き様がそのまま作品に映し出されるというのは聴き手の興味をそそる。だからこそ、クラプトンのファンにも、パウエルのファンにも、“調子のよくなかった時の作品も鑑賞に耐える”と考える人が存在するのではないかと思う。無論、生き様そのものが作品に素直に反映されてしまうことが、当の本人にとって幸せかどうかはわからないけれど…。

 さて、バド・パウエルは1927年生まれのジャズ・ピアニスト。精神病などに悩まされながら(それは演奏の出来不出来のばらつきの大きな原因でもある)、41歳で亡くなっている。今ではピアノ・トリオ(ピアノ+ベース+ドラム)という編成はごくごく普通にありふれている。いわば“存在することが当たり前”な編成なわけだが、かつてはそうではなかった。その昔、トリオ編成と言えば、ふつうはギター+ベース+ピアノを指した。バド・パウエルは、現在私たちが普通に親しんでいるそういったピアノ・トリオ編成の草分けでもある。

 1944年に初めてレコーディングに参加して以来、パウエルはいくつかのグループに加わり、ついには自身のリーダー名義の録音を行うこととなった。それが1947年のことだった。本盤『バド・パウエルの芸術』の前半(1.~8.)は、まさしくそのレコーディングの成果を収めたものである。ベースはカーリー・ラッセル、ドラムはマックス・ローチというトリオ編成。対して、本盤の後半は、日付も顔ぶれも全く異なる音源のものである。こちらの方のベースはジョージ・デュヴィヴィエ、ドラムはアート・テイラーである。録音は1953年で、アルバム前半の録音時点からは、およそ6年半の月日が流れている。

 そんなわけで、本作『バド・パウエルの芸術』は、前半と後半で音質も雰囲気もまったく違っている。1.~8.の前半部分のパウエルは総じて“怖い”。怖いという表現が不適当なら、“鬼気迫る”迫力の演奏と言ってもよいだろう。初のリーダー録音、ピアノ・トリオ編成での録音という意味で、新しいチャレンジをしているという意気が、一つ一つのピアノ演奏のタッチにまで反映されているかのようだ。ちなみに、この前半部分は、“パウエル生涯最高の時期の演奏”とか、“ジャズ・ピアノの聖典”いう言われるほどの名演とされる。当時の年齢で言えば、パウエル22歳の時の演奏である。

 一方、何年もの時を経た時点で録音された後半は、少し趣が異なる。ピアノ・トリオという形態を長く続けてきたパウエルは、明らかに、よりリラックスしている。その分、細かな部分に気を配った繊細な演奏ぶりがより目立っているように感じられる。無論、リラックスというのは、“緩い”という意味ではないし、“緊張感に欠けている”ということでもない。おそらくは、ピアノ・トリオの形態に慣れ、余裕が生まれてきた分、かつて(前半の演奏時)とは違う部分にも意識を向けられるようになったということなのだろう。

 この文章をお読みの皆さんは前半と後半、どちらの演奏が好みだろうか。ちなみに、総論的には筆者は後者の方がいい。これはあくまで個人的趣味の問題だろうが、ピアノ・トリオはあまり緊張して聴くよりもリラックスして聴きたい派だからだ。でも前半の方がジャズ史上評価が高いのも事実。筆者自身の全般的好みは上記の通りではあるが、不思議なのは、前半のような緊張感いっぱいのピアノが、時折、無性に聴きたくなる(言い換えれば、いつもこういうのを聴きたいわけではないのも事実)。というわけで、そんな時に引っ張り出してくるのは、他の何枚かのパウエル盤(例えば、ブルーノートに残した最初のアルバムである『ジ・アメイジング・バド・パウエルVol. 1』)と並んでこの盤で、その時に聴きたいのは前半部分なのである。



[収録曲]

1. I'll Remember April
2. Indiana
3. Somebody Loves Me
4. I Should Care
5. Bud's Bubble
6. Off Minor
7. Nice Work If You Can Get It
8. Everything Happens To Me
9. Embraceable You
10. Burt Covers Bud
11. My Heart Stood Still
12. You'd Be So Nice To Come Home To
13. Bag's Groove
14. My Devotion
15. Stella By Starlight
16. Woody'n You



[パーソネル、録音]

1.~8.: Bud Powell (p), Curly Russell (b), Max Roach (ds),1947年1月10日
9.~16.: Bud Powell (p), George Duvivier (b), Art Taylor (ds),1953年8月14日






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Last updated  2013年08月10日 07時23分29秒
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