はっぴぃーマニア

はっぴぃーマニア

<第八話>

ことわざ物語

第一話
袖すり合うも多生の縁
第二話
馬の耳に念仏
第三話
転ばぬ先の杖
第四話
天は自ら助くる者を助く
第五話
前車の轍を踏む
第六話
雀百まで 踊り忘れず
第七話
見て捨てる神あれば拾う神あり
第八話
知らぬが仏
第九話
グランプリ (競馬~第十話へつづく~)
ひょうたんからコマ
第十話
あの日のように (競馬~第十一話へつづく~)
人間万事塞翁が馬
第十一話
足長おじさん ~第1章~(競馬)
塵も積もれば山となる
足長おじさん ~第2章~(競馬)
足長おじさん ~第3章~(競馬)
足長おじさん ~最終章~(競馬)
足長おじさん ~あとがき~(競馬)

<第八話>内緒の晩飯


むかしむかし、ある夫婦がいました。
亭主の三郎は毎日海へ魚を釣りに行っていましたが、いつも小さなものばかりであまり釣れていませんでした。

今日もいつものように出かける準備をしていると、嫁がやって来ました。
「あんたぁ、今日はちゃんとした魚食わしてやぁ。近頃全然食べてない。よその亭主はちゃあんと大きいのを釣ってるのに、うちはまったくや。情けない、しっかりしてやぁ!」
嫁は短気な性格で大魚一匹すら釣って帰らない三郎に、腹立たしく思っていました。
気の弱い三郎はいつも言い返す事もせずに黙って聞くだけでした。
それでもいつか嫁がびっくりするものを釣ってやると思っていました。

今日は、いつもと違う場所で釣ってみようとしばらくうろうろしていたら、干物や魚を売っている店がありました。
どれも新鮮で三郎はじーっと見入っていました。
「俺も今日こそは頑張ってここにあるような魚を釣るんじゃ。」
そう思っていると店主が声をかけてきました。
「どうだい、いいだろう。今朝早くから釣れたものばかりだぜ。干物は作ったんだ。良かったら買って行ってくれ」
威勢のいい声で言いました。
「そうかぁ、ここで釣れたのかぁ。俺も今から釣りに行くところじゃぁ。悪いがまた今度買うよ。」

三郎はここでならいいのが釣れるかもしれないと思うとうれしくなってきました。
適当な場所を見つけ腰を下ろし、早速釣り始めました。

いい気分で三郎は魚がかかるのを待ちました。
しばらくすると、竿の先が動き出しました。
「うぉー、きたきた。ほんとにかかったぁ」そう思いながら竿を上げてみると、小さいのがかかっていました。
「こんなもんかぁ、まぁ何も無いよりはましじゃ。」
そう言い持って来た籠の中に入れ、また竿を海に投げました。
「こんなもんじゃ嫁にまた何言われるか分からん。」
そう思いながらじっと待ちました。
しかし、全く釣れる気配も無くだんだんと三郎も心配になり、場所を変えてみたりもしましたが、そこでも小さいのが2匹釣れただけで納得のいくものは釣れませんでした。

帰り魚屋の前を通った時、
「あっ!どうだったんだい?釣れたかい?」
店主が聞いてきました。
三郎は
「あんまり釣れなかったよ。」
そう言って足早に帰りました。

家では嫁が晩飯の用意をしていました。
三郎は台所に籠を置きました。
嫁は籠の中を見て大きなため息をつきながら舌打ちをしました。

次の日、三郎が支度をしていると、後ろから
「あんた、昨日のようなのはもういらないからね。ちゃんと大きいのを釣って帰っておくれっ!」
嫁の荒々しい声が三郎の背中に突き刺さりました。
「ふざけんじゃねぇ、あれほど釣るのにどれだけ頑張ったか、、、」
そう思いましたが気の弱い三郎は何も言わずに黙って出かけました。

今日こそは・・・そう思って歩いていると小さな布の袋が落ちていました。
何かと思って中を見ると、なんと中には沢山のお金が入っていました。
誰かが落としたものらしく三郎は
「まぁこんなにも大金が。。。落とし主は今ごろ探しているかもしれない。そいつがこの辺りに探しに来た時に渡してやろう。」
そう思って、袋ごとズボンのポケットにしまい込みそのまま海に向かいました。

ゆっくり時間も流れ、黙ってひたすらかかるのを待っているのに、今日はまだ1匹もかかりません。
そろそろ日も暮れようとしているのに・・・
「どうしよう、このままだと今夜は晩飯も食わしてもらえん。嫁に何て言おう。」
三郎はしばらく考えました。
何気にズボンのポケットに手を入れた時
「ん?この袋はぁ・・・・・あっ、拾ったんだったぁ!忘れとった。」
朝、拾ったお金の事などすっかり忘れていた三郎は思いつきました。
「そうだ、魚を買って帰ろう。俺が釣った事にしたらいい。黙っていれば大丈夫だぁ。この金の事は誰も知らない。」
三郎は急いであの魚屋に行って一番大きいのを買って帰りました。

家に着くなり、
「あんたぁ、何しとったんじゃぁ。こんな時間までぇ。日が暮れるまでに帰って来いって言ってるのにぃ。まさか、今日は手ぶらじゃないわなぁ?」
嫁は、怒鳴りました。
「遅くなってすまん。 でもほらぁ、見てくれ」
三郎は恐る恐る籠の中を嫁に見せました。
すると、
「あんたぁーすごいじゃないかぁ、やればできるじゃないかぁ。今日はご馳走じゃ。」
嫁は大喜びでした。
三郎はあまりの嫁の喜びように驚きました。

しかし、それ以来三郎は拾ったお金の残りで、毎日帰りに魚を買って帰るようになりました。
海で釣れなくても、買って帰れば嫁に怒られることも無く、文句を言われることも無い。
そう思っていい加減な気持ちで海に竿を投げていました。

そうとは知らず嫁は、
「うちの旦那は、近頃毎晩いい魚を釣って帰ってくる」
と近所の人達に言いふらしていました。

その話を聞いた近所の人達は、どうしたらそんなに釣れるのか三郎に聞きに行きました。
嫁が言いふらしていることを聞き、あわてて三郎は本当の事を近所の人達に正直に話しました。
みんなはびっくりしました。
しかし、この事を嫁に言うと大変な事になるのは近所の人達も分かっていたので、このままみんなで内緒にしておくことにしました。

しかし、このままこんな事を続ける訳にはいかない事も分かっていました。
三郎の心の中で
「ダメなら、買えばいいやぁ。」
という適当な考えが今回のような事になってしまったのです。

三郎は、魚屋の店主にちゃんとした釣り方を教えてほしいと頭を下げて弟子にしてもらいました。
拾ったお金の残りは、家の近くにある神社のさい銭箱に入れました。
三郎は神様に、
「神様、俺は嘘をついていました。お金も勝手に使って、すまないことをしてしまいました。」
と、反省し二度とこんな事はしないと誓ったそうです。

ことわざ辞典
知らぬが仏「しらぬがほとけ」
本当の事を知れば驚くが、知らせずにいること。本人だけが、知らないで平気でいることを言います。
嫁は、本当の事を知ったら物凄く驚き怒ったでしょうね。


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